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龍王の娘  作者: 瑞佳
第四章 龍王の娘
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慈愛






「皇女様」


目を開けると心配そうに私を覗きこむユンロン様の顔


綺麗な滝のような髪が私の顔の周囲を覆い膝枕をされ寝ているのに気が付く


「!! すいません!」


恥ずかしくって急いで起き上がり急い正座し衣服の乱れを直しながら自分の髪の色を確認すると矢張り見馴れた黒髪に戻っていた。


「突然気を失われて寝てしまわれたのかと思ったのですが突然髪が戻られ漸く異変に気が付きました。 まさか天帝様に囚われていたなど申し訳ありません」


「いえ ユンロン様のお陰で体に戻る事が出来ました」


目の前の顔と服は斬り裂かれ血まみれの無残な姿ではなく美しいまま


さっきまでのユンロン様が幻影で良かったと胸を撫で下ろす。


「それより天帝様は力を奪っただけなのですか」


ギックリ


まさかキスをされたなど言えない


魂だったのにイヤに生々しい感触があったが体はユンロン様の所に在ったのだからしてないのと同じはずよね


「はい 私から取り出した神玉はハクのお父さんに渡すそうです」


「良かった……大きな力を失ったのは残念ですが命を奪われなかったのは幸いです」


心底安心したように微笑み私を案じていてくれた


そしてもう一つ大事な事を告げなければならない


「……だけど天帝は龍王を復活させたようです」


「陛下を 先程感じた陛下の神気は勘違いでは無かったのですね」


「私はどうしたらいいんでしょう まだあの人を許せない だけど母様の事を思うと 」

「皇女様の正直なお気持ちを陛下に仰ればいいのです。 今の陛下ならちゃんと受け止めてくれるはずですから」


「会いたく無い」


子供がイヤイヤをするように顔を振るがユンロン様は優しく諌めるように語りかける。


「ここで逃げてはなりません 話し合わなければ決して溝は埋まらず決別するにしても三人で一度だけお会いして下さい」


あの人に会うのが母様に会うの怖い


私が余計な事をしたばかりに母様を泣かせた


あの人も恨んでいるかもしれない


今の私には全て自分が悪いように感じてしまう


「私が生まれたのがいけなかったんだわ… そうすれば」


「皇女様 そのような事をおしゃってはなりません」


「だけど… 私なんか 」


「陛下は自らの非を悔いていたのです。だから皇女様に封じさせた 陛下なりに皇女様を娘として受け入れたのです」


「ユンロン様」


「 これからも貴女を支えますから私を信じて下さい 」


そう言って真摯に見詰めてくれる。


母様では無く今だけは私を見てくれているのを感じ嬉しい


初めて会った時は冷たい眼差しだったのに


何時からこんな優しく見てくれるようになったのだろう


この人の優しさに綴ってもいいのだろうかと迷っていると静かに私の体を慰めるように抱き寄せてくれるとユンロン様の清涼な花の様な香り包まれ驚く


「! /// 」


「皇女様一人ではありません 例え陛下に逆らおうともお守りいたします」


嬉しさのあまり涙が零れる。


まるで愛の告白のようで心が震えるがきっとこれは私が母様の娘だからだろうか


それとも


もしやという思いが掠めるがもし違ったらと思うと怖い


私みたいな子供を大人のユンロン様が相手にしてくれるだろうか


父親を封じるような私を本当は恐ろしいと思っているのではと不安ばかりが募り


ユンロン様の胸で抱かれながら負の思考ばかり浮かぶのだった。








そして背後から人の気配を感じ顔を上げると思った通り母様達が近づいて来たのだ


まさかこんなに直ぐに此方に来るとは思ってもいなかったので戸惑う


そして考えてみればユンロン様と抱き合っている姿


急に恥ずかしくなり飛び退き離れる。


そして私に近ずく龍王を見ると母様と手を取り合い歩く姿


「!!」


なんで!


先程までの不安が一気に吹きっ飛び怒りが湧く


私はまだ許した訳ではない


あれだけの仕打ちをして来たのに図々しく母様に触れて欲しくない


思いっきり睨みつける。


「さっき天帝様が私の所に来て龍王を戻しったって教えてくれたわ そして私の力の大半を奪い帰った行った。 だからもう貴方を再び封じる事は出来ないけど私はまだ許せない!」


次に簡単に龍王を許す母様に悲しくなる。


私ばかりが空回りしているようだ


「母様はその人を受け入れるの……」


「ごめん レイカ 私はレイを愛しているの でも娘である貴女も愛している。 だから欲張りだけど二人にいて欲しいんだ」


切実に自分の本心を話す母様


それに続き感情の籠もらない声で許しを乞うてくる龍王


「レイカ 余がそなたやアオイにした事は許されない。 だがこれからは父親として少しづつ認めて貰えるように」


誰が父親よ! 父親だなんて認めない――最初に拒絶したのは龍王


今さら何よ!


「私を殺そうとしたわ!それでも父親だと言うの!」


「余は忌まわしい自分の血を残す事が許せなかった それが愚かな考えだったとアオイを失い漸く悟ったのだ 言い訳でしかないが余はあまりにも心が欠けていた」


「そうよ 娘の私に自分を討たせるなんて可笑しいのよ」


「そうなのか…… 余はこの手で自分の母と父を手にかけて来た それにレイカは余を封じただけで命を奪った訳ではなかろう」


壮絶な龍王の過去はファン様から聞き知っているが


その過ちと同等な事を私にさせたと理解していない


確かに心が壊れているのだろう


だからと言って素直に許せる訳ではない


「ばか! ばか 絶対ばかよ!  貴方がそんなんだから母様も私も苦しんで悲しい思いばかりするんだわ」


「すまない」


無表情に謝る姿は心が伝わって来ない


「謝らないで 貴方なんか大っ嫌い! 父様なんて絶対に呼ばないんだから」


「それでもいい レイカの望むとおりにしよう」


詫びるように目を伏せる


「うっう……なんなのよ 今さら父親ぶらないで」


恐らく龍王の精一杯の謝罪なのだろう


それでも許せない自分が悲しくなってしまい涙ぐむ


「確かに今さらだ だが余には償い方がわからないのだ この身が玉に封じられれば全てが終わると アオイもレイカも幸せになれると考えていたのだが違っていたようだ 余は何時も間違ってしまう……」


「レイカ 人は変わるものだよ 私だって最初はレイを憎んだけど今は愛している 今直ぐは無理だけど少しずつ歩み寄ってくれない」


あくまでも龍王を庇う母様――そんな事を言われれば受け入れるしかないじゃない


何故こんな酷い男を愛したの


母様が分からない


「ずるい 母様はずるい…… 」


ポロポロと涙を流すと母様が服の裾で私の涙を優しく拭ってくれるのを静かに受け入れるが抱きつく事は出来ない


なんだか母様との間に一枚の薄い壁を感じてしまうが次の言葉で簡単に壊されてしまう。


「ごめん 確かにズルイね だからレイカが気が済むまで二人でここに暮らして私はレイと会わない」


龍王と暮らさず私とだけ暮らすと言いだす母様


「エッ!!」


考えもしなかった言葉に驚くしかない


漸く目覚めたのに愛する人に会わないと宣言する母様には本気が伺え龍王も驚いている。

「アオイ!」


「勝手に決めてごめんレイ レイカは小さいのに一人でここまで頑張って来た。 本当は親の愛情を一杯受けてゆっくり成長させて上げたかったのに私達の所為で寂しい思いをさせたのも事実 だから許してレイカを思いっきり甘やかしたいんだ」


詫びるように龍王を見上げながら私を抱き締める。


「本当に母様 でも私が一生会わせないって言ったら」


「レイカが望むなら 私達には時間がたっぷりある。 そうでしょレイ」


「レイカとアオイが望むならそうしよう…… 一度は封じられた身ながらアオイと心通わせる事が出来たのだから……  余が身を引こう」


口調は途切れ途切れで歯切れが悪いが最後には諦めた様にキッパリと言う


龍王まで母様の提案を受け入れるなんて信じられない


「母様 本当にいいの」


矢張り母様は私を思っていてくれるのだと心が解けて


愛されているのだと実感し心が温かいもので満たされて行く 


何よりあの人より私を優先してくれたのだ


「ええ だけどレイカは毎日後宮に行って勉強する事」


「えっ!?」


どうして勉強?


「レイカは若いんだから家に閉じこもって暮らすなんて駄目だよ。 この国のお姫様なんだから確り勉強しなくっちゃ。 そうですねファン様」


後宮に行くのは嫌では無いがあの人の側だと思うと気が重い


「流石にアオイ様。 レイカ様の教育はお任せ下さい サンも丞相もよい教師になるでしょうから」


「!!」


懐かしいサンおじ様の事より、ユンロン様にこれからも会えると思うと後宮に行くのも悪くないかも


でも母様はここから出たくないのだろうか


本来は後宮に住むはずなのに


だけどそれだとあの人に会ってしまうだろう


だけどあの人を父様と呼べるようになったら


「分かったわ 母様の言う通りにする。 この結界で思う存分母様に甘えて暮らして気が済んだら…   ……様に返してあげる」


父様


まだそう呼ぶのは無理なようで口籠ってしまいなぜか羞恥心が湧く


母様は聞き逃したようで


「えっ 今なんて言ったの」


それを誤魔化すように飛び付く


「それより ただいま 母様」


ただいまの一言が漸く母様の元に帰れたのだと実感してしまう


「お帰りレイカ」


小さいファン様のお屋敷から帰って来る時に優しく迎えてくれた頃と変わらない温かい言葉


私は生まれて来て良かったんだ


母様に愛されている事を再確認するのだった。








チラリと龍王を見れば無表情で此方を見ているので心は読み取れないが母様を独占されて心穏やかではないだろう


この人は眠っていたとはいえ母様の側にずっといたのだから


その間私は十年も母様と引き離されてしまったのだからそれ位は会えない事を覚悟して欲しいと思うが


どうなるかは分からない


龍王に向かいイーをすると驚いたように目を見開きどういう反応をしていいのか分からないように目を瞬かせる


確かに不器用な人ではある。


「それよりレイカの髪の色は自由に変えられるの」


私の髪を撫でながら不思議そうにする母様


「さっきも言ったけどこれは天帝に大半の神力を奪われてしまったからなの」


「 天帝に他に何か酷い事されなかった」


顔を真っ青にさせて私の体に異常がないか触り始めるがその慌てぶりは尋常ではないので母様も天帝に会っているはずだから


母様を可愛いと言っていたのを思い出しまさか


「母様も何かされたの!?」


「「 も!! 」」


うっかり口がすべってしまうが何故かユンロン様まで慌てている。


「レイカ 何をされたの」


「皇女様 矢張り何かあったのですね」


二人が一斉に問いただして来るので嘘では誤魔化されないようなのでつい話してしまう


内容はかなり省略してだけど


「キスされただけよ」


「キス!! ファーストキスだったの」


「違うわ」


「 違うの良かっ…… エッ それじゃあ初めては誰!? 」


何故かショックを受けている母様


「……」


考えてみればファーストキスはフォンフー様だったかも


私はユンロン様の前でそんな事言えるはずがないので無言を通したが


何故か無表情なユンロン様が私を見詰め少し怖くいたたまれない


ファン様が私を擁護するように言ってくれるが


「アオイ様 皇女様も既に十五才お年頃ですから」


「十五才 私は十年も眠っていたの!」


更なるショックを受けてよろめくと龍王がすかさず体を支える。


「アオイ」


「レイどうしよう まだ子供だと思っていたのに何時の間にそんな相手が 」


確かに龍族にしたら子供だが人間の十五才なら成人として扱われるので私はどっちなのだろう


「どうやら白虎国の虎族の青年の婚約者がいらっしゃったようです」


「婚約者! レイカがもうお嫁に行っちゃうの」


何故ファン様がその事を知っているのか不思議だが母様の誤解を解かないと暴走して行きそうで怖い


「違うの 婚約者と言っても私を守る為の仮初だったの」


慌てて否定する。


「守る?」


「まだ幼いながらもレイカ様の美しさは虎族の男性はおろか皇子達の目を引き我が物にしようと狙われていたので第八皇子の従者が仮初の婚約者として置かれたのです」


ええ!?


ファン様はやけに詳しく事情を知っているのはどうして


天帝の娘だから千里眼でも持ってるのかしら


「そうなんだ でもレイカはこんなに綺麗だから変な男が寄って来たらどうしよう」


「大丈夫だ。レイカに近づく男は余が排除しよう」


「陛下がお手を煩わすとも私めが処理致します」


ユンロン様まで物騒な事を言いだしなんだか話が変な方向に進みだす。


その原因を作ったファン様は


「このような所で話すより中でお茶でも飲みながら今後のレイカ様の事を話し合いましょう」


「では私がお茶を淹れますね。レイカ手伝って」


「えっ…母様」


呆気にとられる私を余所に皆は家に入って行き私はその後に続くしかなかった。


なんなのこれ!!??


先程までのシリアスな雰囲気はどうなったの


なんだかよく分からないけど


「悪くないかも……」


なんだか家族みたいでくすぐったい


だけど龍王と母様が会う事を許した訳ではなく今だけ




「父様には五年は我慢して貰わないと」





そう決め母様を手伝う為に台所に急ぐのだった。









どちらもラスト一話なので伴侶と娘を同時更新したいので来週更新予定

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