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龍王の娘  作者: 瑞佳
第四章 龍王の娘
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ユンロンの決意






陛下に斬られ重傷を負った私が次に目を覚ますと私を心配げに見やるクンキュウロンの顔が先ず目に入り、更に辺りを見渡せばファンニュロン様が優雅にお茶を飲んでおりそれを静観している二神


此処が崋山である事は分かったが大事なあの方が居ない


急いで体を起こすがまだ血の気が足りないようでクラリと眩暈がする。


「皇女様は!?」


「ユンロン様 お気付きですか」


陛下の家令が安心したように呟くが


「皇女様は何処にいるのです!」


私が詰め寄るとうろたえるが


「恐らく結界の家に行かれたのだと思います」


「何故お止しなかった」


「もっ申し訳ありません」


「丞相 その者は状況を知らぬのですからそのように責めものではありません」


ファンニュロン様が話に割って入って来るが怒りが湧く


「何故お止しなかったのです。陛下は皇女様に討たれるお心算です!」


「分かっております。丞相を斬って寄こすなどあの子らしい答えですね」


「皇女様に実の父を討たせるような非道な事をさせ平気なのですか!」


「私はアオイ様が育てられたレイカ様を信じておりますから」


「!」


「貴方が目覚めるの待っていたのです。さあ結界の家に共に参りましょう」


結界の家


アオイ様の眠る場所


そこで皇女様は陛下と闘っているのだろうか


そう思うと居てもたってもいられない


此処で争っていても始まらず一刻も早く皇女の元に行きたかった――ファンニュロン様に導かれ瞑道を通り結界の家に向かうのだった。







そして辿り着いた場所は庭に囲まれた小さな家の建つ箱庭のような場所


龍王の伴侶がするにはあまりにも貧相な場所だが温かな雰囲気が漂っていた。


「此処がアオイ様が長年住まわれている場所なのか」


「そうです。そしてルェイロンが成人するまで生まれ育った場所でもあるのです」


「陛下も!」


出生が不明とされ自らも語らない陛下が育った場所を茫然と眺め


此処で一体何が過去に起こり陛下がああなってしまったのだ!?


「見なさい丞相 上空でお二人が闘っているようです」


上を見上げれば陛下が龍に転神しており皇女様に大きく口を開け襲いかかろうとしていた。


「皇女様!」


よもやと思った瞬間、陛下の体に数本の黒い鎖が巻き付き龍の体の動きを封じてしまうい、龍の姿の陛下は鎖を切ろうと足掻いているが更に絞めつけられ徐々に神力が下がって行くのを感じ慄く


「あの陛下をこうまで易々と封ずるとは」


「レイカ様が恐ろしいですか?」


「確かに皇女様の力は甚大で測り知れませんが皇女様を恐れてはいません」


「そうですか…どうやら決着が着いたようです」


龍は力なく森に墜落し地響きと共にその体を横たえて皇女様も空中から舞い降りて行ったがそこから何が起こっているのか分らず見守るしか無かったが陛下の体が龍から人の姿に戻ってしまったようで巨大な龍の姿が忽然と消えると同時に陛下の神気まで消えてしまう


「陛下は封じられてしまわれたのか 皇女様……」


陛下も酷な事を皇女様に強いる


憎んでいる父親だといってもまだ少女の皇女様には心に深い傷を残すだろう


直ぐにでも側に駆け付けたいが結界に阻まれており抜けられず自分の不甲斐なさに情けなくなるばかり


そしてポツリポツリと雨が降り出し徐々に激しさが増して来る


雨季でもないのに雨が降るのは珍しい地域


「この雨は」


「レイカ様の悲しみに水の精霊が同調しているのです」


やはり若い皇女様には父親を封じて平常心でいられるはずなどないのだ


雨は皇女の涙そのまま


お労しい


陛下 矢張り私が愛する人達を悲しませる貴方を恨まずにはいられないようだ


そして豪雨は地面に打ちつけられ土と混ざり合いボコボコと泥が溢れだし足下が沼地のようになっていく


「地の精霊まで……このままでは妖獣の森が呑まれてしまい封印が解かれてしまう… 困りましたね…」


無表情で感情のこもらない声で言うので困ったという感じがしないが


以前も妖獣の森の封印の事を恐れっている発言を漏らしていたファンニュロン様


何が封印されているのかは教えて貰えなかったが何か大変な事が起こるのかもしれない


「レイカ様の元に行けないのですか!」


少しでもお慰めしたい


焦れてファンニュロン様に詰め寄るが


「待つのです」


そう言って祈る様に瞼を閉じてしまい意識を閉じてしまう


雨に打たれ待つしかないのか


何故私はこうまで無力なのだ


アオイ様の時も皇女様の時も指を咥え見ているだけの自分を呪いたくなると同時に皇女様の悲しみが心を絞めつけ顔に打ちつける雨と共に人知れず涙を流すしかないのだった。


そして何時しか雨がやみ地の精霊も落ち着きを取り戻す


「レイカ様がおいでになります」


静かに時を告げるように言うファンニュロン様


結界を抜け現れたのはまっ白な衣装を泥水で染め髪も雨で濡れすぼったお労しい姿


その手には紫色に輝く陛下の神玉


私達を見ると目をみはり立ち止りまるで悪事を咎められた子供のように青褪めている。


そのような表情をさせてしまう事が辛く見ていられず俯くが隣のファンニュロン様は違うようだ


皇女様の泥まみれの体を綺麗に清め無情にも次期龍王の座を言い渡し新たな悲しみにくれる皇女様が呼び止めるのも構わず突き放すようにアオイ様の元に行ってしまわれた。


必死に悲しみをこらえて母親であるアオイ様に会う事を躊躇う姿が痛ましくハクが懸命に慰めようとしており私も見守るばかりではいられない


皇女様を支えなければ


陛下が封じられてしまった今龍王の座を継ぐのは皇女様だが、今だ成人に達していない龍が継ぐなど前例もないがこの神々しい姿と巨大な神力に龍族達は全て平伏し、望まれるなら臣下としてこの命が尽きるまでお仕え出来るだろう


先ずその一歩としてアオイ様に会って貰い全ての決着を付けねばならない


皇女様


アオイ様


陛下


そして私の……


どのような形になろうと私が手を取るのはこのお方だけだと心に決め立ち竦む皇女様に優しく声を掛け手を差し出す。


「皇女様 さあ会いに行きましょう」


ビック!


私の声に驚かれたように漸く私を見てくれるがその目は何時も毅然と見返す強い眼差しが失われ迷子のように頼り無い


「ユンロン様…」


「ハクの言う通りです。 此処まで頑張って来たのはアオイ様の為なのでしょう… 」


五歳でアオイ様と引き離されながら懸命に闘い力を手に入れたのも全て母親であるアオイ様を取り戻す為なのだ


「母様に会いたいのですか 」


今だ私の心を邪推しているのが伺え寂しいが無理もないだろう


出会いが良くなかった


まだ若い少女には母を想っていた男など受け入れがたいもの


「―――前にも言いましたがアオイ様の事は既に終わっているのです。 お互いの心の決着をつける為にもアオイ様に一緒に会いましょう」


誠意を込めて訴える。


「ユンロン様」


皇女様の瞳が揺らめく


「どうか 御一緒して下さいませんか」


この時だけでも私の手を取って欲しいと切に願わずにはいられない


何れ他の男性の手を取るにしても


『 レイカ ユンロン ト 行コウ!」


ハクにも背中を押され決心したように、差しだした手に恐る恐る手を重ねてくれる。


小さなたおやかな手は冷たく僅かに震えており、思わず優しく包み込むように握るがこれ位許されるだろう


「さあ アオイ様の元へ」


皇女様は頷き共に歩き始めるのだった。







初めて入る家の中もは王都の一般の家より質素ながら綺麗に掃除は行きとどき人の温もりを感じるようだ。居間を通りファンニュロン様の気配がする扉に向かう


皇女様は無言で私に手を引かれ進むがその足取りは重く今だアオイ様にお会いするのを恐れている。例え甚大な力を持とうと心はまだ母親を必要としており、実の父を封じた事で母親に拒絶されるのではないかと不安なのだろう


私は扉を開けて皇女様の手を離して先を促すように背中に手をあてる


「さあ 此処からは皇女様がお一人でお進み下さい」


「ユンロン様は?」


綴るような目で見られ甘い歓喜が湧く


「私は後ほど会うのを許されたならアオイ様にお会いします」


第三者である私が立ち入るべきではないだろうし中にはファンニュロン様がいらしゃるのだから


「でも…」


「アオイ様がお待ちですよ」


そう言いながら軽く背中を押すと歩き始め部屋に入る前に振りむく皇女様


「ユンロン様…有難うございます」


初めて私に儚く微笑みを残し部屋に消えて行き扉が閉まると共に瞬時に顔が自分でも赤らむのが分かる。


どうやら自分が思っていたより遥かに皇女様に心を囚われている様だが今度の恋も侭ならないだろうと諦める。


だが今度は愛したお方の側にいる事は出来るのだから


例え報われなくても生涯皇女様を支える事を心に誓うのだった。











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