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龍王の娘  作者: 瑞佳
第四章 龍王の娘
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出立



天を突きさすようにそびえ立つ崋山の山頂には神々とそれに使える神仙が住んでいるが今は騒然として一人の少女の動向を伺うだけで手出しが出来ず忌々しく見ているだけであった。殆どの物はその少女の力を狙い巨大な光を我が物にし天帝となればあの狂神からの支配を逃れ思うがままにこの世界を我が物としたいが、手出しが出来ずにいる。


少女の側には主神の一人である破壊神と天帝の一人娘が守りを固めていた為に側にすら寄れないのだ


そんな中に嘗ての主神である慈愛の神がその少女の元を訪れていた。


銀色の毛並みの美しい巨大な猿の姿に身を堕としていたが落ちぶれた様子もなく穏やかな波動に包まれておりその肩にへばり付く小さな白い猿を常に愛おしげに見ていた。


「お久しぶりで御座います。ヴィシルージュ様」


『おお ファンニュロンか 久しい… そなたは相変わらずのようでなにより』


「そんな事は無いぞヴィー こ奴は年々父親に似て来ておる」


『シバよそなたも健勝であったか』


「お前までもか…体の無いわしに言う言葉では無いぞ。しかしそなたは変わってしまったの~」


銀の神獣と変わり果てた姿


嘗ての銀の髪の美神の面影と言えばその穏やかな金の瞳ぐらいであろうか


「我が身の不徳が招いた事だと思っている」


「そんなんだから天帝に付け入られるのだ。 まぁー それがそなたたる所以か」


二神は久しぶりに会うので懐かしみ合っているが


「お二方、年寄り達の昔話など後回し 今はレイカ様のお話を優先して下さいませ。」


三主神の二神を畏れ多くも一刀両断する。


ファンニュロンにとってはただの老人でしか無い


「そなた先程の言葉を根に持っておるな…」


「……」


『?』







三人は長椅子に横たわるレイカを取り囲み話しあう


『まさかこの少女の力がこれ程とは思いもよらなかった。 私が一度封印を解くなどしなければ普通の龍族として生涯を終えたのかもしれん』


「いいえ 何れレイカ様は真の力に目覚められたはず。 しかし時期が早すぎただけ…お二方はレイカ様の出現をどう思われますか」


『天帝は今だその力を衰えさせてはいない、世代交代には早すぎ少女には荷が勝ちすぎるだろう』


「わしも同じ考えだ」


「天帝がレイカ様を排除しようとするでしょうか」


ファンニュロンにとっての気懸りは天帝がレイカをどう扱うか


実の父親なれどその行動を読むなど不可能


その行動一つに深い意味があるのか無いのか推し量るが理解できる者など誰も居ないのだ


「それならば既に現れとるじゃろ 異世界で何をしておるのやら」


主神でこの世界を支える神がその座を空けているなどこの世界を放棄していると言っても良いが、一応は本体はこの崋山の地中深くに納め要石としての役割を果たしているが崋山の神殿に住む者達が虎視眈々とその体を狙っている。


力を過信する者程その力を望み画策して来るので厄介


強制的にその体の番をする為に冥府の底から呼び起されたシバジャン


仕方なく上の神々から天帝の体を守っているのだが天帝の出奔の理由は知らずにいる。


「母を捜している様ですよ」


「相変わらず女の尻を追いかけておるのか…」


全く死者を蘇させて何をしているのかと思えばと呆れたように言うシバジャン


『憐れな魂だ』


慈愛の神は天帝に愛される魂に同情を禁じ得ない


「母を見付けだせば直ぐさまお戻りになるはず」


「それまでにレイカの力をどうにかせねばならん」


『これだけの神力を封じるなど我々とて不可能』


「確かに封じるには無理じゃが、この者自ら天帝の力をそなたに譲渡すれば話は楽じゃ」

『私に元の神の座に戻れと』


「天帝は今は大人しいがまた何時狂い出すか――抑止力が必要なのは分っておろう」


『やっと得られた平安を捨てねばならないのか』


「ふん! わしなんぞ肉体を奪われて既に数億年じゃ」


『私でなくとも現亀王でもいいのではないか』


「アレは駄目じゃ。 諦めよ」


「ヴィシルージュ様 身勝手ながらレイカ様の為にお願い致します」


『 オ父サン レイカ 助ケテ 』


可愛い愛娘に頼まれてはもはや拒否できない


『 …… 皇女には助けられた恩を返さねばならないだろう 』


しかも天帝の半神といってもいい存在だった


言わば天帝が崩御しない限り自分の存在は消えないのかもしれない


慈愛の神は覚悟を決めるのだった。







そして翌日の朝 華山の裾野から太陽が昇り出した頃、胸に剣を突き刺したままのユンロンを抱き抱えたクンキュウロンがは崋山の中腹に掘られた岩屋を訪れる。


今だ意識を取り戻さないユンロンの顔は蒼白


龍王の命に背き治癒する訳にもいかず一刻も早く皇女を捜し崋山を目指すが皇女を知らないので中腹から溢れだす神力に惹かれるようにその場に向かったのだ。


岩屋から感じる神力の波動に慄き言い知れぬ圧迫感を感じながらも勇気を振り絞り穴から入り込むと金の髪を美しく結い上げた美しい女性の龍族が迎えてくれる。


もしやこの方が皇女様か?


「丞相を此方に連れて来て下さい」


感情の読み取れない声と表情でそう言うと踵を返し付いて来るように促される。


ユンロン様を知っている様なので大人しく付いて行くが質問を許されない雰囲気



石造りの冷たい通路を歩き通されたのは広い閑散とした部屋


そしてその中央には長椅子が置かれ一人の少女が横たわっており、それを見守る様に大きな銀の毛並みの神獣と子供が見守っており少女を中心に大きな神力の渦を感じその場に跪きたい衝動にかられるがユンロンを抱えたままではそれが出来ず部屋の入り口で立ち尽くすしかない


なんだこのお方達は……


圧倒され身動きが取れずにいると女性は仕方ないように前に立つ


「丞相を私に」


きっとこのお方達なら救って戴けるだろうと言われるまま女性にユンロン様を託しその場で無言で跪くのだった。










心臓に剣が突き刺されたままの丞相を受け取り溜息を付きたくなる


「陛下から何か伝言は?」


「はい 皇女様に結界の家で待つとだけで御座います」


「あの子は相変わらずなのですね……まさか此処までするとは」


少しは過去の呪縛ら逃れアオイ様と共に生きられる道を選んだと思っていたがそうではなかったらしい


どうしても幸せを拒絶してしまう


そういう魂として生まれて来てしまった男に憐れみより悲しさが先立つ


「どうかユンロン様をお救い下さい…」


「安心しなさい。丞相は助かります」


「有難うございます」


ユンロンの衣服は真っ赤に染まっているが既に血は止まっていいた。しかし剣を抜けば再び出血してしまうだろう


「そなたがいらぬ事を言うからこの若者が傷を負ったではないか」


「 …… 私とて読み違う事もあります」


「兎に角傷を癒してやらねば幾ら龍族でも唯では済まんじゃろう」


「シバジャン様が剣をお消し下さい。私が同時に傷を癒します」


本来破壊神であるシバジャンは治癒や再生の力が低いのだ。


「うむ 良かろう」


シバジャンが子供の姿を空中に浮かびあがらせ剣に触れようとした時だった


「キャアァァァァァァァーーーーーーーーーーー」


グラグラ


レイカのつんざく声と共に崋山が揺れ始め地震が起きる。


「レイカ様!! 落ち着くのです!」


天井か崩れた石が雨のように降って来る。


「こりゃ堪らんわ~~ 神力と崋山の霊力が共震を起こしとる~ 早く止めさせねば崋山が崩壊するぞ!」


「この者を頼みます」


ユンロンをシバジャンに放り投げると慌ててその体を神力で受け止め空中に浮かせる自分自身も浮き結界を張り崩れ落ちて来る石から身を守る。


ファンニュロンは長椅子から体を起こしているレイカの体を抱き締め正気に戻すべく語りかける。


「力を治めなさいレイカ様! 丞相まで巻き込み崋山に埋まる心算ですか!」


「 ユンロン様が……  」


「大丈夫です。 丞相は死んではおりませんから御安心を さあ力を治め共に傷を癒しましょう」


「癒す…」


「そうです」


漸くレイカの瞳に光が灯り神力も静まり地震も治まるのだった。











レイカは血の生臭い匂いにより意識を取り戻すと共に言い知れぬ不安が襲う


私は寝てしまったの?


確かファン様にお会いして泣いてしまいそのまま気を失ったのを思い出し恥ずかしくなる。


ユンロン様の前で泣くなんて


きっと呆れていらっしゃったに違いない


此処がどこかを確認しようと体を起こすとそこのは信じれない光景が映し出される。


えっ…


ユンロン様…


何故


それは胸を突き抜けた剣が刺さったままのユンロン


服は血で赤く染まり元の生地の色を失っており、それに反して顔は死人のように青白い


死人…


死んでるの


「キャアァァァァァァァーーーーーーーーーーー」


自分が発する悲鳴が他人の悲鳴のように感じ体内の龍核が熱く暴れ出して訳が分からずその力を放出する。


嫌 嫌 嫌 嫌 嫌 イヤーーーーーーーーーーーーー!


誰がユンロン様を?!


心が怒りと絶望で震え、暗い闇に呑まれそうになるが誰かが私を抱き締める。


私はその感情に呑み込まれない為に必死にその人に捕まると


「力を治めなさいレイカ様! 丞相まで巻き込み崋山に埋まる心算ですか!」


ファン様…


私の力の所為で?


「 ユンロン様が……  」


気が付けば部屋が揺れて石がバラバラと落ちて来ておりそんな中で剣に突き刺さったユンロン様が中に浮いている。


「大丈夫です。 丞相は死んではおりませんから御安心を さあ力を治め共の傷を癒しましょう」


ファン様の温もりと言葉で高ぶっていた心が徐々に凪いで来る


死んでいない ユンロン様は


希望の光が灯る。


「癒す…」


「そうです」


ファン様が私の手をとり立たせてくれ、ゆっくりと立ち上がると震える足でユンロン様に歩み寄る。


「誰がユンロン様に」


私が寝ている間何が起こったと言うんだろう


胸に剣が刺さり痛々しい姿に息をのみ、恐る恐るその剣に手を触れる


パッシーーーーーーーーーーン


剣は霧のように一瞬で消えると共に次々と情景が流れ込んでくるそれは、嘗て一度だけあった事がある父龍王がユンロン様の胸に剣を突き刺す姿


「!!」


「早く傷を塞ぎますよ」


剣が消えると共に真っ黒な血が再び噴き出し


傷口に手を当て神力を注ぎ心臓を再生させて次々と骨や筋肉、血管を修復して行き全てを再生させ胸の傷口を綺麗に治すと僅かに心臓が動き出すが今だ顔に血の気は戻らない


私の手は赤黒い血で染まってしまったが決して不快では無く、取敢えず命を救え安堵する

「お見事ですレイカ様」


ファン様が差し出す布を受け取り手を拭くと布が赤く染まってしまう


ユンロン様は今だ目も覚まさず衣服も悲惨な状態で宙に浮いたまま横たわっており胸が痛む


「許さないー ユンロン様までこんな酷い目に合すなんて!」


怒りがドンドン湧きあがると同時に部屋が揺れ出す


「こりゃ こりゃ 娘よ 一々感情を高ぶらすでない。 そなたの神力で崋山が崩壊するぞ!」


宙に浮かぶ見知らぬ小さな男の子が私を嗜め、初めてその存在に気付く


「まったく 好いた男だからと言って崋山を壊されては適わんわ」


好いた男と言われ一気に顔に血が昇り怒りが逸れると同時に揺れも治まる。


「私は…」


初対面の子供の自分の想いを言い当てられ戸惑っていると


「初々しいの~ 美男美女で似合いだがお前達の恰好はどうも貧相じゃ」


そう言うと男の子はパ――ンと手を打つ


すると次の瞬間ユンロン様と私の来ている日本の服が着せ変わり懐かしい青龍国の衣装になっていた。


ユンロン様は紺色に金の龍の刺繍を施した物で私は白に水色の龍の衣装


見れば髪もいつの間にか元の美しい水色の滝のように流れて床に着く長さに戻っている


「おお美しいの~ 正に目の保養。 命ある物の創造は無理じゃが無機質な物の創造は中々であろうファンよ」


「レイカ様にはもっと華やかなものが宜しいですわ」


不満そうなファン様の言葉に男の子はむっすりとしてしまう


「貴方は…」


見かけと違い大きな神力を持つ高位の神なのは分るが存在が希薄で実態がつかめない


「わしか わしは天帝の一部じゃと思えば良い」


「天帝様!」


青黒い見た事もない肌の色に白い髪に金の瞳の不思議なこの男の子が天帝様の一部と聞き驚くと共に圧倒する雰囲気に納得もする。


「と言っても全く別人格じゃ、シバジャンと呼ぶがよい。そして後ろに居る銀色の猿も嘗て慈愛の神と呼ばれたヴィシルージュは既に知っておるな」


後を振り向けばハクのお父さんがハクを抱いていおり、ハクがそれを合図にしたかのように私に飛び付く


「レイカ 綺麗!」


「ハク」


ユンロン様が重傷を負わされ、主神たる二人の神まで揃っており私が寝ている間にかなりの事が起こっていたようだ


『 レイカよ良く我が娘ハクと無事に戻って来た… しかし今のそなたはこの世界で微妙な立場に置かれてしまた 』


ハクのお父さんは少し言いずらそうに言う。


「? どういう事です……私が天帝を継ぐ程の力を持ったから」


「そうじゃ。 そなたの精神はあまりに幼い 先程のように感情を荒げただけで周囲に影響を与えてしまう。そればかりでは無いがこの世界にとってそなたは益にならぬ」


先程の地震は私が起してしまったのは理解しているけど力に目覚めたばかりの私には抑制するのがまだ困難なのだ


『 レイカ そなたはその力を欲するのか 』


私は首を縦に振る


誰がこんな膨大な命など欲しいだろう


ただ龍王を討ち母様を救い自由にする力が欲しかった。


「母様を救う為に私が望んだ力」


『 母を救った後は如何するのだ その後もまだ望むのか 』


「それは…… 」


『 そもそも実の父親を封じるなど考え直した方がよいのではないだろうか 話し合えば   』


「嫌!! 私はあの人だけは許せない母様ばかりかユンロン様にまで!」


ズッゴゴッゴゴッゴーーーーーーーーーー


声を荒げたると途端に地響きが起こり始める


「やはりそなたにはその力は早いようじゃー 早々に慈愛の神に引き渡すがよい」


ハクのお父さんに力を渡す―――確かに今の私にはそれが出来るが……


「何の話し……」


「年若い娘には制御が難しいのじゃー 一歩間違えばこの世界が崩壊…」


「これは私の力 誰にも邪魔はさせない!!」


私はこの場に留まっていては危険だと判断し急いで母様の眠る結界の家に行く事を決意する。


「こりゃこりゃー 話は良く聞けーー」


喚くシバジャン様の横にはユンロン様が今だ目を瞑り宙に浮いているのを目に止めると顔に血の気が戻っておりホッとする。


ユンロン様が目を覚ます前の方が都合がいいかもしれない


龍王を封じるのを反対していた優しい人


私達を争わせない為に龍王を諌めに行ったせいで斬られたに違いない


我子すら殺そうとする非情な男だから


「誰にも私は止められないわ」


『 待て 皇女よ! その力を無暗に――――――――  』


静止の声を振り切り目の前に真っ黒な穴が出現させ、狭間の世界に逃げ込み母様が眠る結界の家に赴くのだった。










「こりゃーーー ファン そなた何故あの娘を止めん!」


「私はレイカ様のお好きなようにすれば良いと思ってますから」


「だがあの娘の向かった場所はあの妖獣の森じゃ- あの娘と龍王が戦えばただでは済まんぞーー!」


「 …… 忘れておりました 」


「この馬鹿もん! 脳だけは確り老化しとるようじゃな」


「 …… 」


ファンニュロンは冥府の底の突き落とそうかと考えたが今は止めておく


今はどうするか思案するが横たわる丞相を見やる。


「取敢えず お茶を飲みましょう」


「そなた 今の事態を分かっておるのか!? わしは此処を動けぬしヴィシルージュは大した力を持っておらぬから役に立たん」


「分かっております… 年寄りは気が短くて困ります。 兎に角お茶を」


「『 …… 』」




 

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