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龍王の娘  作者: 瑞佳
第四章 龍王の娘
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岐路




一体 私の目の前で何が起こっているのか理解できない


突然の眩い閃光に目も開けられずまるで間近で太陽が輝いているかの如く光の刃が体を突き抜けて行く


そして光が治まると共にそこに存在しているのは圧倒的な力


そして金色の美しい髪をなびかせそこに静かに立ちつくす神々しいばかりの美しい女性


皇女様なのか


皇女様から放つ凄まじい力は狭間の世界すら震えさせ、私の体にもヒシヒシとその神力と感じ震える。


そして皇女様の金色に輝く瞳が私に向けられゾクリっとし完全にその存在に呑まれてしまう


「私は父を討ちます」


凛とした声で静かにそう宣言するその顔は無表情で人形のよう


しかしその内容は驚愕する内容


「皇女様! なりません! 陛下は血を分けた父親、しかも陛下を討てば伴侶であるアオイ様まで」


娘が父親を殺すなど許されない


皇女様にその手を汚すなどさせられない。


「大丈夫 神玉として封じるなら問題ないのだから」


淡々と何でも無いように言うが陛下の神力を封じるなど並大抵な力では無いが、今の皇女様なら容易くできるだろう


「しかし 陛下は確かにアオイ様には酷い仕打ちをしましたが荒れ果てた青龍国を此処まで復興させたのは陛下のお力 それに陛下は御変りになられ」


以前の陛下は感情を動かさない冷たいお方だったのは確かだが大地も荒れ人間達も虐げられ激減したのを此処まで豊かな国になり民達から笑顔が見られるようになったのも陛下の治世によるもの。


それにアオイ様を愛される様になってからは人間味もでられ我々に気遣いを見せられるようになり御変りになられた


そんな陛下を封じるなど私には出来ない


「ユンロン様は母様の味方では無いのですか!」


「それは」


アオイ様の事を言われると心が痛むが陛下も切り捨てられない


結局、私はアオイ様への思いも中途半端でしか無かったのかと思い知らされる。


「私は許せない 母様を閉じ込めまるで娼妃の様に扱う事も 母様の目の前で私を躊躇いも無く殺そうとし」


静かな怒りに震える皇女様を止める言葉が見つからない


そんな時私達しかいない世界に第三者の声


「お止めなさい レイカ様」


「ファン様……」


「!」


それはファンニュロン様


恐らく膨大な力の発露が青龍国まで伝わったのを感じたのだろう


ファンニュロン様は皇女様に近づき慈しむように優しく語りかける。


「大きくなりましたね。 こんなにお美しくなられ嬉しい限り、きっとアオイ様もお喜びになるでしょう」


「ファン様!」


先程と打って変わり泣きそうに顔を歪める皇女様


生まれてから後宮に頻繁にお越しになっていたのをフェンロンから聞いていたが


二人の親しげな様子に心がざわめく


私には決して心を許されないのが切なかった。


「その御身に受けし力……まさかレイカ様に現れるとは……」


「ファン様 私は… 私は… うっう… 」


「今はお泣きなさい。今だ幼い雛の心にはあまりに過酷な運命」


『 レイカ 泣カナイデ ハク 悲シイ 』


「ハク… うっうう ヒック 」


「ハクよ レイカ様は今は泣くしかないのです。 泣かせてあげましょう」


私はただファンニュロン様に取り縋り子供のように泣きじゃくるのを唯見詰めるだけしか無いのだった







しかし泣き声も途切れ途切れになったかと思うと何時の間にか眠りについてしまたようでファンニュロン様に横抱きにされると私に向き直る。


相変わらずその表情からは何も読み取れない


「ファンニュロン様 皇女様をお連れするのが遅れ申し訳ありませんでした」


「御苦労でした丞相。そなたには苦労ばかりかけます」


「私など皇女様のこれまでの苦難を思えば……しかし皇女様のこの姿とお力は一体何なのですか」


次々に姿を変えられ私は戸惑うばかり


一体どれが本当の姿なのだ


「分っているのではないですか――レイカ様が天帝を継ぐ者だったとは私も思いもよりませんでしたが」


「!!」


「人間として生まれながらなんと皮肉な。 されど天帝がレイカ様の存在を許されるか心配でなりません」


「皇女様にはどのような運命が待ちうけているのですか」


「……私にも分りかねますが取敢えず崋山に参りましょう。  レイカ様を」


そう言って私に皇女様を渡して来るので受け取り、そのあまりにも華奢な体と温もりにうろたえてしまう


「私のような者が皇女様に触れるなど……」


「? 別に構いません」


そう言いハクを肩に乗せ一人暗闇を進み始めるので皇女様を抱きながら後を付いて行くが何故か酷く緊張してしまい、まるで割れ物を扱うかのようにそっと抱きしめる。


「どうして崋山に行くのですか」


「レイカ様を見ていただくのです」


「誰にでしょうか?」


「会えば分ります」


そして出口の光が見えて外に出るとそこは懐かしい元の世界だがそこは石造りの堅牢な牢屋のような場所だった。とても神々が住む神殿とは思えない


「此処が崋山の神殿?」


「その一角です」


部屋はガランとしておりむき出しの石の壁に小さな窓はガラスすら嵌っていない鉄の柵が嵌められているのみ


寒くは無いが何処か薄ら寒い雰囲気


「これは珍しい客だのー」


何処からともなくする声の方を見れば小さな五歳位の子供が立っているがその気配が無い


人間ですら微弱な気を放つのにそれが一切ないのに視覚的には存在しおり、生きた彫像のよう


しかも肌は青黒くその目に嵌るのは金の瞳に白い髪という初めて見る色彩の組み合わせ


「シバジャン様 久しゅうございます。相変わらず御健勝のようでなにより」


「わしを見てそう言うのはそなたぐらいじゃが天然だから致しかなかろ」


「? 何の事か分かりませぬがレイカ様を見て欲しいのです。 丞相 レイカ様を床に」


「このような場所に皇女様を横たえるのでしょうか!?」


床と言っても石畳みの何時掃除したか分からないような不潔な場所


とても置きたくは無い


「一国の皇女に床はあるまい。 そこに置くがよい」


そう言ってシバジャン様が示された場所に忽然と現れた柔らかな布が張られた長椅子


「有難うございます」


礼を言い静かに皇女様を横たえるが腕からその体を離すのが寂しく感じてしまう


「そなたが青龍国の丞相ユンロンか。 成程、神仙が騒ぐだけあって美しいのーー しかしその髪は戴けん。 どれ…封じられた神力と共に元の戻してやろう」


「元にですか?」


シバジャン様はパチリと指を鳴らすと同時に自分の体に神力が溢れ、以前のように水色の髪が長く垂れ下がり元の姿を取り戻すが瞬時になされて驚くばかり


ただの神仙とは思えない


「丞相 気付きませんでしたが髪を染めて切ってたのですか」


今さらながらの言葉に唖然とする。


「はい。向うの世界にこのような髪の人間はおりませんでしたので」


「まぁー そうなのですか。 今度お茶を飲みながらあちらの話を話して下さいね」


「はぁ…」


「そなたら何しに来たのだ―― 皇女を視るぞ」


「お願いします」


一体皇女様の何を見ようと言うのだろう?


そもそもこのお方は誰なのだ


久しぶりに戻った神力を使い感じようとするが矢張りこの世に存在するとは思えず幽霊でも見ているようだが私の神力を瞬時に戻し髪すら元に戻す力は空恐ろしさを覚える。


シバジャン様は皇女様の側に立たれるとその姿を見詰め


「正に天帝の再来を思わせる美しさじゃ」


感心したように言うと瞼を瞑ると同時に額に金色に輝く第三の目が現れる。


「眼!?」


「シバジャン様には全てを見通す神眼をお持ちになる主神。レイカ様のお力を視てもらうのです」


第三の眼から発せられる金の光は皇女様を包み込むとその姿はより一層神々しく輝くが目を覚まそうとはされない


額の目が閉じられると通常の目が開くがその顔には難しい表情が浮かんでいる。


「う~~む まさかこんなに早くこのような者が生まれるとは…異界の血が混じった所為だろう」


「では矢張り」


「皇女は天帝を継ぐ力を有しておるり、既に目覚めてしまった。だが今だ天帝が鎮座している今は災いとしか言えん。 今のところ天帝が不在の為に事無気を得ているがあの方がお戻りになればこの世界の均衡は崩れ崩壊は免れん」


「どうすればよいのでしょう」


「簡単じゃ。この世界の均衡を保つため皇女を殺すか、全ての神族を消し去るか、天帝を亡きものにするかのいずれかじゃ」


「私としては天帝様に亡きものとしたい所ですが」


「そなた…実の父にも容赦ないの」


「天帝様は十分に生きられ既に化石 一方レイカ様はこの世に生を受けて僅か十五年しかたっておられません」


「確かにそうじゃがこの娘がこの世界の全てを狂わずに受け入れられるかの…力だけでは支えられぬぞ。 皇女はこの世界には不要かもしれん」


二人の神の会話に不安が募る。


「皇女様を一体どうなさるつもりなのですか」


「丞相 心配せずともレイカ様を亡きものになど私がさせません」


『 レイカ ハク 守ル!! 』


ハクは威嚇するようにシバジャン様に毛を逆立たせ飛びかかるがその体を突き抜けて皇女様の体に着地してしまう


『 ??? 』


「コレコレ 幼き者よ、わしに肉体は無いから攻撃は無駄じゃ。 それよりあの者が復活していたのを忘れておった。 お前の父親を呼んで来てくれんかの~」


『オ父サン?』


「そうじゃ。 もしかすると皇女を救える」


『 ハク 行ク!! 』


そう言うや否や喜び勇んで窓を抜けだし何処かに消えて行く


「ど~れ あの者が来るまで座って待つかの」


何時の間にか出現した布張りの座り心地の良い椅子が三つ用意されている。


しかしファンニュロン様には不満だったようで


「お茶とお菓子は無いのですか」


「…… そなたぐらいじゃ、わしをこき使うのは」


そう言いながらもパチリと指を鳴らすと机と茶の道具が一式ようされ色取り取りの菓子も用意されている。


我々神族でも無から有は生み出せない。それが出来るのは天帝のみ


「丞相 お茶を」


「はい」


ファンニュロン様に求められそのまま茶を淹れ始めるがその存在が気になり失礼ながら聞いてしまう


「一体シバジャン様はどういったお方なのですか」


「わしか? 言わば天帝の一部かの~ 天帝が切り離した一部に人格が宿ったと言う所じゃな。 慈愛の神もその一人で天帝が最も忌避していた存在じゃ」


天帝様の一部


「申し訳ありません。知らぬ事とは言え直に御身を問うなど失礼しました」


そんな高位な神だったのかと改めて跪こうとすると


「よいよい。既に肉体は死滅し霊体呑み 崋山でも忘れられたような存在じゃ」


「霊体」


「亡霊だと思えば良いのです」


「「 …… 」」


確かにそうだが亡霊はないだろうと思わずにはいられなかった。







それからお茶を飲みながらハクを待つが一向に現れず皇女様も眠ったままだった。


「皇女様は何時までお眠りになるのでしょうか」


「心配ありません。膨大な神力をその体に馴染ませるのに二、三日程眠られれば目覚められます」


皇女様が目覚められたら本当に陛下を封じられるのだろうか


ファンニュロン様なら皇女様を止められるかもしれない


「皇女様は陛下を封じるお心算の様なのですがどうかお止下さい」


「レイカ様がそのように言ったのですか」


「はい。 当然のことながら酷く陛下を憎んでおります」


「そうですか……レイカ様がそうしたいなら私はお止しません」


「何故です。 皇女様が父親を封じたと知ったらアオイ様も悲しみます」


「この世界は強い者が支配するのです。それに…その方が丞相にも都合がいいでは無いですか」


「どういう意味でしょうか」


「陛下が居なくなればアオイ様をその胸に抱く事が出来るのですよ」


「何を仰るのです! 私はそのような心算はありません」


「いい事を教えてあげましょう……アオイ様は長い間健気にも貴方を思い続けていたのですよ。サンに聞いた話によると陛下は貴方を盾に無理やりその体をひらいたそうです」


「!!」


直ぐにはファンニュロン様の言葉を理解出来ず頭が真っ白になる。


アオイ様が私を愛していてくれた


だがその言葉が上手く呑み込めない


「アオイ様が まさか……   陛下が私を盾に……」


「それでも陛下を許せますか」


「何故 今その様な事を教えるのです!! 」


にわかには信じれない言葉で怒りばかりが湧いて来る。


これは誰に対する怒りだ


陛下か


ファンニュロン様


それとも何も出来なかった自分自身



「レイカ様の邪魔をさせないためです」


バン!


とてもこの場に居たたまれず思わず椅子を倒すように立ち上がる。


「どこへ行くのです」


ファンニュロン様の声を無視し眠る皇女様の側に跪く


「皇女様が目覚める頃に戻ります」


皇女様の手をとりその指先に誓約の口付を落しそのまま立ち上がり石の壁を怒りに任せ神力で打ち破る。


ドッド―――――――ーゥーン


ガラガラガーー


壁が崩れ落ちこの場所が高い場所にあるようで広大な森が眼下に広がっている。


躊躇いもなくそこから飛び降りて久しぶりに転神をして龍の姿に戻る。


神力を高め自分を光に変えて龍の姿に戻ると背後には天を突き抜けるようにそびえ立つ崋山


一度振り返り皇女様の姿を見てから天高く舞い上がり一路青龍国に向かうのだった。









そして美しい氷のように鱗を煌めかせる龍を見送るファンニュロン


「なんのも美しい龍じゃ~ 清廉過ぎて自分自身も傷つけそうじゃ」


「はい」


「そなたも父親に似て来たの~ あのように惑わせては可哀想じゃろ?」


「!!」


最も言われたくない言葉に睨みつけるファンニュロンであったがその表情は変わらない


「心外です。 私は丞相の成長を期待しているだけで、何れレイカ様の伴侶の候補として見ておりますから」


「龍王に倒されたらどうするのじゃ」


「それだけの者だっただけ。 丞相がどのような行動をとるのか分りませぬがレイカ様を見やる目には情があり、陛下に全てを吐き出し己自身の為にもアオイ様への想いを昇華させた方がいいのですよ」


「年寄りのお節介にならぬといいがの~~」


「!!」


久しぶりに人を殴りたい衝動にかられるが無視する。



そしてファンニュロンは眠るレイカの傍に寄りその金の髪をすくう


「アオイ様が育てたレイカ様  決して歴史を繰り返さないと信じております」


そう呟き慈しむようにその頬を撫でるのだった。











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