表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍王の娘  作者: 瑞佳
第三章 日本編
58/78

決意





私の心は悲鳴を上げていた。


ユンロン様が私を見る目が心臓を貫くような痛みが走り夢中で逃げて来てしまう


あの目は私ではなく母様を愛おしく見る目


夢の言葉が蘇る。


『 例え同じ姿に成ろうと貴女はアオイ様には成れない。 愛されなどしない 』


そんなの分かっているわ


こんな姿になったってユンロン様は私を見てくれない


走りながら近くの女子トイレに駆け込みその場に座り込む


校内で怪しまれず一人でいる事が出来るのがここしか思いつかなかかった。


そして静かに泣く


悪いのは私


ユンロン様を好きになり勝手に一人でもがいて苦しんでいるのだから始末に負えない


向うの世界では皆が待っている


母様、サンおじちゃま、ファン様 侍女さん達 フォンフー様 インフー様 お屋敷の人達も 


帰らないといけないのに


ユンロン様の手をとれない


授業開始のチャイムが鳴ると同時にトイレにいた数人の女子もいなくなり静まり返り、我慢していた嗚咽が漏れる。


この気持ちを捨てよう


ユンロン様は決して私を愛さない


あの目を見て確信してしまう


母様は龍王の伴侶なのに今だ母様を想い続けており、その愛の深さを思い知る。


その愛する人の娘で恋敵の娘の私に振りむくはずなどない



母様 父様 ユンロン様 一体この三人の間に何があったのだろう


ベッドの下に大事に隠されたユンロン様から手紙と髪飾り


母様にもユンロン様への幾ばくかの気持ちがあったのかもしれない


だけど母様は父様を愛しているし、父様も母様を愛しているのが子供ながらに感じた。


ユンロン様は何時から母様を愛してたのだろう


きっと長い時間苦しんでいたのに違いない


それでも今だに母様を忘れらずにいるのだ


母様には敵わない


母様を想うユンロン様に敵わない……


だけど私はそんなユンロン様を想い続けるなんて出来ない


苦しい…


このままでは大好きな母様を憎んでしまいそう


私は心を決め携帯を取り出し紫さんに電話すると直ぐに繋がるが、泣いたと分かる声だけど構わず話す。


「紫さん 学校に迎えに来て」


それだけを絞り出すように伝えると直ぐに察したように何も聞かず返事をしてくれる。


「三〇分後に裏門で待っていて」


「ありがとう」


「いいのよ」


それだけの会話で通話は切れ、携帯の時刻表示を見詰めながらひたすら静かに泣き続けた。








きっかり二〇分後に涙を拭い手洗い場で顔を洗う


冷たい水が腫れた頬を冷やし気持ちが少し落ち着き何度も水を顔をかけ、ハンカチで顔を拭き鏡をみる。


そこには泣いた所為で瞼を腫らした母様の顔


思えばこんな悲しそうな顔は見た事がなく常に優しい頬笑みを浮かべていた


決して出れない結界の家に閉じ込められ人と接するのは私とサンおじちゃまだけ


それと十日に一度通う父様


幸せだったのだろうか


「母様は目覚めても幸せ?」


鏡の自分に問いかける


『 レイカがいるから幸せだよ 』


口癖のように私に言っていた言葉を思い出す


「私も母様がいれば幸せよ」


鏡の中の母様が微笑んでいるのを見て私は授業中で静まり返った廊下を裏門に向かい歩きだすのだった。







裏門の陰で紫さんを待っていると車のブレーキ音


キッキーーーーーー!


門からコッソリと見ると真っ赤なポルシェが止まっており紫さんが手を振っている。


急いで車に駆け込みドアを閉めると直ぐに発進するので急いでシートベルトを装着すると私の頬をそっと触れる紫さんの手


「かなり泣いちゃった様ね。何があったの?」


「ユンロン様が学校に……」


「まだ会いたくない」


コクリと頷く


「じゃあ、おじい様の屋敷は駄目だし家は尚吾がいるから大沢のホテルがいいわ」


「ホテルですか!?」


「多分、ユンはおじい様の屋敷にも行くと思うの」


「でも、ハクはどうします」


ハクはおじい様達に内緒で私の部屋にいる。


「私が後で着替えと一緒に連れて行くから安心して。それよりずっとユンから逃げる心算」


「もう暫らく心の整理をしてから、私は向うの世界に帰ります」


「そっか…… 葵ちゃんが決めたなら反対しない、だけどおじい様達が悲しむわね」


「ゴメンなさい」


「謝らないでいいのよ。私も寂しんだから皆も我慢すべきよ」


「紫さん……」


それから二時間あまり車を飛ばして到着した場所はあの海岸近くのホテル


ここのホテルは数年前に建て直して新しい外観だが戦後から続いている大沢家の持ち物


キャンプ場と海水浴場も併設され中々の人気でリーズナブルな価格設定のファミリー向けの施設だ


「この場所は」


「そう、葵ちゃんが発見された海岸にあるホテル。 ここなら都心から離れているしホテルにも葵ちゃんと泊るのは口止めしておくわ」


車をホテルの玄関に停めて降り、颯爽とホテルのロビーに向かう紫さんの後をついてフロントに行く。


「総支配人を呼んで下さるかしら」


「お名前をお伺いしても宜しいでしょうか」


女性のフロント係は訝しそうに私達をみる。


なにしろ一人は派手な女子大生に制服を着た女子高生が総支配人を呼び付けるのだから怪しむのも無理はない


「大沢紫と伝えて」


大沢と聞き慌てる。


「はい、至急お取り次ぎ致します」


フロント係の女性が内線で呼び出すと五分で走って来る


「これはお嬢様 今日は此方にお泊りになるのでしょうか」


「ええ、お部屋をお願い。それと誰が来ても私達が泊っているのは内緒にして欲しいの」

「はいかしこ参りました」


「それじゃあこの子もお願い。 もし葵ちゃんに何かあったらおじい様が黙っていないのを覚えていて」


「分かっております」


案内された部屋は恐らくこのホテルで一番高いのだろう、海の眺めも良く家具もシックな高級品で揃えられていた。


「色々有難う紫さん」


「可愛い葵ちゃんの為だもの。 それじゃあハクちゃんを迎えに行くけど私以外誰も入れちゃ駄目よ」


「はい」


それから紫さんは引き返しておじい様の屋敷に、私はホテルの一室で静かに待つしかなかった。








紫は高速を飛ばし大沢邸に急いで引き返す頃には既に夕方の5時だが未だ明るい


屋敷前の駐車場に急停車すると屋敷は騒然としており何事だ玄関に入ると家政婦の佳代さんが真っ青な顔で飛び出して来る。


「紫お嬢様!?」


「どうしたの佳代さんそんなに慌てて?」


「葵さんが……葵さんが学校から居なくなったんです!!」


「あっ!」


せめて直ぐにおじい様に連絡しておくべきだったとそこで漸く自分の失態に気が付く


「旦那様が警察に連絡するかどうか迷っておられ、 どうしましょうお嬢様……」


「大丈夫よ。 葵ちゃんの居場所は私が知ってるから」


「まぁ!」


「おじい様にも報告するから、美味しい紅茶をお願い」


「はい」


佳代さんはホッとした様にキッチンに消えて行くが、私はどうやらおじい様の雷を落とされるのを覚悟して居間のドアを開けるとソファーに座り携帯に向かい怒鳴っているおじい様が目に入る。


「兎に角、葵を捜せ! 学校の近くで不審者がいなかったか聞き込め」


どうやら少し大事になってしまっているので冷や汗が出る。


「おじい様……」


私が呼び掛けるとおじい様がチラリと見るこちらを睨む


「紫! 何故携帯を切っている! それより葵の居場所を知らんか!?」


そう言えば運転中は携帯の電源を切る習慣で、その間何回も電話したのだろう


「葵ちゃんなら、大沢のホテルです」


「何ーーーーー! バッカ者ーーーーーーーーーー!! わしがどれだけ心配したか分かってるのか」


「おじい様血圧が上がりますから、落ち着いて」


「まったっくお前は……」


凄まじい怒鳴り声を聞きながら鼓膜が破れるかもと思いながらもおじい様が葵ちゃんに対する執着に呆れると同時に葵ちゃんが居なくなると知ったらどれだけ精神的にダメージを受けるかと心配になって来る。


なにしろおじい様には元気でおじ様に睨みを利かしていて貰わないと


私は不動産部門だけでなく大沢グループの全てが欲しい


だけど葵ちゃんは家族の元に返すのが筋だろうから仕方ないのよおじい様


命の短い老人の為に一人の可愛い少女が犠牲になるなんてあり得ない


これは私が可愛い孫を務めるしかない様だ


おじい様を宥めながら葵ちゃんの記憶が戻った事とユンが迎えの者だと話すが異世界については止めておく――老人には理解しがたいだろうし私ですら今だ信じがたいのだから


「それで最近塞ぎこんでいたのか……」


おじい様が項垂れるように肩をおとす。


「私は葵ちゃんの着替えを用意します」


今はおじい様より早く葵ちゃんの元に行くのが先決


「わしも行こう… 」


「いいですけど今夜は葵ちゃんには会わないで下さい」


「分かっとる…せめて側に居たいだけだ」


車はおじい様に出して貰う事にして急いで葵ちゃんの部屋に向かう






二階の葵ちゃんの部屋に入りハクちゃんを呼ぶ。


「ハクちゃん 出て来て」


直ぐに出て来るかと思えば返事もなければ気配もない


部屋を見渡せば窓が少し開いており外に出かけた様子


取敢えず適当な鞄に服や下着を詰めてから何気なく机に目を向けるとメモが置いてある。

「?」


綺麗に整頓され何も置かれていない机にそれが不自然に見え手に取る。


「ここに電話して下さい…ハクちゃんの置き手紙な訳ないわよね」


メモには携帯の電話番号


どうやらハクちゃんは誘拐されてしまったよう


「多分相手はユン。 結構大胆な事をするのね… と言うより焦ってるのかしら」


取敢えずハクを攫った犯人の携帯番号を押すのだった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ