記憶
えーん…… えーん……
暗闇のなかで小さな少女がしゃがみ込んで泣いていた
私はその子に近づき一緒にしゃがみこんで頭を撫でてあげる。
「どうしたの、迷子になっちゃたのかな?」
少女は顔を上げて私を見る。
驚いた事に少女の瞳は金色に煌めいておりその上天使のように美しい子供
「母様が死んじゃった……ひっく 私の所為なの……えーんえんん……」
美しい涙が金色の瞳から溢れる度に私の目から涙がこぼれ、可哀想な少女を抱き締める。
「私も同じだよ。私の所為……」
少女が抱きしめ返して耳元で囁く
「生きてるよ」
「エッ!?」
思いがえない言葉に少女を見る。
何時の間にか少女は十歳位に成長してその美しさまでも増しているが何処かであった事があるデジャブ―を感じるが思い出せない
「母様は死んでいない! 私が父様から母様を救い出すの! 絶対!!」
「何を言ってるの……?」
この子は誰?
「貴女はこのままで良いの? 自分を偽って逃げていたら母様はどうなるの」
偽る??
どういう意味なの
「でも 思い出せないの…… 私は誰なの? 」
「貴女は私よ」
少女はまた自分と同じくらいに姿を変えており、一際美しくとても人には見えない
こんな美しい少女が私?
有り得ない……そう…これは夢なんだ
「貴女は私じゃない! これは夢」
そう言うと少女の姿は消えてしまうが少女の声がまたする。
「いいえ貴女が夢で私が真実の姿。 夢は何時か覚めるしかないの……忘れないで…… 」
私が夢
夢は何時か覚める
私は不安で押しつぶされそうになり真っ暗な闇の中で胎児のように丸々のだった。
誰か助けてと叫ぶ事すら怖い
ハク
ハク助けて!
お願い! ハク! 側にいて!!
心の中で悲痛に叫び続けた。
『 レイカ 呼ンデイル!! 』
ユンロンがレイカを捜しに行ったのでハクは大人しく部屋で静かに外を眺めながら待っていたが、近くでレイカが自分を呼ぶ声をハッキリと聞いた。
ハクは急いで器用にドアを開けレイカが呼ぶ声がする方に行くと一番角の部屋に辿り着きドアを開けようとするが開かず、仕方なくドアを叩き続ける。
トン トン トン トン トン トン トン トン トン トン
『 レイカ レイカ 開ケテ ハク ガ 来タノ 』
暫らく叩き続けているとカチャリとドアが開いて隙間が出来たので急いで中に入り込む。
「キャアッ!! なっ何が入って来たの???」
ドアの後ろには人が居たけど構わず急いでレイカのいる場所を目指すとベッドに横たわるレイカが居た。
『 レイカ! レイカ! ハク 来タ! 』
やっぱり顔はアオイだけどレイカだった。
ベットに飛び乗りレイカの顔を舐める。
『 起キテ レイカ 』
だけど目を覚まさない
「あらあら~ 可愛いお客様ね。 葵ちゃんに会いに来たのかしら」
誰かがハクを抱き上げてマジマジと見て来る。
綺麗な人だけど何を言っているのか分からない?
レイカのお友達?
「珍しい猿ね… 私が知る限りでは初めて見る種類だわ。 それにこの広いホテルの中から捜しだすなんて凄いのね」
優しく頭を撫でてくれ気持ち良い
『 レイカ 起コシテ イイ? 』
「キャー 可愛い~ 君は一体どこから来たの?」
『 放シテ レイカ 起コス 』
ジタバタ暴れると綺麗な人はハクをそっとレイカの側に降ろしてくれる。
「君が話せたらいいのに~ 葵ちゃんの事色々教えて貰えるんだけど」
アオイだけ聞き取れるけど他は分からない
悪い人では無いみたい
再びレイカを起こそうとう呼び掛ける
『 レイカ レイカ 帰ロウ アオイ ガ 待ッテル ハク ト 帰ロウ 』
ハクは必死に呼びかけ続けるのだった。
『……カ レイ… レイカ…… 』
懐かし声がする。
レイカ
それは誰の名前?
『 レイカ 帰ロウ アオイ ガ 待ッテル ハク ト 帰ロウ 』
アオイ?
ハク……ハクなの
『 ハク ト 帰ロウ 』
帰りたい 母様のところに
『 迎エニ来タヨ 』
ハク
闇が消え温かい光に包まれる
『 温かい 母様…… 』
そして母様の事を思い出す。
それは今の自分より少し年を重ねた姿の美しい真直ぐに伸ばされた黒髪の細身の体の優しげな青年
アオイは母様の名前だった。
なんて偶然
そして私はレイカ
次々と流れ込んで来る記憶
そして大事な人達が脳裏に浮かんでは消えて行った。
その記憶はにある世界は地球では無い別の世界
そして自分が虎王によって狭間の世界に引きずり込まれた所為で地球に落ちてしまったのを思いだいした。
あの時は死んで戻れないと絶望したのだ
まさか助かるとは思わなかった。
『 レイカ レイカ 起キテ 』
大事なハクの声
――――― ハク 今 目覚めるよ ――――――
目を開けると可愛いハクが私の顔に張り付いていた。
『 ハク ハク ハク ! 』
ハクを引き剥がして抱きしめる。
『 レイカ 迎エニ来タヨ 』
『 どうやってこの世界に来れたの? 』
『 亀王様 ガ 瞑道 ヲ 開ケタテクレタノ。 ユンロン モ 一緒 』
『 ユンロン?? 』
『 青龍国 ノ 丞相様? 』
『 丞相様が来てるの!? 』
そしてあの化粧品のポスターのモデルのユンを思い出す
『 まさかユンが丞相様…… 』
『 ウン 』
何てこと あの美しい髪をあんなに短く切ってしまいまるで罪人
しかも髪を染めていた
そこまでして私を追いかけてくれた事が嬉しい反面、申し訳ない
『 丞相様は近くにいらっしゃるの 』
『 ココ ニ イル 早ク 帰ロウ 』
青龍国に帰れる
そう思うと嬉しいが今の自分の姿が問題
『 駄目よ! こんな姿じゃ戻れない…… 』
どういう訳か今の私は母様の顔になっているのを思い出す
何故こんな事に
こんな姿であの人に会うなんて出来ない
丞相様は母様を愛していたのに……
『 レイカ ドウシタノ ? 』
『 丞相様に会いたくないの…… 』
『 ??? 』
不思議そうに私を見るハク
「葵ちゃん、一体どこの言葉を話してるのかしら?」
「!!」
横から聞こえる紫さんの声に驚いて振り向くと楽しいそうに私達を見詰める紫さんの綺麗な顔
そう言えば私は尚吾さんとテラスに居たはずで、ハクの事で興奮した私は又倒れてしまったのだ……そして
「記憶を取り戻したのね。 どういう事か説明してくれるかしら葵ちゃん」
記憶を取り戻してしまった私
ハクと話している姿を見られた今とても言い訳は出来ない
でも話したとして信じて貰えるだろうか……
自信が無いが取敢えず話しだすのだった。
大まかに自分がこの世界の人間では無く別の世界から来た事とハクとモデルのユンが向こうの世界から私を迎えに来てくれたのだと説明した。
「葵ちゃんはその世界に帰っちゃうのかしら」
寂しげに言う紫さん
「はい。 でもユンロン様に会いたく無い…… 」
帰らなければならないけど
「どうして? あんな素敵な人が迎えに来てくれたのに」
「だって… この顔は母様の顔なんですもん… うっ…うっう…」
こんな浅ましい姿を見られたく無い
きっとあの時私が母様になって愛されたいと願ったから?
「顔!? 本当は違うの??」
涙ぐみながらコクリと頷く
「なんだか複雑そうね……」
「紫さんはこんな途方もない話を信じてくれるんですか」
「ええ なにしろ葵ちゃんにはお臍が無いんだから」
「知ってたんですか」
「最初は何処かのマッドサイエンティストが作り上げた人造人間かしらと想像したんだけど違ったわね」
「人造人間……」
「取敢えず葵ちゃんが記憶が戻った事を皆に隠しましょう」
「何でですか?」
「おじい様とか色々あるし まだ見つかりたく無いんでしょ」
「はい…」
「それならこのまま屋敷に戻るわよ。ユンはこのホテルに泊っている様だから見つかるかも」
「ハクをどうしよう」
「この際誘拐しましょう」
「紫さん そんな事したらユンロン様が心配します」
「いいの いいの~ さあ善は急げ」
紫さんに追い立てられるようにそのままタクシーに乗り込み帰路につくのだった。
葵ちゃんは不思議な女の子
本当に興味が尽きない
不安そうな葵ちゃんと子猿のハクちゃんを無理やりタクシーに押し込んで私は楽しくて堪らない
「お客さん、ペットは困ります」
すかさず1万円札を差し出すと嬉しそうにタクシーを発車させる運転手。確りメーターも動いているけど後からおじい様に請求すれば良いだけ
「紫さん、やっぱりハクだけでも戻した方がいいと思うんですけど」
「それは難しいはね。 ハクちゃんは葵ちゃんにしがみ付いて離れないし、この子って嘘がつけるの?」
基本動物は嘘をつけない。それに似たような行動はとるけど捕食や生存の為の騙しと言った方が近いんじゃないかしら
ハクちゃんがユンに真実を話せばすぐに異世界に戻ろうとするだろう
シュンと項垂れる葵ちゃん
そんな姿も可愛い
将来は尚吾と結婚させて妹になって貰い大沢グループを二人で牛耳ろうと計画してたのに残念
恐らく葵ちゃんの頭脳は私以上の知能指数だ
こんな人材は2度と巡り会えないのに仕方ない、私は本人の意志を尊重したいから
だって人に束縛されるなんてゾッとするもの
それより今はこの状況が楽しい
異世界から来た人間をこの目で確認出来るなんて凄く興奮しちゃう
尚吾には可哀想だけど失恋決定ね
姉の私も諦めるんだから弟も当然
それよりこれからユンがどう出て来るかしら
実際に会った事は無いから予想がつかない
それより今夜は葵ちゃんから向うの世界の事を色々教えて貰おうと!
一体どんな不思議が待ってるんだろう。
こんなにワクワクするのは初めてだった。