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龍王の娘  作者: 瑞佳
第三章 日本編
52/78

ユンロンとハク






湾岸沿いの高級ホテルのスイートルームのソファーで寛ぎ座りながら社長とマネジャーと打ち合わせをしているのはモデルとして活動し始めたユンロン。白いドレスシャツを羽おり黒い細身のパンツのシンプルなスタイルながらまるで貴族のような優雅さだ


「明日は午後1時よりメンズ雑誌の撮影と取材だけになっています」


黒ぶち眼鏡をした長身な真面目そうな三〇代のマネジャーが緊張しながら予定を伝えている。


「分かりました」


そして五〇代半ばのガッチリとした体格ながらどこか人の良さそうな社長がオドオドしながら聞いて来る。


「あの~ 各テレビ局から出演依頼が来ているのですが……出来れば出演を…」


「太田社長 私はテレビメディアには一切出演しない契約ですよ」


ユンロンのアイスブルーの目で睨まれ背筋に冷たい物が落ちるのを感じる二人


あまりに人間離れした美しさに恐怖を感じてしまう


「もっ申し訳ありませ。 それでは明日の11時にお迎えに上がります」


「失礼致しました」


二人はペコペコ頭を下げ慌てふためき逃げるように部屋を出て行く姿を苦笑しながら見送る。


「そんな脅した心算は無かったのですが… 」


ユンロンが選んだモデル事務所は大手では無く中堅どころのモデル事務所


選んだ基準は経営者である社長を面接した結果だ。


社長を面接するなど立場が逆なのだがユンロンだから仕方がないだろう


初めは大手の事務所からアポなしで受け付けに行き素顔を出して社長に会いたいと言えば直ぐ社長室に案内され契約書が出されて来るほどだったが、社長が自分を見る目と態度を見て直感的に決めていくと大手は全滅、特に女性社長はあからさまに色目を使って来て、男でも愛人にならないかと持ちかける者まででいて神力があれば瞬時に氷漬けにしやりたかった程だ。


そして選んだのが太田モデル事務所


ユンロンを見て


「家のような事務所よりもっと大手の事務所を紹介しましょうか」


などと自ら金のなる木を手離そうとするお人好し。どうやら小さい事務所より大きい方が私の為になると判断したようだが、自分には御しきれないという思いもあったのかもしれない。


「いいえ。私は貴方にマネージメントしてい頂きたいのです。 では早速契約の話を致しましょう」


「ですが…」


何故か渋る社長に経理の女性が急いで契約書を机に持って来る。


中堅となると小さい事務所でワンフロア―で社長室も仕切りで仕切っただけで会話は筒抜け


「社長、この方に入って戴ければ来月の支払いは安泰です! ここで契約しないなら私もこの事務所に見切りをつけますよ」


「裕美ちゃん~」


女性事務員の援護も受け後はスムーズに契約が交わされた。


しかし一つ問題も起きる。


女性がテキパキと契約書を処理して行き最後に


「明日までに履歴書を書いて来て下さい」


「履歴書?」


「モデルは初めてでしょうから、現住所と電話番号や学歴だけでもいいですし身分証のコピーも必要です」


「分かりました。明日持ってきましょう」


「明日はプロモーション用の写真を撮る打ち合わせをしますので2時までに来て下さい」

「はい」


そう言ったものの国籍など無いユンロン


これまでは密航や無断越境をして国を渡り歩いていたのだ。


今持っているのも携帯もある方から頂いたもの


「あまりあのお方とは接触したくないが致し方ない」


たった一つ登録されている携帯電話の番号を押す。


思えばあの方が私の目の前に現れたのは偶然なのか必然なのか……











上海の街中を歩いている時後ろから名前を呼ばれ驚く


「ユンロン。珍しい所で会うわね」


「貴女は」


振り向くと見覚えのある顔


それは亀王妃である深雪様が少し年を重ねたような顔の女性


どういう事かと警戒して相手の出方を見る。


「分かる訳ないっか。この世界では橘深雪の姿だけど、貴方の世界では天帝と呼ばれる存在」


そう言われ亀王妃が天帝によって四神国に落された話を思い出す。つまり此処がアオイ様や亀王妃がいた世界なのだと初めて知る。


「本当に天帝様なのですか!」


まさか異世界で自分の世界の最高神である天帝に遭うなど誰が考えよう


「こんな大通りでなんだからお茶でも飲みましょ」


そうニッコリと笑う天帝の姿は普通の女性


だが私の名を知る者などこの世界に存在するはずが無い上に四神国の言語を話しているのに気が付く。


しかし天帝と言えば白虎国の邪神事件の大元で皇女がこの世界に落ちてしまった元凶


何を考え声を掛けてきたのか油断ならない


取敢えず天帝に誘われるまま近くのカフェに入りコーヒーを頼む。


「大分この世界に馴染んでいるのね。 しかもあの髪を切って染めるなんて勿体ない」


「一年ほど前からになります」


「そんなに前から、私も大方の神力を封じているから気付かなかった。 神獣を連れて無かったら気付かないままよ。ところで何しに来たのかしら」


アオイ様を眠らせている張本人なのだから皇女の存在を知っているはず。


「皇女を捜しています」


「あの娘がこの世界にいるの!? 何で?」


驚いて惚けているようではないが鵜呑みにするのは危険


何しろ神を陥れるのが趣味のようなお方だ。


しかし皇女の経緯と白虎国の事を説明すると別段驚く事も無くまるで普通の世間話を聞くように相槌を打つだけ


「成程、それであの娘がこの世界にいて、そして貴方とその神獣が捜している訳ね」


椅子に置いたリュックの口からハクが顔を覗かせる。


『 天帝様? 』


「そうよ」


『 天帝様 オ父サン 戻ッタ 嬉シイ 』


「あの愚かな男が復活したのは気に食わないけど、もう私の脅威にはならないようね」


『 ハク達ヲ生カシテクレテ アリガトウ 』


「お前は良い子ね」


そう言ってハクを撫でる天帝の姿は意外な物だった。


「天帝様は皇女様の居場所に心当たりは無いのでしょうか」


「この子の気配を感じれる程しか力が無いのに69億人の中から一人の人間を捜せる訳ないでしょ」


「そうですか」


そこへ携帯の音


ピリリリリッリ


「失礼」


バックから携帯を取り出し誰かと話し始めどうやら仕事の話のようだ


見ればブランドのスーツで決め髪も綺麗にアップされ亀王妃と違いきびきびと会話をしており、呼び止められなければ気が付かなかっただろ


この香港で何をしているのだ?


そもそもこの世界に何の目的があるのだと疑問が尽き無い


携帯が終わるとおもむろに立ち上がり伝票を取り上げる。


「ゴメンなさい。 もっとゆっくり話をしたかったんだけど取引先との時間が迫っているの。 そうだこの携帯をあげるから困った事があったら登録してある自宅に電話して頂戴」


そう言って渡され、取り付く暇もなくサッサと店を出ていくと道路脇に止められていた高級車の後部座席に消えていったのだった。


それ以来一度も連絡を取っていないが有り難く使用させて貰いかなり役にたった。








ワンコールで出てくれた天帝に駄目もとで偽造の身分証と経歴を頼んでみると簡単に了承を貰い、その上香港だと思っていたら日本国民だった。そのお陰で夜に会うと一揃いの書類を渡される。


「貴方はこれからユン・緑川二十六歳本籍は東京。アメリカの帰国子女で両親が死んで母の母国である日本に今年帰化した設定よ」


どうやって作ったのか私の顔写真が載った日本の運転免許所と住民票まで用意されている。


この数時間でこれだけをの物を用意するなど一体何をしているのだ


「天帝様は日本でどの様な立場のお方なのですか」


聞いてみると


「ある企業の社長をやってるの」


「自ら起業されたのですか」


「違うわ乗っ取ったの」


乗っ取った? 人の会社を奪ったという事だろうか??


楽しそうにそう言うと立ち上がり


「あの娘が見つかればいいわね。 でも四神国に帰るのがあの娘の幸せとは限らないんじゃない……それにアオイもあのまま眠っていた方が幸せかもよ」


意味ありげに笑う天帝のその目には暗いものが宿っておりゾクリとする。


「……皇女の居場所を知ってるんですか!」


「以前も言ったでしょ。他力本願は良くないわ……私が協力するのは此処まで、後は自力で捜しなさい!」


「!!」


そう言って立ち去っていくが思わず放たれた殺気に体が動かなく無言で見送るしかなかった。


以前?


香港ではそんな会話は無かったはず


疑問だらけの天帝の行動と言動など考えても惑わされるだけと思いそのまま無視し身分証は有り難く使わせて貰い事務所の方も疑う事無く信じた。


念のため詳しいプロフィールは伏せて貰いモデル名のユンだけを公表した。


それから直ぐ大手化粧品会社の口紅の広告モデルに大抜擢され次々と仕事が舞い込んで来て確実に名前が売れていったお陰で今では外を歩く事すら出来なくなってしまった。


仕事以外はメディアには出たくなかった為、住まいもホテルを転々としており今は湾岸に最近立てられたホテルの最上階の窓から薄暗い海を眺める。


天帝は恐らく皇女の居場所を知っておりこの日本いる可能性が高い


もしポスターを見れば私の正体に気が付き名乗り出て来るか何らかの接触があるはずだと期待しており、レイカという少女から連絡があったら直ぐに教えて欲しいと事務所には伝えてあるが今だに接触は無い


「皇女様……どうか私に気が付いて下さい」


暗く染まっていく海を見ながら祈らずには居られなかった。


『 ユンロン オ腹スイタ 』


隠れていたハクがクローゼットから出て来て肩に乗る。


「そうですね。何を取りますか」


『 フルーツセット 』


最近ハクは色々なフルーツがカッティングされ美しく盛られたフルーツに嵌っている。


内線で自分の分も食事を注文すると


「申し訳ありませんが只今大変混雑しておりますので少々お時間を頂きたいのですが」


「そうですか…… なら結構です」


ハクはお腹をすかしているのでコンビニでも行って調達した方が速そうだ


「大変申し訳ありません」


受話器を置く


『 オ腹スイタ 』


「急いでコンビニで適当に買って来るので我慢して下さい。 ハクは留守番ですよ」


『 オ部屋モウ嫌 ハク行ク 』


モデルを始めてからはハクをホテルの部屋で留守番をさせられているので辟易しているのだろう…


夜なので外は暗く少し遊ばせてあげようと考え着替え始める。


黒いTシャツにジーンズにフード付きのチョッキを羽織りキャップとサングラスを掛けて愛用のリュックの口を開く


「少しだけ散歩しましょ」


『 ユンロン 大好キ! 』


そう言ってリュックに飛び込む。


ハクの存在は周りには秘密にしていた。


猿と一緒にホテルに泊まるのは色々面倒な事になるので仕方なく、その分ハクには不自由をさせてしまっているので可哀想だった


カードキーと財布をポケットに押し込み部屋を出て直通エレベーターに乗り込む。


エレベーターの中で随分この世界に馴染んでしまったものだと感慨深い。


当初は全てが違いすぎて驚異で戸惑っていた頃が懐かしい


本当に便利な世界だが四神国にこの文明の利器を持ちこもうとは思わない


この文明を維持する為にこの世界は疲弊し悲鳴を上げている。


あの美しい世界を壊したくは無い


エレベーターを降りてフロントを通らずに非常口から抜け出してホテルの庭を一応つけられていないか周囲を伺う


マスコミと言う集団は手に負えない


まるで蛭のように張り付き追って来るのだから面倒この上なく、自分の世界なら直ぐさま消し去ってしまいたい存在だ。


「どうやら居ないようですね。ハク暫らくこの辺りで遊んでいて下さい。食料を買って来ますから」


『 ウン フルーツ一杯 』


「分かりました。 急いで買ってきますから人に見つからないようにして下さいね」


『 ウン! 』


そしてハクを残し急いでコンビニに向かうのだった。







幾つかの照明にライトアップされた庭園の木々を昇りながら遊んでいるハク


『 甘イ 匂イ 』


クンクン鼻をさせると美味しそうなお菓子の匂いがした。


お腹の空いているハクは匂いにつられ木々を伝って行くとホテルの二階のテラスに辿り着きテラスには数組のアベックがいい雰囲気で話を楽しんでいたが、闇に隠れ匂いの方に行くと大きなガラス窓があり其処に大勢の人が集まっているのとテーブルに並でいる美味しそうな料理やフルーツ、デザートのケーキが並んでいた。


『 美味シソウ! ハク 食ベタイ 』


何しろお昼を食べていなかったので空腹で堪らず、ついつい窓に張り付き見ているとテラスを出入りする人間を見てコッソリと足下に隠れながら中に入ってしまう。


ユンロンに人に見られないよう言われていたのをスッカリ忘れてしまい、ただ美味しいご飯が食べる事で頭が一杯になてしまっていた。


幸いな事にハクは誰に気付かれる事無く料理の並ぶテーブルに辿り着きそのテーブルの下に急いで隠れる。


テーブルには白いクロスが掛かっていたので下に居れば誰にも見つからない安全地帯だが自分が漸く危険な行為をしてしまった事に気付く


『 ドウシヨウ ユンロン 怒ル ? 』


ハクはお腹を空かせたままテーブルの下で途方に暮れるのだった。









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