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龍王の娘  作者: 瑞佳
第三章 日本編
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水族館で倒れてしまった私は結局日曜日の乃ノ華達のデートをキャンセルし心配するおじい様の為に月曜日も学校を休んでしまった。


おじい様は過保護過ぎて困る。


とても私を大事にしてくれるけど時々私を遠い目で見る時があるのに気が付いていた。


恐らくアオイと言う人と重ねている。


以前長男の孝明おじ様が私を醒めた目で見ながら仰った事がある。


「お前は所詮アオイと言うオヤジの初恋の君の身代わりだ。分を弁えておけ」


私は無言でその言葉を受け止めた。


自分自身の名前さえ分からない私におじい様が付けてくれた名前


最初は嬉しかったけど段々そう呼ばれるのが苦しい


私でないアオイを見るおじい様に辛くなる。


だけど尚吾さんはチャンと葵としての私を見てくれるのが嬉しい


学校でも友達は大沢葵と認識してくれる。


おじい様には悪いけど学校に通わないと自分が誰なのか不安になってしまう


今の私は大沢葵になろうと精一杯なのだ









『 例え同じ姿に成ろうと貴女は……様には成れない。 愛されなどしない 』






どういう意味なのだろう


あの囁きが何時も心の底から消えない


だけど私は大沢葵として生きるしかないのだった。









学校生活にも慣れてクラスとも馴染み3週間近く経過した頃に期末試験を受けて今日その順位が張りだされた。


「葵凄い! 一番で満点なんて初めて見るよ私」


「僕も 感動しました」


二人に誉められ少し照れくさい。 本当は手を抜いて平均90点ぐらいに抑えようと思ったけど尚吾さんの所為で浮いてしまった私はトコトン目立つ事にした。


「三沢君も13位なんて凄いじゃない。乃ノ華も20位で目標達成したから今日はお祝に三人で帰りに何処か寄らない」


「はい。13位なんて一気に5番もアップしたのも大沢さんが勉強を教えてくれたお陰だから是非お礼がしたいです」


「私も! 葵に奢っちゃう!」


「それじゃあ二人に奢って貰おうっと」


和気あいあいと掲示板を離れクラスに戻るとクラスメイトの私を見る目が違っている。


嫉妬、妬み 驚愕 そんな雰囲気が取り巻いていた。


この進学校は三年からは受験学科別になるが1、2年は成績順でクラスが分かれておりAクラスは上位の者たちで占められているのでライバル意識が強い


乃ノ華の話では1年生の頃からトップ10の順位は多少変動するけど殆ど変わらなく一種均衡がとれており、割かし和気あいあいとしているらしいけど私が編入した事でかなり戦々恐々


何しろ私は入学試験より難しいとされる編入試験を高得点で合格した上にAクラスに入って来たので今回の期末は皆気合が入っていたよう


確かに休み時間も参考書を開き静まりかえっておりこれが一般高校生の休み時間なのかと引いていたけどどうやら私の所為だったらしい


しかも私は専ら乃ノ華と三沢君の勉強をみていて余裕の態度でぶっちぎりの1番を取ってしまい、さぞかし嫌みな女に見えるだろう


しかし席に着くと数人の女子が寄って来る。


「大沢さんて凄いのね。 今度勉強教えて」


「私も、中埜さん達ばかりずるいわ」


などと勝手な事を言って来るが


「いいよ。 分かる事なら何時でも聞いて」


そう言うと機嫌よさそうに自分達の席に戻って行く。


「葵はお人好し過ぎーー あんなの無視しちゃえばいいのよ」


反対に機嫌を損ねてしまう乃ノ華


「私って八方美人タイプだから。 でも乃ノ華と三沢君最優先よ!」


ニッコリ微笑む


「 /// 葵って何気に誑し」


「 /// 同感です」


失礼な二人


それから話し合い放課後は最近評判のケーキのあるカフェに行く事にしたのだった。









放課後、三人で連れだって電車に乗って目的のカフェに向かう電車の中は下校中の高校生がひしめいていており騒がしいが同じ話題で持ち切りなようで同じ名前が良く出て来る。



「ねえあのポスター見た」


「見た見た! ユン やばすぎ!」


「絶対人間じゃないよ」


「一部噂ではCGじゃないかって話し」


「CGでも動くユン様が見たい」




どうやらユンと言うモデルの話題らしい


「乃ノ華 ユンて誰?」


「葵知らないの、一週間ほど前に張り出された化粧品会社のポスターのモデルよ」


「女の人なんだ」


「違う、めちゃ綺麗いな男性! 何でも若手人気女優が決まっていたのにスポンサーが違約金を払ってまでその新人モデルを起用したってくらいの美形」


化粧品のモデルなら女性の方が良い気がするけど敢て男性を起用するなんて話題作りで奇をてらったのかもしれない


「そんなに綺麗なんだ。三沢君は知ってた?」


「はい、母と妹が騒いでいたので、でもあんな綺麗だと人間じゃないみたいで怖いかな」

「滅多にテレビを見ない委員長ですら知っているのに葵は家で何してるの?」


「最近は法律関係を読み漁ってたからテレビは見てなかったかも」


「「 …… 」」


それから乃ノ華によってユンがどれだけ綺麗か教えて貰い、ポスターは直ぐに盗まれてしまい滅多に拝めないらしくユンの載った雑誌は全て完売するほどの勢いらしいくユンの話題が尽きぬまま電車を降り改札を抜ける。


「葵」


名前を呼ばれ振り返ると尚吾さんが立っていた。


見れば制服で同じ電車に乗っていたのだろう


「尚吾さん 珍しい所で会うね」


「塾がこの近くなんだ。それより友達と何処行くんだ」


「勉強お見てあげたお礼でケーキを奢って貰うの」


「へーー 俺も混ぜて」


「塾は大丈夫なの」


「コーヒー飲む時間はあるから。 君達も良いだろ」


半ば脅すように見られれば二人は仕方ないように頷く


「もー 相変わらず強引」


「こうでもしないと葵と会えないじゃないか。学校では無視だし」


仕方なく四人で目的のカフェに行く事になり、運良く席も空いており直ぐに座れた。


取敢えず三人はケーキセットで尚吾さんだけはコーヒー


注文を取りに来た店員さんはかなり尚吾さんを意識しているようで若干頬を染めて注文を端末に入れていた。


乃ノ華は私の横に座り腕に抱き付いており、それを目を竦めて見る尚吾さんとその横で緊張でガチガチの三沢君


「尚吾さんはコーヒーを飲んだらサッサと帰って下さいね」


「それは無いだろ。 久しぶりに会うのに」


「今度の土曜日に会えるでしょ」


「会社の創立パーティ―なんて面倒だけど今回は俺が葵をエスコート出来るから楽しみだ」


「おじい様が許してくれるかしら」


「大丈夫 既に爺さんの許しは得た」


「どうやって!?」


「期末で1位だ」


確かに3年の掲示板を見ると1位に名前があり流石に紫さんの弟だと納得してたんだけど


「今まで違ったの」


「大沢先輩は大体10位前後よ」


乃ノ華が耳元で教えてくれる。


「今まで本気を出さなかっただけだ」


憮然とする尚吾さんの前にコーヒーが出される。


カチャ


「コーヒーお待たせしました」


そして別の店員さんが次々と私達のケーキセットを一つずつ運んで来てくれるが皆さんお目当ては尚吾さんのようだ。


「流石大沢先輩、 もてますね!」


可愛く笑う乃ノ華をジロリと見やると益々私にひっついて挑発するような態度を取る。


何故???


それから何とも言えない雰囲気の中で食べるケーキは美味しいけど出来るなら楽しく食べたい。そんな空気を読んでか一気にコーヒーを飲み干す尚吾さん


「それじゃあ後はごゆっくり。葵 土曜は俺が迎えに行くからな」


「待ってるわ」


そう言いながら手を振って出て行くのに手を振り応える。


それを変な顔で見る二人


「どうしたの?」


「もしかして大沢先輩と付き合う事にしたの!?」


「それに近いかな?」


「ええーー 駄目よ葵! 大沢先輩なんて女性関係が乱れているって有名よ。絶対浮気されて泣きを見るだけなんだから」


「そっそうです! 僕も聞いた事があります」


三沢君まで今までに無く声を荒げて反対して来る。


一体巷でどんな風に噂されているんだろうと逆に興味があるけど聞くのは止めておこう


「浮気されたら速攻別れるから。 それに恋人未満友達以上の軽いお付き合い」


「それなら良いけど でも絶対体を許しちゃ駄目よ。 一回寝たら捨てられるって話だから」


真剣な顔で忠告してくれる乃ノ華の言葉を聞き三沢君は顔を真っ赤にさせている。


なんだか速攻別れたくなってしまったが、取敢えず今の尚吾さんを見守る事にする。


それから美味しいケーキを平らげ帰路に着くが三沢君は塾へ行くので別の路線で私と乃ノ華で同じホームに行く通路で巨大なポスターを張る作業員


「あっ! ユンのポスター 」


乃ノ華がそう言うと立ち止まるので私も立ち止まりその作業を見ていると徐々に人が集まりだし人がきが出来てくる。


壁一面に張り出されたポスターには美しい男性の横顔にルージュが塗られようとする写真

正に神々しい美しさと言っていい


栗色の艶やかな髪にアイスブルーの美しい瞳、透ける様な白い肌


その冷たい瞳はまるで氷の女王


私はその顔から目が逸らせず見続ける。


この人を知っている


誰だろう


変な話だけど知っているのに分からないなんて


思い出せない……


「第1弾は女性に口紅を引こうとしてる写真だったのよ……葵 どうしたの真っ青よ」


私の異変に気が付いた乃ノ華は人混みを掻きわけてホームのベンチまで手を貸すように支えながら連れて行ってくれる。


「大丈夫 葵……」


私をベンチに座らせて横に座り私の手を握ってくれる。


「うん……」


「貧血」


「もう大丈夫よ。 それよりユンの本名知ってる」


「モデル名のユンとしか公開されてないの。プロフィールは一切非公開でこれまでの経歴も不明で1週間前のポスターの仕事が実質デビューだからあんまり情報が無いのよ」


「そうなんだ……」


あれ程の美貌が今まで世間に知られていない方が奇跡なような気がする。


ポスターの美しい横顔を思い出すと胸が締め付けられるように痛む


知っているこの痛みを


貴方は誰


もしかすと本当の私を知っているの


会いたい気持ちと同時に会いたくないという相反する思いがわき上がり戸惑う


私の過去が幸せだったとは限らない


むしろあの夢が真実なら私は愛されない存在


知らない方が幸せなのかもしれない


臆病な私は今の幸せな生活を壊したくなかった。


それにこの人が私を知っているとは限らないし会うなど難しいだろう


止めよう


私は大沢葵として生きると決めたのだ




そしてユンと言うモデルを心から閉め出すのだった。




私は弱い



もう二度と一人ぼっちにはなりたくなかったのだった。










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