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龍王の娘  作者: 瑞佳
第一章 青龍国編
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人間の血






人攫いに攫われた日はファン様達のお説教を永遠と聞かされ、家に帰ればサンおじさんに話しを聞いた母様に泣き付かれてしまい、怒られるより一番堪えると知る。


二度と学問所の敷地の外に出ないと誓いをたてさせられ、漸く許された


其の夜、久しぶりに母様の寝台でハクも一緒に寄り添い寝た……母様の胸に顔を埋め温かい体温を感じ安心して寝る事が出来た。今考えてもテジャに助けられ無かったら母様に会えなくなっていたかもしれないという恐怖が湧く…今度もう一度お礼を言おうと心に決めた。


そして髪飾りの事をすっかり忘れていたのだった。







今日は午後からおじちゃまが迎えに来てファン様のお屋敷に行く日の朝だった。


「今日は家中の布団を干すから手伝って」


「は~い ……!!」


突然、髪飾りの事を思い出す。


あっ ヤバい!! 髪飾りを忘れていた!


「レイカが運ぶから、母様が干して」


「大丈夫?」


「大丈夫!!」


急いで寝室に行きレイカの枕の下を探ると髪飾りがそのまま隠してあった。


「良かった…母様にばれて無かった」


急いで取り出し手に取ると綺麗な髪飾りを眺める。


ファン様のお屋敷で着飾られる時は、怪我をしないよう造花や紐飾りで宝石は付けさせて貰えないから、ファン様達がしているキラキラの宝石は憧れていた。じっくり眺め髪に付けたかったが布団を運ばないといけないので取敢えず箪笥の奥に仕舞う


それから急いで布団を運ぶ、布団と言ってもここ等は温暖で薄い綿が入った軽い物なので五歳のレイカでも何とか運べる。一つづつ何往復かして運び出し終わるとそれだげで疲れてしまう。


「ご苦労様、今、果物の汁を絞って上げるよ」


「わ~い 砂糖も入れて!」


「ウキィー」


「ハクは何もしてないでしょ」


「キィ…」


実際ハクはレイカの後ろを付いて往ったり来たりしてただけ


「嘘だよ、一緒に飲もう」


「キッキー」


それから甘い美味しいジュースを飲んでから、前回作ったアンドーナツを一緒に作る事にしたのだ。テジャにお礼に手作りのお菓子をあげる事にしたのだがついでにチュウリンちゃんにもあげようと考えている。


「この間皆に迷惑をかけたから、アンドーナツ沢山作って皆に一杯食べて貰おう」


「は~い」


母様に教えて貰いながら、前日に作って置いた豆と砂糖を煮て潰したアンコを麺麭の生地の中に入れ包む作業を手伝い、それが終わると油で次々とこんがりと揚げていくと甘い美味しそうな匂いが台所一杯に広がる。


「おいしそう~」


「揚げたアンドーナツに此の粉をまぶしてくれる」


母様から黄色い粉が入った皿を渡される。


「何これ?」


「母様の国では黄粉と言って、大豆を炒って粉に挽いた物なんだけどそれに近い豆を使って作ったんだよ」


舐めて見ると香ばしくて砂糖が少し入っているようで仄かに甘みもあり美味しい


母様は料理の本を取り寄せたり、色々な食材を取り寄せ研究をしているのだけど偶にとんでもない変な物があるので全てが美味しい訳ではない


早速、揚げたてのアンドーナツに黄粉をまぶすと、黄粉の香ばしい匂いが香り食べたくなる。


「母様、一個食べて良い!」


「仕方無いなー 良いよ」


お許しを貰って食べようとするとハクが頭上で鳴く


「キィ~」


「ハクにも分けてあげるよ」


ハクはまだ小さいので一口位に千切って持たせ同時に齧りつく


「「 !! 」」


「凄く美味しい!! 黄粉を付けた方が断然美味しい!」


「そう、良かった。 皆も喜んでくれそう」


母様も嬉しそうに微笑んだ


アンドーナツは前回より小さめに作り、半分だけ黄粉をまぶし全部で四十四個も作り上げたので結構時間が掛かりお昼を過ぎてしまった。


「レイカは朝のオニギリを食べて用意をしなさい」


「は~い」


朝と同じ物を自分で居間に運びハクと一緒に食べていると母様がお茶を出してくれ、アンドーナツを詰めたお重を二つと小さな紙袋が二つ用意されていた。


「紙袋のをお友達にあげなさい」


「ありがとう」


「それとアンドーナツの作り方を此の紙に書いたからファン様に渡して」


「は~い」


それからサンおじちゃまが何時ものように迎えに来てくれ、ファン様のお屋敷で着せ替え人形をし何時ものように過ぎていった。








「テジャお早う!」


先制攻撃でレイカの方から声を掛けるとテジャの子分達やテジャ本人も驚いたようでかなり間抜けな顔をしていた。


「お前… ちょっとこっち来い」


少し顔を赤らめた?テジャがレイカの手をとり建物の裏の方に引っ張られる。


その後ろでは子分達がヒュ~ヒュ~ヒュ~とはやし立てている。


「お前ら、黙ってろ!!」


「いよっ! テジャさん照れない照れない」


「頑張って下さいー」


「こんなガキに手を出すか!!!」


一体何の話しなのかレイカには分からない


「手を出すって…レイカぶたれるの!?」


「意味が違う! お前みたいチビ襲うか!」


襲う??? 


人気のない裏に連れてかれると怒られる


「お前、なに声かけてるわけ! 普通しないだろ!?」


「何で?」


「お前を苛めていた俺に声を掛けるなんて不自然だろ」


「別に良いじゃない、レイカはテジャに助けて貰ったからお礼がしたかっただけだもん」

「あー分かった、分かったからもう話し掛けるな!」


そう言うとサッサと立ち去ろうとするので必死に服の裾を掴み呼びとめる。


「まだ行っちゃダメ!」


「うるせえなー 礼は聞いてやっただろ」


レイカは持っている二つの紙袋の一つをテジャに差し出す。


「レイカと母様と作ったお菓子なの食べて、美味しいよ」


ニッコリと笑い渡そうとするが受け取ろうとしない


「お願い食べって…テジャの為に一生懸命作ったの…」


少し涙で目を潤ませ見詰める……以前にフェンおじちゃまに男におねだりする時の効果的方法を使ってみる。


「チッ 食べりゃあ良いんだろ、寄こせ」


おもむろに紙袋を取り上げその場で中のアンドーナツを一口で食べると一瞬動きを止める。


「!!」


それから五個入っていたアンドーナツをあっという間に完食した。


「美味しかった?」


「ああ……」


「それじゃ、改めて有難うございました。テジャのお陰で売られずに済んだし感謝してます」


丁寧にお辞儀をしてお礼を言うと苦虫を潰したような顔をするテジャ


龍族の血を引いているレイカのお礼を受けるのも嫌なのだろうか


「やっぱりお前は良いとこのお嬢さんだな…貧民街に住んで無いだろ」


「わかるの?」


テジャには色々バレテいるので嘘を言っても嫌われるだけのような気がした。だけどお嬢様と言う訳でも無いと思うんだけど……自分でも自分の立場が分からない


「普通の王都の住民だって中央軍大将軍と顔見知りなんてあり得ないだろ」


「フェンおじちゃまって有名?」


「この国でも五指に入る程有名だろ」


小さい頃から知っているけどサンおじちゃまにベッタリの姿しか知らないレイカにはそれ程凄い人に思えない


「何で、こんな学問所に通うんだ? 王都には立派な学問所があるだろ……お嬢様の気まぐれか?」


「レイカはお嬢様じゃ無い! 普通の家の子だよ」


「お前には普通の家かもしれないが、俺達貧民街のガキには裕福で十分恵まれている。 今食べた菓子だってふんだんに砂糖が使われているだろ、砂糖がどれだけ高価な贅沢品だと知ってるのか? 貧民街に生まれ育った奴で一生涯口にするかどうかだ」


「知らなかった……」


「そういう所がムカつくんだ」


腹立たしげに呟く


「だってそんな事知らない! 赤ちゃんの頃からずっと森の中の一軒家で母様と二人で閉じ込められるように暮らしてたから外の世界なんか知らない…自分以外の子供を見たのだって此処で初めてで……うっううぇーんうっ…」


レイカが悔しくて泣きだすとテジャが慌てる


「わっ~ 泣くな! 俺が言い過ぎた、悪かった」


テジャがレイカに謝るなんてあり得ない、驚いて涙が引っ込む


「テジャが謝った…」


「お前な……」


「ねぇ…レイカって何なのかなぁ?」


最近特に感じる疑問をテジャにぶつける


「はぁ?」


「レイカは母様と二人暮らしで、知り合いは龍族の大人の人しか知らなかったの」


「確かに特殊だな」


「父様は龍族だけど名前も顔も知らないし、母様に聞いても教えてくれないんだけどこれってどういう事だと思う?」


「俺に聞くな!」


「レイカよりテジャの方が大きくて物知りじゃない…想像でいいから教えてよ」


「……俺にとってお前に関わる事が果てしなく面倒事のような気がしてきた。 あくまで想像だがお前の父親はかなりの高位にある龍族で奥方にばれないよう愛人を森の一軒家に囲って !! 痛!!」


あまりに失礼な事を言うのでテジャの足を思いきり踏んでやる


「母様は愛人じゃない! ちゃんと婚姻を結んでいるって証拠の金の龍の指環を見してくれたんだから!」


涙を溜めた目でテジャを睨みつけてやる。


「だから仮定だろ仮定! このじゃじゃ馬」


「母様は嘘は言わない…でも母様はあの家から外に出れないの…やっぱり変だよね」


「確かに、正式に婚姻してるなら龍核を分け合い龍族と同じように扱われるはずだが…閉じ込められるなんて可笑しな話しだぞ」


「母様は嘘を言わない」


「それじゃあお前の母親って何歳ぐらい」


「二十歳位に見える」


「単純に考えて人間なら十四歳ぐらいにお前を産んだなら結構変わってるはずだが、物心ついた時に比べ年をとったか?」


「全然変わらないまま綺麗だよ」


「それなら婚姻している確率が高いなー 人間の十四歳から二十歳なら体の成長も激しいから全く変わらないのは可笑しいからな」


「えっ 母様って年をとらないの!!?」


「知らないのか?! 龍族と人間が婚姻を結ぶと命を分け合い人間の場合寿命が恐ろしく伸びるんだ。龍族は五百年以上生きるが人間は精々六十年だから単純に考えて二人は二百八十年以上生きる事になるし、人間と違い年をとる速度もゆっくりだ」


人間の寿命は六十年! 初めて聞く話しに茫然としつぃまう


「じゃあレイカは母様より先におばあちゃんになって死んじゃうの!!」


「そうだな……お前知らなかったのか…」


青ざめた顔に幾すじもの涙が流れる


あまりに酷い事実に悲しくってどうしていいか分からなかった。


レイカが死んでしまうと母様は一人ボッチになってしまう


母様に悲しい思いをさせるなんて嫌だ


そんなの許せない


多分、母様を閉じ込めているのはレイカの父親だと直感的に思い浮かぶと怒りが湧く


「許せない!! サンおじちゃんに聞いてくる!!」


「おっおい!!」


泣いたかと思えば急に怒り出し、学問所に入って行く少女を見送る事しかなく


テジャは思いっきり後悔していた。自分はとんでもない少女と関わりを持ってしまったのかもしれないと







授業はまだ始まっておらず、先生の控室に飛び込むとサンおじちゃんが化けている女の先生に跳びかかる勢いで責め寄る。


「先生!お話があります」


「どうしたんですかレイカ……」


並みならぬ気配に慄くサンおじちゃまを引っ張り誰もいない部屋に入り、単刀直入に聞く


「サンおじちゃま、レイカの父様は誰なの!」


「レイカ! 突然何を言うんですか」


まさか父親の事を聞かれると思っていなかったので、たじろぎ少女の迫力に一歩さがってしまう。


「レイカ知らなかったの! 母様よりレイカが先に死んじゃうなんて! だから母様をあそこから出してあげたい! 」


「レイカ…一体それを誰から」


「テジャが龍族の事を教えてくれた」


「テジャが!? 」


龍族の詳細を知っている人間が貧民街にいるとは思わなかったサンジュンロンは後悔した。


あの子は一目見てレイカが龍族の血を引いている事を見破った子…普通なら少数民族の子だと思うはず、龍族は稀な存在で其の血を色濃く引く人間も更に少ないのだだからまして貧民街に龍族がいるとは思わない。


誰もレイカを龍族の関係者だと思わないと高を括っていたのだ。


「母様を閉じ込めているのは父様なんでしょ、父様の名前を教えて」


「それは言えません」


何時も何でも優しく教えてくれるサンおじちゃまは、きっぱりと断る


「何故? レイカの父親の名前を知ったら駄目なの」


「レイカとアオイの為です。真実を知ればレイカは傷つくでしょう…そんなレイカを見たアオイはより傷つき自分を責めるのは必至。 アオイを傷付けないためにも父親を聞いてはいけません」


母様に初めて父親を聞いた時の悲し顔と涙を思い出しズキリと胸が痛む


自分の父親が誰なのかどうでもいいが、母様を一人ぼっちにしたくなかった


「じゃあ、せめて父様に母様をあの家から出してくれるようお願いしてよ! サンおじちゃま」


「レイカ、私もファン様達も何もしなかった訳ではないのです。アオイをあそこから出そうと何度も試みましたが無理でした」


「酷いよ…母様は父様に悪い事をしたの?だから閉じ込めてるの?ううっうぇーんうっうえ~ん…」


「泣かないでレイカ、アオイは何も悪くないのです。 運が無かっただけ」


優しく抱きしめ頭を撫でてくれるサンおじちゃま


「今は幾らでも泣きなさい、だからレイカこれだけは守って…アオイの前では父親の事で泣いてはいけません。分かりましたか?」


珍しくきつい口調でレイカに言いつける。


「うん……」


益々自分が誰なのか分からない


わかった事と言えば父様が母様を苦しめている。


レイカの存在は母様を幸せにしてるんだろうか?


せめて龍族で生まれれば母様の側にずっといられたのに


初めて自分が人間である事が悔しかった。





気持ちが落ち着いてから教室に戻りチュウリンちゃんを捜したが休みのようで見当たらない


せめてこのお菓子を渡し喜ぶ顔を見たかったのにさらに気分が落ち込む。


最近少しずつ日常がずれていくような不安な気持ちでざわめく


レイカは今まで何も知らなかった


知った事実は嫌な事ばかり


母様とあの小さな家でずっと暮らしていれば、知らなくてすんでいたのに


だけど何時かは知らなければならない


それが今なだけ


サンおじちゃまは生涯レイカに父親は教えないと言われた。


だけどレイカは諦めない


何時かきっと父様を捜し出し母様をあそこから出してあげるんだ


そのためにも龍族を知らないと


先ずはテジャから色々聞くのが良さそうだと考えるのだった。



















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