学校生活は平穏に
真っ暗な闇の中を歩いている私
『 皇女様…… 』
皇女?
誰の事だろう
私の事?
遠くで呼ぶ声が遠のいて行くと突然男が現れる
『 余の血を受け継いだ事を呪うがよい 』
男は壮絶な美貌に殺気をみなぎられさせて剣を振り下ろし私を殺そうとすると絶望と悲しみで絶叫がほとばしる。
「嫌ーーーーーーーーーー 止めてーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
悲鳴とともに男は姿を消すが闇の中で一人取り残され恐怖で走れど走れど永遠の闇が続く
「助けて母様! 母様どこ 」
はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ
走るのに疲れ立ち止まると目の前に人が立っており、そこに浮かび上がった顔は母様の顔
「母様! 会いたかった」
嬉しさのあまり飛びつこうとするがガラスのような壁が立ちはだかっていて触れられずガラスをガンガン割ろうと叩き破ろうとして気が付く
「鏡…… 」
母親だと思ったのは鏡に映った自分だったのだ
そして耳元で誰かが囁く
『 例え同じ姿に成ろうと貴女は……様には成れない。 愛されなどしない 』
愛されない
私は愛して貰えない
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
絶望でその場に座り込みただ涙を流して絶望するしかなかった
「 葵 葵 目を覚ましなさい! 葵 」
誰かが体を揺すって目が覚める。
「おじい様……」
心配そうに望み込むおじい様が悪夢にうなされる私を起こしてくれたよう
記憶を失ってから頻繁に良く見る悪夢
自分の存在を否定される恐ろしい夢
最近は少なくなったが、今夜は久しぶりに見てしまい気分は最悪だ
体を起こしてベットに座るおじい様に抱き付き甘える。
おじい様が優しく髪を撫でてくれるお陰で漸く自分の存在が許されているようで落ち着く
私が悪夢でうなされた時は何時もこうやってくれ、まるで父親のように感じる。
悪夢に出て来る父親
アレが本当の父親なら最低だ
あんな父親なんか要らない……
「暫らく私が側に居るから眠りなさい」
「ゴメンなさい 真夜中に起こしてしまって……」
「年寄りになると夜中には何度も目を覚ますものだから気にするな。 さあ布団に入って眠りなさい」
おじい様に言われるままに布団に入ると手を握って貰っている内に何時しか眠ってしまう私だった。
学校に通い出し既に8日間が過ぎる頃にはクラスに大分馴染んで来た。
クラスの女子とは乃ノ華を通して協定を結んでいるのでそれなりに巧く学校生活を送っている。
協定内容は尚吾さんと携帯カメラでツーショットで写真を撮らせる事
もう一つは尚吾さんに学校内で近づかないのを約束した。 ある意味この条件は私の希望にも沿うもので願ったり叶ったり
クラスメイトの女の子達も別段尚吾さんの彼女になりたい訳では無くてアイドルに憧れるような感情に近いのだ。そこに私のような普通の女が彼女のように横に居るのが気に食わないだけ
問題は尚吾さん
アレから悉く無視しクラスの女子の協力を取り付けたお陰で顔すら合わせずに1週間経つとお姉さんの紫さんを通して泣き付いてきた。
「葵ちゃん 家の馬鹿もかなり反省したようだから会ってあげて」
それから着信拒否を解除して電話を掛けるとほぼワンコールで出て来たので驚く
「葵! 葵か! もう無理に迫らないから会ってくれ!」
開口一番がそれだった。
「これから言う条件を聞いてくれるならもう無視はしないわ」
「分かった! 何でも言う事を聞く!」
どうやら人に無視されると言う事がどんなに辛いか身を持って分かって貰えたようだ。
「一つは私のクラスの女子全員と写メを撮る事」
「そんな事なら幾らでも撮るよ」
少し嬉しそうなのは気のせい
「それと学校では私に半径10mの接近禁止及び会話も認めません」
「えっえーー それは却下」
「却下するなら今後一切の接触禁止をおじい様に言い渡して貰います」
「卑怯だぞ!」
「好きだと言う女の子を虐めに遭う様な窮地に追いやる尚吾さに言われたくありません」
「うっ そんな心算は無かったんだ」
「女の子達が聞いていると知っていて告白したでしょ」
「それは、葵が俺の物だって」
ブチッ
誰が尚吾さんのもの!!
そもそも告白が受け入れられると思っている所が嫌!
どれだけ俺様
トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル
トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル トゥルルル
ポッチ
「何」
「わかったよ…… 学校では近づかないし話しかけないで良いんだろ……」
「うん 分かってくれて有難う」
「ちぇっ 何でこんな可愛げのない女が好きなんだろ」
それは私が知りたいぐらい、このまま縁を切っても痛くも痒くも無いのだけど
「それじゃあ明日の朝私のクラスに来てね」
携帯を切ろうとしたが
「待って! 俺ばっかり割が合わなから一つだけ俺の願いを聞いてくれ」
必死な声に少し考える。
「うーん…… 1つなら」
「よーーしっ! 次の土曜は俺とデートな」
「いいよ」
「やったーー!」
そんなに私とのデートが嬉しいのか疑問だけど嫌な気はしない
求められる事が嬉しい
悪夢の中の私は生まれる事すら否定されている所為だろうか
尚吾さんが本気で私を求めてくれるなら付き合ってもいいのかもしれない
今の時代は男女が付き合うのは割かし気軽のようだし
結婚なんて重い事を考えずともいい
「まあ尚吾さんの態度次第ね」
翌日の朝、私のクラスに尚吾さんが現れると女子達のテンションは最高潮に上り我先にと写メを撮っている。
「葵見て、大沢先輩とのツーショットよ」
嬉しそうに携帯の画面を私に見せる乃ノ華
「ファン辞めたんじゃないの?」
「だって― あれだけの美形と写メなんて撮れないし、絶対大沢先輩は有名人になるから記念よ」
女の子らしい強かな意見
尚吾さんは嫌な顔見せず次々と写真に納まり、他のクラスの女子が羨ましそうに見ているが、そこまで面倒を見られないし、学校生活を円滑にするには最低限クラスの女子を味方に付けれればそれでいい
強かなのは私かもしれないがこうなったのも尚吾さんが原因
きっちり責任はとって貰う。
撮影会はホームルーム直前まで続き担任と入れ替わるように教室を出て行くが
「約束忘れるなよ葵!」
そう言い残し消えていった。
その所為で一斉にクラスの視線が私に集まるがニッコリと笑って誤魔化す。
こういう場合はメールで言って欲しい。
今一気配りに欠ける男だが悪気がないのだろうのは分かっている。
性質が悪いだけと諦める。
放課後の図書館で三沢君と乃ノ華と一緒に勉強会をしているが専ら私が三沢君に数学を教えてあげており、乃ノ華はついで
「ねえねえ 約束って何?」
どうやらこれが聞きたかったらしい
「次の土曜日にデートをする事になったの」
「何それ…羨ましーー」
「代わってあげようか」
「違うの、私も葵とデートしたい」
「私と?」
「まだ休日に一緒に遊んでない」
「そっか、なら日曜日三人で遊ぼう」
「えっえ… 委員長も~」
「僕は…勉強があるから……」
「駄目よ三人で遊びましょ」
「ぶうー 仕方ないけど勉強は無しよ」
それからは勉強そっちのけで日曜の予定を話していると司書の先生に追い出されてしまうがそのまま約束をして校門の前で別れた。
バス停に向かうと路地の隅に金髪が横切った気がしたので引き返し小さな路地を覗き込むとヤンキーの矢崎君が座り込んでおり気分が悪いようだ
「矢崎君どうしたの」
屈みこんで顔を覗いてみると顔は殴られた様な痣と口に端が切れて血が滲んでいた。
ギロリと殺気だった目を私に向ける。
「葵か…… 」
「私の方が年上なんだから葵さんでしょ」
「……」
「それより誰にやられたの? 学校の保健室に連れて行こうか」
「家から迎えを呼んだから構うな」
それなら放って置いても大丈夫だろうと帰る事にする。
「そう それじゃあお大事に」
ガシ!
ところがスカートの端を捕まれる。
「また痴漢するるなら怪我人でも容赦しないわよ」
「肩をかせ……」
そう言いながら自分の上着を脱いで地面に敷いてそこに座れと言わんばかり
怪我人を放置するのも可哀想なので横に座ると図々しくも私の肩に頭を載せる。
「帰れと言ったくせに天邪鬼なのね。 それで誰にやられたの」
「この間絞めた他校の奴らだ」
「因果応報ね」
「最初に手を出したのはあっちだぞ」
「それでやり返されるなんて弱いの」
「相手は五人だ」
「でも漫画や小説じゃあ簡単に返り討ちじゃない」
「現実はそう甘い訳ないだろ…… 疲れたからもうしゃべるな……」
そう言ってからは幾ら質問してもウンともスンとも話さないので諦めると寝息が聞こえて来る。なんだか野良犬に懐かれたような気分
金色の髪が頬に触れてこそばゆい
思えば初対面でキスをされたというのに、私は随分警戒心が無いのだろうか
「もしかしてアレは私のファーストキッス!?」
記憶の無い私にはアレが初めてなのかどうか確信は無いけどキスをされても別段何にも感じなかったという事は結構馴れてるのかしら?
もしかするとバージンでもない??
恋人が居たんだろうか……
『 例え同じ姿に成ろうと貴女は……様には成れない。 愛されなどしない 』
夢のあの言葉はどういう意味だろ
私は愛されない存在だったの……
絞めつけられるような痛みが胸をつく
泣きたい気分になるけど矢崎君が居るので我慢していると車の停車する音とドアが閉まる音がした。
どうやらお迎えが来たのだろうと顔を上げると大きな男がこちらを驚いたように見ている。
「矢崎君のお迎え?」
「はいそうですが、貴女は…」
何故か私を警戒するように見降ろす男は鍛えた逞しい体にダークスーツをきっちり着た厳つく迫力があり正にヤクザ
「同じ高校なだけです。 矢崎君お迎えよ」
そう声を掛けると直ぐに目を覚ます。
「あっ…… 寝てたのか… 」
「坊ちゃん お迎えに参りましたので車にお乗りください」
坊ちゃん!!!
「ぷっーー 」
笑いそうになり思わず口を手で押える。
「溝口ーー その呼び方を辞めろと言っただろ!! つっ…」
矢崎君は顔を真っ赤にさせ立ち上がろうとするが直ぐに足が痛いのか座り込む。
「坊ちゃん!」
男の人は急いで駆け寄り手を貸そうとするがその手を払い除ける。
バッシ!
「名前を呼べ!」
「申し訳ありません竜也様」
こんな厳ついおじさんを叱りつけるなんて凄いけどあまり見目よい事とは言えない。
「矢崎君 折角迎えに来てくれた人に態度が悪すぎるわよ。 おじさんに謝りなさい」
「「 …… 」」
二人はまるで奇妙なものでも見る様な顔をして私を見詰める。
「チッ 変な女 立たせろ溝口 」
年上を呼び捨てにする君の方が変だと私は言いたい。
おじさんは竜也君を持ち上げるように立たせると私に目礼してそのまま立ち去ろうとするので慌てて立ち上がり下に敷いている上着を返そうと立ち上がる。
「上着を忘れてる!」
竜也君はそれを受け取る。
「サンキュ…… じゃあな葵 」
「もう喧嘩しないでね 竜也君」
そう言ってニッコリ笑いかけると何故か顔を赤らめる。
案外恥ずかしがり屋なのかも
ツンデレ?
二人が黒塗りのベンツに乗り込んで帰って行くのを見送りバス停に急ぐ
すっかり遅くなりきっとおじい様が心配しているだろう。
道すがらヤッパリヤクザの車は黒塗りのベンツにガラスにスモークなんだと一人納得するのだった。