戴冠式の終りと新たな旅立ち
銀色の大きな猿は人より一回りも大きくその目は優しく理知的な銀の瞳が光っていた。
「もしかして邪神さん??」
《 そうだが邪神であったが今は違う。龍王の娘と我が娘ハクのお陰で本来の自分を取り戻した……だがこの国にから奪った命を戻す為に多くの力を使い果たし今はこのように神獣となり短い生を子供達と生きよう思う 》
そしてハクが私に飛びかかって抱き付いて来る。
《 レイカ アリガトウ オ父サン 幸セソウ オ母サン 喜ンデル!! 》
「良かったねハク! でもハクも崋山に戻っちゃうの?」
《 大丈夫! オ父サン 送ッテ行クダケ レイカノ処ニ 直グ戻ル 》
「いいの……折角会えたのに、ハクもお父さんや家族と暮らしたいでしょ……」
《 イイノ~ 子供 イッパイ イッパ~イ レイカ ズ~ット 一緒ニ居ル レイカ モ 家族 》
「うっう… 有難うハク。 大好きだよハク 」
そのままハクを抱き締めて泣いてしまうとハクは私の涙を舐めてくれ、くすぐったい
《 龍王の娘よそなたには感謝してもしきれぬ。 礼と言っては何だがそなたの不完全な姿を本来の姿に戻し真の龍族として目覚めさせよう 》
「私は龍族になれるの」
《 そうだ、その姿そのものが仮初で本来のそなたでは無い…… 経緯は分からぬが稀なる力を宿しているのは確か。 龍核を私に貸してくれぬか 》
胸元を見ると胸に食い込んでいた龍核は何時の間に小さな玉の首飾りに戻っていた。
ハクのお父さんに言われるまま首飾りを外すとハクに渡し、ハクは大事そうにそれをお父さんに渡す。
ハクのお父さんはそれを手に握り込み自分の神力を注いでいるようで握り込む指の隙間から金色の光が零れ落ちていく、しかも銀色の猿の体は徐々に小さくなているように感じるのは錯覚かな
そして私達の周りには王達や虎の姿のままのフォンフー様が集まり静かに見守っていた。
《 さあ これを飲み込むがよい 》
差し出されたのは金色に輝く龍核で大きさも桃ほどもあり飲み込めそうもないし、とても自分の物とは思えない物だった
「エッ!? これが私のなの?? 」
《 そうだ、あのままでも龍族として目覚めただろうが血の枷が掛けられていた為に本来の真の姿では目覚めなかっただろう。これを体に取り入れば龍族として目覚め歴代の龍王随一の力を得る。 受け取るがよい 》
血の枷??
良く分からないけどこれを飲み込めれば龍族として目覚め、龍王様…父様を越える力を得て母様を自由にしてあげられるのだ
そして母様と共に生涯を生きていけ、全ての望みが叶うのだ
だけど自分がそんな大きな力を得るのかと思うと自然と手が震える
《 恐れるな龍王の娘 そなたは強い娘 今は手に余る力だが、何れそなたなら正しいくこの世界を導… 》
ジュルッ ジュー――ー――ー――ー――ルルルッルビュッシュウーーー
「…!!」
その時だった突然足下が真っ黒な黒い邪気の塊が湧きあがり一瞬で私を取り込み下に引き摺りこんで行き悲鳴も上げれず成す術も無く闇に覆われてしまい何が起こったのか分からない
邪神に騙されたの!!??
邪気は憎しみで満ちており神核が手元に無い私は何も出来ずただ足掻くばかり
今の私は本当にただの人間の少女でしか無い
このままでは死んでしまう
『 クックックックックックック… 苦しむがいい お前の所為で全てを失った 』
その声は第3皇子イェンファフーのもの
「何故… 貴方が…」
『 あの邪神… 神は愚かにも私まで復活させたのだ。何が慈愛の神だ天帝が鬱陶しがるのが分かる気がするよ。生き返ったとして私は全てを失い既にあの世界で生きる意味も無いのに…… お前はこのまま私と瞑道に落ちそのままこの体が朽ちるまで共に彷徨い続けるのだ!』
「そんなの御免よ! 私は母様の所に戻るの、貴方なんか一人で滅べばいいんだわ」
何とかこの邪気から抜け出そうとするけど幾らもがいても出れず体力を使うばかり
周りには王達や神力の高い人達ばかりだから、きっと直ぐに第3皇子を倒し私を助けてくれるはず
此処は大人しく待った方が体力を失わないと思い静かにすると
私の考えを読んだように言う
『 助けを待っても無駄、既に狭間の世界に入り深く潜って奴等にも私達の場所も分からないだろう…… 私にもここがどこかすら分からないのだからな。 アッハッハッハッハッハッハッハッ――ー―― 共に狂うがイイ 』
「そっそんな……」
折角全てが上手く行きそうだったのに
母様 御免なさい
母様 大好きだった
母様 助けてあげれないで御免なさい
そして死を覚悟した時…何故か丞相様を思い出してしまう
そう言えば名前を知らない
せめて名前くらいお聞きしたかった
漸く丞相様に恋をしていた事に気付く鈍感な私
出会った時から冷たい目で睨まれていて嫌われていたのに何でだろう……
でも私を助け共に戦ってくれた
私の事を見捨てられないって言ってくれたのが嬉しいいかた
最期に名前を呼びたかったなと思うと胸が苦しい
インフー様の時とは違う切ないこの思いが恋なんだろうか
助けて……丞相様
胸に手を当て思わず願ってしまう
その時胸元に持っていた玉の存在を思い出す。
それは闘いのさなかに渡された瞑道を開く黒い玉
これを使えば瞑道を開けられる!
急いで玉を取り出すが、ぶつける壁がない
どうしよう……
『 娘よ何を考えている? 』
いけない!
このままでは玉を取り上げられてしまうと思うと咄嗟に体が動き玉を両手で挟んで割る。
パッン!
パッり――ーン
すると掌に光の玉できドンドン膨らんで行くと私はその中に吸い込まれてしまう
『 娘!何をした!! 』
「キャアーーーーーーーーーーーーーーーー 」
そして光に吸い込まれたかと思うと一気に落ちていく
『 娘 逃がさんぞ――ー 』
遠くから第三皇子の声がしたかと思ったが直ぐに落下する風を切る音に掻き消されてしまい最後に見たのは青い海
そう……それは初めて見る海
人間の私が海に落ちて助かるだろうかと考える間も無く海の中にズッドンと落ちてしまい体に凄まじい衝撃が走る
『 皇女様…… 』
レイカと呼んで欲しかったな……
私が母様のようだったら愛されたのだろうか……
消えゆく意識の中、思い浮かぶのは母様では無く丞相様の顔だった……
レイカは海に沈みこんで行くが気を失ったのが幸いしたのか分からないが直ぐに浮上してそのまま波にもまれながら何処とへともなく流れていくのだったがその身に受けた変化は誰も気付かないのだった。
『 レイカ! 』
「皇女様!!」
金色に輝く神核を受け取ろうとした瞬間にレイカの足下から黒い塊が湧きだし一気にその体を包んだかと思うと瞬時に床に吸い込まれる様に悲鳴も残さず消えてしまったのだ。
俺は咄嗟に目の前の邪神が我々を騙しレイカを消したと思い、その体に噛みつこうと跳びかるが亀王に止められる。
「待つのだ! そのお方ではない。 虎王が瞑道を開けて龍王の娘を攫ったのだ。 瞑道を開けられる者は直ぐに後を追うのだ」
亀王の言葉に直ぐ反応し、亀王、朱雀王、兄上が瞑道を開け狭間の世界に消えていったが、俺は何も出来ず嘗ての邪神を睨む
『 何故奴まで生き返らせた! あんな奴生きる価値など無い極悪人だ 』
そうこの神が他の虎族を生き返らしたように奴まで生き返らすなど何を考えてるんだ
その所為でレイカが攫われ失ってしまうかもしれないのだ
もう誰も失いたく無かったのに
《 済まない皇子よ。 私にあの憐れな魂も見捨てられなかったのだ…… 》
奴の何処が憐れだ!
人間の男に血迷い、全てを手に入れようと四神国を取り込もうとした極悪人を許すなど慈愛の神だがらか?
天帝がうざがる気が少し分かったきがする
慈愛も深過ぎるのは迷惑だと感じるのは俺だけなのか?
《 レイカ 大丈夫? 》
《 今の龍王の娘は本当にただの人間 せめてこの龍核を受け取っていれば瞬時であの者を消しされたのだが… 今は王達任せよう 》
ああーーーいらつく!!
元をただせば妻の不貞を疑ったのが事の始まり、天帝の姦計に嵌ったこの間抜けな神の所為
そして奴がその力を手に入れなければこんな大きな事件に成らなかっただろう
しかもむざむざと目の前で奴にレイカを奪われるなんて俺も此処にいた全ての者が間抜けすぎる。
イライラしていると座り込む丞相に気が付く
頭を項垂れさせ茫然としているようだ
一番近くに居て何も出来なかったのだから仕方あるまい
所在なく虎の巨体でウロウロしていると亀王妃が近づいて来る。
「フォンフー君、チョンマゲ達がレイカちゃんを助けてくれるから落ち着きなさい」
宥めるように俺の体を撫でるが
「ああ~ たまんないこの毛触り! フォンフー君、玄武国で一緒に暮らしましょ」
どうやら俺に触りたかっただけのようで、嫌がっているのにお構いなしに触りまくる。
『 あんたこの非常時に何を言ってる! 』
「あんた!」
ついうっかりぞんざいな口を利いてしまう。仮にも王妃だった
「あんた呼ばわりなんてこの世界に落ちて初めて! もう一回言ってみて~」
と訳の分からな反応で固まる。
こんな変な女は初めてだ。 亀王の趣味は悪すぎる!
もう反応するのがバカらしく大人しく体を触らせていると
「ねっ あの美人さん暗いんだけど」
「自分国の皇女を救え無くって落ち込んでるんだろ」
「そう言えばお猿さんはレイカちゃんが龍王の娘とか、美人さんは皇女様って言ってたのは本当なんだ… と言う事はアオイさんは龍王の奥さんだったの?? 龍王は独身て聞いてたけど…どういう事なのよ、フォンフー君の知ってる事教えなさい」
今さら隠す必要も無く、ジーッと待つより気を紛らわす為に話しだす。
『 レイカの母親の事情はよく知らんが、どうやら龍王によって母親は結界に閉じ込められ隠された存在だったらしい、そして妊娠し龍王には秘密にしてレイカを出産して育てたらしいがレイカが五歳の時に存在がばれて妖獣の森に捨てられたらしい。それを拾ったのが俺でそのまま屋敷に侍女としておいてやったんだ 俺も本人も龍王の娘だと知ったのは最近だがな 』
俺の話に矢張り怒りを顕わにする
「龍王ってそんな非道な人だったの! あんな綺麗なレイカちゃんを捨てるなんて!どうせなら玄武国に捨てて欲しかったわ」
……全くこの王妃は理解しがたい
『 龍王がどうしてそんな事をしたのか知りたかったら、そこの丞相に聞いてくれ 』
「そうね」
王妃はそのまま座り込む丞相の前に行き一緒に座り込むとそ顔を覗きこむ。
「ユンロンさん、どうして伴侶であるアオイさんは結界閉じ込められていたの?そして娘であるレイカちゃんを捨てたりしたのかしら龍王は? 教えてくれないとレイカちゃんは亀王国で引き取るから……本気よ私」
面白い
一国の王妃が他国の丞相を脅す図など滅多のお目に掛けられないだろう
しかし丞相は素直に懺悔するかのように話しだす
「いいえ、陛下は皇女を妖獣の森に捨てたのではないのです……陛下は皇女様を殺そうとしたらしいのです」
「何ですって!! 貴方は一体何をしてたのよ」
「知らなかったのです……アオイ様が皇女様をお産みになった事も…陛下がそのような惨い事をアオイ様の目の前で行った事を……幸いな事に皇女様は不思議な力を使い結界の外に逃げ行方不明、ですがアオイ様はショックのあまり心を閉ざしそれ以来深い眠りに就き今だ目覚めていないそうです。 私もその事実を知らされたのは昨晩の事で今だ信じられませんが皇女様の髪はアオイ様と同じ、しかも私が贈った真珠の髪留めを持っておられたので信じるしかありませんでした」
「アオイさんがそんな目に遭っていたなんて……一体龍王は何を考えているの!? アオイさんは愛されてなかったの」
「いいえ 初めは確かに愛してはおられませんでしたが長い時を経てアオイ様に徐々に心を傾けられ今は深く愛しておられます」
何故か苦しげに言う
「なら何故、アオイさんとの子を殺そうとするの!!」
「陛下は自分の血を憎んでお出でだった。その為皇女様の存在が許せなかったのでしょう」
「くだらない! 血がなんだって言うのよ! 一番大事なのは心よ……そんな冷血根暗男にアオイさんもレイカちゃんも任せられない! 私が貰う」
そう丞相に宣言する破天荒な王妃
龍王の王妃と皇女を囲おうなどあり得ない話だが聞いていて気分がスカッとするのも事実だった。
血に拘るなど何に成るだろう……あの後宮を出れず日々嘆く事しかしない母親と顔すら知らない父親
そんな親の血など関係無く俺は生きて自分の道を進むだけだ
親の都合や恨みで殺されるなどまっぴら御免
「そうですね……誰もが王妃様のように単純に考えれれば悩まなくて済むのでしょうが…はぁ…」
どうやら丞相の方も黙っているタイプでは無いらしい
「まぁ~~ 何も出来ず手をこまねいている無能な人間よりはマシですわよ。 オホッホホ 」
二人の善戦をもう暫らく観戦したかったが王達が帰って来る。
瞑道が開いたかと思うと中から三人の影が現れるがその手にレイカの姿は無い
「チョンマゲ! レイカちゃんはどうしたの」
「すまぬミユキ 見付けられなかった…… 」
「どういう事、死んだわけじゃないんでしょう?」
「恐らく生きているとは思うのだが…… 邪気と化した虎王は見付けて滅ぼしたのだが奴もどうやら取り逃したようだ」
『 本当ですか兄上 』
亀王の言葉が信じれず兄に問い質す
「フォンフー 事実だ。 俺の血を使いイェンを捜し出したのだが既にお譲ちゃんはいなかった。 クソ… インフーがこれを知れば悲しむ… 何て言えばいいんだ 」
『 あのバカ女、 大人しく助けを待っていられないのか 』
狭間の世界は無限に広がる闇の世界、迷えば一生そこから出る事は出来ず彷徨い人間のレイカでは長く生きられないだろう
「ねえレイカちゃんの残して行った物で探し出せないのチョンマゲ」
すると王妃の言葉で一斉に皆がレイカの神核に目をやる。
《 神核が輝く限り龍王の娘は生きているが龍核と娘の繋がりは髪の一本のか細い物… だが居場所を知るには十分だろう 》
そう言うと神核を握り込み何やら神語を呟いたかと思うと掌を開くとそこには以前と同じ黒真珠の首飾りに戻っていた
《 この神核はあまりに強い、もしまた虎王のような者が手にすれば再びこの世界が揺れるやもしれぬので封印をした。 真の主の元に戻れば封印が解けよう 》
それまでの力を秘めているなどレイカの力の奥深さに今さらながらに驚く
「では余が捜して来よう」
亀王が名乗りを上げ首飾りを受け取ろうとするが神は首を振る
《 先程もそなた達がこの世界を一斉に離れた所為で世界が歪みを起こし始めたのだが私が押えた…本来なら天帝がいれば安定しているのだが不在の今は王達まで離れれば崩壊を期するだろう… 私の力にも限りがあるのでもっと神力の弱い者が行くしかない 》
「ならば私に行かせてください」
名乗り出たのは青龍国の丞相だったが又しても顔を振る
《 そなたでもまだ神力が高い 》
『 ならば俺が行く 』
この中で一番神力が低いのは俺だ、このままレイカを見捨てる事など出来ようはずがない
だが俺でも首を振られてしまう
『 どんな奴なら良いんだこの糞爺ーーー 』
つい いらつき暴言を吐いてしまうが皆も同じ様子で誰も何も言わない
《 …… 神力を封じれば良いのだが その覚悟が出来るか 》
それならそうと最初から言えばいいものを
年寄りはまどろっこしくていけない
「では私が。 レイカ様は我が国の皇女様 丞相である私が捜し出すのが筋です」
何故か俺を牽制するように睨まれる。
ま……俺はどちらでもいい
《 ならばそなたが行くがよい 私の前に 》
「はい」
《 今からそなたの神力の殆どを封じるが身体能力はそのままにする 》
そう言い丞相の額に指で何かを描くと額に文字が浮かび上がり消えていった。
《 誰かこの者に瞑道を開けてやるがよい 》
《 オ父サン ハク モ 行ク レイカ 助ケタイ 》
《 よかろう これを持って龍王の娘を捜すがよい 》
《 ウン! 》
ハクはレイカの首飾りを受け取るとそのまま丞相の肩に乗る
すると思いがけず丞相はハクに柔らかな微笑みを浮かべる
「皇女様を共に捜しましょう」
《 ウン 捜ス 》
そして丞相とハクのレイカを捜す長い旅の始まりだった。
そして一人と一匹が瞑道を抜けて白虎国から旅発つのを俺は静かに見守り何時かレイカを連れで戻って来るのを神獣の森でロウと共に待つ事にする。
王達もそれぞれの国に仙鳥に乗り帰国して平時に戻っていく
俺はインフーに別れを告げると共にレイカの事を教えると泣き崩れ暫し荘園に滞在しインフーが落ち着くのを待ってロウと共に神獣の森に旅だった。
青龍国には使節団に事情を説明する為に第二皇子の兄上が同行し龍王に謁見しレイカと丞相の事を報告すると
「では余は静かに二人を待つ事にしよう……」
目を閉じそのまま口を噤んだだけだったらしい…
帰国した兄はインフーと俺の荘園で一緒に暮らし始めたらしいが、その後は知らず何れレイカと共に訪れよう
父王は直ぐに正気に戻り、第三皇子を突然死として国民に発表し王として復権をはたすが、国民は不信感を持つが何時しか忘れていったようだ
俺はロウと待ち続ける
あの女はしぶといから必ず戻って来る
「フォンフー様 ただいま!」
きっと何事も無く笑いながら帰って来るだろう。
その日が来るのを今日もロウと昼寝をしなが穏やかな日差しの中で待つのだった。
次から新章が始まります。 此処でやっとキーワードの記憶喪失 異世界トリップ →逆トリップ?が漸く生かされる……長かったですがやっとレイカの恋愛が書けそう。新章は此処まで来ればお分かりのように現代日本ですので期待をせずお楽しみください。