虎王の戴冠式 その4
怒りが全身を包むと胸の龍核が熱くなりまるで燃えるように胸を焼くが気にしている暇は無い
今だ丞相様の胸に突き刺さっている邪神の真っ黒な手を掴み取りその力を吸い取る。
するとまるで邪神の手がスッパリと切り取られる様に消失し自分の体に取り込む。
まるで呼吸をするより簡単な作業だった。
《《 グゥオォォー――― オノレ小娘が 》》
邪神は黒い剣を私に振りかざすが剣が到達する前に掻き消えてしまった。
《《 何故だ!? 》》
「貴方が私の糧になるのよ」
触れずに私は邪神の邪気を吸い取る為に手をかざすとまるで私に惹き寄せられるように大量の邪気の憎しみを怒りに換え私の神核を満たして行くのを感じるが止められない。
いけない、こんな事をしたらいけないと言う警告が頭に鳴り響く
しかも胸の神核は半分私の胸にめり込んだように埋まり徐々に大きくなり既に林檎程になっており、しかもそれは闇のように黒く光っていた。
まるで邪神の神玉のように
《《 一体お前は何者!!! 》》
邪神は怯えるように後ずさり私から離れようとするが既に体は所々欠けており人の姿を保つのも難しいそうだ。
「そんなの私だって知らない! だけど私の大事な人を奪う貴方なんか消えるがいい!!」
《《 むざむざやられる訳にはいかぬ!! 》》
邪神は元のドロドロの状態に戻り亀王様達を襲う
「逃げて! 神力で邪神を攻撃しては駄目」
亀王様は私の言葉通りにミユキ様を抱え瞬時に遠くまで逃げてくれるが丞相様が背後で倒れている。
「フォンフー様、丞相様と遠くに離れていて下さい。 邪神は私が倒しますす」
《 レイカ大丈夫なのか!? お前の龍核が真っ黒に染まっている 》
「分かんない! でも私がやるしかないから…… だから離れていてほしいの」
《 やれるか 》
「うん… やる!」
《 レイカ、絶対に生き残れ 》
「お嬢ちゃん、インフーを悲しませるなよ」
インフー様…最後に顔を見れなかったのが心に残る
今の状況で自分がどうなるか分からず返事を返せなかった。
フォンフー様は第二皇子様の手を借り丞相様を連れ離れて行き私と邪神だけで既に人の形を捨てた黒い塊
《《 こうなればお前の全てを奪ってるーーーーーーーーー 》》
一斉に黒い塊が私を襲って取り込もうと体を覆って来る
「バカね。それでは先と同じでしょ」
私は動かないまま黒い塊に飲み込まれ瞑道の闇に包まれたかのよう
そして私から神力を奪おうとする。
さっきまで酷く不快でおぞましかったはずの黒い気は今は何も感じない
龍核が黒く染まった所為だろうか
《《 お前を取り込めば我は天帝を越える力を得れる 》》
なら私が邪神を取り込めば天帝を越える?
母様を出してあげられる!?
吸収されるがままにしていたのを一気に反転し邪神の邪気を吸収して行く
《《 やっ止めろーーーーーーーーーーー 》》
邪神の全てを飲み込もうしていくと色々な思念が入り込み消えて行く
助ケテ 消エタク無イ 生キタイ 消エタク無イ 生キタイ
消エタク無イ 消エタク無イ 消エタク無イ 消エタク無イ
取り込まれて行った人達の声が渦巻く
胸の龍核益々大きさを増し痛みが体中に走るが構わず最後まで吸収して行くと最後に大きな思念が私に呼び掛ける
愛シテイタ 愛シテイタ 愛シテイタ 愛シテイタ 愛シテイタ
愛シテ欲シカッタ 愛シテ欲シカッタ 愛シテ欲シカッタ
ダルチェン 側ニ居て……クレ ソレダケガ私ノ望ミ
悲しい虎王、第三皇子の思いが私の龍核に取り込まれ消えて行った。
何があったのかは分からないけど第三皇子の深い愛する心があた
だけど第三皇子は間違ってしまいその愛を失い狂ってしまったのかもしれない
愚かで可哀想な人だったのだ
そして私は邪神の黒い塊の全てを取り込み体を襲う激痛の為に座り込み体を抱き締める。
痛い 痛いよ 母様 痛いよ
憎しみが龍核に満たされ私の体を苛む
このままでは私が邪神になっていまうと感じる。
そして目の前には黒い神玉が転がっており、私に語りかけて来る。
《 愚かな…… 龍王の娘よ お前も我と同じ永劫の憎しみに囚われるがいい…… 》
憎しみ?
私は何が憎いの?
憎かったのは私から愛する人達を奪う存在
「痛い!! うぅぅぅ…… 」
龍核は既に私の頭ほどに大きくなり体が龍核に食べられて行くような錯覚に陥る。
《 龍王の娘、遅くは無い その龍核の力を我に与えよ……そうしないとお前自身が龍核に取り込まれ消えるであろう 》
邪神が私にそう囁く
「私は愚かじゃない」
ありったけの力を振り絞り神玉を掴む
《 何をする! 離せ! 》
「 貴方の憎しみは私が全て引き受けてあげる」
《 止せ! 我は我で無くなる! 止すのだ! ……ウァァァァーーーーーー …… …… 》
煩く喚くのを無視して神玉から憎しみだけを吸い取ると真っ黒な闇色から美しい銀色の神核に変わった。
「これで貴方の憎しみは終わり。 静かに眠って…… 」
銀色の神核は徐々に石化し始めると私の脳裏に次々と映像が流れ込んで来た
それは過去に起きた邪神の記憶
美しい銀の髪に銀の瞳を持つ美しい男神、彼には美しい愛する妻が居た
妻は白い髪に赤い瞳の愛らしい人間の少女
だがその少女は天帝と通じ男神を裏切ったのだ
しかも少女は天帝に直ぐに飽きられ打ち捨てられるが気が狂い崋山を彷徨い歩くようになった。
男神は嘗ての愛する少女を受け入れる事は出来ず天帝同様打ち捨てた
だがそれは上辺だけ
男神は常に遠くから少女を見守り続け、臣下の神獣達に世話をさせていたがある時気付いてしまったのだ……少女が身籠っている事に
数百年連れ添ってきたが一度も身籠らなかった少女が天帝の子をその体内に宿した事に嫉妬し気が狂わんばかりだったが少女の為に天帝に頼み込む
男神は天帝の欠けた部分を大きく補う慈愛の神で巨大な神力を有していたので天帝を恐れる事無く接する事が出来た唯一の存在
「天帝よあの娘を側に置き無事子供を産ましてやって欲しい」
「何故僕があんなつまらない娘を側に置かなくっちゃいけないの? 本当にお前はくだらない神、あんな淫売サッサと殺しなよ。僕が誘ったら直ぐに股を開くような女だ僕の子だとは限らないよ」
男神は怒りにうち震えるが諦めず少女の為に天帝を説得しようとするが
「そんなにあの女を愛しているならお前が受け入れればいいだろう」
そう言い捨て天帝は消えてしまった。
確かに今だ少女を愛していたが天帝を選んだ少女を許せずにいた
だが気の狂った少女は憐れでしかも子を宿しているのだ
我が子ではないが身重の少女を見捨てられない以上は受け入れ側に置く事を決心する。
そして天帝の元に行った時以来初めて少女の前に姿を出すと
「ヒィ……」
だが少女は男神を見るや顔を青褪めさせ狂ったように走り出すが、直ぐに捕まへその華奢な体だが既に腹は大きくなっており痛々しいく労るように優しく抱き上げる。
「逃げるな、体に障る……」
少女は虚ろな目で視点が合わないがその瞳からは流れるように涙が出ていた。
「私の所で子を産み育てるがよい」
「いや…… 嫌い! いや! いや! いやーーーーーーーー!」
少女は突然暴れ出し気が狂いながらも自分を拒否する様に男神は初めて憎しみが心に湧く
「そんなに私が嫌いか!」
瞬間カッとなり地面に少女を突き飛ばしてしまうと同時に少女はお腹を抱え苦しみ出し、その場で破水し1組の双子を産んでそのまま息絶えてしまうのだった
取り上げた二人の赤子を見て愕然とする。
一人は白い髪に銀の瞳の女の子、もう一人は銀の髪に赤い瞳の男の子
紛れも無く男神の子供
訳も分からず少女を問い質したかったが既に息絶えている。
少女の亡きがらと二人の赤子を抱きながら混乱する
少女は私を裏切ったのではないのか?
それならば何故私を拒否する?
そこへ天帝が姿を現し嘲笑う
「あっはっはっはっはっはーーー バカだねお前は。何が慈愛の神だ。 愛する者を殺すなど、しかも命の契約を切ってしまって無ければ女を失わずに済んだのに」
男神は不貞を知り直ぐに少女との婚姻の命の契約を破棄していた。
「一体どういう事なのだ」
「その女はお前を裏切ってなどいなかったんだよ。私の所に来たのは子供を欲しがっているお前の為に相談して来たから手伝っただけ」
「だがあの時、二人は寝所で」
私との情事の後に妻がコッソリと抜けだし瞑道を開けて何処かに行くのに気付いた男神は直ぐさま後を追い見付けたのが全裸で天帝と妻がまぐわう姿。その場で二人を罵倒し怒り任せ婚姻を廃棄したのだ。
「バカだね~~ あの時僕は外法を用いてお前の子種を女の卵子に定着させていただけで実際性交をした訳じゃない。だけど嫌がって耐えている時の女の顔には結構きちゃったけど~~ 僕の半神の伴侶に手を出す程飢えていないよ~~~」
「何故黙っていた!」
「だって面白いじゃない。お前に捨てられ絶望した女はそのまま気が狂い、慈愛の神であるお前は嫉妬で真実など見ようともせず未練たらたらで女を眺める…正に喜劇、お前達は僕を十分楽しませてくれたよ~」
「己ーーー!! 天帝許さん!」
天帝に刃を向けようとするが体が動かない
「なんだこれは!?」
そして怒りと憎しみが一気に高まり自分を黒く染めて行き、憎悪が体を蝕み徐々に崩れ崩壊して行く
「愚かだね~ 慈愛こそがお前の力。それを無くせば神族としての意義を失い滅ぶしかない」
天帝は男神が崩れて行く中、自らの手で男神の体から憎しみで染まった闇色の神核を取り出すと男神の体は神核に吸い込まれる様に消えて行った。
「何て綺麗な神玉だろう~ お前は本当に目障りだったけど最後は本当に楽しませてくれたよ。 結局慈愛の神であるお前も人間とさほど変わりない―― 最後まで愛する女を信じれなかったお前が悪いのだ」
男神の意識はそこで途絶え邪神として崋山に封印された。
そして第三皇子によって目覚めた邪神は崋山に精神を切り離し肉体を残したままの天帝の状態を知り好機と捉え、打ち滅ぼす力を得るために力を集め四神国を手中に治めて崋山の神々と天帝を全てを滅ぼそうとしたのだ。
天帝への憎しみそれだけが支配した。
純粋な憎しみは人々の闇の心を蝕み支配し糧として膨れ上がり邪気を撒き散らし増殖して行ったのだ
レイカは見せられた幻影により邪神の憎しみと悲しみを知った。
神玉が石化しながら零れて来る思念
《 まだ…… 天帝 を 滅ばす…… 消えない…… 》
結局邪神は憎しみを捨て切れず消えようとしていた
憐れでならないがレイカにはどうする事も出来ず、それどころか自分の龍核の憎しみと怒りを抑えるのに必死だった。
どうしよう このままじゃ私が私じゃ無くなる。
そうなれば近くに居る大好きな人を飲み込んでしまう
憎しみは力を欲しているのだ
母様 助けて!!!
苦しみ悶えていると誰かが私に語りかけて来る。
《 レイカ… レイカ… 》
それは生き絶えたと思ったハクの思念
「ハク! ハクなの!? 生きてたの!」
少し離れた場所に倒れるハクが呼び掛けてきたのだ
《 側に レイカ… 》
何時も私が困った時に助けてくれた私の家族
ハクが死にいくなら側に居てあげたかったが全身を襲う痛みに動けない
その時誰かが私に触れる。
「私がお連れしましょ」
それは重傷を負ったはずの丞相様
「駄目! 私に触れないで… 離れて! 」
龍核が勝手に丞相様を取り込もうとするかもしれない
そんな私の言葉を無視するように丞相様は抱き上げハクの元に連れて行ってくれるが重傷を負ったはず、だが丞相様の胸の傷は跡かたも無く消えて衣服だけが破れ血のおびただしい跡があるだけ……誰かが神力で癒したのだろう
「皇女様だけを犠牲にする訳にはいけません。いざとなれば亀王様が私達を封印してくれますから私もご一緒させて下さいませんか」
初めて優しげに見詰められ心が嬉しさで満たされ少し痛みが和らいだ気がした。
だけど巻き込む訳にはいかない……縋っていいはずが無い
「何故そんな事までするの 私が皇女だから、それとも母様の娘だから」
青龍国の丞相として立場からか、それとも愛した人の娘への憐れみ
「さあ…… どれも当てはまるような気がしますが皇女様をほおっておくなど出来ない…貴女を一人にさせたくないと思ったのです」
何故か嬉しい
私の存在を認められたよう気がした。
丞相様は横たわるハクに神力を注ぎ込むとミルミル元の愛らしい猿の姿に戻りパチリと目を覚ますと私に抱き付く
《 レイカ ゴメンナサイ レイカ ハク 助ケル 》
必死に私に謝りながら助けると言うハク
「無理だよ こんな大きくなった憎しみは打ち消せないよ」
《 ハク 出来ル 待ッテ 》
ハクはそう言うと石化し始めた神玉を拾いそして戻って来る。
「何を… するの… 」
ハクは自分の指を噛みちぎると神玉に血を垂らし、私の龍核に触れる。
《 ハク 伝エル オ母サン ノ 想イ 》
すると一人の少女が脳裏に浮かんできた
それは邪神の妻だった少女
少女は赤い瞳に涙を浮かべ泣いており悲しみに打ちひしがれている。
( 御免なさい… 愛する貴方の為に貴方の子供がどうしても欲しかった。 でも結果として天帝様に肌を許し裏切ってしまた愚かな私を許して。せめて貴方の側で子供を産み育てたかったの…… 穢れた私は二度と貴方には会えないし触れれ無い 私は人間だから直ぐに朽ちてしまうけど子供達が生きるのを許して欲しい。私の事を忘れて幸せになって下さい…… 私の旦那様 )
想いを伝え終わると少女の姿は蒼白な顔で消えて行く
《 ハクラン ハクラン ハクラン ハクラン お前なのか 》
( 旦那様 子供達をお願い 愛して上げて 子供達に罪は無いの お願い )
《 何処だハクラン お前が見えない ハクラン 》
神玉は殆ど石化しながら意識を保っており、そこへハクが語りかける。
《 オ父サン オ母サン ハ 死ニ間際ニ コノ 想イヲ 私達ノ血ニ残シタ 憎マナイデ 憎シミヲ消シテ 》
《 お前はあの時の双子なのか 》
《 違ウ 天帝様 神獣ニ変エテ サル ニ 育テサセタ ハク 子孫 》
《 我が子を獣に変えて猿に育させただと!! 》
《 双子 死ニカケテイタ 天帝様 神核ワケテクレタ デモ 人ニナレナカッタ デモ ハク達 幸セ 仲間 家族 一杯 幸セ 》
( 子供を沢山産んでもっと幸せになりましょ。 旦那様 )
妻の言葉が蘇る。
ハクランは孤児だったのを拾い育て、愛したから妻にした少女
家族を人一倍求めた少女、だから私も子が欲しかったが数百年出来ず妻は自分を責めて追い込まれ天帝を頼ったのだろうか
《 私が追い込んだのか… 》
《 ハク達 幸セ オ母サン 幸セ オ父サン 不幸セ 駄目 》
神玉にある魂はハクを見る。
白い毛に覆われた赤い目をしたメス猿
ハクランの血を受け継ぐ者達
《 オ父サン 帰ロウ ハク達の家族ガ 待ツ 神獣ノ森ヘ 皆 オ父サンの子供達! 》
( 旦那様 お帰りなさいませ )
優しい妻のはにかんだ笑顔が何時も私を迎えてくれた事を思い出す
何故私は忘れてしまったんだ妻の私を愛する眼差しを
帰るべき場所を
憎しみが全てを消し去り愛を見えなくしていたのだ。
帰りたい
ハクランが残してくれた子供達の元へ
《 私は帰れるのだろうか 》
《 大丈夫 皆 待ッテイル ソノ前ニ オ父サン レイカ 助ケテ レイカ ハク ノ 家族 》
そして龍王の娘を見ると私が育てた憎しみが龍核を黒く染め憎しみを封じようと耐えていた。
小さな体は痛みで打ち震えながらも
愛を捨てた私は何んと弱い神だったのだ
《 私を龍王の娘の神核に当てよ 》
《 ウン レイカ 助ケル 》
ハクは私の龍核に神玉を当てると凄まじい勢いで憎しみの邪気が神玉に移動し始める。
大丈夫なの!?
邪神に戻ってしまわないかと不安になるが体の痛みが徐々に軽くなって行く
《 娘よ心配いらぬ。 私は憎しみを捨てた今 憎しみは慈愛に変わる 》
すると神玉が眩いばかりに輝き始めそれは王宮中に広がり包み込んだ。
温かい光はまるで母様の温もりのようだった。
そして光が治まり辺りが見えて来ると黒い塊に吸収された虎族の人達も倒れていたのだった。
漸く闘いが終わったんだとホッとする。
そして目の前には大きな銀色の美し毛並みの猿が現れハクがその手に抱かれているのだった。
ソロソロ第二章が終わり新章が始まる予定です。 此処で終わると思った人ゴメンなさい……申しわけありませんが、まだ続きますので見捨てず宜しくお願いします。