学問所と天敵
ファン様のお屋敷で目を覚ますと既に朝で枕元ではハクが丸まり寝ている。
今日は学問所に行く日、やっぱり大人ばかりの環境だったので子供達のの中に行くのは楽しかった。活発で人見知りしないレイカは直ぐに子供達に馴染み仲良くなったが、意地悪な子たちもいる。
「今日は、あいつを徹底的に調べて弱みを見付けてやる」
あいつとはレイカに意地悪をする集団の頭で一二歳の少年と言っても既に大人ほどの体格があり頭も悪く無く、仲間にもそれなりに人望があるのに何故かレイカを目の敵にする……流石に暴力は無いがからかわれたり悪口を言われるせいで、折角出来た友達も離れていく子もいて今では仲良くしてくれるのは数人しかいない
寝台から飛び降りると何時の間にか起きたハクも飛び起きて頭に乗る。
「ハク、今日はファン様達とお留守番してね」
「キッキー!」
まるで嫌だと言うように頭にしがみ付く
「駄目だよ、良い子にしてなさい」
「キ~ィ…」
ハクはこんなに小さいのにレイカの言っている事が分かるようだ
其処へ、扉が開き侍女さんが入って来る。
「レイカ様、お早うございます。今日もとても良い天気ですよ」
「侍女さんお早うございます!」
侍女さんが運んできた洗面器に水差しで水を注いでくれるので顔を洗うと手拭が差し出され顔を拭くと学問所に着て行く服を出してくれる。
「それでは此方にお着替えください……」
何時もながら学問所に行く時の服を差し出す時の侍女さんの悲壮感溢れる顔は内緒だが笑える。
レイカも初めて用意された服を見た時ボロ雑巾かと思った程で、色あせ所々継接ぎがあり袖口や襟元がすり切れていた。何故こんな古着を着るのか分からなかったが学問所に連れてかれ納得する。学問所に来る子達の中にはそれより酷い服の子がいて驚いてしまい、サンおじちゃまに思わず聞いてしまう
「何故あの子たちは破れた服を着てるの…恥ずかしく無いの? 」
今思えば無知だった
だって知らなかった…着る物が無い子がいるなんて、食べる物が無いなんて知らなかった。
それまで結界の家やファン様のお屋敷しか知らなかったレイカには衝撃的で初めての日はご飯が食べれ無かった。綺麗な服を着て美味しいご飯を食べ優しい大人にに守られたレイカと違った。家に帰り何故あんな所に行かせたのか母様に詰め寄ってしまう
「あんな所行くのは嫌! 汚い子もいるし怖そうな子もいるから絶対行かない」
「お願いレイカそんな事言わないで、あそこの学問所は私が少しだけ援助しているから様子を知りたいんだ。それに兄さんが始めた学問所だから」
母様が寂しげに言うので思わず言ってしまう
「うっ… 暫らくだけなら我慢する。 でも嫌だったら辞めるから!」
レイカは母様が大好きだから悲しい顔を見るのが嫌なので、つい譲歩してしまい…今日にいたる。
華やかなお屋敷から一転、平屋建ての大きな土壁のしっかりした質素な学問所の落差の激しさに最初は戸惑ったが、今では慣れてしまいそう言う物だと納得した。
世の中は不公平だ
龍族と人間
王都に住む人間と街の壁の外にある貧民街
それを殆どの人が受け入れているが起ち向かう人もいる。
此の学問所で勉強をして成功し王都に移り住む人間がいた。何も持た無い貧しい者が這いあがって行く姿を実際に見て凄いと思った。反対に王都を追われ貧民街で身を持ち崩す人間もいる……正直面白い
学問所用の服を自分で着ると溜息をつきながら髪を三つ編みに編んでくれる侍女さん
「なんて嘆かわしいお姿……龍族の血を引くレイカ様があのような所に通うのはお辛いのでは無いですか?」
「最初は嫌だったけど今は面白いよ!それにレイカも母様も人間だし」
そう言うと侍女さんが微妙な顔をしたが直ぐに何時ものにこやかな顔になる。
「それならば良いのですが…それでは朝食を食べて元気に学問所に言って来て下さいませ」
「は~い」
それからファン様達と朝御飯を食べてサンおじちゃまがお迎えに来てくれる。
その場でサンおじちゃまはファン様により人間の女性に変化の術を施して貰うのだ
ハクはファン様に大人しく抱かれ元気が無く人形のようだ
「さあ、行きましょうレイカ」
「はい、行って来ますーファン様、ハク」
「キィ~ィ」
寂しそうなハクの鳴く声を聞き連れて行きたくなるが我慢
ハクとファン様と侍女さん達に見送られて瞑道を潜った。
瞑道を潜り辿り着いたのは王都の貸家で此処から歩いて街の外壁の門を出て直ぐの学問所に通うのだが、王都から貧民街の学問所に通うのは不自然なので秘密の出入り口を使用している。
街を歩くには此の服はみすぼらしくて周りに不信がられないよう帽子付きの外套を着て、サンおじちゃまも茶色い髪に緑の目の人間の女の人に変身しているので周りに溶け込む
サンおじちゃまは学問所の先生を時々しているので連れてって貰っているのだ
茂みの中に入り外壁を通り抜ける。外壁の一角に術を施し通り抜けられる様になっているが誰でも通れる欠点がある。だから出入りする所を見られないような気お付けないといけない
其処から直ぐに学問所があるのだが、数人の兵士が警備をして子供達を守る様に配置されている。貧民街は色々物騒な事も多く学問所の物品を狙う泥棒や子供を連れ出そうとする親などいざこざが多いためだ
学問所の入り口に立つ二人の兵士に挨拶をする。
「お早うございます。お勤めご苦労様」
「お早うございます」
サンおじちゃまに習い私も兵士さんに挨拶する。
「「お早うございます」」
返事を返す一人の兵隊さんが顔を赤らめ、サンおじちゃまに気があるのがアリアリと分かるのにおじちゃまは全く気付かない鈍感さん―――― 学問所の少女の間でも兵士さんの恋は話題だ!大きめの女の子たちはサンおじちゃまに振られた後慰めよう虎視眈々と狙っている。皆は玉の輿を狙っているのだ、何故なら此処を警備するのは中央軍の兵士で一介の王都を警備する兵士と違い選抜きの武官だかららしい(お友達情報)
だけどまさか自分の軍の大将軍の奥方に恋してるとは知らない若い兵士さん
フェンおじちゃまは嫉妬深いのでこの情報は教えない…此の若い兵士さんが飛ばされたら可哀想だから
五歳児のレイカにサンおじちゃまの監視?を頼む程フェンおじちゃまの愛は濃い
自分の私情で兵士を派遣する程に
「先生、レイカちゃん、お早う!」
後ろから友達のチュウリンちゃんが挨拶してくるので元気よく返す
「お早う! 」
おじちゃまとは其処で別れ一緒に教室に向かう。チュウリンちゃんはレイカより一つ上の六歳だが体が小さく、大人しい可愛い子だが苛められているのを助けたら懐かれてしまった。
「レイカちゃんは何で偶にしか来ないの?毎日来ればいいのに」
「家の仕事があるから無理」
嘘をつくのは後ろめたいが仕方ない
学問所に来るのには年齢制限は無いので三歳ぐらいから大人までと幅広い
小さい子供が集められた教室に行こうとすると嫌な奴が声を掛けられてしまう
「おい! 龍族がまた来てるっぞ」
「レイカは人間よ!」
自分より遥かに大きい少年を睨みあげる。其処には茶色い髪に緑の目のきつい大柄な少年が見返していた。
「そうだったな、龍族の愛人の子だったか? こんな卑し所に来るなんて龍族のスケベ爺に母親がすてられたんだろ」
「母様は愛人じゃ無い!」
周りには子供達が集まり面白そうに見ていて助けて貰えそうには無い
「此処はお前なんか来る場所じゃ無いんだ、とっとと帰れ!」
「あんたは最低よ! レイカみたいな小さい可愛い子を大勢で苛めてそれでも男なの!」
「なんだと! その生意気さが俺達をバカにしてんだ、お前の目は街の奴らと同じ俺達を蔑んでるんだよ! それにお前は龍族の血を引いてるんなら小さい子供の振りをして十数年生きてるんじゃないのか?!」
「!!」
確かに最初はバカにしていたかもしれないが今は違う…皆一生懸命生きているのを知っているからそんな事無い
こいつはレイカを憎んでいると言うより龍族を憎んでいる?
初めて向けられる憎しみに怖くなり、自分でも真っ青になるのがわかる。泣きたかったがこいつの前で泣きたく無い
「何をしているのです! 授業が始まりますから部屋に入りなさい!」
サンおじちゃまが来てくれ、見るとその後ろにチュウリンちゃんがいる…どうやら呼びに行ってくれたようだ。
「龍族はサッサと消えろ!」
「テジャ!!」
少年はそう言い残し学問所を一人で出て行ったようで、廊下にいた子供達もそれぞれの部屋に入って行き二人取り残される
「大丈夫ですか…レイカ」
「うん…先生は戻ってレイカは勉強するから」
「レイカ…」
心配げなサンおじちゃまを振り切り教室に入る…此処で特別扱いされれば状況が悪くなる一方だと分かる
教室に入りチュウリンちゃんの隣に座る
「先生を呼んで来てくれてありがとう」
「うん」
それから直ぐ先生が来て授業が始まり字の書き取りをしたりお昼まで勉強が続くが、話したり寝ている子供が殆どで真面目に勉強する子供の方が少ない。此処の学問所はやる気のある子には積極的に教えるが、そうでない者に無理に教えようとはしないで自主性に任している。学問所は休みなく開かれ来る来ないも自由だった。
勉強が終われば、昼食の時間になると全員の子供達が目を輝かせ一か所に一斉に集まる。
何故ならお昼ご飯の配給があるからだ
各々持って来た器に大きな巨大な鍋からご飯が次々と配られて行きそれを大事に抱え家に帰る子供、その場で食べる子供などまちまちだが大抵家族の為に持ち帰る。より貧しい者はこの一食が家族の大事な糧となっている…
だから大事な働き手の子供を学問所に送り出す親が多いのだ
今日の献立は平べったく焼いた麺麭と肉と野菜を炒めた物で品数は少ないが味は良い
レイカもチュウリンと並んでご飯を貰う
「チュウリンちゃんはもう帰るの?」
お昼からは学問所に残り勉強する子や家に帰る子、遊んで帰る子などまちまち
「うん、弟と妹が待ってるから」
「じゃあ私の半分あげる。レイカ一人っ子だから」
「ありがとう」
嬉しそうに受け取り帰って行く後ろ姿を眺めていると憎たらしい奴も一人で帰って行く姿を見かける。
近くの子に残りのご飯を押し付ける。
「これ食べて」
「えっ 良いの!?」
丁度いいのであいつの後をつけて、どうして龍族が嫌いなのか探ろうと思い立つ。
その時レイカは燃え上がる闘争心で貧民街の危険性を忘れており、サンおじちゃまに決して学問所の敷地を出ていけない約束も忘れていた。しかもその時運悪く警備の兵士も出払っていてレイカが敷地から出るのを止めれ無かったのだ。
いじめっ子のテジャの後を追うようについて行くが足の長さも違うせいか直ぐに見失う、しかも土塊を練って積み上げただけの家が乱立し迷路のようになっており道に迷ってしまった。其の時になって自分がバカな事をした事に気付く
「うっ… どうしよ~」
レイカのように可愛くて龍族の血を引いていると一目で分かる者は攫ってくれといている様なもの……既に怪しい影がレイカを狙って密かに後をつけていたのだった。
「そうっだ!街の外壁に向かえばいいんだ!」
上を見上げれば高くそびえ立つ立派な石で組んだ外壁が目に飛び込む
外壁に沿うように建てられた学問所だかその外壁を辿れば着くはずだと思い付き、早速外壁目指して歩き出すが、入り組んだ道の為なかなかたどりつけず行き止まりの道に入って来た時だった。
背後から突然二人の男がレイカを取り押さえ抱きあげたかと思うと、あっという間に布袋に押し込み声一つあげる間もない早業でその場を立ち去るが、男達は始終無言だった。
レイカは突然の事で声もあげれず袋に入れられ自分の身に起こった事が分からず、漸く攫われたと理解した時、手足をバタつかせ声を張り上げる。
「助けてー 人攫いよー 誰か助けて!」
静かにさせるため男が一言声を掛ける
「黙らないと叩き殺すぞ!」
「!!」
初めて聞く大人の冷たい声に恐怖心が湧く…優しい大人しか知らないレイカにとってこんな怖い大人を知らなかった。
初めての恐怖で震え袋の中で縮こまり泣くしかない
「ヒック ヒィ~ン… ウェェ~ン 母様… サンおじちゃま助けて シクシック」
もしかすると二度と母様に会えなくなると思うと絶望が襲う
どれくらい経ったのか分からないが男達が隠れ家に入り、レイカも布袋から出されるが涙と鼻水でグチャグチャだ
そんなレイカを見降ろし検分するように眺める
「こいつは上玉だ! 見ろ此の黒髪本物だぞ」
「金色の目も初めて見る。小さいのは買い手がつかないが、こいつは高く売れるぜ!」
やっぱりレイカは 売られるんだ
逃げないと母様に会えなくなる
だけど何の力も無いレイカには如何する事も出来ずただ震え泣くだけしか出来ない
「ヒィィン~ 母様 ゥウェ~ン」
「煩いから口と手を縛っておけ」
一人の大柄な男がもう一人の男に命じると痩せた男が近づき猿ぐつわと手を縛られてしまう
「悪く思うなよ。なるべく金持ちに売ってやるから…そうすりゃお前だって綺麗な服や飯が食えて良い思いが出来るんだ。大人しくすりゃあ痛い事はしない、だから騒ぐな」
レイカは怖いながらも頷くと男はレイカの頭を撫でる
「できりゃあ十年後に会いたかったな…そうすりゃ一発お願いしたいところだ」
一発???
殴られると言う事だろうか…小さいから殴られずに済むと思い安心すると少し落ち着いてくる。
きっとサンおじちゃまがレイカにいない事に気付き探してくれるはず、しかも中央軍のフェンおじちゃまもいるから大丈夫だと言い聞かせ、助けが来る事をジッと待つ事にするレイカだった。
テジャは龍族が嫌いだった。
三年前テジャ一家は海沿いの魯州の州知事に仕える高級官吏の家柄で多くの使用人に仕えられる家の長子として大事に育てられていたのだ。しかし幸せな生活は突然奪われる。
父が汚職の汚名を着せられ斬首されてしまうのだ…汚名を着せたのは上司の龍族が自分の汚職を暴き州知事に上訴しようとしたのを反対に罪を着せられてしまったのだ。
父が捕まり投獄された時、州知事の子息の御学友として共に学んでいてテジャは父親の無実と助命を子息に願い出たが冷たく突き放さられる。
「罪人の子が近寄るな、汚らわしい人間が!」
今まで友として親しく付き合い、しかも兄のように慕っていた相手の掌を返す態度に愕然とするが、十歳前後の容姿だが既に三十年以上生きており、成人していないが州知事の職務を少しづつ補佐するなど政務にもついていて州知事への影響力を持つ程の力があるのを知っていた。見かけに騙されてはいけないのだとテジャは知っていたからこそ父の命が掛かっておりこれぐらいの罵倒で引き下がる訳にいかなかったのだ
「此の命尽きるまで誠心誠意貴方様にお仕えします。どうか父の命をお助け下さい」
土下座し額を床に擦りつけ願ったか無駄だった。
「お前は目ざわりだ、消えろ!!」
そのまま衛兵に引きずられ叩き出され、泣きながら屋敷に帰るしか無かった。
テジャ親子は人間なのに優秀過ぎたのだ
父親も優秀すぎるが故、上司の不正を発見してしまい暴こうとし罪を着せられ、息子は小さい頃から神童と謳われて州知事の御学友として推挙される程…最初は弟のように可愛がれるが自分より優秀な成績を修め、年を重ねるごとに自分を追い抜き大人の体になって行くテジャに脅威を感じるようになる。このままでは人間に負けてしまう…龍族としての矜持と未来の州知事としての重圧感がテジャに対する劣等感と憎しみを何時の間にか育てていたのだ。
家に帰ると母が逃げる手はずを整えており、其のまま二人で魯州から逃げ出し今の貧民街に隠れ住む様に住んでいた。
父の死は逃亡中の噂で知り母と二人涙するが、二人も魯州から罪人として手配されているのを知り身を潜めるように逃げ回り貧民街に辿り着いたのが母は無理が祟り此の掃き溜めのような街で泣きながら死んで行った。それからテジャは荒れ同じ年頃の少年とつるみ悪事を重ね生きていたが、一年前学問所を知り一からやり直す事を決意したのだ。
何時か魯州に戻り復讐する力を手に入れる為に
王都での官吏試験は十五歳からで誰でも受けられ、成績最優秀者には一気に丞相府へ配置され能力次第で官位を極められると噂があった。
それを希望に学問所に通うのだが思ったより優秀な教師や書物が揃っており驚かされながら、勉学に励む
そんな時レイカが学問所に通い出した。
人目見て龍族だと思った。
数年ではあるが本物の龍族を見て来た自分が見間違うはずがない
幼いながら際立った容姿、醸し出す雰囲気は龍族そのもの
だが身にまとう服は他の子供のようにみすぼらしい
龍族のガキがお忍びで面白半分で通っているように見え怒りが湧く
だが龍族の子供なら下手に手を出せば此方の身が危ないのを良く知っていたので静観し
、レイカが学問所に来る度に観察していた。
観察して行くうちに学問所で周りの子と同じように振舞うので本当に龍族か疑問が出て来た。
ハッキリした物いいや明るく、何より容姿の美しさに子供達がレイカの周りに集まり出したの面白くない
お前達は騙されているんだ
心では俺達貧民を嘲わらい暇つぶしに楽しんでいるだけ
見かけに騙されるな五歳の姿でも既に十数年生きている化け物なんだ
そう思うと
嫌な言葉を顔を見掛ける度に投げつけてしまう
龍族で無いにしろ血は確実にしろ引いている
それだけで憎しみが湧いた
だが今日もレイカを言葉で嬲っていると、何時も睨みつけ勝気な少女が初めて涙ぐんだ目を見てひるんでしまうが、見かけに騙されるものかと思いながらも自分のしている情けない行動に気がつく
男の俺が五歳の少女を苛めている…昔の俺ならこんな人間に侮蔑を送っただろう
死に物狂いで勉強しなければ官吏の試験で最優秀は取れないのに、後味の悪さに午後の勉強をさぼってしまう。
家にしているボロ屋に帰る時レイカが俺の後を付けているの気付いたがほっておくと、何時の間にかいない……巻くつもりも無くゆっくり歩いてはずだから帰ったのだと思いたかった。
しかし昼間と言え犯罪が多い貧民街、心配になり来た道を戻り探すが見当たらず歩きまわっていると大きな布袋を担いだ男二人とすれ違いざまに、女の子の微かな泣き声を聞いたような気がした……この辺りでは人買いが良く子供を袋に入れ親から無理やり引き離すので良くあることだったが、レイカの事があり気になり後を付ける。
男達が貧民街のはずれの林の中の粗末な木の家に入って行くのを見て、家の隙間から中の様子を伺うと縛られたレイカの姿を確認し、矢張りかと思うと同時に気付いた時に学問所に連れ帰れば良かったと後悔した。
「くっそ… 俺はバカだ!」
俺達親子を陥れたのが龍族だからといって、龍族の血を引いているからだけで少女を憎んだが、殺したいとか酷い目に合わせる心算は無かった。
今は後悔しているよりレイカを助けねばならない
大人二人では自分に勝ち目が無いのは分かり切っているが、学問所の兵士を呼んでくる間に場所を移動してしまたら行方が分からくなる。何時もなら数人と行動していたが今日はレイカの事があり一人になりたくて単独行動していたのが裏目に出てしまった。
「チッ…… 一人でやるか」
これ以上大人が増えない為にも今のうちに行動する。 先ず林から地面に落ちている生木と枯葉を集めて火を起こす準備をしてから、もう一度中を確認すると丁度良い事に酒を飲み始めている。レイカは大人しくジッとしているようだ
レイカがいる壁の裏に廻り、小さくコツコツと何回か叩くと向こうからもコツコツと壁を叩く音がし、此方に気がついたようだ。
「いいか良く聞け、今から火を出すから煙を吸わないよう口と鼻を服で押え其処でジッとしていろ」
なるべく小さい声で言ったので伝わったかどうか判断出来ないが入口の周りに集めた木に懐から出した火打ち石で火を付けると枯葉がメラメラと燃えあがり生木からは沢山の煙がたちあがり家の周りを覆って行く
テジャは近くの水で濡らした布を顔に巻き男達が出てくるのを待つ
隙間だらけの家なので煙は直ぐに家に入り込み酔いがまわり始めた男達も異変に気付き騒ぎ始める。
「おい! 何だこの煙は?!」
「火事じゃないのか」
男達は慌てて、家の戸を開けると大量の煙が家に入り込み、口や目に煙が入り大変なことになる。
「ゲッホ ゲッホ ゲッホ 目が沁みる」
「ガキは何処だ! 連れて逃げるぞ」
しかし男達は目がやられて方向が分からないようで手間取っている隙に、レイカの側の木の壁を蹴り破る。
バッキ!! バッキドッカ!
縮こまるレイカを引きずり出すと、男達もレイカが脱出しようとしているのに気付き、音の方に突き進む
「逃がすか!!」
「待て!」
しかしレイカは抜け出した後…周りも良く見えず壁にぶち当たりそのまま倒れる男たちだった。
「背中に乗れ!」
レイカは、壁から外に引きずりだされると、思いがけない顔を見て驚いてしまう。いじめっ子のテジャだった。
「早くしないと捕まるぞ!」
そう言われ慌てて背中におんぶされるとそのまま駆け抜けるように林を走り、貧民街の中心へと走り速度を緩める事なく走り続け揺れる背中に必死に捕まる。
何故テジャが突然現れレイカを助けてくれるなんて思いもよらない
レイカの事嫌いじゃ無かったの???
其の疑問ばかりが浮かぶが一生懸命走るテジャに話し掛けれない
レイカをおぶさりながらも凄い速さで街中を走り抜け学問所が見え始めると漸く立ち止まるがそのまま膝をつき荒い息を整えるように息をしている。
「はぁっ はぁっ はぁっ くっそー ゼィゼィ……」
大丈夫と聞きたかたが口を塞がれ、手も縛られている状態では何も出来ない
其処へ、レイカを探していた兵士が気が付きやって来る。
「大丈夫か」
兵士さんがテジャの背中からレイカを降ろし紐を解いてくれ漸く自由になると抱っこしてくれる。
テジャは余程全速力で走った所為か、レイカが降ろされると仰向けになって倒れ凄い汗を流していた。
数人の兵士がやって来てテジャに水筒の水を飲ませ漸く落ち着いたようだ。
「何があった」
「そのバカが人攫いにあったのを助けた……犯人はあの煙が上がっている場所」
そう言うと兵士さん達の何人かがそちらに向かい、レイカを抱っこした兵士さんとテジャに肩を貸す兵士さんに運ばれ学問所の医務室に運ばれる。
医務室に入ると同時にサンおじちゃまが飛び込んで来てレイカを抱きしめる。
「レイカ無事だったのですね! ああっ良かった。貴女がいなくなった時は生きた心地がしませんでした」
涙ぐみながらきつく抱きしめるので、かなり心配させたようで申し訳なく感じる。
「ゴメンなさい心配かけて……レイカが敷地から勝手に出ちゃって危ない目にあったのをテジャが助けてくれたの」
「テジャが?」
その時になってようやくテジャの存在に気がついたサンおじちゃまは、次にテジャに抱きつきお礼を言う
「テジャありがとう。レイカは私の大事な娘のような子なので助けてくれた事を心から感謝します」
テジャも照れているのか顔が真っ赤だ
これをフェンおじちゃまが見たら確実に殺されるなと思っていたら
又しても戸が突然開かれると、真っ赤な髪の美丈夫が憤怒の顔で立ちつくしていた。
フェンおじちゃま!! ヤバい!
「フェン! レイカが無事見つかりました」
嫉妬に燃え上るフェンおじちゃまに気付く事無くその胸に飛び込み抱きつくサンおじちゃんに少し気を良くするが改めてテジャを睨みつける。
テジャは余りの迫力に真っ青になり今にも気を失いそうだ
子供にまで嫉妬するなんてある意味凄い
「フェンおじちゃま! この子は攫われたレイカを助けてくれたテジャよ」
とりなすように言うとサンおじちゃまが余計な事を言う
「そうでした。テジャのお陰でレイカがこんなに早く見つかったんですよ!」
其の一言でまたフェンおじちゃまの機嫌が悪くなる。その言い方ではフェンおじちゃまが役に立たなかったように聞こえ、拗ねたようだ……困った大人だ
「フン! どうせ俺は役ただずだ」
「フェン…私はそんな心算は… レイカがいなくなり貴方が直ぐに駆けつけて来てくれどんなに心強かったか」
「サンジュン」
そのまま熱く見つめ合う二人を呆れて見るしかない
テジャもそんな二人を驚くように見ている。
そう言えばテジャは龍族を憎んでいたはず、バリバリの龍族で中央軍大将軍が人間の女性といちゃついているのだから良くないような気がする
「二人とも、子供の前でいちゃつかないで!」
「 /// レイカ! 」
「問題起こしたガキがなま言うな」
フェンおじちゃんはテジャを見やる。
「部下の報告でお前が人攫いを抑えたようだな、煙を使うとは頭が回る、男二人煙にやられて気を失っていたぞ…良くやった」
テジャは恭しく頭を下げるので、レイカは目を見張る
龍族が嫌いなくせに、頭を下げるなんて少しがっかりだ
「どうだ、士官する気なら俺んとこ来るか?」
「いいえ私は官吏を目指していますので中央軍大将軍フェンロン閣下のお役に立てるとは思えません」
凄い…フェンおじちゃまの事を知っているなんて喋り方も何時もと違った。
「ただのガキじゃ無いようだな……叩けば埃が出そうだ」
テジャは肩を震わせるが、あろうことかフェンおじちゃまを睨む
矢張りテジャだ
「俺を誰だか知って睨むとは、益々気にいったが無理強いは嫌いだしな…」
「フェン、子供をからかってはいけません」
「冗談のつもりは無いんだが……ユンロンの所より俺の所の方が楽しいのに」
ユンロン? 誰だろう初めて聞く龍族の名前
「まっ 何時でも俺の処を訪ねて来いよ坊主! それじゃあ俺は帰るか……レイカは帰ってからお仕置きが待ってるぞ覚悟しろよ」
「ええっ!!」
そう言って学問所を兵士さん達と風の如く去っていた。
フェンおじちゃまがいなくなると一気に医務室は静かになる。
「「「 …… 」」」
「あの~ レイカとフェンの事は誰にも言わないで下さいね…テジャ」
申し訳なさそうにサンおじちゃまがお願いする。
「俺も命が惜しいし誰も信じませんよ。 だけど先生は何者ですか?」
確かに大将軍が貧民街のこんなみすぼらしい学問所を訪れるなど誰が考えるだろうか
そしてそんな龍族と恋人同士のような人間の教師……胡散臭い
「ゴメンなさい……それも言えません」
「まっ良いけど」
興味な下げにそう言って立ち去ろうとするので慌てる。
まだお礼を言っていなかったので呼びとめる。嫌な奴だけど助けて貰ってお礼を言わないなんて母様に怒られる。
「テジャ待って!」
面倒くさそうにしながらも立ち止まり振りかえる。
「なんだ?」
テジャの所まで行くとレイカの背はテジャの腰より少し上しかなく顔は遥か上
「ちょっと耳を貸して」
素直に応じてしゃがんでくれるテジャ…本来は優しい少年なのだろ、でなければ子供達も慕わない
「助けてくれてありがとう」
チュッ!
「/// !!!!!」
頬にお礼の口付をした途端、脱兎の如く逃げるように医務室を飛び出してしまうのでテジャがどんな顔をしているか分からなかった
「 失礼な奴 そんなに嫌がる事無いじゃない! ねー サンおじちゃま!」
おじちゃまを振りかえると何故か固まっている??
フェンおじちゃまから男の人にお礼をする時は、これが一番だと教えてくれたので実行しただけなのに……
可笑しかったのだろうか?????