皇子と皇女の決意
目が醒めると一人ぼっちで寝ており、広くて立派な部屋だけどとても寂しいくなる。
寂しいよ……
母様はどうしてるんだろう
私がいなくなっても父様に愛されて幸せに暮らしているのかな…
父様、それに丞相様に憎まれている私は帰れない
青龍国に戻らない方が母様は幸せ?
もし私が戻っても母様を困らせるだけなら?
嫌な考えしか思い浮かばない。
どうすればいいの
「ハクのバカ…… ハクだけがずっと側に居てくれたじゃない」
ハクが居ないから悪い
本当に何処に行ってしまったんだろう
「そうだわ…… くよくよしてるよりハクを捜そう!」
しかい昨夜のように無暗に飛び出しても皆に迷惑を掛けてしまうだけ
「一人で捜すとまたフォンフー様に怒られちゃうし…どうしよ…」
「何もするな…バカ女」
突然フォンフー様の不機嫌な声
ビック!
「!!」
心臓が止まるかと思う程驚いてしまう
声のする方を見れば長椅子に腰かけ眠そうな目をしたフォンフー様が座っていた。
「なっ何でフォンフー様が? まさか此処で寝てらっしゃたんですか!」
目が半開きでかなり寝むそう
「ふわぁーー 仕方ないだろ… お前をほっておくと何をしでかすか分からんからな」
昨夜はインフー様に抱き抱えられたまま移動して何時の間にか寝てしまったのだろう
「それならインフー様が良かった」
そう言った途端風が巻き上がり私を包み込む
びゅーーうううーーーーーーーーーーん
「キャァー! 」
風は直ぐに治まるけど髪はグチャグチャで服も着崩れてしまった
「何するんですか!!」
「お前は本当にバカだからだ。 少しは目が覚めたんじゃないか」
「どういう事ですか」
「インフーに甘えるな。以前も言ったろ!お前のやっている事は残酷でしか無い事を理解しろ…それとも人間としてインフーと添う心算があるなら別だ」
そしてフォンフー様は何時の間にか右手に私の神核の首飾りを手にしていた。
「何をするの!?」
「今此処で決めろ、既にこの神核はほぼ真珠化しているが完全じゃない。だがこれが完全に神力で満たされた時お前は龍族として目覚めるだろう… だが此処でこれを粉々に破壊したら人間のままでいられるぞ、 どうする?」
「そんな…」
「覚悟を決めろレイカ」
真剣な目で私を見詰め、本気だと分かってしまうが急にどうしたのだろう?
「どうして今なの」
「今しか選択肢はないからだ。 自分の意志で決めて自分の心に決着をつけるんだ」
「……」
矢張りフォンフー様は甘くない
私の弱い心を許してくれず選べと言いつつ既にそれしか道は無い
自分の心にけじめをつける為にもハッキリと言う
「龍核を返して下さい」
これで後を振り向く事は出来ない。
私の覚悟を聞き、フォンフー様は大事な龍核を投げつけ返してくれるのを慌てて受け取る。
「お前は龍族を選択した。 インフーに頼ってもいいが二度と甘えるな…」
「その違いが分かりませんけど…」
「取敢えず必要以上にひっつくな」
最近インフー様が私に触れなくなったのはそう言う事だったのかと知る。
私の我儘な行動がインフー様を苦しめてしまっていたんだ…
「はい、でもハクはどうしたらいいんですか」
「ハクも必ず戴冠式に現れるだろう、それよりお前はいざとなったら奴の神力を奪い取る為に俺と同じ席を用意しておいたから有り難く思え」
「それって…青龍国の丞相様の側なんじゃ…」
「心配いらん、三席程隣だ」
「近くじゃないでっすか……」
昨晩の冷たい眼差しが再び注がれるかと思うと辛かった。
「青龍国の丞相ともあろう者が公式の場でお前をどうこうしない。しかもお前が皇女だと分かった筈だからもっと違う対応に出て来るだろう」
「どういう風に?」
「皇女として迎え入れるか…それとも闇に葬るかだ」
脅すように言うので、あの日の父様を思い出す。
「父様のように私を殺すの…」
真っ青になる私を見て珍しく慰めるように言葉を掛ける。
「可能性を言ったまで、大丈夫だそうなったら全力で俺達がお前を守ろう」
「フォンフー様…」
初めて聞く優しい言葉に嬉しくて目の端に涙が浮かんだが
「その前に奴を片付けて貰おうか…期待してるぞ」
ポンと肩を叩かれニコやかに笑うのを見て感動は跡かたも無く消え去ってしまう
フォンフー様がこういうお方だと言うのは分かっていたけどもう少し私に優しくしてくれても良いんじゃないの!?
「私はフォンフー様にとってなんなんですか」
幾ら何でもこの扱いはないと思う
「大事な駒だ」
「酷い!!」
「嘘だから睨むな、お前は俺にとって戦友?みたいなものか」
「戦友…友達じゃないんですか?」
なんて物騒な例え
「俺とお前は似ている。親に恵まれず近親者に命を脅かされながら自分の居場所を求めて闘っている言わば同士か?」
何で疑問形なの、今一私を言いくるめようとしている気がするのは気のせいでしょうか
そして驚いたか事にフォンフー様がそのまま抱きしめて来る。
「エッ?! /// 」
今まで叩かれたり蹴られたりしたけど抱きしめられたのは初めてで顔が赤らんでしまう
そして私を抱きしめたまま話し始めるフォンフー様
「俺は母親の愛情も知らず乳母が義務的に俺を育てる中、奴に会初めて会ったのは八歳のガキの頃だった…分かるか愛情に飢えたガキが兄と名乗る男に優しくされたら世界の全てが奴になり支配されるんだ。 俺は奴の本性に気が付かず奴が与える優しさを得る為に必死に努力ししがみ付いたんだ…そして奴も俺を特別に可愛がり始めると周囲の目も変わる。今まで後宮の陰でひっそり生きていた第八皇子など誰も気に掛けた無かったのに突然皆の目が俺に向けられそこから地獄だ。特に奴に心酔している第四皇子は俺の存在を許さずありとあらゆる嫌がらせを受け何度も死にそうな目に遭ったか…奴に知られないように傷だらけの自分を神力で癒す毎日だ。健気だろ?」
私は無言で頷き第三皇子様との過去を淡々と話しそれに耳を傾けるのだった。
レイカを抱きしめ俺は自分の過去を話し始める。
今まで誰にも話さなかった奴との過去
インフーにすら話していない俺の恥部でレイカに話すのが最初で最後だろう
これが俺のけじめだ
次期虎王と目される眉目秀麗な第三皇子に溺愛され俺は有頂天で周囲に者に妬まれ酷い事をされても只ひたすら耐える毎日だが兄に愛され辛いとは思わなかったガキの俺
だが奴は全て知っていた…俺が迫害されているのを陰ながら眺め見ており、そして犬のように奴にすり寄る俺を楽しんでいたのだ
何も知らない俺が全てを知ったのは奴が俺を寝台に組み敷いた時、まだ十四歳ながら成長の早かった俺は人間で言えば八歳の体だった。兄とし慕っていた男が突然豹変したように冷酷にこう言った
『お前を愛する者は私だけでいい、他の者は皆お前を憎むよし向けたのは私だよ』
最初は奴の言葉信じれなかった。
『兄様!! 嘘でしょ!?』
『お前に手を出そうとする不埒者は始末して置いた。 全く油断も隙も無い侍女に見張らしておいて良かった…他の者の手垢がつく前に私が味見してあげよう』
不埒者と聞き昨日俺を襲った教育係の男の事を言っているのだろう
何を思ったか男は俺を机に組み敷き事に及ぼうとしたが侍女に取り押さえられ事無きを得たのだが誰にも知られず処理されたはず
つまり侍女は奴の手の者だったのだと知る。
奴は本当に全てを…王宮の者達に酷い扱いを受けていたのも知っていたのだ!
愕然とする俺を奴は容赦なく触ってくる。
味見とは良く言った物だ。確かに最後まではされなかったが嫌がる俺を散々嬲り尽くされた
『ああ…私の可愛いフォンフー もう二度と逃がさない。 成人の儀の暁には我が伴侶にしてあげよう。それまで純潔を散らすのは待てあげるよ』
傲慢にとんでもない事を言う奴
『どうして… 僕達は兄弟…』
白虎国では虎族のみ同性の婚姻が許されていたが親兄弟間では禁忌だ
『私は兄弟なんて一度も思ったことはない。実際にフォンフーとは血など繋がっていないお前は不義の子、父王の血など一滴も流れていないんだから気にする必要はない』
『……嘘だ!』
『不義の子だと誹られようと私だけはお前を見捨てない、私しかお前を愛する者など現れないだろう』
次々と知る真実に気が狂いそうだった。
絶望に打ちひしがれ、その時俺の心はは殺されたのだ
ズタズタにされながら体を引きずり後宮の母に詰め寄り全てが真実だと知り全てに裏切られた俺は誰も信じられなくなった
身の周りを世話する侍女も教育係も全て奴の息が掛かった人間
しかも奴は王宮の人々には品行方正な皇子を演じ俺には残酷な面しかみせなくなる。
『フォンフーにだけは本当の私を知って欲しい』
そう甘い言葉を吐きながらされている行為は残虐で他の奴達が生温く感じてしまう
奴は愛していると言いながら心身共に嬲る意味が分からずこのまま壊れてしまっていいのかと自問する
不条理だ
神族は強い者が上に立つ弱肉強食の世界
奴に食われるより強くなる事を選んだのだ。
今までの自分を捨て去り奴に反抗し逃げ回ったがそれさえも奴にとったら楽しい遊びでしかないのだ。
侍女の手引きで部屋にやって来る奴から逃げる為に夜の後宮を彷徨っていた時に父王と後宮でバッタリと出会ってしまう
『久しいのフォンフー息災であったか? 何やら困った事になっておるようじゃな』
今思えば護衛も付けない父王とタイミング良く会うなど可笑しな話
恐らく第三皇子の裏の顔と俺に対する所業を知っていていたのだろう
『陛下、私を皇子から廃嫡して下さいませ』
廃嫡になり王宮から出れば奴から逃げれると思った。
『そなたは第八皇子として産まれたのだからそれで良いじゃろ。そなたの母の立場もあるしの、第三皇子はワシからも釘をさしておくから我慢せよ。 代わりと言ってはなんだが欲しい物はないか』
皇子の身分とは枷でしか無いのか……欲しいのは自由だったが
せめて自分の部屋では寛ぎたい
俺を妬みながら奴に俺を見張り差し出す奴らの前で一時も休まる事など出来ない
『それならば奴の息の掛かっていない侍女と教育係をお願いします』
『よかろう…しかしあまりヤンチャをするでないぞ、あまり素行が悪いと王宮から出さねばならなくなるからの』
そう言って俺の頭をポンポンと撫で立ち去っていたのだった。
最期の言葉を聞き初めて感謝した。
父王とは公式の場でしか顔を合わさず優しい言葉も掛けて貰った事も無い。基本皇子達に無関心で後宮の側室達にばかりに構う女好きのどうしようも無い王だと思っていたが少しは話の分かるらしい
そしてやって来たのがインフーだった。
目尻が下がり気味の優しげな顔立ちをして見るから頼りなさそうな青年に心配になる
これでは奴に引き込まれてしまうのは目に見えていた。
だが今はそんな事はどうでもいい、これから問題を次々起こして王宮を去る予定だから
そして俺は以前から悪かった評判を更に貶める中、インフーは真面目に俺の勉強を教えようとしたり悪い事をする俺を諌めようと本気で怒るまともな奴で少しだけ信じれるが心を許すまでには至らない
何しろ奴と言う前例が俺を臆病にさせており、奴がインフーを懐柔して何時敵になるか分かったものではないのだ。
相変わらず奴は隙を見計らったように現れ俺を嬲り者にしたが上手く逃げれる回数も増えた。奴との攻防が何時の間にか神力の技を向上させていたのだから皮肉な事
そして奴がインフーに手を出さないのには訳があった。以外な事にインフーは正妃様の縁筋の虎族で奴でも迂闊に手を出せず、何度か接触は在ったようだがインフーの純粋さが奴の毒気を撥ね飛ばした様だ。虎族でありながら色欲の薄いインフーは稀な存在
確かに王の目は正しかった。
それとも正妃が後で何かしていたのかもしれない……何しろ第三皇子は我が子第一皇子の脅威でしかないのだから
「それから度々問題を起こす俺は田舎に追いやられインフーともそこで縁が切れると思ったが、何の得も無いのにバカなインフーは付いて来てくれた。それで漸く俺はインフーを頼り無い兄の様な存在として受け入れられた。田舎での暮らしで束の間の幸せを手に入れたがそれも何時まで続くか不安な時、現れたのがレイカお前だ」
「私が」
「そうだ、俺はお前の力を見た時これで奴を倒せると思ったからこそ神力を注ぎ続けた。お前も俺も力が必要でお互い利用し合うような関係と言ってもいいが、俺に力を貸してくれ……俺は奴が憎い! 母も殺され奴は俺から全てを奪おうとしている」
「いいよフォンフー様、第三皇子様を野放しにしたら崋山と戦が始まったらきっと大勢の人が死ぬは…私の大好きな人達も」
「そうだ俺も大事な奴を失いたく無い、だからインフーをこれ以上巻き込まない心算だ」
インフーには悪いが力の弱くもしかすると命を失うかも知れない
「私もそうしたい」
レイカも神妙な顔で同意する。
「戴冠式が始まる前に兄上にインフーを眠らせ田舎に連れて行って貰うよう話した。もし王達が奴に落ちた時は俺が命を掛けて奴を止める……お前は奴の神力と神玉を奪え」
亀王は凄まじい力を持っているが油断は出来ない
「出来るかな」
「出来るかじゃない、やるんだ」
「はい……」
素直に頷くレイカ
十二歳の少女に重い責任を負わせているのは分かっているがこの少女しか居ないのだ
インフーの事は言えず自分の無力さを感じるしかなかったのだった。
フォンフー様の覚悟を聞き私も腹を括った。
「お前と俺は一蓮托生、この件が片付けば今度はお前の母親を助けよう…例え天帝や龍王を敵に回してもな」
フォンフー様の真摯な言葉を聞き胸が熱くなる。
「フォンフー様ありがとう」
ペッチン!
ところが突然腕を放して私の額を軽く打つ
「痛い! 何するんですか」
「礼を言うのは早い、闘いはこれからだ。めい一杯着飾れ、衣装は兄上に頼んでおいた」
「第二皇子様が!?」
それに何で着飾るの??
何故か嫌な予感がするのは何故だろう
「行くぞレイカ」
フォンフー様に促されその衣装に着替えるべく別室に行くのだった。
八月で終わらすのを諦めた途端に間が空いってしまいました。少しスロー更新になるかもしれませんが、九月に入れば子供の学校が始まり時間が空くのでマイペースで更新予定