前夜祭
玄武国王夫妻の楽しいお茶会を終えてお昼を取ると夜会の為の支度をさせられる。衣装は私達の世話を取り仕切る女官が用意した物だった。
三国の国賓達を迎えての盛大な宴、何故か一介の侍女の私まで呼ばれてしまった。
どうやら玄武国王妃様のご希望らしい
もし青龍国の龍王が来ていたらとんでもない事態になってしまっただろう
青龍国は丞相様がいらっしゃるらしい
どんなお方かは知らない…龍族の事は誰も教えてはくれなかったから。思えば龍族の中で育ったような物なのに故意に教えてくれなかったのかも
私の父親が龍王だと気取られないように。
そう考えるとファン様はかなり高位の龍族で龍王様に近い存在だったんだと今さらながらに思う。なにしろファン様にしろ侍女さん達の見事な金の髪は只者ではない事を意味していた。
そう言えば亀王様も綺麗な金髪で青い瞳でファン様に似ているかもしれない
浮世離れしているとこまで似ているかも
ミユキ様も面白くて素敵な方で不思議な魅力がある女性、きっと亀王様もそんな所に惹かれたのだろう
「レイカ様 髪をどの様に致しましょうか」
今 私に付けられた侍女に支度を手伝って貰っている。
「お任せします」
「何かお手持ちの宝飾品は御座いますか」
そう言えば以前インフー様に買って頂いた珊瑚の飾りは何処に行ってしまったんだろう?
二年前は慌てて王都を離れたからそのままに置いて来てしまい、今回来て見れば屋敷が建て替えられてしまったので行方が分からなくなってしまているのを漸く気が付く
初めてインフー様に買って貰った贈り物だったのに、後で謝らなければ
今回用意された衣装は水色で赤の珊瑚は合わないので真珠の耳飾りは持って来たのでそれを引き出しから取り出し、ついでに母様の髪留めも出す。これは母様の物で少し気が引けたけど一度だけ着けたい衝動に負けてしまう。
母様御免なさい一度だけだだから!
「この髪止めと耳飾りでも大丈夫ですか」
「これは素晴らしい品ですね…特に髪飾りの真珠は滅多に無い大きさの粒を此処までふんだんに使った物など見た事が御座いません」
侍女はうっとりと髪飾りを見詰めてから、張りきったように私の髪を結い始める。
何時もは自分で両脇の髪を上でまとめてお団子にして髪留めで止め後はそのまま垂らしていたけど、侍女は複雑に髪を白いリボンと一緒に編み込んでいき見事に結い上げ後ろ髪は矢張り長く垂らされた。真珠の髪飾りは頭の中央にリボンと共に飾られる。
そして胸元には黒真珠のように輝く神核の首飾りをそのままに着けたる
そして薄っすらと化粧を施され鏡の前で変わって行く自分の顔は少し大人に近づいて来たように思えた。しかも今回用意された衣装は胸が開いており少し恥ずかしい
「こんな事を言ったら何ですが虎族のどの姫よりお美しいですわ、もしかしたら後宮に召されるかもしれませんよ」
後宮! そんな所入りたくも無い
「私如きが、そんな滅相も無いです」
そもそも第三皇子様はフォンフー様しか目に入っておらず私なんか眼中にない
「それに虎王様には既に何人もお美しい寵妃様がいらしゃるのではありませんか」
「確かに三人の虎族の姫様を召してました… いえ、それよりこれで終わりましたのでフォンフー様のお支度の様子を見て参ります」
そう言って誤魔化すように侍女は慌てるように去って行ったので気になってしまう
一体寵妃様達はどうなったの??
気になるが考えても仕方ないので鏡の前でもう一度、真珠の髪留めと耳飾りを眺める。母様の真珠の方が確かに粒が大きい
「流石に龍王様の贈り物だから最高級品なんだわきっと。でも母様はどうして寝台の下に隠してたのかしら」
耳飾りの方は嬉しそうに着けていたのに……
私が生まれていた事を隠していた母様達
実の娘である私を殺そうとした龍王
生まれた頃から私はとんでもない境遇に生まれついていたのを知りもしなかった。
「でも悪いのは絶対に龍王様よ! 全く王様になる人って碌な人がいないんじゃないかしら… ねーハク?」
ハクに同意を求めようと話しかけたが返事が無い
部屋の何処かに身を潜めていたはず
「ハク? もう侍女さんは居ないよ。 出ておいで 」
出て来るよう呼びかけても来ないなんて初めてで心配になる。
「ハク!?」
きっと外に遊びに行ったのかも知れないと思い暫らく様子を見る事にした。
そこへインフー様が迎えに来てくれる。
「レイカ 支度が終わったと聞いたのですが入ってもいいですか」
「どうぞ」
扉か入って来たインフー様は目を見開いて私を見る。
「綺麗だ…、 今までの中で一番綺麗ですよ」
「有難うインフー様」
以前なら抱き寄せて優しく触れてくれるのに眩しそうに私を見るだけだった。
「私の送った耳飾りをしてくれたんですね」
「はい、でも以前に頂いた珊瑚の装飾品を此処に置いたままにしていたので御免なさい」
「そうでしたね、大丈夫何処かに保存してくれているでしょうから後で捜しておきます。それではフォンフー様が待ってますから行きましょう」
「はい」
インフー様は踵を返し着いて来るよう促してくれるが、以前なら手を取ってくれたのに
少しづつ距離を置かれて寂しくて切ない
嫌われた訳では無いのだろうけどインフー様の後姿をただ切なく見詰めるしか無かった。
フォンフー様の部屋に入ると白い衣装に包まれた皇子様が立っている。
見てくれ完璧な皇子様だけど中身は皇子様とは程遠い
そして入って来た私を見ると
「そうしていれば正に皇女のようだな。喋ればその美しさが半減するから夜会では口を閉じていろ」
誉めるなら気持ちよく誉めて欲しいが素直さをフォンフー様に求めるのは無理
「むっ フォンフー様も化けの皮が剥がれないよう気お付けて下さいね」
「俺は完璧だ」
「大丈夫ですよ。お二人とも他の方々に引けなど取りません」
インフー様が私達の遣り取りをニコニコと眺めていたがもう一人居ないのに気が付いた。
「そう言えばあの人はどうしたんですか?」
「ああ… その辺を散策でもしてるのではないか」
フォンフー様が素っ気なく答える。周りには二人の侍女が控えており滅多な事も言えないし建物の外には衛兵が警備で常に見張っている状態
第二皇子様は侍女の前では赤い髪に青い目をした虎族の若者に変身していた。
ハクを何処かに行ってしまったし案外第二皇子様と一緒なのかもしれない
「そう言えば各国の方はもういらっしゃったのでしょうか」
「多分もう来てるだろう。王は瞑道を使える者が殆どだから直接王宮に道を通して来るから来たとしても静かな物でこの離れた場所では分からん」
「いいなー フォンフー様は使えないのですか?」
「今は無理だが成人の儀を迎え虎に転神すれば神力は一気に伸びれば使えるかもしれん。父王は瞑道が使えなかったらしいからな珍しい部類だろうが他の王は使えるはずだ」
小さい頃からファン様の力で日常的に瞑道を使っていたけど結構凄い力なんだと初めて知った…そう言えば第二皇子様も使っていたと言う事は凄い神力の持ち主と言う事
「今の虎王様は使えるんですか」
「……見た事は無いが多分使えるんじゃないのか」
確かに邪神を取り込んだ今の第三皇子様なら容易く使いこなすだろう
それから迎えが来るまで静かにお茶を飲みながら寛いでいる内に宮殿から近衛兵が向かえに来てしまう。これから始まる宴は盛大な物、なにしろ各国の王が一堂に会するなど王の戴冠式しかないので数百年に一度の大祭典と言ってもいい
そんな場に私なんかが行ってもいいのかと場違いを感じてしまう
それに今夜の夜会にはフォンフー様と私しか招待されていないのでインフー様はこの宮に残るのだけれど第二皇子様が一緒だと思うと気が気ではない
「なんだか行きたくない」
「俺だって代われるものならインフーに行って欲しいぐらいだ」
「そればかりは代われません。諦めて行ってらっしゃいませ」
「くっそ! こんな皇子など言う立場を捨ててしまいたい」
「さあレイカもこんな華やかな宴は滅多にありませんから楽しんで来て下さい」
インフー様が一緒がいいと言いたかったけどその言葉を飲み込む…優しそうに微笑みながらもその目には諦めのような影を感じた。
「はい、インフー様 それよりハクの姿が見えないので帰って来たらお願いします」
「ええ、分かりました。安心していってらしゃい」
そう見送られ四人の近衛兵に取り囲まれながインフー様の元を後にした。
私達は広い庭を抜け長い通路を歩き続けるが常に近衛兵がまるで逃亡するのを警戒するように気が張っているのを感じる。そしてこっれから盛大な夜会が行われると言うのに王宮は静かで夕暮れも相まって不気味さが漂っていた。しかも王宮に近ずくに連れ黒い気の様なものがより強まり不快感を通りぬけて苦痛にすら感じ始めるがフォンフー様は感じていない様だった。
「フォンフー様 とても静かですね」
「そうだな、確かに妙だ」
その内大広間に続く扉の前に着くと守衛兵が扉を開けると同時に大勢の人が集まっているのが伺えるが何故か皆沈黙しており呼吸音すら感じない程静まり返りかえており私達の歩く音が響いているだけ
しかも正面台座に設けられた王と国賓を迎える為の席に座る人物の放つ気にゾクリとする。そこには真っ黒な人の影の様な物が座ったいる。
何アレ???? 恐い!!!!
中央に敷かれた豪華な絨毯が主賓席まで道のように敷かれておりその上を歩きながらも立ち止まってこの場から立ち去りたかったが近衛兵に追い立てられるように後ろから歩かれれば前を進まざるを得なかった。
そして第三皇子の前にフォン様と共に立たせられる。
「陛下、王弟殿下フォンフー様をお連れ致しました」
静寂の空間に近衛兵の声が響き渡る。
フォンフー様が跪き私も見習う
「フォンフー 今宵は存分に楽しむがいい。 間もなく各国の王達も来場されるだろ暫し待つがいい」
「はい陛下」
簡単に声を掛けられそのまま兄弟である第四皇子、第七皇子が並ぶ席に案内され、私もその席に並んで座らされる。久々に見る皇子様達は変わりない様子だったが私達には目もくれずただジッと座り美しいだけに人形のようだ
そして立ちながら待つ虎族の臣下達もまるで人形に微動だにせず立っており大広間には黒い気で満ちており まるで黒い霧の中にいる様な錯覚してしまう
一層の事、この場で倒れてインフー様の所に戻りたくなってしまう。
そして王達の来場を告げる声が場内に響き渡る
「玄武国王夫妻様、鳳凰国王様、青龍国丞相様が御出でにないります」
すると途端に急に黒い気が引き始めまるで黒い霧が第三皇子に吸い取られるように消えてしまい目の前が明るくなり一気に太陽が昇ったかのようだった。
何が起こったのかとドギマギしながら第三皇子を盗み見れば以前秀麗な姿に戻っていたが、身に纏う雰囲気がどこか凍てついた冷気のようで見る者を鋭く切りつけるようだ
そして水を打ったような静かさが嘘のように人々のざわめきや息遣いが戻り、止まっていた時間が動き出したかのよう
一体何が起こっているのか理解できない、フォンフー様も狐につままれたような表情
そして宮廷楽師達の演奏が始まると同時に扉が開かれ王達が共のを連れて華麗に入場して人々からどよめきが起こる。
その場は正に美の祭典
先ずは玄武国王夫妻が並んで入って来たのだが長い金の髪も然ることながらその金のド派手な衣装に身を包んだ亀王は正に光り輝いているようだが一方王妃のミユキ様は黒い髪の付け毛をしているようで亀王同様長い髪を引きずり、桃色に金の花をあしらった可愛らしいい衣装で何故か顔を扇で隠していた。
そして後ろから箱を抱えた四人の従者が次々と第三皇子様の前に跪き、次々と蓋が開けられると美しい宝石や金、布などが入っている。
「新虎王よ これらはこ度の戴冠への祝いの品 どうか納めて欲しい」
「このような素晴らしい祝いの品を有難うございます。今夜はささやかな宴ながらお楽しみください」
次に現れたのが鳳凰国王、深紅の燃える様な髪に瞳も紅玉のように赤く彫の深い美丈夫でその鍛え上げられた体にピッタリとした黒い上着にズボンを穿いており所々銀糸に縁飾りがされており黒いマントをに身を包み颯爽と入って来る様は王とゆうより軍を率いる将軍のようだ。そして玄武国同様挨拶と祝いの品を贈る。
最期が青龍国の丞相、私の国の人だと思わずじっくり眺めてしまう。その人も矢張りと言おうか凄く綺麗な人で、水色の髪はまるで流れる清流のように美しく青い目は深い泉のように神秘的で繊細な美しさでまるで氷の彫像のようだが不思議と冷たさは感じず清廉な空気を纏っている。
綺麗な人
美しさで言えば亀王様が一番美しいと思うが何故だか酷く目を惹き視線が逸らせない
そしてもう一人何故か見た事がある人物が目の前を通る。
その人物は違う意味で目立っている。その理由はその場でただ一人茶色の髪に緑の目を持つ人間だったからだ。
アレ? なんだかこの人知っている様な気がする。
人間の男はこの場で臆することなく堂々としており精悍な目の若者
青龍国の人間の知り合いなんて貧民街の学問所しか無くその中でよく知っている顔と青年の顔を比べハッとしてしまう
テジャ????
あのいじめっ子のテジャの顔が人間の青年の顔と重なる。
そう言えば官吏試験に一番で合格して丞相府に入るのだと豪語していたのを思い出し、どうやらテジャは自分の夢を叶えたようだ
凄いテジャ!!
直ぐさま声をかけたい衝動にかられるが今は無理なので後で声を掛けようとワクワクしてしまう。もしかするとサンおじちゃまの近況が聞けるかも知れないと思うと居ても立ってもいられない
そんな時鋭い視線を感じその方向を見ると青龍国の丞相様が私を射抜くように見ており一瞬視線が合うと直ぐさま視線を外し用意された自分の席に着く。テジャ達従者はその後ろに立ち控えていた。
なんか一瞬睨まれたのは気のせい
私の黒髪に驚いたのだろうか?
でもミユキ様も黒髪だし……私の美しさに見とれたと言う好意的な目でも無かった。
もしかして嫌われたのかも知れないと軽いショックを受ける。
そう思うと何故だか気分が落ち込んでいる内に第三皇子が立ち上がり挨拶をする。
「今宵は私の為に各国から王と丞相を迎え心から謝意を顕わしこの宴開きました。どうかごゆるりとお楽しみ下されば幸いです」
そして控えていた給仕の侍女たちによって一斉にお酒の入った盃が全員に配り始める。。
「どうか皆さま盃を取って掲げて下さい。これは玄武国王妃様の国の風習で祝いの席で杯を挙げ乾杯と言う合図と共に唱和し酒を飲み干して祝福するそうです。それに倣い乾杯をしたいと思います」
すると会場の全ての人々が盃を捧げると虎王が涼やかな声を張り上げる。
「四神国の繁栄を祝し 乾杯 」
そして大広間に轟くように乾杯の唱和が続く
「「「「「「「「「「「「 乾杯!!! 」」」」」」」」」」」」」
そして全員が盃のお酒を飲み干すと同時に拍手が沸き起こり一気にその場が盛り上がる。
私はまだお酒が飲めないので飲む振りだをしててテーブールに置き、フォンフー様は飲み干して拍手で沸く人々を冷めた目で見ていた。
そして拍手が鳴りやむ頃に第三皇子…偽王は続ける。
「それでは美酒と料理を思う存分楽しものうぞ」
それに応えるように次々と料理と酒が運び込まれて宴が盛大に始まるのだった。