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龍王の娘  作者: 瑞佳
第二章 白虎国編
33/78

恋の錯綜






その夜フォンフー様は案外早く戻られて来た。


「お帰りなさいませフォンフー様」


インフー様が出迎えると何時にも無く殊勝な顔をして労る言葉を言う。


「インフーか… お前には何時も苦労ばかりかけてすまない……」


流石に私もインフー様も驚き思わず口が滑る。


「どうしたんですフォンフー様!! 何か変な物でも食べたんですか!」


ドッカ!


「痛い! 蹴るなんて酷い」


「煩い、俺の言葉を素直に受け取れ! 」


数年の付き合いだけれど素直と言う言葉がこれ程似合わない人間はいないと思うのだけれど、それに反しインフー様は心配そうにフォンフー様に尋ねる。


「フォンフー様に気を遣って頂き有難うございます。それより本当に何があったのですか」


フォンフー様はかなり疲れた様子で視線も私達に合わそうとはしない。


「色々有りすぎたが順に話そう。結論を言えばやはり奴は戴冠式で何かをしようとしている」


フォンフー様は一人掛けの椅子にドカリと座るとハクが何時の間に元の大きさに戻り私の胸に飛び込んできたので抱きとめると何故かうろたえるフォンフー様


やっぱり変????


「第三皇子様は矢張り邪神に操られているのでしょうか?このような無謀な事をするお方には見えませんでしたが」


「俺には奴の意志で動いているよう見えたが、どうなんだハク」


『 皇子ハ気付イテイナイ 自分ノ中ノ 邪神ニ 』


「つまり第三皇子様は邪神に乗っ取られていないの」


私は良く分からないのでハクに聞く


『 マダ違ウ 皇子ノ自我ガ勝ッテイルケド ワザト 邪神ハ狡猾 」 


「ところで兄上はどお思われますか」


長椅子に横たわり無反応な第二皇子様を訝しげに見ながら尋ねる。


「俺が知るか……、兎に角戴冠式を待つしかないだろ……」


ぐったりとダルそうな第三皇子を不思議そうに見るフォンフー様は私を横目に見ながら聞いてくる。


「お前 何をしたんだ」


「だってー インフー様にベタベタするからチョッと神力を奪っただけよ」


だって嫌がっているインフー様に抱きついたり触りまくるなんて許せない!


優しいインフー様ににつけ込んでスケベ親父丸だし


絶対私に見せつけて挑発しているとしか思えないんだもん


「今直ぐ戻せ! 此処は敵地だぞ、自分から戦力を落してどうする!」


ヒステリックに叫ぶフォンフー様に言われ仕方なく神力を返す事にするけど、隷従の血の宝石を取り込んでいるのにどうしてこう俺様なんだろ


第二皇子様の胸に手を当て神力を注ぎ込むが今一加減が分らないので適当に入れて見ると見る見る第二皇子様の顔色が良くなって行き、突然立ち上がったかと思うと私の襟首を持って猫のように吊るす。


「全くなんて恐ろしいお嬢ちゃんだ、一歩間違えば俺は殺されていたぞ」


私を顔に持って行き睨みつけて来るが負けじと睨む。


「離して! このスケベ親父、 フォンフー様 私を助けて」


「スケベ親父…」


私がそう命じるとフォンフー様が素早く動き神力の風の刃を第二皇子に放つ、だが第二皇子は易々とその力を消し去るが私への注意を逸らした隙を狙いフォンフー様が私を旋風のようにその腕から奪還し横抱きにした。


普段なら私を助けるなんてあり得ないので隷従の力の所為だろう!


チョッと癖になるかも


「フォン、どういう心算だ」


「知りません! 今俺はこいつに隷属してるから仕方ないんです!」


「チッ なんて性質の悪い。 インフーこんな化け物止めておけ」


第二皇子様が残酷に私を評する。


化け物!!


胸が一瞬ギュウッと絞られるような気がした。


そしてあまりの言葉にフォンフー様にしがみ付いてしまう


「レイカにそのような酷い言葉を投げつけないで下さい!貴方様でも許しません」


珍しく声を荒げて第二皇子様を睨んで食ってかかるので第二皇子様は不貞腐れたようにそっぽを向いてしまう。


や~い インフー様に嫌われてしまえ


「兄上、これでもレイカはまだ十二年しか生きていない本当の子供なんですから」


しかもフォンフー様まで私を庇ってくれるので本当に何か悪い物を食べたのかとジロジロみると衣装が着て行った物と違う


「あれ? フォンフー様服が違う」


何気なく言った途端に抱えている両手を万歳するように上に揚げてしまったせいで下に落ちてしまう私


ドッスン!


「キャッ 痛い! 」


お尻を打ってしまう


これをされるのは二度目の様な気がする…もう二度とフォンフー様に横抱きされないようにしなければ


「なんで落すんですか!? 服が違うって言っただけなのにーー」


恨めしく睨むと何故か顔を赤らめて激しく動揺し始める。


「煩い! そんな事気にするな…それより明日お前は亀王夫妻のお茶に招待された」


「何故私が?」


「王妃がお前に会いたいそうだ」


「私に?」


「王妃はどうやらお前の母親と同じ世界から来たらしいぞ。俺も驚いたが確かに王妃の髪と瞳は黒かった」


私の母様と同じ世界?? 


どういう事だろう??


「母様と同じ世界ってどういう意味だすか」


「言ってなかったか? 神仙がお前の事を異界の血が混じっていると言っていた。つまりこの世界ではない別にある異世界からお前の母親は流れ着いたようだぞ」


「えっえーーーー そんなの初耳です!!」


そんな大事な話聞いた事がないので驚くばかり、どうして私は自分自身の事をこんなに知らないの…あまりの秘密の多さに何も教えてくれなかった母様を恨んでしまいそう


「兎に角そう言う事だ。お前のお陰で怪しまれる事無く亀王に接触できる」」


フォンフー様は私の混乱をよそに嬉しそう


「なにが兎に角よ! そんな大事な事教えてください」


「すまなかった。忘れていただけだ許せ」


私の血の所為か直ぐに謝ってくれるけど素直なフォンフー様は異和感有りすぎ


「私も知りませんでした… 本当にレイカは凄い少女なんですね」


私に手を差し伸べて立たせてくれるその顔は何時も通り優しげだ


「インフー様も私が化け物だと思う」


「いいえ レイカはレイカでしょ」


「有難う インフー様」


甘えるように抱きつくと優しく受け止めてくれる。そして横目で第二皇子様を見れば忌々しそうに私を見ているが気にしない


もしインフー様が龍族か人間ならば私は間違いなくこの人を選ぶのに


でも なんとなく感じてしまう、種族の違う神族は似て非なる存在


決して交わらない


きっとインフー様も感じてるのかもしれない…


しかも、こんな異質な私をありのままに受け入れてくれる優しい人


やっぱり大好きだ


これからインフー様以上の男性が見つけられるだろうかと思いながらも今はインフー様の優しさに甘えるのだった。











インフーにべた付くレイカにそれを物欲しそうに見ている兄


笑える


だが呑気に三角関係を楽しんでいる訳にもいかず聞かなければならない事がある。


「兄上にお聞きしたい事があるんですが宜しいですか」


「なんだ…」


不機嫌な様子を隠さず憮然と答える。


「私の母親であるカンチェンフーが後宮に連れて来た侍女で秘密裏に消された噂を知りませんか」


奴と俺の両親の間になにがあったか知りたかったのだ


「さあな… お前の母親が入内した頃は殆ど王都暮らしで金を取りに帰るぐらいだった」

どうやら幽霊皇子と言うだけあって王宮には居なかったのかと納得する。


「今から五十二年ぐら前、俺が産まれる前位に第三皇子に変わった動きや噂はなかったですか」


駄目もとで聞いてみると矢張り知らないらしく首を振るが以外にもインフーが口を開く


「そう言えば… その頃に私の姉が王宮で女官を務めていたのですが第三皇子様がカンチェンフー様に懸想 していると母親と噂話に花を咲かせていたのを思い出しました」


「もっと詳しく話せ」


「詳しくは覚えてませんが 何でもカンチェンフー様の侍女を度々呼び出しては付文を渡していたとか… 道ならぬ恋だと… !! もしやその侍女と言うのが!? 」


インフーも察したようだ


「多分俺の父親だろう」


「何の話だ?」


事情を知らない兄に掻い摘んで俺の出生に秘密を話すが別段驚いた様子はない、後宮ではこの手のドロドロとした関係は珍しくもないのだろう、俺と血の繋がりが無くとも興味も無い様子だ


「本当にイェンが侍女に化けた間男に懸想していたのか? カンチェンフー様じゃなく」

「証拠と言ってはなんですが、第三皇子は俺の母親を既に亡きものにしている」


「「「 !! 」」」


「それに俺は父親にそっくりだと言う話、だからこそ奴が俺に執着する理由になるのでわ…」


「あのイェンが人間にね…… 正に以外過ぎる。 何故ならイェンは隠していたが人間など触るのも汚らわしいという思考の虎族だったはず、一体何があったのか興味深い」


兄は面白そうに言うと


「フォンフー様は母君を亡くされたのですよ… そのような興味本位な言い方は止して下さい」


情けない声を出す兄


「インフー…  」


マジ 笑えるが兄の機嫌を損ねる訳にもいかない


「俺は気にしてない… 流石に最初に聞かされた時はショックだったが元より縁の薄い親子関係だった。 それに母の仇は討たせて貰う」


「フォンフー様…」


インフーが翳りのある顔で物言いたげだ、会った時から物腰の優しい男で虎族の男に珍しい手合いだった。こいつだからこそ側にいる事を許し幾ばくかの情を覚えれたのかもしれない


そもそも此処まで俺に付いてくる義理も無いのだ


俺に苦労ばかりさせられても付いて来るのだからお人好しとしか言いようがない


「俺は大丈夫だ。 それよりお前は此処で降りてもいいんだぞ」


「確かに私では何のお役に立てないかもしれませんが最後までフォンフー様に付いて行きます」


静かに自分の確固たる意志を伝える。


「バカな奴 力を得るためお前の体を差し出すような主だぞ」


「私がお仕えすると決めたお方です」


何とも真摯な答え。他の者が言えば空々しく聞こえるがインフーは本心から言っているのだろう


適わない


肉親には恵まれなかったが従者には恵まれたようだ。


「そうか… 有難うインフー これからも頼む」


インフーには少し素直になれるから不思議だ


「やっぱりフォンフー様が可笑しい! 早く寝た方がいいかもしれません」


その場をぶち壊すようなレイカの言葉


「お前という奴は… もう寝る!」


この女に繊細さを求めるのは無理なようだ


インフーもレイカなど厄介な女など諦めて正解だが、次に来たのが第二皇子という面倒な男、しかも俺が焚きつけた面があるので少々罪悪感を感じてしまう


何時もなら感じないのだが母の死で少し感傷的になっているのかもしれない


こういう時は寝るに限る。


明日からはもっと大変な運命を決する日々が始まるだろから











嫉妬


この俺が嫉妬するなど産まれて初めてだ


否…イェンが産まれてから俺は常に嫉妬していた。


母に期待される素晴らしい息子として溺愛されていたイェンに


茶色い髪に緑の目を持つ俺は生まれた時から母に見向きもされず無視され続けていたが幼心にそれが普通だと思っていたが、イェンが生まれその赤子を愛おしそうに抱きしめる姿を盗み見た時その赤子イェンに激しい憎しみが生まれた


何度イェンを殺そうと思ったか……だが弟を殺すなど出来ようはずがない


そして俺は母の愛を得る事を早々に諦め自らの心から母を斬り捨てる事で自分の心を偽った。


そして俺は寂しさから逃れるため王宮を抜け出し街で自分の容姿を使い人間の振りをして遊び回り人間と交わり寂しさを紛らわした。


しかしそんな俺をイェンは憎み出し嫌がらせをされるようになる。


最初は何故だか理解出来なかったが、どうやら俺の神力が高い所為だと判明


「お前など死んでしまえ、そんな人間の様な色で私の兄などと許さない! お前など虎族なものか。 俺より神力が高いはずがない」


まだ成人前のイェンは俺に攻撃を仕掛けながら本気で俺を殺そうとしていたが簡単にかわす俺を憎々しげに睨んで来る。


すっかり俺の存在など忘れ去られたと思っていたがそうでは無かったらしく、変な話だが俺は少し嬉しかった。イェンは俺の力に嫉妬していた……本来は俺の方が妬み嫉妬する立場なのに。しかも俺を殺そうとする弟が可愛いと感じてしまったのは内緒だ


それ以来イェンに狙われるのが俺の密かな楽しみになってしまった危ない俺




そして色んな人間から妬まれ嫉妬されても嫉妬をする事など無縁の俺だったが


こんな少女にみっともなく嫉妬をしてしまう自身が少しく情けない


しかも弟にまで(本当は違ったようだが公的に弟だろう)


インフーが優しい眼差しを向ける全ての者に嫉妬してしてしまいレイカについ暴言や乱暴な扱いをしてしまう俺


その所為で益々インフーに嫌われてしまっている


だがあのレイカも悪いはずだ。見せつけるようにインフーに甘える少女!! 絶対俺を挑発し牽制する態度に腹が立つ。しかもなんだあの力は化け物以外の何だと言うんだろうか


しかし奪われた神力を返された時は驚かされる。あまりに高濃度な力が満たされ以前より神力が増したようにすら感じた。


しかも異界の血を引くという いわくだらけの少女


サッサと龍族になって青龍国に帰ればいいのだ。


今回のイェンの問題が片付けば青龍国の丞相に押し付けてしまおう


その為にも可愛い弟のイェンには死んで貰うしかないのだが致し方ない


自分の力に溺れ邪神などにつけ込まれるから悪いのだ


レイカがいなくなればインフーも俺を見てくれるはず。


体の相性もバッチリだから落とす自信は十分ある。


あの優しい眼差しが全て俺の物するのが楽しみだ


その為にもここは大人になって醜い嫉妬は隠さねば


後数日の我慢だと自分自身に言い聞かせるのだった。












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