龍族の血
今日はレイカが後宮に行く日だったが、その場所を王宮にある後宮とは認識していなく龍族のファンニュロン様のお屋敷だと教えられていた。
お昼ごはんを食べ終えたレイカはアオイと使っている部屋で探し物していた。、頭に先日家族の仲間入りしたハクを乗せている。
ハクは大分元気になり毛艶も良くなり、真っ白の毛玉のようにレイカの頭にしがみ付いている姿は白いボンボンを付けているようで微笑ましい
「あれ? 無いな~ 何処しまったんだろ……」
前回の時サンジュンおじちゃんに出された宿題を寝台の上で仕上げ引き出しに仕舞ったと思っていたのに無くなっていたので部屋をひっくり返し探している最中
箪笥の引き出しや布団の下などあらゆる所を探すが見つからず、最後に寝台の下に潜り込む事にするがハクが邪魔なので寝台に置く
「ハク其処で大人しくしていて」
子猿はレイカの言う通り布団の上に大人しく座り込む
先ずは母様の寝台の下に潜り込むと真っ暗で何もなさそうに見えたが一番奥の隅に小さな黒い布に包まれた包みが隠してあるよに置かれているの見付け興味を引かれ引っ張りだす事にした。
「なんだろう? 母様のかな」
寝台の下から這い出すと少し埃っぽくなったが仕方ない、取り出した包みは気になるが目的は宿題の紙、次は自分の寝台の下に潜り込むと直ぐに白い紙が浮かび上がって見える
「あった!!」
その時母様の言葉を思い出す。
『暗闇だと特に白色は目立ってしまう』
確かに暗闇ではハクの白い毛は浮かび上がり目立ってしまうと納得するが、子供を捨てるなんて納得がいかない……思わずハクの母親の事を考えていると
「キィー 」
ハクの不安そうな泣き声を聞き急いで這い出しハクの下に行く
その場を動かずジーッとしていたハクはレイカが寝台の下から出てくると飛びつくように顔にしがみ付いてくるので目の前を塞がれ慌ててしまう
「ハク、見えないから!」
そう言うと頭の上に登り大人しくチョコンと治まり漸く落ち着いたようだ
ハクは他の子猿に比べ大人しく臆病で一人っきりが怖いらしい
「今は仕方無いけど大きくなったらビシバシ鍛えるからね」
頭に乗せながら宿題の紙を布袋に入れて用意を終えたのは良いが部屋は引き出しからは物が出され部屋中に散乱した酷い状態だったので、かなり不味いがとても片付けられない
「……母様するから良いよね、ハク?」
「キィ~?」
「それより変な物見付けたから見よう」
先程寝台の下から発見した包みをハクを共犯者にして見る事にする。
黒い布を解くと木の箱が出て来て蓋を開けると仄かに良い花の香りがする。
「なんの花の匂いだろう?」
何時までも嗅いでいたいような心地よい香りだったが、中には花では無く四通の手紙と綺麗な石を使った花の髪飾りが納められている。
「キャ~ ハク見って…すっごく綺麗!」
手に取りハクに見せながら目を煌めかせながら見詰める
「どうせならこんな石の首飾りが良かったのに」
レイカのしている貧相な石に比べ乳白石に輝くこの石の方が数十倍も価値ある物に思えてならない…この素敵な髪飾りを付けたくなり鏡を見ようとしたその時母様の呼ぶ声がする。
「レイカ、そろそろお迎えが来るからいらっしゃいー」
ビック!!
慌てて自分の枕の下に髪飾りを隠し、箱も蓋を閉めて黒い布で大雑把に包んで寝台の下に放り込んでから、 袋を手にして部屋を飛び出し居間に向かう…多分母様の大事な物だと漠然と思うがもう少しじっくりと見て、髪に付けてみたいという女の子らしい欲求だった。
居間に行くと母様が丹精込めて組んだ色とりどりの髪紐を紙に包んでいるところ
「探し物は見つかった?」
「あった…」
後ろめたく目を伏せ返事をすると
「……」
母様は不審げに見詰める…
「レイカ、何か隠していない?」
ギック……
母様を騙すには経験が足りないようだった。
母様は二人の寝室に行き扉を開けて絶句する……其処は服や小物が散乱し雑然として歩く隙間も無い有様
「レ・イ・カ …… これは何?」
部屋の惨憺たる状況に温和な母様には珍しく睨まれてしまう
「ゴメンなさい~ 探すのに夢中で気付かなかったの……」
しょんぼりと答えると多分母様は直ぐ許してくれると踏んでいたが予想道理
「もー 今度から気お付けるんだよ…今はお迎えが来るから仕方ないけど次は片付けて貰います」
次は無いかもと気を引き締める…片付けは苦手
「はい 母様」
内心では寝台の包みの事がばれず一安心する。
それに加え背後から援護の声が掛かる
「二人とも何を揉めてるんですか?」
「兄さん」
「サンおじちゃま!」
迎えに来てくれたおじちゃまに抱きつくが、部屋の様子を見て呆れかえられる
「レイカ、部屋を散らかしたら片付けないとダメだよ。待ってるますから」
優しい顔をニッコリとさせながら母様より容赦が無い…
「は~い」
援護では無く攻撃されてしまう
おじちゃまは躾には厳しかった…レイカを部屋に残し二人は居間に行ってしまい一人と一匹で片付け始める。
「涙でも浮かべれば良かったかな」
渋々服などを箪笥に収めながら、なかなか強かな事を感がえる五歳児
ハクの方は相変わらずレイカの頭にしがみ付き、片付けをジーッと見守るだけのヌイグルミ状態だが、気にする事無くセカセカと箪笥に服を詰め込み粗方終わると、先程隠した髪飾りを戻そうかと思ったが、もう少し手元に置きたくてそのままにして置く
「少しだけ借りるだけよ」
そう言い聞かせ部屋を後にして二人が待つ居間へと急ぐ
「終わったよ!」
そう言いながら椅子に座るサンおじちゃまの膝に飛び乗り抱きつき、顔を見上げると何故か奇妙な顔をしていた。
「どうしたの? お片付けは終わったよ」
「その頭の白い物は何ですか!?」
どうやらハクを見て驚いたらしい
「レイカの妹になったハクよ」
「珍しい…白い猿なんて初めて見ました。 最初は可愛い髪飾りでも付けているんだと勘違いしてましたが」
おじちゃまはハクをレイカの頭から剥がし、掌に乗せてしげしげと見詰めているがハクも大人しくジッとして初めて見るおじちゃまに怯えてはいないようだ。
「ねぇー ハクもファン様のお屋敷に連れて行っていい?」
「良いですよ。ファン様も珍しい物が好きですし、大人しい子のようですから大丈夫でしょ」
「やった!」
ハクはレイカにべったりで置いて行くのは心配だった。母様にも慣れているがレイカが一番好きらしく離れようとしないのだ…今もサンおじちゃまの手から直ぐにレイカの頭に戻りへばり付く、本当に可愛い妹みたい
「兄さん、そろそろ行かないとファン様達が首を長くして待ってるんじゃない」
母様が急かすように言う
「そうでしたね、それじゃあ行きましょう」
レイカを抱いたまま立ち上がり、袖口から取り出した黒い玉を出し壁に投げつけて割ると瞑道の入り口が開く
瞑道はファン様が使える神力の一つで場所と場所を繋ぐ狭間に穴を開ける術で、その神力を練り玉にした物が黒い玉だった。
「行って来ます! 」
「レイカ、袋を忘れているよ。 それとこれを持って行って」
母様から渡されたお重から甘い美味しい匂いがする。
「何これ」
「新作のお菓子だから、ファン様達と食べてみて」
「わぁ~い」
遠い国から来たらしい母様の作るお菓子は美味しい物ばかりで、ファン様も食べた事がなく珍しい物ばかりだと言っていた。
一度だけ遠い国って何処にあるか聞いたけど母様も場所が分からないくらい遠い所としか教えてくれない…そこでは黒い髪の人間が大勢住んでいて普通なんだって…良いな~
レイカはこの黒い髪が嫌いでは無いけど街に行くと物珍しげに見られるし、学問所ではからかわれるから少し鬱陶しい…黒い髪の人間が増えればいいのに
ファン様は人の姿や色も変える神力も持っているので、王都中の人間の髪を黒く変えて欲しいとお願いしたら…「出来ますが長時間は無理です」と断られたので諦めた
でも自分の髪の色を変えるのは絶対に嫌
きっと母様が悲しむから
「それじゃあ行って来まーす」
母様に挨拶をしてサンおじちゃまと瞑道を潜る。
「行ってらっしゃい」
手を振り見送ってくれる母様を振り返りながら、真っ暗な瞑道を行くとハクが体を強張らせ緊張したようだが暴れずジッとしている。
「本当に大人しく良い子ですね」
「うん! 学問所にも連れて行って良い?」
「それはいけません。学問所は勉強する所ですし他の子達が良く思わないでしょう」
「友達に見せたかったのにー」
「レイカ、あそこの子供達は貧しい家の者が殆で、動物を飼っているなど妬む子もいるのですから分かってください」
「は~い」
大勢いるとは厄介だ、優しい子もいるけど意地悪な子もいる…いろんな子がいて複雑で難しい、結界の家は優しい母様しかいないから大違いだ
明るい出口が見えて来て光の中に出ると其処はファン様のお屋敷の中だ
ファン様のお屋敷は凄く立派で広い庭園には色とりどりの花が咲き小さな山や川まで流れているので其処を駆けまわるのが大好き、豪華な食事も食べれるけど一つ難点がある
それは直ぐ分かると思う…
豪華な部屋に出た途端女の人達の声が出迎える。
「いらっしゃいませレイカ様! お待ちしておりました」
「今日は桃色の可愛い衣装を御用意しましたから、きっとお似合いになります」
「あら! 私が用意した白の方が似合います」
そしてサンおじちゃまから引き離される
「「「 さあレイカ様着替えましょう 」」」
ヒョイッと侍女さんにおじちゃまの腕から取り上げられる
「ひぃぇ~」
侍女さんに抱っこされながら、恨めしそうにおじちゃまを見やれば、気の毒そうに見送るばかりで何時も助けてくれない
連れ込まれた部屋は衣装部屋のようなところで、レイカの服が所狭しと並んでいて其の殆どが一度しか袖を通していない物ばかり…ハッキリ言って勿体ない
「さあ此方に御座り下さいレイカ様、髪を結って差し上げます」
レイカは今だ此の侍女さん達に逆らう術は無いので大人しく従い、着せ替え人形になるしかないのだ…小さい頃はレイカも楽しかったが貧民街の暮らしを知って変わった
侍女さんが髪を結おうとして漸くハクの存在に気付く
「まー 面妖な髪飾りと思いましたら、白い子猿!?」
「ハクて言うの、レイカの妹よ」
ヒョイと頭から剥がして侍女さんに見せてあげる。
「小さくてなんて可愛らしい」
「白い動物は吉祥の兆しと言います。きっとレイカ様に良い事が起こるはずですわ」
「レイカ様がハクを抱く姿は壮絶な可愛らしさ、今日のお召し物は白より桃色にしましょう」
白い動物は吉祥と聞き嬉しくなるが…その後は髪を結われたり衣装を何着も(桃色でも数着用意していた)着せられげっそりとしてしまう。終いにはハクにも花の髪飾りが付けられ嫌がると思ったが大人しかった。
まるでお姫様のように着飾られた姿をうっとりと見詰める侍女さん達
「「「 壮絶に素敵です!!! 早速ファン様にお見せしましょう 」」」
そして何時ものように引きずられるようにファン様の部屋に連れていかれる。
屋敷の一番奥にある大きな扉を開けると優雅にお茶お飲むファン様がいる。侍女さん達も綺麗だがファン様は特別綺麗なお姉さん、金色に輝く髪を何時も高く結い上げ宝石や造花で飾られ眩いばかりだが、美しいい空のような瞳や薄く形良い唇に引かれた紅の色艶やかで人間離れした美しさだが何処か作り物めいていた。記憶にないが物心ついた頃は怖かったらしく顔を見る度泣いてたらしい、今はとても優しいのは知っているから大好きだ。
ファン様の前に行き恭しくお辞儀をして可愛らしい声で畏まり挨拶をする。
「 御機嫌ようファン様、今日もお邪魔さて頂き有難うございます 」
「ようこそお出で下さいましたレイカ様 本日も我が家のように寛いでお過ごしください」
「はい」
お互い堅苦しい挨拶が終わるとレイカは先程までのお淑やかさは何処へやら…ファン様の膝に飛び乗る
「ファン様! レイカの妹を紹介します」
「まー アオイ様は何時の間に御出産なさいましたの?」
「違います~ この子です!ハク出ておいで」」
髪は綺麗にして貰ったのでハクを頭に乗せるのを侍女さんに止められ、懐を緩くして貰い其処に入れている。呼ぶとヒョッコリと胸元から顔を出して這い出しレイカの肩に乗る。
「ハク、ファン様に挨拶して」
「キッキィー」
冗談で言ったのに本当に挨拶するように鳴いたので驚いてしまう
「ハクはレイカの言葉が分かるの?!」
「キッ」
まるでハイと言ったように返事をする。
「小さいのに賢い猿のようですね。しかも吉祥を顕す白き獣、善き従獣になるでしょう」
「従獣? 違うよファン様、ハクは妹」
「そうでしたね、年を取ると物忘れが激しく困ります」
ファン様は時たま自分の事を凄く年寄りのように言う不思議な人
それから結界の家での事など色々話しているとお茶の用意と母様が作ったお菓子を持って侍女さん達とサンおじちゃまがが入って来た。
「ファン様、アオイ様がお作りになったお菓子をお持ちしましたお茶にしましょう」
「わぁ~ぃ、 レイカも初めて食べるお菓子なんだって」
侍女さんがお菓子の皿とお茶を並べて行くと、卓の上に出されたのは丸い茶色い物で、決して見栄えの良いものでは無い素朴な感じ
「揚げた麺麭のようですね?」
先ずファン様が一口食べる
「!!」
そのまま無言で食べるファン様を見ながら皆も食べ始めると全員が夢中で食べ始め、あっと言う間に間食する
「此の中に入っている茶色い甘い物は何でしょうか?」
「ファン様、私にも分かりませんがこの様なコクのある上品な甘さは初めてですわ!」
「麺麭の中に入れ油で揚げる事によって美味しさが引き立っております」
「このような斬新なお菓子は初めて…この上ない至福」
「レイカ、もっと食べたい!!!」
その言葉にファン様の目がキラリと光る
「まだ有りますか?」
「はい、今取って参りますのでお待ちください」
そう言って侍女の一人が取りに行く姿を見てから次にサンジュンロンに目を向ける
「サン、 明日アオイ様の下に行ったついでに此の調理法をお教え願いなさい!」
「はい、分かりました。ファン様」
鬼気迫る迫力に怖気づく
「このような美味しい菓子が食べれるなら、長生きするものです」
しみじみと呟くのだった。
それから残りのお菓子を楽しみ、侍女さんに遊んで貰ったり賑やかに夕飯を食べて楽しい時間を過ごすレイカだった。そして明日は学問所に行く日なので早く床についた。
レイカとハクが客間で寝静まった頃、ファンニュゥロンは侍女達と話しをしていた。
「あの白い猿はレイカ様によって隷属の術が施されていました」
「はいファン様、レイカ様にお聞きしたところ指を吸わせた時噛まれたようです」
「レイカ様に神力が無いのに奇妙な話…」
「矢張り何か特別な御子様なのでしょうか?」
深く考え込むファンニュロンは次の質問をする
「レイカ様の龍石に変わりは?」
「お着替えの時拝見しましたが以前の石のまま」
「何の力も感じません」
「残念ながら普通の人間の御子様にしか見えません」
「しかし、レイカ様は不思議な御子様なのは変わりません…これからも確り見守りましょう。何れどこぞの龍族に嫁する事も考え教育するのです」
「「「 仰せの通りに 」」」
レイカ様は龍王の血を引く者、人間として一生を終わらせるのは龍族の血を守る者として見過ごせなかった。母親であるアオイ様は望んでいないであろうが、街でレイカ様が生活するようになった時、選定した龍族の若者を近づけるのを画策しており既に適任者は選んであった。
後はレイカ様の成長を待つだけ、人間の生涯は龍族にとって一時にしか感じず十年など一瞬だ…
「アオイ様…お許し下さい」
優しい王妃に心で詫びるファンニュロンであった。
*補足
後宮 龍王の正妃や側妃の住む奥宮だが現在は表向き誰も存在しない為、閉ざされている。
ファンニュロン―――後宮の影の主で小府(龍王の私財や直轄領地の管理、後宮の管理を行う府)の長官で謎多き龍族の女性だが青龍国で一番長寿 金髪碧眼美女
侍女3人―――ファンニュロンに昔から使える妙齢の美女達で話好き、いずれも金髪だが瞳の色は青、紫、緑の龍族の女性だが名は無い
サンジュンロン―――小府の文官でアオイが兄のように慕う龍族の青年だが体に秘密がある。現在は中央軍大将軍フェンロンの伴侶
龍核―――龍族の体内にある玉で神力と命の源で大きさによって力が決まる。
龍石―――龍族が死んだ後に残された龍核が石化したもの
龍族が死ぬ時は老衰と首をはねられた時のみだが、老衰の場合徐々に体から龍核が抜けだし全てが抜け落ちた時死を意味し抜け落ちた龍核が石化した時死ぬ。 一方首を落とされた場合は龍核が消失し人間として死ぬ事を意味し不名誉な事とされている。