危険な皇子様達 その5
朝の支度を一人で済ませフォンフー様を起しに行くと部屋の前でインフー様と出会ってしまう
「お早うございます。レイカ」
「おっお早うございます。インフー様 /// 」
何とか挨拶するけれど目を合わせられない、前まで普通に挨拶出来たのに今朝は恥ずかしい
「どうしたんですか? 顔が赤いですよ……!! 熱があるんじゃ」
勘違いしたインフー様が慌てて私の額に手をやろうとするので思わず避けてしまう。
「レイカ?!」
「大丈夫です! 私は朝食の用意を見てきますからフォンフー様をお願いします」
私はインフー様を振り返る事無く廊下を急いで歩き角を曲がると立ち止まり息を整える。
如何しよう普通に出来ない!!!
今までどうしていたのさえ忘れてしまったようだ
どうしよう……きっとインフー様は変に思ったに違いない
べつに直接インフー様に好きと言われた訳でもないのに、でもどうしよ……インフー様に好きだって言われたら
キャァーーーーー ///
男の人に好きなんて言われた事は一度もないのでドキドキしてしまう
私どうしちゃたんだろう?
朝食の間も微妙な雰囲気が漂い気まずい中、フォンフー様が口を開く
「インフー 明日田舎に帰るから出立の用意をしろ」
「帰られるんですか」
「ああー 用は済んだからか王宮にもう用は無い」
「分かりました。それでは早速そのように致します」
そしてインフー様が立ち上ろうとした時に慌ただしい足音が玄関から聞こえそのまま食堂の扉が開かれる。
バン!
現れたのは五人の男達で私達は突然の侵入者に驚くき、中央の人物が誰であるか知った時私は怖くて震える。
フォンフー様とインフー様も驚いて立ち上がるが、若干フォンフー様の顔も青ざめているようだ
「お早う、フォンフー 朝食中だがお邪魔するよ」
フォンフー様は直ぐさま猫を被る。
「兄上、お早うございます。先日はお見送りもせず申し訳ありませんでした」
私は第三皇子様から目が離せない、皇子様の体には相変わらず黒い嫌な物が纏わり付いている様な圧迫があり気持ち悪いく、椅子から立ち上がるけど立っているのが辛い
「いいのですよ。私もフォンフーを怒らせるような事を言ってしまいました」
「ところでこのような朝早くに何の御用でしょう……」
「暫らく王宮を空けている内にフォンフーが戻っていたんなんて知らずに勿体ない事をしたと後悔したよ。だから早く可愛い弟の顔を見に来た」
「お忙しい兄上自ら来ずともお呼び下されば良かったのに、どうぞ客間の方へ移動致しましょう。インフーお茶の用意を」
「はい、フォンフー様」
フォンフー様に促され第三皇子様達はリビングに移動して行き姿が見えなくなると力が抜けるように椅子に座り込む。
「気分が悪いのですか」
フォンフー様が遠慮がちに聞いてくる。きっとさっき変な態度を取ってしまったせいだろう
「ゴメンなさい……少し休んでもいいですか、お忙しいのに」
「いいですよ。侍女もいますしレイカは先日倒れたばかりですからフォンフー様も許して下さいます」
少し垂れ目がちな目を更に下げて優しく微笑む優しいインフー様の言葉にホッとする…
「有難うございます」
第三皇子様とあまり一緒の部屋に居るのは嫌だけどフォンフー様も気になる。
なにしろ私を使って寝首を掻こうとしている相手
だけどあの皇子の神力を奪うのは生理的に嫌かもしれない……だって気色悪い
今のところフォンフー様に何かしろとは言われていないので部屋で大人しくしていようとハクの待つ部屋に行くのだった。
部屋に戻ると私の寝台の上でまだ寝ており、私をあの黒い闇から守る為に何かしらの力を使ったのかもしれない
ハクを抱き上げ膝に乗せる。
白いフワフワの毛を優しく撫でると心が解れて行き第三皇子様に害された気分も落ち着く
だけどハクは既に一日半以上も飲まず食わずで体が弱らないか心配
「こういう時に神力を取り出せたらいいのに……少し試してみようかな」
そう言えば神力を食べるばかりで取り出す事を妖獣の森以来試していないのに気が付く
神力を感じる事を出来るようになったんだから出来る様な気がする。
瞼を閉じて自分の中にある瞑道を感じ神力の光を探し出すように想像すると瞼の裏に光の渦が見えて来る…それはまるで神力が生きているかのように渦巻きながら球体を模って光り輝いていた。
これが私が集めた神力?!
そこから道を開き掌をハクの体に当てて神力を少し流し込んで見ると掌に温かさを感じるとハクの体がピクリと動くのを感じた。
「ハク!?」
「キッキー」
目を開けるとハクが体を起しており、直ぐさま私の肩に乗り頬を舐める。
ペロペロ
「良かった、ハクがこのまま起きないかと思って心配したんだよ」
『 レイカ 力ヲクレタ 元気ナッタ 』
「話しても大丈夫?」
『 力 イッパイ 話セル 』
「ハクは第三皇子様に纏わり付いている嫌な黒いものは何か分かる」
『 ハク 知ッテイル アレハ 崋山ノ悪イ神様 』
「崋山って天帝様が住んでいる山だよね」
『 ソノ山 悪イ神様 危険 』
「一体どういう事? 皇子様に悪い神様が憑いちゃったの」
『 少シ違ウ 難シイ ヨク分カラナイ 』
「皇子様はこのままだとどうなるの?」
『 ヨクナイ事ガ起コル 』
もう少し詳しく聞こうとすると扉の外から声が聞こえて来る。
「レイカ様、フォンフー様が直ぐに居間に御出で頂くようお呼びです」
どうやらフォンフー様はインフー様のように思いやる心が少ないようだ……分かっていたけど
「はい、今行きます」
あの皇子様と会うのは気が進まないけど仕方が無いだろう
『 ハクモ行ク 』
「悪い神様に何かされない?」
『 大丈夫 』
ハクを肩に乗せて客間へと向かうと扉の前には屈強な護衛兵が二人達がフォンフー様の屋敷なのに我が物顔で立っており、側に来た私をジロジロと見て来て嫌な感じがする
私はニッコリと微笑みながら声を掛ける。
「フォンフー様に呼ばれて参りました。通しくださいませんか」
「ああ 通るがいい」
もう一人の若い護衛兵が扉を開けてくれるのでお礼を言う
「有難うございます」
「アッ いや~ /// 」
後ろ髪に隠したハクは見咎められるかと思ったけど難なく部屋に入れホッとする。
中に入るとフォンフー様と第三皇子様が向かい合って椅子に座りお供の人は後ろに立って控えており、インフー様もフォンフー様の後ろに立っており私が入ってくると一斉に視線が集まる
ヒィ~~ 皇子様見ないでと言いたくなるけど我慢
「レイカ、此方に来て兄上に挨拶しなさい」
フォンフー様の言う通りに第三皇子様の近くに行くと圧迫感と不快感が増す。他の皆は何も感じないんだろうか
『 レイカ モット 近ヅイテ 』
( ハク?? )
ハクは何かする心算???
間近で見る第三皇子様は今まで会った皇子様達の中でも群を抜いて美形だ。濃紺の美しい髪を一糸乱れず後ろで結び精悍な顔には意志の強そうな切れ長な目に収まる黒に近い紺色の瞳が私を見た時背筋がゾクリとする
う~~ 嫌だけど我慢
皇子様の側で膝を着き胸に手を当て礼を取り皇子様を見ないように深く俯く。
「先程は挨拶もせず申し訳ありません。フォンフー様の侍女をしているレイカと申します」
「そなたが噂の少女…確かに珍しい黒い髪、以前フォンフーの屋敷で見かけた時は幻かと思ってたが本物であったか。瞳は金だそうだが面を上げなさい」
うっ…… やっぱり視線を合わさないといけないよう
顔を上げると麗しい皇子様の顔が目の前にあり、普通の少女なら見惚れてうっとりするだろうけど私には気分が悪くなって来る。
「成程、これは見事な金色…まさに天帝様の色。 他の皇子達が魅了されるはずだ」
皇子様が私の顎を取り更に覗きこもうとした時
『 レイカ 力ヲ アノ黒イ気ヲ ハクニ 頂戴 』
( エッ!? そんなの出来ないよ!! )
『 大丈夫 』
あの気持ち悪い気を取り入れるのは気が進まないけど顎に触れる第三皇子様の手に纏わりつく気を吸い取るとまるでそれを待ち受けていたかのように一気に傾れ込んで来るが肩に乗るハクが全て吸い取って行ってくれるのが分かる……だけど一時とはいえ体を通過する時のおぞましさに顔が青ざめるのが自分でも分かる。
ひぇ――― 嫌ーーーー
「顔色が悪いね、かなり緊張させてしまったかな?」
皇子様が手を離してくれるとフォンフー様がインフー様に言う
「インフー レイカを部屋に連れて行きなさい」
「はい」
インフー様が急いで私の側に寄って来て突然抱き上げて横抱きにする。
「キャァ!! /// 」
まさか抱きあげられるとは思わなかったので驚き、真っ青な顔が瞬時に真っ赤になるのが自分でも分かる。しかも沢山の人の目の前で恥ずかしく感じる。以前は感じなかったのに何故だろう?
「皇子様の目の前で申し訳ありません。レイカは気分が悪い様なので失礼させて頂きます」
「いや、私が無理をさせたようだ。休ませてあげなさい」
皇子様の了解を得ると足早に客間を辞して廊下に出ると護衛の人が目を見開いているのが見え恥ずかしい
「インフー様 もう大丈夫ですから降ろして下さい」
「大丈夫ですか? さっきは倒れてしまいそうなほど真っ青でしたけど」
私をそっと降ろしてくれる。
「有難うございます」
お礼は言うけどヤッパリ恥ずかしくって目が合わせられ無い
「どうしたんですか……今朝から私の顔を見てくれませんね… 私は嫌われたのでしょうか」
寂しそうに呟くので慌てて否定する。
「ちっ違います!! チョッと恥ずかしいだけなんです」
「恥ずかしい??」
まさかフォンフー様からインフー様が私を好きだと聞いて意識してしまっているなんてとても言えない
「うっ~~~ はい…… 」
「それは… 私が仮初とは言えレイカの婚約者になっているのがですか…… 」
????????
恥ずかしいと言う言葉を何故か曲解してしまっている? 何故????
「っちっちっ違います!!! 私よりインフー様の方が私みたいな子供が相手で嫌じゃないんですか…… 」
「私は嬉しかったですよ」
「えっ! /// 」
「レイカのような綺麗な子と本当に婚姻を結べたらと毎日思っていましたから」
「あっ」
手を引き寄せられインフー様の掌に包まれ真剣な目で見詰められる。
「今さらなんですが、レイカが許してくれるなら……婚約者でいさせて下さい」
「でもインフー様…… 私は母様を助けたいの、だから絶対龍族にならないといけない それにインフー様の事は好きだけど婚約とか婚姻なんてよく分からない……」
正直な自分の気持ちを言う
「それでいいですから、レイカが龍族として目覚めるまで私の側に居て下さい」
そんなんでいいのだろうかと思いながらも、インフー様の言葉で思わず頷いてしまう
「はい インフー様 」
「レイカ 」
「ウキッキ―」
「「 ハク! 」」
突然ハクが私の頭に飛び乗るので二人ともビックリしてしまい、さっきまでの雰囲気が壊れはっとしてしまう
「 /// 私は皇子様がまだいらっしゃるので戻りますね」
慌ただしく戻って行く後ろ姿を見送りながら今だ動悸が止まらなかった。
『 レイカ 顔赤イ 』
( そんな事言わないで、恥ずかしいでしょ!! )
『 ? 』
( それよりハクの体大丈夫なの?? あんな気持ち悪いも体に入れちゃって…… )
『 ウン 悪イ神様 ノ 気ハ ハク ノ 力 ニナルノ 』
( えっ! どうして??? )
『 同ジ 仲間 』
( ハクは悪い神様だったのーーー !!!! )
『 良イ神様 悪イ神様 二 ナッタ 悲シイ 』
ハクの話はいまいち要領を得ないので私には分からないのでフォンフー様なら分かるかもしれない
後で相談しよう
インフー様には私の力は秘密にしているので話せないし、もしこの力を知ったらどう思うんだろう
怖い子だと思われたら悲しい……
改めて自分の力が異質なのだと気付き、立ち竦むのだった。
まさか会いに来るとは思わなかった。
こいつが接触して来る前に帰るつもりだったのに失敗した。
目の前で優雅にお茶を飲む姿を忌々しく、睨みつけたいが奴の後ろには側近が控えており猫を被るしかない。
それよりレイカは大丈夫か
こいつがレイカを見たいと言うので出させたが、レイカがこいつを見て怯え真っ青になっていた。他の皇子や王の前ですら怖気付かないふてぶてしい女が……どうしてだ?
こいつに何を感じたと言うんだろう
後で問いたださなければ
「 あのレイカと言う少女はどこの者なんだい? 」
どうやらこいつもレイカに興味を持ったようだ。このままレイカに魅いられれば俺にっとっては願ってもない事
「レイカは物心つかない内に誘拐されたのを私が助けたのですが、生憎人攫い達を全員殺してしまったので詳細が分からないのです」
「親は捜さなかったのかい?」
「あの容姿ですから直ぐ親が名乗り出て来ると思ったんですが誰も。 レイカの母親も黒髪らしいので殺されたかあるいは売られた後だったのかもしれません」
「あの娘の母親なら絶世の美女で噂になるだろうに」
「何処かの虎族が秘密裏に囲っているのかもしれません」
「成程、それは興味深い」
「御調べになりますか?」
そうだ、そのままレイカでもレイカの母親でもどちらか選んで俺の前から消えろ
「確かに黒い髪は魅力的だが、私にはお前の方が魅惑的だ」
「!!」
ふざけた事を言うので思わず全身に鳥肌が立つ
死ね―――――― 変態!
「兄上お戯れを…… それより今日いらっしゃた目的は何でしょう? いい加減お話し下さい」
側近がいる前で変な事はしかけて来ないだろうし、サッサと用事を済まして帰って欲しかった。
「そうだね、私も色々予定があるのでもっとゆっくりしたいのだがあまり時間が無い」
「私の事などお気になさらずどうぞ政務にお励みください」
「相変わらずつれない弟だ…… そなた達席を外し誰も入れないようにしなさい」
「「「 はっ 」」」
側近達は命じられると直ぐさま部屋がら出て行き二人っきりになってしまう
人払いをして内密の話とは考えずらい
このまま窓から逃げ出そうと立ち上がろうとすると奴の神力で体が戒められて、椅子に縛り付けられたように動かない
「くっ…… 放せ! 」
「私は今とても気分が良い。だが…あまり怒らせると酷い事するかもしれない」
奴は俺の側にやってくると体に覆いかぶさって顔が至近距離で迫ってくるが、抵抗も出来ず睨みつけるしかない
「王位に就けなかったのは残念だったが、私はより大きな力を得た。天帝が戻られれば直ぐに王位など就けるがそれまであの愚かな第一皇子は消す心算だ…そして私に逆らう全ての虎族は粛清しこの王宮全てを掌握するよフォンフーの為に」
「何が俺の為だ……己の欲望だけだろ!!」
「私の愛が分かってくれなくて辛いよ」
「父王が第一皇子を殺され黙っているはずがない!」
「我が父君は既に形だけの王、酒と女に溺れ政務を殆ど放棄された方。そして今や私の力を恐れる憐れな年寄りだよ」
こいつの言う通りなんだろう、このまま第一皇子を始末ればこの男が白虎国の実質の王と言っても過言でも無いのだ
「俺をどうするつもりだ」
「このまま王都に留まり私の側に居て欲しい」
全力で拒否したいが、抵抗すればするほどこいつは喜び俺を縛ろうとするのは経験上分かっていた……レイカの力はまだ完全では無く時間が必要だ
そう時間稼ぎが必要なのだ
「王都に今のまま居て、兄上の信望者達に虐め殺されろと言うのですか」
「大丈夫、私が守ろう」
「私は面倒な事に巻き込まれたくはありません。 兄上が白虎国の全てを掌握した時必ず王宮に上がりますからそれまで自由にさせて下さい」
諦めたような口調で願うように言う
すると驚いたように目を瞬かせてから俺の目を伺うように覗き込む
「少しは素直になったのか? まー 確かにこれから忙しくフォンフーに構う暇が無いかもしれない。 良かろう、寂しいがあの田舎で私の迎えを待っているがいい」
誰が待つか! 第一皇子に殺されろと思ったが無表情で通す。
「有難うございます兄上」
「素直なフォンフーも可愛い」
怪しい目つきになったと思うと奴の口が俺の口に食らいついてくる。
「うっぐぅぅ……」
そして奴の舌が俺の唇を割って差し込まれるが、抵抗するだけ無駄なので受け入れるしかない、俺の口内を犯し舌を絡ませ吸って来ると流石に感じてしまい
クチュリ… チュッパ… チュウ――クチュ
「はぁ…んん やぁぁ……んん…… 」
執拗に吸われ、そして奴の唾液が流し込まれ拒否したくとも体が言う事をきかない
そして散々口を合わされて最後に舌を軽く噛まれ痛みが走る。
「 ッ!! 」
そして口の中に血の味が少し広がるが、流れる血を美味そうに吸いつくと漸く口を離す。
チュップ……
「あぁーーー フォンフーの全てが私には甘い毒だ」
何が毒だ! それならサッサと毒に中って死にやがれ……心で毒づくが顔はあいつに与えられた快楽でだらしがなく弛緩しているだろう
そして、ぐったりと椅子に座り込むしかない俺に甘く呟く
「このまま閉じ込めてお前の全てを味わいたい……だが今はフォンフーを安心して迎え入れる為にも全てを掌握するのに全力を尽くそう」
そう言い俺の額に唇を落とし立ち上がり俺から離れて行くのを酸欠でボーとした頭で眺める。
「フォンフー 良い子で待ってるんだよ 」
最後にそう言い残し扉の外に去って行った。
扉が閉まった途端、漸く自由になった体で急いで口を拭う
ゴシ ゴシ ゴシ
きっと唇が真っ赤に腫れてしまうだろうが構わなかった
「くっそーーーー 何が良い子だ! 俺が何時までも無力な子供だと思うな……今にその喉元に噛み殺してやる!」
憎しみを新たにするが、今は反撃する為にも力を溜める事にするのだった。
もう王も第一皇子も当てにならないのだ
自分を守るにはレイカしかいないと改めて思うのだった。