危険な皇子様達 その2
翌朝、清々しい朝の朝食の時間に慌ただしく侍女がやってくる。
「朝食中申し訳ありません。今第一皇子様と第四皇子様の使いの者が文とこれを持って参りました」
そう言って二通の手紙と綺麗な花束と小さな箱がフォンフー様に差しだされる。
「なんだと」
怪訝そうに手紙を受け取り次々封を開けて中身を確認すると苦々しそうな顔をするので、インフー様が尋ねる。
「何が書かれているのですか」
「第一皇子は昼食の招待で、第四皇子はレイカ宛だ。全く面倒な!」
「レイカちゃんに!!」
「私?!」
「昨日の詫びだそうだ。 花と宝石を受け取れだそうだ…十歳のガキに何考えてるんだ?? それをレイカに渡せ」
侍女から花束と箱を受け取り、箱の中を開けると赤い石の付いた耳飾りが入っており高価だと分かる。
「フォンフー様受け取っていいんですか? 花はいいけどこの耳飾りはチョット」
「付き返したら怒鳴りこんでくるのが目に見えている。面倒だから礼の手紙でも送っておけ」
素っ気なく他人ごとのよう
「インフー様どうしたらいいですか?」
返事が無いので目線をインフー様に向けると何故か茫然自失している。
「インフー様?」
「ほっておけ。 それより第一皇子の使いは待たせているのか」
「はい、直ぐにお返事が欲しいようです」
「なら、レイカ共々お伺い致しますと伝えろ」
「へっ!?」
「承知致しました」
「フォンフー様どういう事ですか?? 何故私も第一皇子様の昼食にお呼ばれるんですか??」
「今、宮中で噂の美少女を見たいんだろ… まさか第一皇子まで出てくるとは、これで他の皇子達もこぞってお前に接触して来るのは確実だな」
「ヒェ~~ 冗談じゃありません、断って下さい!!」
昨日の皇子様だけで十分、しかも第一皇子様なんてとんでもない話
「そんな事したら不敬罪で斬首されるぞ」
「招待されたのはフォンフー様でしょ~~ 私は嫌です!」
「諦めろ。王宮での俺の立場は低辺だ」
「そんな事威張らないで下さい~~~」
どうやら私は第一皇子様と食事をしなければならないみたい
フォンフー様は当てにならないし、インフー様は落ち込んでいて話し掛けても上の空で私より衝撃を受けているみたいだ……何でだろう??
昼の時刻になり一応用意していた衣装を纏い、フォンフー様に言われて第四皇子様に頂いた耳飾りを着け、お姫様のように紗のベールを頭に着ける。 しかも薄っすらと化粧までされて全てが初めての事で戸惑う
我ながら凄く綺麗だと思うけど……これでは益々皇子様達の目を引いちゃう
とても嫌な予感が
フォンフー様は何を考えているんだろう
今回はインフー様は呼ばれていない為、フォンフー様と二人で第一皇子様の宮を訪れるがフォンフー様の屋敷がみすぼらしく思えるほど豪奢な建物
「流石第一皇子様の宮殿、低辺の第八皇子様とは違いますね」
「お前、不敬だぞ」
嫌みの一つでも言わないと気が済まない。まさかこのまま第一皇子様に差しだされたらどうしようという不安がある。
「私を売ったらフォンフー様の神力根こそぎ奪いますからね」
「フン 自意識過剰だ 十歳のガキにそこまで価値があると思っているのか。単に観賞したいだけだろ、出し惜しみせずお前の美しさを見せてやれ」
珍しく美しいと言われ思わず照れてしまう
「///はっ!! どうしたんですかフォンフー様が私を誉めるなんて」
「もう口を閉じとけ。 今からは許しが無い限り口を開くな」
「むぅー」
フォンフー様がそう言うと同時に玄関の扉が開かれ家令らしき使用人が出て来る。
「お待ちしておりましたフォンフー様 ディレフー様がお待ちしておりますので此方に」
家令に案内された場所は中庭で小さな池に噴水まである。
そして石畳の敷いてある場所にはテーブルと椅子がセットされており、中央には白い衣装を纏った美丈夫が座っておりその周りには着飾った美女が取り囲んでいる。
これがハーレムというものだろうか
何れも露出の激しい服は胸を強調しており豊満な胸を曝け出しており、フォンフー様の後ろから思わず凝視してしまう
凄い! どうしたらあんなに胸大きくなるの!! 私もあんなに大きくなるのかな?
フォンフー様はしずしずと第一皇子様の前に進み跪き両手を胸に当て頭を下げ、私も急いでそれに習って跪き同じ礼をとる。
「ディレフー兄上様お久しぶりです。今日は昼食にお呼び頂き有難うございます」
気持ち悪い!! 何時もの声より少し高めに話す姿は私には不気味に映りる。
第一皇子は横柄な態度でそれに答えた。
「うむ… 久しいのフォンフーよ。 堅苦しい席では無い…そなたも楽にするが良い」
「はい兄上様」
「後ろにいるのがそなた連れて来た侍女か ベールを外し面を上げさせよ」
「レイカ、ベールを外し顔を御見せしなさい」
「はい」
ゆっくりとベールを外すが顔は俯いたままにしておく、王族を直視してはいけないとインフー様に教えて貰った。
「おおー 本当に見事な黒髪、初めて見る。瞳は金だそうだなもう少しちこう寄れ」
フォンフー様に背中を押され仕方なく前に進み第一皇子様の前に行き恐る恐る皇子様をみる。
第一皇子様は昨日の第四皇子様とは間逆な感じの男らしい美しさの皇子様
髪の色は銀色の巻き毛、瞳は深い紫色をしておりアーモンド形で大きくギョロリとしており太い眉毛も男らしく口も大きめで全体的にハッキリした目鼻立ちの美丈夫で、体も大きく筋肉で盛り盛りの体が伺え少し苦手
皇子様は腕を私に伸ばし顎をとらえ上を向かせられるので視線が合ってしまう
なんだかギラギラした目が生理的に受け付けない
「まさに天帝様と同じ金の瞳、 人間でありながらこの色を纏うなどあり得ん事だ。お前の親は?」
この質問はある程度想定していたのでフォンフー様に言われたと通りに言う
「小さい頃に人買いに攫われたのをフォンフー様に助けていただいたので、覚えておりません。申し訳ありません。」
「出自は分からぬか… 後十年もすれば女として熟した時が楽しみだ」
ねっとりとした目で見つめられ、なぜか背筋が寒い……気持ち悪い
「これ程の美形はまたとおらぬ。フォンフー、この娘を私に譲らぬか」
フォンフー様の嘘つき! 十歳の子共にしかり目を付けてるじゃない
皇子様に見られているせいで不快な顔すら出来ず無表情でいるしかない私
辛い
「申し訳ありません兄上様。既にレイカは陛下のお許しの下、私の教育係のインフーと婚約をしております故にご容赦を」
えっえ~~~~~~~~~~~ 私とインフー様が婚約?????
婚約って結婚の約束をしているってことよね?? 知りませんよそんな事!!
「ほーう…… 良かろう今回は諦めておこう」
「申し訳ありません」
「今日の所は此の娘の顔を眺め食事を楽しむとしよう… 食事を持って参れ」
皇子様の合図で次々と豪華な食事が運ばれとても三人で食べきれない程の皿が並べられ、第一皇子様の気持ち悪い視線と後の美女軍団の痛い視線の中では美味しい料理も味わえず、会話も弾まないまま昼食が終わり食後のお茶が振舞われる。
「今日は私如きをお招きに預かり有難うございます」
「母は違えど兄弟だ、何の遠慮もいらぬ……それよりイェンファフーには会ったか」
「いいえ、まだお会いしておりません」
「お前を溺愛するイェンファフーが真っ先に現れそうなのに何故姿を見せないと思う」
皇子様が探るようにフォンフー様を見つめるので、漸く私から視線が外されホッとする
「私には分かりかねますが」
「イェンファフーは陛下に王位の譲渡を願い出たが認められ無かったようだ。 クックックックック 身の程知らずな奴だ、私を差し置いて出過ぎたまねをしたものだ」
「そんな事があったとは知りませんでした」
「それから王宮を飛び出し何処かに雲隠れしおった。愚かな奴だ」
「兄上様は父王に願いでないのでか」
「私か? 父王が健在の今は慌てる必要などないだろ。父王自ら譲るならば話は別だが」
「さようですね。兄上様なら立派に父王の跡を継ぐ事が出来るでしょう」
猫を被ったフォンフー様はおべんちゃらもお上手で私には滑稽で堪らないが、その一言で機嫌を良くする皇子様、結構単純なお方なんのかもしれない
それから、また私に視線を向け大人しく茶を飲む姿をじっとりと見詰める。
いい加減、勘弁して欲しいのだけど耐えるしかない
私より、後ろにいる美女の方が目で楽しめるんじゃないの? 男の人は大きな胸が好きなはず
「珊瑚の耳飾りをしておるな。婚約者かそなたが贈ったのか?」
耳飾りに使われている赤い石は海で取れる珊瑚と言う名前で真珠に次ぐ高価な石だと、インフー様が後で教えてくれ驚かされた。
「いいえ、ギィンフー兄上から賜わった物です」
「ギィンフーが… 何故だ?」
「昨日偶然庭を散策していたレイカとお会いになったらしく、その時レイカが怪我をしてしまったのを気に掛けられた優しい兄上が気遣ってくれたようです」
「あやつが優しいだと」
「そうだなレイカ」
実際は違うけどフォンフー様に合わせるしかない…何の思惑があるんだろう?
「はい 優しくして頂きました」
「そうか」
それから少し閑談をして漸く昼食会が終わり第一皇子様の宮殿を辞する事が出来たけど、とても疲れてしまいフォンフー様の後ろを無言で付いてくしかない
二度と皇子様なんかと食事はしたくないし、このまま田舎に戻りたいくらい…
そのせいでフォンフー様が立ち止まったのに気付かなくて背中にぶつかってしまう。
「ぶっ! フォンフー様急に立ち止まらないで下さい」
だけどフォンフー様は無言で前を見ているので、背後から前を覗きこむと昨日の第四皇子様がお供を大勢引き連れていた。
ひぇ~ まさかこんな所で会うなんて、昨日の今日で会いたくないのに~
「お久しぶりですギィンフー兄上」
先程とは違いかなり警戒した様子だ
「ずっと田舎に引っ込んでいれば良いものを、何を企んでおるのだ」
第四皇子様は第一声からフォンフー様に辛らつな言葉を投げかける。
「いいえ、久しぶりに父王と母に挨拶がてらに顔を見せに来ただけです」
それを気にする風でも無いフォンフー様
「生根の腐ったそなたがそれだけで王宮に戻るなど誰が信じる」
「本当にそれだけです。それより今朝、私の侍女に多大なお品を頂きありがとうございます。レイカそなたからも兄上に礼を申し上げよ」
そう言い私を背後から引きずり出す。
嘘~! 二度と会いたく無かったのに!!
だけど仕方が無くお礼を言うことにする…だから贈り物なんて欲しくも無いのに相手が皇子様なのでどうしようもない
第四皇子様の前に進み出て跪き礼をとる。
「第四皇子様 私めに過分なお品をお与えくださりありがとうございます」
「おおー さそっく着けたのか! 私が見立てだけあって良く似合うぞ」
「ありがとうございます」
第一皇子様だげでお腹一杯なのに、次は第四皇子様なんて…まさか続々とこのまま五・六・七なんて事にならないか不安になる。
「まー 此方が噂の侍女ですの…まだ少女ではありませんか」
女の人の皮肉な声の方を見ると水色の髪に赤い目をした眉目秀麗な女性が皇子様の腕に自分の手を絡ませ縋り、親密さを見せつけているよう
そして、憎々しげに私を見、蔑んでいるのを隠そうともしない
この女性とは初対面だけど多分虎族の女性、私が人間だから嫌いなんだろうか?
「だがこの黒髪に金の目、まるで夜空に煌めく月のよう…これ程稀有な色は無い」
「酷いですわ、私の前でそのように他の者を誉めるなど。 でも所詮人間…精々美しいと言えるのも後二十年余り憐れなものです」
勝ち誇ったように女性が言うと、皇子様は鬱陶しげに腕を振り払う
「興ざめだ、そなたは黙っておれ」
「!! 申し訳ありません……」
女性は第四皇子様に窘められ顔色を青ざめさすが次の瞬間私を射殺さんばかりに睨みつける。
ヒィ~~ 何で私が恨まれるの???
「どうだ、フォンフー。 私にこの少女を譲れ」
しかも先と同じ展開
「それは無理です兄上、レイカは私の教育係のインフーと陛下の許しを得て婚約を済ましております。」
「なんだと!」
「昨日父王にお会いした時に許可を頂き五年後インフーが成人した折に婚儀を挙げさせる予定です」
まるでまことしやかに言うのを唖然と聞く私
第一皇子様の時は冗談だろうと聞き逃したけど、今はとても冗談に聞こえない……だけど今の状況では反論を口に出来ず黙っているしかない
「レイカの美しさを二十年あまりで散らすのはあまりに惜しく思い、インフーもレイカと添う事を了承してくれましので」
「クッ…… おのれフォンフー……」
「昨日兄上はお倒れになったとか、あまり御引き留めしてはお体に触りますので私共はこれで失礼します」
私の手を引き足早にその場を離れるが、後ろからの突き刺さるような視線を幾つも感じ背筋がぞくぞくする。
フォンフー様の離れに戻るまで他の皇子様に会うんじゃないかとビクビクしながら戻り、幸い誰にも会う事無く戻れホッとしたのだった。
なんとも疲れる一日だったが、あいつが王宮に居ないという情報は有り難かった。
屋敷に戻る道すがら色々な思いが巡る。
第一皇子は何故あいつが王位を譲られなかった理由を単にあいつの力不足と判断し天帝の不在を知らされていないようだ。やはり父王も第一皇子を次期虎王としては考えていないのだろう……だが俺にとっては第一皇子の方が都合がいい。
なにより俺になど興味の欠片も無い男だからいいのだ。
今回の昼食に呼ばれるなど初めて事で、明らかにレイカ目当てなのは分かり切っていた。しかし奴の好みは胸の大きいケバイ女なので、レイカなど一目見れば興味を失くすと思ったのだが…寄こせとは……咄嗟に嘘を言ったが惚けた父王なら口裏ぐらい合わしてくれるだろう。
そして予想通り、第四皇子もやって来たのは笑える。
十歳のガキに何をトチ狂っているんだ、白虎国でも五指に入る虎族の姫を側に侍らせておいてレイカから視線を外さない。
インフーとの婚約の話をした時の悔しそうな顔、長年の溜飲が下がる。
少しやりすぎたので何か仕掛けられない内に、早々に王都を離れた方がよさそうだ。それに他の皇子達まで来ては面倒。
横を歩く疲れた顔のレイカを改めて見やる。
確かに美しくこのまま成長すれば白虎国一の美貌になるだろうが、俺にはそう言う対象には見れない。
第一に十歳のガキ
インフーにしろあいつ等にしろ大の大人が子供に邪まな目を向ける方が信じられない
「なんですかフォンフー様、気持ち悪いのであまりジロジロ見ないで下さい」
しかも生意気だ
「どうなんだ皇子達にモテル気分は?」
「最悪です」
「どうしてだ? 二人とも容姿も地位も申し分ない男達。 女なら嬉しいものではないのか?」
「綺麗な人なんて、これまで幾らも見てますから特別何かを感じるなんてありませんよ。しかも第一皇子様は生理的に受け付けられないですし、第四皇子様はフォンフー様より性格の悪さが際立って無理!」
「凄い言いようだな… それではお前がこれまでで一番美しいと思うのは誰だ?」
自分と言いそうな気がして、その時は思いっきりこきおろしてやろうと思っていたが違った。
「母様!! この世で一番綺麗なのは母様です」
「確かにお前の母親ならさぞ美しいだろうな」
やはり子供…色気づくのはまだ早いようだ
「それより私がインフー様と婚約しているなんて嘘をついて大丈夫なんですか? 私はまだ十歳なんですけど」
「心配いらん。奴らを牽制しただけ、虎族の婚約にしろ結婚は虎王の承認が無ければする事も出来ない。そして認められれば誰も花嫁、花婿の権利を奪う事は出来ない…例え王族であろうとな」
「でも私はまだ子供ですよ」
「虎族など産まれた時から許嫁がいて当り前、さっきお前を睨みつけていた虎族の女がいたろ、あの女はギィンフーの許嫁だがあの女が生まれた時に婚約が結ばれた」
俺にも嘗ては居たらしいが、あいつに潰されたが皮肉にも唯一感謝した事
「婚約者の前で私を寄こせって言ったの! 酷い」
「強い虎族は正室の他に愛人を何人も囲うのが普通、しかも王族であれば正室と言えども夫が何人も愛人を持とうが口出しできない」
「最低! 絶対虎族の人となんか結婚しない」
誰もお前を正室に求めている訳でなく愛人にしようとしていると言おうと思ったが、五月蠅そうなので止めておく。
「それより、今日からお前はインフーの婚約者になって貰う。他の皇子の下に行きたくなかったら分かったな」
「は~い」
インフーが仮初でもレイカの婚約者となれると知ったらどんな反応を示すのかと思うと今から楽しみだ。
だがある意味危険な役を押し付けたかもしれない…
欲しいものは手に入って当り前の奴ら、これから益々美しくなるであろうレイカを目の前にして黙って見ているだろうか?
インフーが不慮の事故で死なない事を祈ろう