希望
勉強が終わり漸くインフーから解放され、早速あのガキを見に行く事にしたが何故かインフーもついてくる。
「何だお前もあのガキに興味があるのか?」
「得体の知れない子供をフォンフー様お一人で会わす訳に参りません」
「好きにしろ…」
何か特殊な事情があるにしろ人間のガキに虎族の俺が遅れを取るはずがないのに心配症だ
屋敷の一番端にある客間に行き部屋に入ると寝台に横たわる小さな体があり、まだ目を覚まさないようだ。そしてその寝るガキの顔に張り付くように白い子猿がへばりついている。
「キッキィ~」
このガキが余程心配なのだろう
確かこのガキはこの猿をハクと呼んでいたはず。
「ハクこっちに来い、お前の飼い主を診てやるから」
すると素直に俺の方にやって来て肩に乗って来て大人しく留まる。全く可愛い奴だ俺が飼いたいぐらいだがこの飼い主をかなり慕っているので無理だろう。
ガキの顔を見ると泥は落とされたが顔中擦り傷がありおでこと鼻の頭が真っ赤に腫らし、泣いた所為で顔全体が浮腫んで瞼もパンパンに腫れていて、本気で不細工だ
だが黒い髪は風呂に入った後の所為か艶やかに光って美しいかった。
「もう少し可愛ければな…助けがいがあるんだが」
「フォンフー様、女の子にそのような事を言ってはいけません! 傷や顔の腫れが引けば少しはマシになるはずです」
庇っているのか貶しているのか微妙な事を言うインフー
確かにこれが素顔と言う訳でないだろうと思うと元の顔が見たくなる。
「それじゃあ神力で手当てして素顔を拝んでみるか」
あまり期待せずにガキの顔に手を充てて神力を流し込んで行くがなかなか傷が治らず顔の腫れも一向に引かないままである。
「??」
「フォンフー様何をなっさてるのです? いくらこの子が可愛くないからと言って神力を出し惜しみするのは酷いですよ。 私がやりますのでお代り下さい」
「別にそういう訳ではないぞ…」
取敢えずインフーに代わる事にし、ガキに神力を与えるインフーとガキを観察するが矢張りガキの傷は一向に癒えない。しかしインフーは意地になったようで躍起になって神力を与え続けるが何も変わらなかった。
「もう止めろ」
「はい… これは一体どういう事でしょうか?」
信じられないように茫然とガキを見る俺達
全く奇妙なガキだ
「おいハク、お前の飼い主は何者だ?」
「キッキー」
思わず肩の猿に問いかけてしまうが、何故か得意そうな鳴き声をあげる。
そこへ侍女頭が医者を連れやってくる。
「フォンフー様此方においででしたか、今この子を診てもらうのにお医者様を連れてまいりました」
「そうか、早速診せろ」
「はい」
医者は俺達の前を緊張しながら通り過ぎガキを診始める。
最初は髪の色を見て驚いたようだが、直ぐに冷静に触診をし始め服の前を肌蹴させるとそこには確かにへそが無いが、それより色の白さに目を奪われる…白いと言っても真珠のような淡い温かみのある色で胸に薄桃色の小さな乳輪が見え何故か見てはいけない物を見ているようで思わず横に顔を背けると、顔を赤らめるインフーが居た
「お前…ガキの裸を見て何故赤くなってる」
「ちっ違います! 疾しい気持などありません!!」
より一層否定する姿が怪しすぎる。
「お二人ともお静かにお願いいます」
侍女頭が嗜めるように言われ静かにするしかない
簡単に診察を終えた医者は是と言って怪我もなくただ気を失っているだけだが、唇も割れかなり水分を失っているから直ぐに水分を取らせれるよう注意され、顔は少し冷やした方がいいとのことだった。
そしてこのガキの事は一応他言しないよう脅しておく
「いいか、このガキの噂一つ聞いてもお前の首を斬るぞ。分かったな」
「ひぃー! わっ分かり申しましたー」
と何度も頭を下げて急いで帰って行った。
「それでは私は飲み物と顔を冷やす物を用意して参ります」
侍女頭が出て行くと二人で子供を見やる。
「このガキは何処の国の人間か分かるか?」
「多分、隣国の青龍国だと思います。 着ていた服も青龍国の様式ですし恐らく龍族の庶子が妥当だと思われます」
「そうか」
インフーの言葉を聞きながらガキの首にある首飾りを手にしようとした途端ハクが怒りだした。
「キッーーーーー!!」
肩から飛び降り手に噛みつこうとするので思わず振り払うと壁に激突してしまう
「止めろハク」
バッシー
ドン!
「ギャッ」
ハクはそのまま気絶してしまったようでピクリとも動かない
インフーは急いで抱き上げる。
「何てことをするんですか、白い獣は幸運を運ぶ使者ですよ。大事に扱ってください!」
「俺は噛まれそうなったんだぞー、それに一応手加減した」
しかしこの首飾りが何だと言うんだろう? 金の鎖に付いている石を見るとただの小汚い石でこのガキと一緒
手にとって見るが表面がツルツル磨いてあるようだが石っころは石でしか無い
だがフッと思い当る物がある
「なー これって俺ら神族にある神核が石化した物に似てないか」
「そうですね…その子が青龍国なら龍石になりますが、些か小さすぎませんか?」
「確かに、矢張りただの石か」
全く不思議なガキを拾ってしまい、少し胸が躍る。
こんな面白い事が起こるなんてこんな田舎に来てみるもんだ
「そういえばフォンフー様はこの子をどちらで拾っていらしゃったのですか」
「言ってなかったかー 妖獣の森の中で拾った」
それを聞いたインフーの顔が引き攣ったと思った瞬間
「フォンフー様ーーーー!! あれ程妖獣の森は危険だと言ったのに貴方の頭はザルですか!!!」
部屋中にインフーの声が響きわたる。
「きゃっ!」
「キッ!!」
どうやら今の大声で一人と一匹が目を覚ました
ガキは目を開け体を起こし辺りをキョロキョロ見まわしていると目が合う
瞼が腫れている所為で目が半分しか開けられないようで益々酷い顔
「あれ? ここは何処」
インフーの腕にいたハクが飛びかかるような勢いでガキの頭にへばり付く
「ウッキ~キッキ~」
「ハク?」
耳元で大声がして驚いてしまい目が覚めた。
何だか目が開けずらく顔も腫れぼったいような気がするがどうやら寝台の上で寝かされていたようだ
辺りを見渡すと一人の少年と目が合う
確か狼に乗っていた奴、そんなに親切な奴には見えなかったが一応助けてくれたらしい
「あれ? ここは何処」
そもそもここは何処なんだろう?? 結界の家から何時の間にか森にいた事から変だ
「ウッキ~キッキ~」
「ハク?」
何時ものようにハクが頭に乗っかりへばり付いてくると生きている事を実感する
生きてる…
あのまま獣か妖獣に食べられたかった
母様が死んだのにレイカは死ねなかった…思わず目の前の少年を睨みつけてやる。
すると少年は顔を青ざめさせているのでレイカの迫力でビビっているようだ
「ちょっとあんた! どうしてレイカを助けたりしたのよ、ほっといてって言ったでしょ!!」
すると少年が言い返して来る。
「その怖い顔を俺に向けるな! 不細工!」
「酷い! 皆レイカの事可愛いて言うんだから」
「嘘付け! 百歩譲っても可愛いと言えるか!」
「本当だもん!」
「嘘だ!」
「母様は世界で一番可愛いていうもん!」
「それじゃあお前の母親は嘘つきだ!」
「!!」
母様は嘘つきじゃ無い! レイカに一度も嘘なんか言わない、綺麗で優しい世界で一番大好きだった……
それなのに!
それなのに…
悔しくて、悲しくて涙が溢れてくる。
「母様は…母様は… 違うもん… ヒィイ~ン ウェェ~ン エンェ~ン」
どうして男の子は皆意地悪なの
「アラアラ? 一体何をしてらっしゃるんですか、こんな小さい女の子を泣かして! さあ二人とも部屋から出て行って下さい」
女の人が部屋に入って来て嫌な奴を追い出してくれ、そして寝台に座りレイカを引き寄せ抱っこしてくれる。
「そんなに泣いたら可愛い顔が台無しよ」
そう言いながら冷たく濡らした布を目に当ててくれるとひんやりとした感触が気持ち良かった。
「おばさんはチェンて言うのだけれど、貴女のお名前を教えてくれるかしら?」
背中を擦りながら優しく名前を聞いてくれる。
「ヒック… ヒック… レイカ」
「レイカちゃん素敵な名前ね、冷たい果汁があるのだけど飲めるかしら」
そう言われると酷く喉が渇いているのに気付きコクリと頷くと手に果汁の入ったコップをもたせてくれ、一口飲むと口に甘い味が広がり、美味しさのあまり一気に飲み干そうと思ったがハクを思い出す。
「ハクも飲んで」
頭の上にコップを差し出すとハクには大き過ぎるコップを抱えるように持って飲み始める。
「レイカちゃんは偉いのね。お代りはまだあるから一杯飲んでね」
「ありがとうございます」
ハクと一緒にお代りをすると漸く落ち着いてくる。
「チェンさん、ここはどこですか?」
「ここは白虎国の端の譚州にある小さな町、わかるかしら?」
白虎国!!
レイカ何時の間に隣国に来ちゃったの??!
そもそも自分の家が青龍国のどの位置にあるか知らない
「レイカお家に帰らないと! 母様が大変なの!! すぐ私を青龍国の王都に連れてって、お願い!!」
王都に行けばサンおじちゃまに母様の所に連れてってくれる。
「それは無理よ、どんなに早い獣を使っても二月は掛かってしまうのよ」
「二月も…そんなー」
そもそもレイカはなんで森にいたんだろ?
変だよね
きっとあの男がレイカをあそこに捨てたのかもしれない
殺そうとしたのに?
レイカの命乞いをして母様が助けてくれたんだろうか!?
それならば…
もしかしたら母様は怪我をしただけで生きているんじゃ!!
確かに斬られたのを見たけど死んだのを見た訳じゃない
あの男は龍族だから神力で母様の傷などあっという間に治せるはずだし、母様を殺す気はなかったように見えた。
漸く母様が生きていると希望が湧いてくる。
良かった! 母様は生きている絶対
「どうしたの? 気分が悪いのレイカちゃん」
黙りこんでいるので、チェンさんが心配げに聞いてくる
「王都にはどうやったら行けるの?」
「かなり難しいわね… 遠く離れているのもあるけど、そもそも隣国に行くには色々手続きがあるしお金も掛かるから、小さいレイカちゃんには無理だわ」
気の毒そうに答える。
お金
そういえばレイカは一度もお金を持った事が無いのに気がつく
生まれてこのかたお金を見た事すらない
実質無一文
母様の元に戻るにはお金がいるなら働くしか道はない
お金を稼がなくっちゃ
貧民街の子供が屑拾いや物売りをして小金を稼いでるのを知っている…中にはスリや泥棒する一部の子もいたらしいが殆どの子供は真面目に働いていた。
レイカにも簡単な家事なら母様と一緒にしてたから出来る。
見ればここはそれなりのお屋敷のようだから働けるかもしれない
「チェンさん、お願いがあります」
「なあに?」
「レイカをここで働かせて下さい。 どうしてもお家に帰るのにお金が欲しいの」
「レイカちゃん…」
何故かチェンさんは目をウルウルさせ、レイカを抱きしめてくる。
「まだ小さいのに…そんな働くなんて……苦労してきたのね」
なにやら勝手に解釈され誤解されたようだ
チェンさんのふくよかな胸が柔らかくて温かい、母様は男だからペッチャンコだけとよくこうやって抱きしめてくれた。
母様の温もりを思い出す。
とても安心して気持ち良くなりだんだん意識が薄らぎ眠くなる
母様待ってて
レイカは絶対母様の元に戻るから
泣かないで待ってて
お金を一杯稼いで会いに行くから
そして何時の間にかレイカは寝てしまたのだった。
「フォンフー様、あのように小さい子供と本気で遣り合うなど如何なものかと思いますが」
呆れたように言うインフー
「五月蠅い! あのガキが生意気なんだ。 しかもあの酷い顔で睨んで来るんだぞ不気味で一歩引いてしまった」
あんなガキはサッサとどこかの家の養女にでも出そうかと考えたがあの器量では断れるだろうな~
しかしそうなるとこの屋敷に置く事になるが仕方ない
おれの侍女として徹底的にこき使うのも面白い
不細工だが傷や浮腫みが取れれば今以上に不細工になる事はないだろう
あの生意気さを徹底的に潰してやる!
「何をニヤニヤされてるんですか。また碌でもない事を考えてらしゃるんでしょう……」
「お前、鬱陶しいぞ」
かれこれ二十年近い付き合いなので行動が読まれてしまい偶にうんざりする。
「喉が渇いたからお茶の用意をしろ」
「私は家令では無いんですけど」
ぶつぶつ文句を言いながらもお茶お取りに行く
一人で書斎に残り窓を見ると真っ赤な夕焼けが山に沈んで行くのが見える。王都を出されて既に五年近く経つが母上はどうしているだろう。
手紙の遣り取りも一度もしていない
俺の母上は父王の十番目の側室でその美貌を見染められ後宮に入ったのだが結構肩身の狭い思いをしている。あまり力のない虎族の出もあるが女好きの父王は新しい側室を次から次へと入れる為に側室の数は合計すると二百人は下らないがその殆どが寿命の短い人間の女のため実際には十人前後が後宮にいるだけだ。父王は人間の目新しい側室の元を通うのが多いので俺を産んでからは一度も渡りが無く打ち捨てられたような存在だ。王妃と二人の側室は有力な虎族の出なので儀礼的には訪れているらしいが
美しいが寂しい女
それが母上の印象で、基本的に王の子は乳母に預けられ次は教育係に養育されるため実の母親に会うのは年に数度しか無いためか親子の情は薄い
だからだろうか
あのガキが母親を心配する姿が少し羨ましかった
きっと母親の愛情を一身に受け育ったんだろう
不細工のくせに
きっと母親も不細工だ
何時の間に夕日はもう少しで全てが沈みこもうとしている時、部屋の灯りが点けられる。
「灯りも点けずに何をしてらしゃるんですか」
「夕陽を眺めてたんだ」
珍しい物でも見るようにするインフー
俺にだって感傷的な時があるんだ失礼な!
お茶は侍女頭が持って来て、部屋の中に豆茶の香ばしい匂いが漂う
机の上にお茶と砂糖を置きながら侍女頭が話しかけてくる。
「実はフォンフー様 あの子の事ですが青龍国の王都から連れ去られたようですよ。 母親がいる王都にしきりに帰りたがり、帰るための旅費を稼ぐからここで働きたいと……あんな小さい体でなんとも健気で、どうかフォンフー様のお力で帰してあげれませんでしょうか」
涙ながらに訴える。
「確かあのガキは最初は、母親が死んだから自分もロウに食われて死にたいと言ってたぞ」
「あんな小さな子がそんな事を言ったんですか!」
インフーは信じられないように呟く
「ま…… きっと死んだ母親の墓に手を合わせたいのに違いありません、可哀想に」
涙を流しながら侍女頭は手巾で涙を拭いだす。
「兎に角あのガキから詳しい話を聞いてからだ。インフーお前が明日にでも聞き出すんだ」
「私がですか……チェンさんにお任せした方が宜しいかと思いますが」
「仮にも龍族の関係者だ、お前が聞け」
「そうでした。分かりました明日の機嫌の良い時にでも聞きましょう」
「任せた」
俺が聞いてもいいが確実に喧嘩になりそうだし、あの不細工な顔を見たくない
普通の顔に戻ってから会いに行く事にする。
「そう言えば龍族で思い出したのですが……」
なにやら言いずらそうに話す侍女頭
「何だ、言え」
「瞼が腫れていて良く見えないので確証は持てませんが、あの子の眼の色が金色に見えましたの」
「「 金色!! 」」
金の色を持つ者は天帝の血を幾らか引く事を意味し神族の中でも高貴な色として敬われている。
人間が決して纏う事がない色
金色は力の象徴ともされているのだ
我々の反応に少し引いたように、言葉を重ねる
「いえ……見間違いかも知れませんのでお気になさらないようお願いいます」
そう言ってからソソクサと部屋を辞して行った。
「本当でしょうかフォンフー様 金の瞳など」
「明日お前が確かめればいいことだ」
「気にならないんですか?」
「あのガキは驚かされる事ばかりだから今さらだ。 次は龍王の娘だとでも言いだすんじゃないか」
「まっまさか……」
「冗談だ、バカ者」
冗談を言ったつもりを真に受けるインフー
真面目な教育係にもう少し遊びを覚えて欲しい
後十年で成人の儀を迎えるくせに女の噂一つ聞かない
虎族で独身なのだから人間の女と遊び放題
普通であれば人間の女を数人囲っていても可笑しくないお年頃
神族の中で性欲が一番強いとされている虎族
男として何か問題があるのかと疑ってしまう
そう言えばあのガキの裸を見て頬を赤らめていたな……
幼女趣味という奴だろうか
人の趣味をとやかく言う心算はないが
インフーへの疑惑の目を向けるフォンフーだった。