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【第2部】第17話:戦略魔法兵器を破壊せよ

 天が裂け、空が落ちてくる。


 遥か彼方から放たれた極大の『流星』が、アンダルス首都の真上へと到達した。

 それは単なる岩塊ではない。超高密度の魔力が圧縮された、純粋な破壊のエネルギー体だった。


 テオは、対地用に展開した『絶対城壁アイギス』を対空仕様へと変化させる。


「空の涙は降り注ぎ、地の嘆きは積み重なる。光が届かぬ深海のあんに、我は永遠の眠りを見る。過ぎ去れ神雷、ついえよ天光。此処ここは我が魂の絶対境界!」


 上空に黄金の盾が広域展開され、アンダルスの都市を包み込む。

 だが、とても大きさが足りない。



「防げェェェッ!! 全クオリアをテオの盾に集中させろォォッ!」



 レオニダスが血を吐くような咆哮を上げる。




 彼の加護を受けたアンダルス兵たちが、己の生命を削るようにして黄金のオーラを天へと放ち、テオが展開する『絶対城壁アイギス』へと注ぎ込んだ。



 直後、流星が光の城壁と激突する。

 音が消え、視界が反転する。


 大地が大きく震え、大気が唸りをあげて吹き荒れた。



 空を覆う黄金の防壁に、巨大な亀裂が走る。

 テオが歯を食いしばり、目や鼻から血を流しながらも、両足で大地を掴んで決死の抵抗を続ける。



「うおおおおおおおおッ!!」



 兵士たちの絶叫と、意志の力の結晶が、ついに極大魔法の運動エネルギーを上回った。

 空中で流星が臨界点に達し、巨大な光の嵐となって弾け飛んだのだ。



 熱波と衝撃波が首都を舐め回し、城壁の一部や外縁の建造物が吹き飛ばされる。

 だが、都市の中枢と、そこに住む何十万という民の命は、間違いなく守り抜かれた。



「はぁ……はぁ……」


 テオは、ガックリと膝をつく。

 だが、闘志は燃え尽きてはいない。


 すぐさま顔を上げ、斧を杖代わりに立ち上がる。



 淀んだ雲の向こう側で、再び不吉な魔力の明滅が始まっていた。


「あれほどの戦略魔法、連発はできないはずだ。だけど、そのうちこっちも限界がくる。遠距離砲撃の消耗戦になれば、確実に負けるよ」


 レオニダスは、すぐに指示を飛ばす。

「観測兵に、発射地点を推察させろ。あれだけの魔法だ。素直な直線軌道の攻撃に違いない!」


 ここでも、電気が普及した効果が発揮される。

 副産物と思われていた『電波』を使った広範囲索敵。これにより、即座に発射場所を解析することが出来るようになっていた。

 

「敵の砲撃位置、特定完了しました!! 今飛んできた魔法の入射角、大気との摩擦による減衰率、そして高度のデータから逆算すると、敵の超長距離砲台は、ここから北北西へおよそ三百キロ。聖王国領内の『カルデラ山脈』の山頂に陣取っています!」


「三百キロだと……? そんな距離、足で行ったら何日かかるか分からんぞ!」


 レオニダスが顔をしかめる。

 

「数分で着く方法が一つだけあるだろ。あれを使おう」


 この言葉を発したのは、敵兵を撃滅し合流したエリオであった。

 彼は、テオが乗ってきた巨大な鉄の筒――『レールガン』の砲身を指差した。



「テオがやったように、俺たちをこの筒で撃ち出せ。エジプーシャ国境の主力レールガンなら、出力的に三百キロ先まで余裕で届くはずだ」



「正気か!? テオの防御力がなければ、発射のGと空気抵抗で肉塊になるぞ!」

「だからテオにはもう一度同乗してもらう。それに、俺の『風』の魔法で砲弾の周囲に真空の層を作れば、摩擦と衝撃は極限まで殺せるはずだ」


 エリオの無茶苦茶な作戦に、テオは渋い顔をする。


「言ってることはわかるけど、間違いなく敵陣のど真ん中に突入だ。破壊は出来ても、生きては帰れないよ」

「心配ない。あいつがいれば乗り切れるさ」


 エリオは振り返り、後方を探した。


 全てを駆逐する最強の戦力。紅蓮の戦姫、シャルロッテ。

 彼女の圧倒的な殲滅力があれば、敵陣中央であっても問題はないだろう。



「おい、シャル! いくぞ、シャル……?」



 だが……。

 エリオがどれだけ声を張り上げても、返事はなかった。



 先ほどまで、確かに北方の防衛線で共に戦っていたはずの彼女の姿が、戦場のどこを見渡しても見当たらないのだ。


「まさか、敵に打ち取られたのか?」


 レオニダスが焦ったような表情を浮かべる。


「い、いや、そんなはずはない。だけど、どうしたってんだ……」

 エリオは言葉を失った。


 確かに、今日のシャルロッテはどこかおかしかった。

 それであっても、単騎で国堕としが出来る戦力は十分にあるはずだ。


『観測班より報告!! 敵戦略兵器推定地点に、高濃度魔力反応を検知!』


 間髪いれずに、敵が再チャージを開始した報告がもたらされる。

 シャルロッテを探している時間は、とてもありそうにない。



「……行くぞ、テオ」



 エリオは風槍を握り直し、レールガンの砲身へと向かって歩き出した。



「エリオ。僕たち二人だけじゃ、敵の砲台を破壊するので精一杯だよ」

「それでも、やるしかねえだろ。ここで待ってても、首都ごと消し飛ぶだけだ」



 エリオの背中は、シャルロッテの不在に対する戸惑いを振り払うように、張り詰めていた。


「レオニダスのおっさん! 首都の防衛と、シャルの捜索を頼む!」


 それだけ言い残し、エリオとテオは、空を睨む長大な鉄の筒の中へと滑り込んだ。



「……死ぬなよ、若造ども。射出システム起動! 目標、北北西三百キロ、カルデラ山脈!」



 レオニダスが悲痛な顔でレバーを引く。



 青白い電磁の光が限界までチャージされ、狂気の人間大砲が、首都を救うための最後の一撃として空高く火を噴いた。

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