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【第2部】第14話:戦争の革命

 エジプーシャ国境に広がる、広大な土漠の平野。




 そこは今、世界のことわりそのものを歪めるほどの、おぞましい魔力と殺気に支配されていた。




 地平線を漆黒に塗り潰すのは、聖王国と属国群からなる二十万を超える大軍勢。

 空には、超巨大な高純度魔石の力で浮遊する『魔導戦艦』が三隻も浮かび、大地に巨大な絶望の影を落としている。




 地上には、身の丈を超える杖を構えた数万の宮廷魔導師部隊。

 さらにその前衛には、最新の魔法兵装に身を包んだ膨大な数の軍勢が陣を構えていた。



 既に神聖騎士団は過去の遺物だ。

 現在の聖王国の歩兵主力は、魔導兵装の部隊と、自動行動する機械兵の混成部隊であった。




「フン……ひと捻りだな」




 魔導戦艦のCICから眼下の戦場を見下ろし、司令官のヘンドリクセンは鼻で笑った。



 対するアンダルス・同盟国連合軍の総数は数万。

 数は揃っているが、彼らから魔力の波動は一切感じられない。魔石の供給を絶たれた、ただの烏合の衆だ。



 ただ一つ異様なのは、彼らが掘り巡らせた塹壕ざんごうの最前列に、無骨な『鉄の箱』が何十台も並べられていることだった。


 箱の上部からは、真っ直ぐに伸びた二本の長大なレールのような砲身が、不気味に空を睨んでいる。



 だが、ヘンドリクセンは気にも留めない。

 あのような奇抜な兵器が、圧倒的な物量差と武力差を埋めるものだとは微塵も思っていなかった。




「魔石を持たぬ哀れな反逆者どもに、神の奇跡と絶望を教えてやれ」




 ヘンドリクセンの冷酷な号令が、魔導通信を通じて全軍に響き渡る。


「全魔導師、広域殲滅魔法の詠唱を開始しろ! 魔導戦艦各艦にも伝達。クオリア阻害フィールドを発生させよ!」



 数万の魔導師が、一糸乱れぬ動きで杖を天に掲げた。

 紡がれる古代の呪文が、大気中のマナを強制的に励起させていく。



 空間が熱で蜃気楼のように歪み、大気が重く震えた。

 空を覆い尽くすほどの超巨大な多重魔法陣が展開される。



 属性は『炎』と『土』の複合。

 直径数十メートルに及ぶ灼熱の隕石群を創り出し、アンダルスの陣地を地形ごと蒸発させる、まさに神の御業たる大魔法である。




 それと同時に、各魔導戦艦よりクオリアを乱す精神干渉魔法が放たれ、青白い網目状の光となって大地を埋め尽くしていった。




「終わりだ、アンダルス。圧倒的な『神秘』の前に、ひれ伏して消えろ」




 ヘンドリクセンは聖王国の圧勝を確信していた。


 天が真っ赤に焼け焦げ、破壊のエネルギーが今まさに解き放たれようとした、その時だった。




「――撃てェェェッ!!」




 最前線の塹壕から身を乗り出し、ゼファーが喉が裂けんばかりの咆哮を上げた。


 直後、世界から一切の音が消え去ったかのような、奇妙な錯覚が戦場を包み込む。




 数十台の戦車に搭載された、長大な鉄の筒――『電磁投射砲レールガン』。

 その内部で、莫大な電気エネルギーが電磁誘導の理に従い、暴力的なまでの力を発生させる。




 火薬の爆発も、魔力の燃焼も、そこには一切存在しない。


 ただ純粋な物理法則のみが、砲身の間に挟まれた超硬度の合金弾を、瞬きする間もなく音速の数倍――マッハ5という絶死の速度へと加速させたのだ。



 空気を極限まで圧縮し、遅れて発生した鼓膜を破るほどの強烈な衝撃波と共に、数十筋の青白い閃光が戦場を一直線に薙ぎ払った。



「なっ……!?」



 ヘンドリクセンが目を見開いた次の瞬間。



 聖王国の最前列に展開されていた、絶対防御を誇る『多重魔力障壁』が、まるで薄張りのガラスのように粉々に砕け散った。




「ば、馬鹿な!?」

「障壁が、一撃で……っ!」



 魔法陣を維持していた魔導師たちが、己の目を疑い悲鳴を上げる。


 彼らの張った魔法障壁は、魔力による攻撃の波長を相殺し、炎や雷といった現象を散らすためのものだ。


 純粋な物理的運動エネルギーの極致である、超音速の『質量兵器』を減衰させるようには、初めから設計などされていない。



 音を完全に置き去りにした砲弾は、魔法障壁を紙切れのように食い破り、そのまま前衛の聖王国軍兵士たちへと直撃した。



 防御魔法を自動発生させる最新の魔導兵装も、マッハ5の運動エネルギーの前ではひしゃげた紙屑と何ら変わりはない。



 肉の潰れる嫌な湿った音すらも、後から叩きつけられた衝撃波に掻き消される。

 兵士たちは鎧ごと肉体を跡形もなく粉砕された。



 砲弾が通過した軌道上には、ただ真っ赤な血だまりと、切り取られたような真空のトンネルだけが残される。




 それだけではない。

 超音速の砲弾が引き起こしたプラズマの軌跡から強烈な電磁ノイズが放たれ、機械兵の回路を次々と焼き切っていく。


 多くの兵士が、その場で完全に行動不能に陥った。




「な、なんだあれは! 測定班、状況を知らせ!」

「魔力反応、クオリア反応共にありません! 単純な物理兵器かと思われます!」

「あれが、物理兵器だとでもいうのか。完全なオーバーテクノロジーではないか!」




 空中要塞の上で、ヘンドリクセンが血走った目で檄を飛ばす。




「全戦艦、あの砲台を潰せ! あれを破壊すれば終わりだ!」

 魔導戦艦に搭載された全砲門が、唸りを上げて地面のレールガンへと照準を合わせた。









 その頃、地上のアンダルス軍では、次弾とその後の対応に向けた準備がすでに進められていた。


 出鼻を挫くことには成功したが、相手は聖王国の本軍。簡単に撤退などはしない。



「次弾装填! コンデンサの冷却よし! 蓄電完了!」



 ゼファーは戦場の喧騒に負けじと声を張り上げる。

「おい、ドワーフの技術屋さんたち! 上空のデカブツを落としてくれ。阻害フィールドがある限り、こちらのクオリアが使えん! ジリ貧になるぞ!」

「わかっておるわい! 少しは待てんのか、ったく……!」



 レールガンを操作するドワーフたちが乱暴にレバーを回し、巨大な砲身を上空へ向ける。



 その無骨な駆動音と動きは、当然ながら上空の魔導戦艦にも察知される。






 ほぼ同時に、両者の砲門が互いを死の淵へと捉えた。







「「撃てェェェ!!!!!」」


 






 地上と上空から、同時に超高エネルギーが発射される。




 だが、明暗を分けたのは、一撃の『速度』であった。

 術式の構築を要する重厚な魔法に比べ、レールガンは圧倒的に弾速に優れている。




 魔導戦艦の砲門に巨大な魔法陣が展開された刹那、その中心をレールガンの凶弾が食い破った。

 青白い閃光が魔導戦艦の装甲を容易く貫通し、空の彼方へと抜けていく。




 直後。

 魔石の心臓部を物理的に粉砕された浮遊要塞は、大気を震わせるほどの不快な亀裂音を響かせた。

 行き場を失った莫大な魔力が艦内で逆流を起こし、膨張した光が巨大な爆発となって弾け飛ぶ。




「ぐああああああッ!!」

「2番艦、撃墜されました! 沈みます!」




 CICに響き渡る絶叫と共に、左舷に浮かんでいた魔導戦艦が真っ二つに折れた。

 それは燃え盛る鉄屑の雨となって、眼下の自軍(聖王国軍)の陣地へと無情に墜落していく。




「クソが! こちらの砲撃は当たっただろ! 敵新型兵器はどうなっているか!」


 ヘンドリクセンの怒声に、観測兵が慌てて計器を確認する。




「2両、大破させました! の、残りは……」

「残りはどうした!?」

「健在です! 2番艦轟沈の影響で敵のクオリアが復活……! 砲撃はガードされた模様です!」

「クソッ、また忌々しいクオリアか!」




 それでも、ヘンドリクセンは諦めない。

 圧倒的な戦力差で敗北するなど、大国の誇りが許さなかった。




「ここでは絶対に負けられぬ。本国後方へ連絡! 超大型魔導砲の準備を要請しろ!」

「はっ!」




 ヘンドリクセンは苦虫を嚙み潰したような表情で、眼下の惨状を睨みつけた。




「戦後処理が面倒だが、敗北のほうがありえない。……悪いな、アンダルスの民よ」




 地獄絵図と化した戦場。

 飛び交う青白いプラズマの閃光と、次々と吹き飛んでいく聖王国の精鋭たち。




 だが、その全てをも大地ごと消し飛ばす『超大型魔導砲』の準備が、はるか後方にて静かに進められていた――。

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