表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/31

【第2部】第5話:対策会議

 南方の過酷な大地にそびえ立つ、荒々しい石造りの城。



 蛮王国の王城・謁見の間にて、アンダルスの面々――レオニダス、ゼファー、エリオの三人は、玉座を見上げて顔を引きつらせていた。



 玉座には、筋骨隆々とした巨漢の男が座っている。

 まさに、蛮王国という『強さ』のみが正義となる国の国王に相応しい風格だ。


 レオニダスが、代表して一歩前に出る。



「アンダルス軍総司令官、レオニダスと申します。極秘同盟の件、そして今後の……」

「あー、もういい、もういい。堅苦しい挨拶は抜きにしようじゃないか。……ほら、そこをどきな、デカブツ」


 レオニダスの言葉を遮ったのは、玉座の傍らに控えていた護衛らしき女性だった。

 彼女が顎でしゃくると、巨漢の王は「ひっ、は、はいっ!」と情けない声を上げ、慌てて玉座から転げ降りた。



「なっ……! 貴様、何者――」

 ゼファーが顔をしかめ、ハルバードに手をかけた、その瞬間だった。



「まあまあ、そんな物騒なモンに手をかけなさんな」



 のんびりとした声は、ゼファーのすぐ背後から聞こえた。

 ポン、と軽くゼファーの巨大な背中が叩かれる。



「……っ!?」

 エリオも、歴戦の猛者であるレオニダスでさえも、全く反応できなかった。


 殺気も、敵意も一切なかった。ただ『風が吹いた』としか思えないほど自然に、彼女はゼファーの死角へと移動し、背中を叩いてみせたのだ。



 ゼファーが冷や汗を流して振り返ると、女性は既に元の場所――重厚な玉座にどっかと腰を下ろし、足を組んでいた。



(なんだ、今の動きは……。それに、この気配は!)



 女性の体から自然と漏れ出ているクオリアの質が、異常だった。



 深く、静かで、圧倒的な密度。



 それは、彼らがかつて嫌というほど叩き込まれた到達点。あの『規格外の英雄クラウス』が放っていた気配と同質の、洗練され尽くした力であった。



「何者って失礼だね。あたしがこの国の『王』だけど? ま、対外的にはそこの大きいのにお願いしてるけどね」

 女性は、ニシシと悪戯っぽく笑った。


「「「……」」」

 アンダルスの三人は、敵意のない圧倒的な実力差を前に、呆気に取られるしかなかった。



「驚くのも無理ないけどね。この国は『強者こそが法』というシンプルな掟で動いてる。最初は、冒険者としてこの国に来たんだけど、色々やってて、気付いたらこうなってた」

 

 あっけらかんとした雰囲気に、思わず気を許しそうになる。

 三人にとって、どこかで感じたような気配……。


「実は、あんたたちの事は知ってるんだよね。レオニダスに、ゼファーに、エリオだっけ。こうして会うのは……初めましてだね、アンダルスのお歴々。あたしの名前は、カミラという。聞いたことはあるかな?」

 カミラは、ふっと懐かしむような、誇らしげな笑みを浮かべた。


 

(カミラ……?)


 三人が、固まる。


 確か、カミラとは英雄の名前だ。

 第四部隊で、唯一の女性。最高峰のアサシンと呼ばれた人物。


 この段階でハッとした表情を浮かべ、彼らは腑に落ちた。

 どこか懐かしい感じは、まさに『クラウス』の気配と酷似していたのだ。


「蛮王国は、ずっと同盟を結ぶことはしなかった。でもさ、隊長の残した教え子たちが、その仇を取ろうとしてるって聞いたら、参加しない訳にはいかないじゃないか。で、今に至るってわけ」



 レオニダスが改めて最大の敬意を込めて頭を下げた。


「かの英雄とは知らず、大変失礼いたしました。我々の無礼を許していただきたい、カミラ王よ」

「やめてやめて。堅苦しいのは嫌いなんだ。カミラでいいよ」

「い、いや……、さすがにそれは!」


 相手があまりの有名人のため、レオニダスも低姿勢になっていた。

 そんな空気が耐えられなくなったのか、カミラは強引に話を進めた。 


「で、急に話し合いをしたいって言ってきた理由は何かな? 国交ルートの確保は、予定通りと聞いてるけど?」

 

 カミラが不思議そうに小首を傾げると、ゼファーが両手で顔を覆い、深く、深くため息を吐いた。


「それが……うちのとある令嬢が、東のエジプーシャをたった半日で完全降伏させまして……」


「ぶっ!!」

 カミラが、飲んでいた酒を盛大に吹き出した。


「ゲホッ、ゴホッ! 令嬢って、シャルロッテって隊長が言ってた子のことか。『とんでもない才能の教え子がいる』とは聞いてたけど、まさかそこまでとはね。そりゃあ、大変だ」


 カミラは部下に、地図を持ってくるように合図をした。


 大きなテーブルが置かれ、そこに巨大な地図が敷かれる。


「エジプーシャは大きい国だ。ただ、無理やり大きくなっただけだから、その実はただ大きいだけの国。目ぼしい資源国家は、ぜーんぶ聖王国領になってる。どうしたもんかね」



 人間である以上、霞を食って生きることはできない。

 軍の食料や物資を運搬するには、大型の馬車や魔導輸送船が不可欠となる。しかし、それらを動かすための『魔石』の供給網は、大部分を聖王国が握っている。


 短距離の輸送ならば、アンダルスや蛮王国で採掘できる魔石でカバーできる。

 しかし、エジプーシャを含めた長距離を輸送していると、そのうち魔石が枯渇してしまう。


 通常であれば、エジプーシャにも国力に応じた魔石採掘場が国内にあるはずだった。

 しかし、聖王国の権威だけで大きくなった国にその実力はなく、この状況になっている。



「ふむ……」

 カミラはニヤリと笑い、腰の短剣を抜いて地図の『北』へと突き立てた。


「なら、解決策は一つしかないね」

「北……? そこは聖王国が完全独占している巨大な魔石採掘場があるエリアですよ。流石に、そこを攻撃するだけの兵力は……」

 ゼファーが首を傾げる。

 

「魔石を奪うんじゃない。人を奪うのさ。エジプーシャが落ちたことで、北へ向かうルートが開けたんだ。北部の辺境の山奥に、聖王国の支配に屈せず、隠れ住んでいる連中がいる」


 カミラは声を潜め、確信に満ちた目で三人を見回した。


「ドワーフの技術者集団さ。ウチの諜報員が掴んだ情報によれば、奴ら、魔力……つまり『魔石を一切使わずに動く機械』を作り出しているらしい」


「魔石を使わずに動く機械ですと!?」

 ゼファーとレオニダスが、同時に驚愕の声を上げた。



 現在の世界の常識において、動力を生み出すのは魔石である。それを使わずに車や船を動かせるとなれば、聖王国の経済制裁など全く意味を成さなくなる。



「どういう理屈かはわからないが、その技術が手に入れば、魔石に頼らずにこの補給線を構築できる」

 カミラは短剣を引き抜き、地図をトントンと叩いた。


「しかし、北部は聖王国の直轄領だ。軍での行動は直ぐに気付かれてしまう。少数での隠密行動が原則になるな……」

「その通り。ま、そこの雷少年と天才令嬢のペアが適任だろうね」


「へ?」

 カミラの言葉に、エリオはギョッとして目を丸くした。


「ええええ、嫌だよ。あんなやつと一緒なんて!」

「いや、でも他に適任はいないぞ。俺やゼファーは目立ちすぎる」

 レオニダスは、エリオの肩をポンと叩いた。


「え、じ、じゃあ、エジプーシャはどうするんだよ? シャルロッテがいなくなったら、直ぐに聖王国に寝返るかもしれないぞ!」

「あー、それなら、あたしが行くよ。ちょうど退屈しててね。それとも、あたしじゃシャルロッテの代わりにはならないかな?」


 カミラが、笑いながらクオリアを解放した。


 膨大な量のクオリア……。


 シャルロッテかそれ以上……、いずれにしても計測できるようなレベルではないことは確かだ。


 これを見せられては、エリオが何も言えるはずがなかった。


「わ、わかりましたよ……。行けばいいんだろ、行けば」

 エリオは小さく息を吐き、ガシガシと頭を掻いた。


 

 かくして、アンダルス・蛮王国連合軍の兵站問題を解決すべく、エリオとシャルロッテの二人が、魔石を用いない未知の技術を求めて北の大地へと密かに旅立つこととなった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ