EP 7
「決意の家出! 私の道は私が切り開く」(後編)
部屋に戻った美月は、震える手でペンを走らせていた。
ルークスが用意してくれた最高級の羊皮紙。
インクが滲むのは、紙質のせいではなく、ポタポタと落ちる涙のせいだ。
『ルークス様へ』
書き出しだけで、胸が張り裂けそうになる。
でも、書かなきゃ。伝えないと、私の本当の気持ちは一生届かないから。
『ごめんなさい、ルークス様。勝手に出ていく私を許してください』
美月は鼻をすすり、一気に想いを綴った。
『貴方の事が大好きだから……このままではいられないんです。
今の貴方が好きだと思ってくれているのは、私の「ランダムボックス」という能力と、そこから出てくる珍しい道具たちなんです。
私自身じゃない。
それが悲しくて、悔しいんです。
だから、私は行きます。
いつか必ず、ランダムボックスなんておまけが霞むくらい、私自身が強くて素敵な女性になって戻ってきます。
私は「神上美月」として、貴方を振り向かせます。
さようなら。……大好きでした』
「……書けた」
美月は手紙を折り畳むと、部屋の真ん中に置いた『紅蓮のアーマー』の上に、そっと置いた。
赤い甲冑が、主のいなくなった部屋で寂しげに光っている。
「ありがとう、守ってくれて。でも、もう大丈夫」
美月は身軽な旅装束に着替えた。
以前ランダムボックスで出した、動きやすいスニーカーと、丈夫なデニム生地のパンツ、パーカー。
背中には最低限の水と食料を詰めたリュックサック。
そして腰には、相棒の『白雪』一本。
「よし!」
美月は窓を開けた。
夜風が部屋のカーテンを揺らす。
ここからは、誰も知らない、地図もない冒険の始まりだ。
「【ランダムボックス】起動。100P消費。カテゴリー『登山』『ロープ』『フック』!」
ポンッ。
出現した登山用ロープをバルコニーの手すりにしっかりと結びつける。
見回りの兵士たちの巡回ルートは、この数週間の「お散歩」で把握済みだ。
「お父さん、お母さん、見ててね。私、頑張るから」
美月はロープを掴み、軽やかに闇夜へと身を躍らせた。
かつて道場で鍛えられた身のこなしは、伊達ではない。音もなく庭に着地すると、彼女は影のように城壁の死角へと走った。
「さよなら、ルークス様」
城門を抜け、振り返ることなく森へと駆けていく。
その背中は、来た時よりも少しだけ大きく、そして凛として見えた。
こうして、「聖女候補」だった少女は姿を消した。
後に残されたのは、抜け殻の甲冑と、涙で濡れた一通の手紙だけ。
翌朝、この手紙を読んだルークスが、どのような顔をするのか――美月はまだ知らない。




