EP 5
「私はあなたの飾りじゃない」
「ミツキ殿、目をつぶっていてくれ。君に最高のプレゼントがあるんだ」
ルークスに手を引かれ、美月は私室の大きな鏡の前に立たされた。
目を開けると、そこには鮮烈な赤色が目に飛び込んできた。
「これは……?」
「君の動きに合わせて、ドワーフの名工に特注させた最高級の甲冑だ」
それは、『紅蓮のアーマー』だった。
鉄ではなく、軽量かつ強靭な赤竜の鱗を加工して作られた、女性的なラインの美しい鎧。
防御力は城壁並みだが、羽のように軽い。
「さあ、着てみてくれ」
メイドたちの手によって着付けをされる。
恐ろしいほどにサイズはピッタリだった。関節の可動域も計算し尽くされており、これなら居合の動作も阻害しない。
「……すごい」
鏡の中の自分は、まるでファンタジー映画の女戦士のようだった。
白い鞘の『白雪』を腰に差すと、赤と白のコントラストが際立つ。
「美しい……」
ルークスがうっとりとした表情で、美月の頬に手を添えた。
「燃えるような紅蓮の鎧に、純白の刃。今の君は、さしずめ『紅蓮の白雪姫』だな」
「え、えへへ……。白雪姫だなんて、そんな」
美月は照れ笑いを浮かべた。
素直に嬉しい。自分のためにここまでしてくれるなんて。
しかし、ルークスの次の言葉が、美月の笑顔を凍りつかせた。
「ミツキ殿。君にはずっと、いつまでもこの屋敷に滞在してほしい。いや、私のそばにいてほしいんだ」
「え……?」
「そうだ、近いうちに王都へ行こう。国王陛下に君を会わせたい」
美月の心臓が跳ね上がった。
「こ、国王陛下ですか!?」
「ああ。君はそれだけの働きをしているのだから」
ルークスは自信満々に頷いた。
「凶悪な魔獣を一撃で葬り、失われた古代の医学書までもたらした。君は我が国の至宝だ。陛下も必ずや君を宮廷魔導師……いや、国の『聖女』として迎え入れるだろう」
「聖女……」
美月の背筋に、冷たいものが走った。
ルークスの瞳には、一点の曇りもない善意と愛情が宿っている。
けれど、美月にはそれが「黄金の鎖」に見えた。
ここで「はい」と言えば、私は一生、この国で崇め奉られることになる。
でも、それは「私」が凄いからじゃない。
『ランダムボックス』から出した便利なアイテムと、たまたま上手くいった剣技。
周りが見ているのは、私が出す「物」と、ルークス様が着せてくれた「鎧」だ。
(誰も、等身大の『神上美月』なんて見てない……)
もし、ランダムボックスが使えなくなったら?
もし、剣が通じない相手が現れたら?
その時、私は用済みになるのだろうか。それとも、ただの可愛いお人形として、この屋敷に飾られ続けるのだろうか。
「ミツキ殿? どうした、嬉しくないのか?」
ルークスが不思議そうに顔を覗き込む。
美月は引きつった唇を無理やり持ち上げた。
「は、はは……。光栄すぎて、言葉が出ません……」
乾いた笑いが、豪華な部屋に虚しく響く。
その夜、開かれた晩餐会でも、美月は「紅蓮の白雪姫」として貴族たちに紹介された。
誰もが彼女の鎧を褒め、彼女が献上した医学書を褒めた。
ルークスは隣で誇らしげに微笑んでいる。
「(違う)」
美月はグラスのジュースを飲み干した。
甘いはずの果汁が、砂のように味気ない。
「(私は、ルークス様のアクセサリーじゃない。守られるだけのお姫様なんて、私がなりたい私じゃない!)」
美月はルークスの横顔を盗み見た。
大好きだ。優しくて、格好良くて、理想の王子様だ。
だからこそ、このまま「対等じゃない関係」で甘やかされていくのが怖かった。
「(……行かなきゃ)」
美月は拳を握りしめた。
与えられるだけの生活はもう終わり。
自分の足で歩いて、自分の力で世界を見て、胸を張って「私はここにいる」と言えるようにならなきゃ。
「ルークス様、少し風に当たってきますね」
「ああ、気をつけて。庭には護衛もいるから」
優しさが痛い。
美月はバルコニーへ出ると、夜空を見上げた。
月が綺麗だった。
決意の時は来た。




