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祭壇の悪意

 犬鳴トンネルの最深部は、異様な光景に満ちていた。

ひんやりとした洞窟は不自然に拡張され、最新鋭のドラッグ精製機材が、まるで古代遺跡に寄生するかのように並んでいる。そして、その中央には、黒ずんだ血のようなシミがこびりついた、禍々しい石の祭壇が鎮座していた。

祭壇の前には、一人の男が立っていた。高価なスーツを着こなし、神経質そうに眼鏡の位置を直している。彼こそが、この事件の黒幕――『ドラッグ王』と呼ばれる男、拝島はいじまだった。

「ようこそ、警視庁の諸君。まさか、私のサンクチュアリにまで辿り着くとは」

拝島は、芝居がかった口調で手を広げた。彼の背後には、銃や刃物で武装した組織の残党が十数名、犬飼と憐を睨みつけている。

「拝島!高橋美咲やその家族をどこへやった!」

犬飼が叫ぶ。拝島は、心底愉快そうに喉を鳴らした。

「ああ、あの哀れな子羊たちのことかね?彼らは皆、偉大なる我らが神――『声喰い様』の血肉となり、我々のビジネスの礎となってくれたよ」

拝島の言葉に、犬飼の怒りが沸点に達する。

「貴様…!」

「君たちが追っていたドラッグはね、ただの嗜好品じゃない。人間の魂を霊的に脆くする特殊な成分が入っている。これを摂取した者は、声喰い様にとって極上のご馳走となるのだ。私は神に餌を与え、神は私に、邪魔者を『神隠し』という形で処理してくれる。素晴らしい共生関係だろう?」

狂気の理論を展開する拝島。憐が、冷たく言い放った。

「下劣な外法め。土地の精霊を邪神に貶め、私利私欲のために使うか。万死に値する」

「ほう、そちらの嬢ちゃんは"視えて"いるクチか。だが、もう遅い!」

拝島が手を振り下ろすと同時に、組織の残党が一斉に犬飼へ襲いかかった。一方、拝島は祭壇の上で何やら呪文のようなものを唱え始める。洞窟全体の空気がビリビリと震え、闇の奥から、形容しがたい圧力を伴ってそれが姿を現した。

「犬飼!雑魚は任せたぞ!私は大物を狩る!」

憐は言い放つと、懐から数枚の呪符を取り出し、声喰い様に向かって駆けた。

銃声と怒号、そして人ならざる者の咆哮が、トンネルの闇に木霊した。最終決戦の火蓋が、今、切って落とされた。


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