日本最強陰陽師はツンデレだった。
分室の扉を開けると、線香と古書の匂いが鼻をついた。薄暗い部屋の中、山積みの文献に囲まれ、一人の人物が静かに座っている。
長い黒髪を無造作に束ね、性別を感じさせない中性的な顔立ち。着古した白衣の下には、上質な着物を覗かせている。その人物こそ、警察が公式には決して認めない特殊案件コンサルタント。現代に生きる、日本最強の陰陽師――神凪憐だった。
「…何の用だ、俗物。ここは貴様のような暑苦しいだけの人間が来る場所ではない」
憐は、犬飼に一瞥もくれず、手にしていた木簡から視線を外さずに言った。その声は、冬の湖面のように冷たい。
「神凪さん!犬鳴トンネルの事件です!あれは絶対にただのオカルト案件じゃない!裏に巨大な組織が…」
「断る」
犬飼の言葉を、憐は即座に切り捨てた。
「あのトンネルは、古くからある霊の通り道だ。そこに愚かな人間が興味本位で足を踏み入れ、贄となった。それだけの話。私が介入するほどの事象ではない。帰れ、邪魔だ」
「しかし!」
「いいか。私は"本物"の怪異しか相手にしない。人間の下らない犯罪にまで、私の貴重な時間と霊力を割くつもりはない」
ツン、と顔を背ける憐。まさに絵に描いたようなツンデレ、いや、ツンしかない対応に、犬飼は食い下がる。
「お願いします!この通りです!」
犬飼は、日本の警察官の誇りを捨て、その場で土下座した。
「…チッ」
憐は、心底面倒くさそうに舌打ちすると、ようやく顔を上げた。その射抜くような瞳が、初めて犬飼を捉える。
「…その刑事らしからぬ土下座と、お前から漏れ出ている妙な霊気の揺らぎに免じて、話だけは聞いてやる。五分だ。それで私を納得させられなければ、式神を飛ばしてお前の家のWi-Fiルーターを物理的に破壊する」
「ええっ!?それは困ります!」
かくして、熱血ドタバタ刑事と、毒舌ツンデレ陰陽師の、奇妙すぎるバディが誕生した。




