第9話:「温泉宿と、謎のクイズ大会?露天風呂に、知恵の神降臨!?」
~それは、湯けむりとIQと、サービスカットの落とし穴~
「今日は久しぶりに温泉宿だぞおおおお!!」
崩れ落ちるように大の字になるライル。
「やっと……人間らしい生活に……!」
「それ、たった一泊なんだけどね」
セリナが冷静に浴衣を羽織る一方、ベルはすでに湯桶を鎧でつぶしていた。
「温泉成分、鎧にダメージ与えてるんだけど!? 鉄にも効くって何成分!?」
「効能:戦意喪失って書いてあったよ」
「効能が不穏!!」
◆◇◆◇
しかし、平和な温泉タイムは、長くは続かなかった。
食堂に集まった一行の前に、突如現れたのは――
「皆さま、ご参加ありがとうございます~♡ 本日の目玉企画、“風呂上がり知力バトル・温泉クイズ大会”を開始しまーす!」
「え? 何その嫌なタイトル!? なんで風呂上がりに知力試されなきゃいけないの!?」
「優勝者には、“伝説の湯・極楽の泉”貸し切り権が!」
「参加します!!」
「即決した!? というかその湯、効能なに!?」
「全ステータス10倍、24時間限定!」
「物理的にもIQ的にも意味わかんねぇバフ来たな!? 温泉の役割超えてるよね!?」
◆◇◆◇
第一問!
「【Q. 勇者の定義は?】」
「それは簡単、“魔王を倒した者”!」
ミミル即答。
「正解です!」
「……俺、勇者って名乗ってた時期あったな……」
「無職のことを“未来の社長”って言うくらいには虚しいわね」
「今すぐ辞退してこい」
◆◇◆◇
第二問!
「【Q. ここで“バナナ”と言ってはいけません。今の気分は?】」
「“温泉たまご”!」
「“後悔”……」
「“脱・雑用”!」
「“バn――”」
「アウトォォォ!!!」
ライルの叫びと共に、床が抜けて彼は下の温泉へと真っ逆さまに落下。
「なにこれ、バナナトラップ……?」
「どうやら“言ったら負け系罠温泉”らしいわ」
「その発想、完全にギャグ漫画じゃん!!」
◆◇◆◇
第三問!
「【Q. あなたが“本当にほしいもの”は?】※本音センサー作動中」
「金!!」
「金!!」
「金……じゃない、“地位と名声”!」
「俺は……俺は……勇者の称号が……」
ピピピ――
《ウソです。あなたがほしいのは、“安定した生活”です》
「現実見せんなぁぁぁぁ!!」
「お前、勇者じゃなくて“社保完備の仕事”探せよ!!」
◆◇◆◇
最終問題!
「【Q. “お風呂で大事なもの”は何?】」
全員が同時に答えた。
「「「“他人の裸を見る勇気”!!!」」」
「みんな最低だよね!!?」
「なぜか一致する価値観やめろ」
「でもベルは鎧つけたまま入るからノーカン」
「風呂は戦場。鎧は肌」
「こいつも十分おかしいわ!!」
◆◇◆◇
結局、優勝は――
「正解数ゼロだけど、“運だけで罠を全部回避した”って理由で、ライルさんの勝ちです!!」
「なぜだぁぁぁぁ!!? 何一つ答えてないのにいいのかこれぇぇぇぇ!?」
「“運”という才能が、知力を超えることもあるのです」
「それ、社会が崩壊する理論じゃね!?」
◆◇◆◇
こうして、ライルは“極楽の泉”を独り占めした。
……が、泉に入った瞬間、
「ぬぉおお!? 熱すぎて溶けるぅぅぅ!!」
《※温度調節:地獄の設定でした》
「どこが極楽だよぉぉぉ!!!!!」
◆◇◆◇
温泉で回復するはずが、HPもIQも削られた一行。
それでも、旅は続く――
「……勇者になるって、いろんな意味で茨の道だな」
「もはや、温泉にまで試される時代か……」