第8話:「王女様に、な・ら・え☆ なお模範は不在のもよう」
~それは、女王の威厳とパシリの誤差~
「これ、王女様の依頼よ」
旅の途中、またも立ち寄った町で、受付嬢にそう言われて差し出されたのは、一通の金ピカな巻物。
「……高貴感バリバリだけど、内容は?」
「“王女様のおつかい”」
「それ、ただの買い物代行じゃねぇか!!」
「いやいや、違うの。これは由緒正しき“王女様のための試練”なのよ」
「買い物が!? 試練が!? 王女様どんな修行してんの!? そのへんのグラドルより過酷じゃん!!」
◆◇◆◇
指定されたアイテムは――
・鳴くキノコ(一定時間ごとに「うるさいわね!!」と鳴く)
・走る宝石(秒速8メートルで逃げる)
・超反応ミルク(容器に触れた瞬間、跳ねる)
「いや、何でこのチョイス!? 全部、生き物みたいな反応するんだけど!?」
「王族の間では、“制御不能な物ほど貴い”っていう美的感覚があるらしいよ」
「センスぶっ飛びすぎてて逆に尊敬するわ!!」
◆◇◆◇
まずは鳴くキノコの採取。
森の中で見つけたソレは、まさに厄介そのもの。
「ほらライル、手で触ってみて」
「俺、またなんかフラグ回収させられる!? ちょ、わっ――」
「うるさいわね!!」
「うるさいのはお前だよ!! てかこのキノコ、性格セリナそっくりなんだけど!!」
「今殺意芽生えたわよ?」
◆◇◆◇
続いて、走る宝石の追跡戦。
洞窟に入った瞬間、キラリと光ったと思ったら――
「速ぇ!! 逃げ足、盗賊の2倍はあるぞこれ!!」
「ベル! 道塞いで!!」
「無理だ!! この鎧、加速装置ついてねぇ!!」
「ってかお前、また新装備作ったの!? 現地クラフトやめてぇぇぇ!!」
「これは“逃げ足対策仕様・追跡用トゲ付きシューズ”だ!」
「開発する前に捕まえろよ!」
◆◇◆◇
そして最後、超反応ミルク。
見た目はただのガラス瓶だが……
「うわっ! 触れた瞬間、跳ねた!?」
「ていうかこれ、空中で回転してんだけど!?」
「魔法瓶、魔法ってレベルじゃねぇ!!」
「お前が飲もうとした瞬間、瓶に『俺は自由だ!』って書かれてたわよ」
「もはや飲み物じゃなくて思想持ってんじゃん!!」
◆◇◆◇
苦労の末、全アイテムを手に入れた一行。
王城にて、王女の前に立つと――
「うふふ、すばらしいわ。皆さん、おつかい……じゃなかった、“試練”をよく乗り越えましたわね」
現れたのは、キラッキラのドレスに身を包んだ、ぶっ飛んだテンションの姫様。
「では、褒美として……我が国の“勇者候補バッジ”を授けましょう!」
「やった! ついに勇者に一歩……!」
「ただし、これは“勇者候補の候補のさらに候補の登録待機券”です」
「めちゃくちゃ遠いやつじゃねーか!!!」
「ちなみに使用期限は明日までです」
「どこのクーポンだよ!!!」
◆◇◆◇
その日の宿。
ベッドに倒れ込んだライルは、天井を見つめながらつぶやく。
「……俺、もうすでに魔王より王女様のほうが強敵な気がしてきた」
「気のせいじゃないと思うわ」
そうして――
今日もまた、“勇者”には一歩も近づかない一行なのであった。