表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/32

第3話:「金もない、地図もない、宿すらない」

~野宿より怖いのは、サービス過剰な宿でした~


「ねえ、あの宿……誰もいないのに、なんか妙じゃない?」


ライルが指差したのは、山道の終わりに忽然と現れた真っ白な建物。

二階建ての宿だが、周囲に人影はゼロ。

看板には「歓迎・コホリ村(ほぼ廃村)」の文字。


「廃村って…お前、まさか『誰もいない』=『サービス満点』のパターンじゃないよな?」

セリナが財布を握りしめて言う。


「誰もいないから全部タダってことだよ!最高じゃん!」

ベルはすでに装備の錆びを気にしつつも、食い気味。


「とにかく、確認するぞ!」

ライルが木の扉をノックすると――


ぎぃぃぃ……


「開いたーー!俺は誰も開けてないのにーー!?」


「オートドアか?いや、この田舎にそんな文明あんのか?」

ミミルは眉をひそめる。


◆◇◆◇


中は誰もいなかった。受付には「ご自由に泊まれ。食事・風呂・寝具すべて無料」との貼り紙。


「無料とか逆に怖いって!」

セリナはすでに財布を閉じた。


しかし、テーブルに並ぶごちそうの匂いに、腹が鳴る。

ベルは無言でパンにかぶりつき、ライルもローストチキンを前に目が輝く。


「食っていいのかこれ!?罠じゃないか!?」


「おいしい……これは間違いなく冒険者向けの高級補給品だ」

ベルが冷静に分析。


「で、でも…無料って怖すぎるわ!」


◆◇◆◇


結局、全員が誘惑に負けた。

風呂に入り、布団に転がり、文明のありがたみを噛み締める。


「これが…幸せってやつか」

ライルがぽつり。


ミミルは布団の上に魔法陣を描き「結界つけた。生きてたら褒めて」と言い残して寝た。

ベルは壁の木材をノミで削り始めていた。


「それやめろ!次来れなくなるだろ!」


◆◇◆◇


深夜。

ライルが目を覚ますと、廊下の先で妙な音が。


「ギシリ…ギシリ…スー…ギシリ……」


ロビーを見に行くと、顔のない人影が掃除道具を持ち、床を磨いている。


「お掃除ゴーレム!?これ、絶対ヤバいやつじゃん!!」


慌ててトイレを済ませ、そっと寝床に戻るライル。


◆◇◆◇


翌朝。


「夜中に皿洗ってるゴーレム見たわ」

「俺は風呂場で道具を整頓してた」


「この宿、魔法遺産っぽいな。無人運営してるってことか」


「…全然怖がってないの!?お前らさすがポンコツ冒険者」

セリナはあきれ顔。


「まぁ、無料で食って寝れて風呂も入れて、なんならゴーレムに掃除までされて…悪くない宿だろ?」

ライルは得意げに言った。


◆◇◆◇


そして、魔王城への旅は続く。

「勇者って名乗るのは、倒してからにしてくれよな!」

――ポンコツ勇者ライルの挑戦は、まだまだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ