第1話:「とりあえず行ってみるか、魔王城」
~この旅、ノリと勢いでできています〜
勇者ってのはな、魔王倒して初めて名乗っていい称号なんだよ!」
酒場の隅で、ライルは顔を真っ赤にして叫んだ。
「お前、今日もそれ言ってるけどまだ倒してないだろ。おまけに、酒こぼしてるぞ」
隣の先輩冒険者が呆れ顔で言う。
「倒したら人生変わるって信じてるんだよ。今日こそ魔王城行ってやるんだ!」
「お前の“今日こそ”はもう5年続いてるけどな」
◆◇◆◇
翌日、ライルは重たい剣を背負い街を出た。
門番が笑いながら言った。
「魔王城は遠いぞ?3日以内に帰ってきたら、俺が焼き鳥おごるわ」
「わかった!絶対3日で倒して戻ってくる!」
門番は勝手に期待していた。
「……いや、してない」
◆◇◆◇
三日後。
「うわああ!オオカミ魔獣に追われて死ぬうう!」
ライルは悲鳴を上げながら全力疾走。剣は落とした。
「おい、伏せろ!」
弓の名手セリナが矢を放ち、魔獣は倒れた。
「アンタ、戦う気あるの?」
「…ないです」
「じゃあなんで魔王討伐?」
「…ノリで」
◆◇◆◇
数時間後、焚き火の前。
「お金ないなら私にくっついてきな。儲け話あるかも」
「俺も財布落とした!」
「死ぬ気?」
「いや、運だけは良いから!」
セリナは顔をしかめた。
「その運が頼りかよ…」
◆◇◆◇
さらに翌日。
鍛冶屋兼戦士のベルが合流。
「武器の手入れは大事だが、戦いも大事だぞ」
彼は戦闘中に鎧を直し始め、敵に無駄に殴られた。
その夜、悪魔族の魔法使いミミルが加わった。
「300年ぶりに人間界。愚かさに笑った」
「じゃあなんで来たんだよ?」
「暇だったから」
◆◇◆◇
こうして4人の奇妙な旅が始まった。
ライルは思った。
「俺、いける気がする!」
セリナは冷たく言った。
「そういう奴が一番死ぬんだよね」
ベルは武器を磨きつつ呟く。
「火力足りんな…ハンマー持ってくればよかった」
ミミルは目を細めた。
「旅って、やっぱり騒がしいな…」
◆◇◆◇
結局、勇者って名乗るのは魔王倒した後。
だが、誰も倒せないから皆名乗らない。
ならば、
「俺が倒さなくても、俺が勇者名乗っても誰も文句言えないだろ?」
ライルの無謀な冒険は、今日も続く。