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第六話 アン 旅の途中 (1)


昨日(5月27日)1話から5話までに訂正を入れました。

矛盾が生じそうな記述を一部変更しただけですので大した事はありませんが、気になる方はお手数でも読み返すと宜しいかも、です。

余計な御手間を取らせてスミマセン。



第6話 アン 旅の途中 (1) 国境まで




あたしを迎えに来た人(何度聞いても名乗ってくれなかった)に『お前は魔物だ』と言われたショックで(それ以外にも色々とショックを受ける様な事を言われたけど)あたしは何も言えずに(迎えに来た人も無駄口は一切利かなかったので)馬車に揺られているうちに眠ってしまったらしい。


「起きろ」


体を揺さぶられて目を覚ますと、信じられない事を聞かされた。


「今夜はここで野営だ」


え?


野営って?


ここって・・・どこ?


あたしは寝起きのぼーっとした回転の鈍い頭で言われた言葉を反芻してた。


馬車の中に一人で残されたと気づくまで。


慌てて馬車から降りると、外はもう真っ暗闇で雨上がりの冷たい夜風が身体を震わせた。





迎えに来た人は御者らしき人と二人で、薪を集めたり、火を熾す準備をしていた。


野営って・・・野宿の事?


「こちらに来て、手順を覚えるんだ」


迎えに来た人にそう言われて戸惑った。


「宿には泊まらないの?」


あたしが聞くと、その人は無表情のまま冷酷に答える。


「自分の立場を考えろ」


あたしの立場?


『魔物』だから宿には泊まれず、野宿をするしかないって?


まだ自分が『魔物』だと納得出来てないのに?


それでもあたしはその人の傍に近寄り、火の熾し方を教わった。


どうして素直に従ったかって?・・・お腹が空いてたんだもん。





熾した火でお湯を沸かして、お茶を入れてから、やっと食事にありつけた。


お湯の中に干し肉と手で千切ったキャベツを放り込んだだけのスープとパンだけだったけど、空腹にはごちそうだ。


食事が終わると、早々に御者の人は馬車の御者台で寝袋に包まって眠ってしまった。


眠る前に火の傍で身体を暖めておくためにあたしとその人は焚火の前で座っている。


あたしは地面の上で眠るのかな?と不安に思ったけど、あたし達も流石に眠る時は馬車の中に入って眠れるらしい。


その方が暖かくて安全なのだとか。


あの狭い馬車でどれだけ眠れるかは解んないけど。





「その・・・ずっと馬車で眠るの?」


目的地のシャノンとやらまでどれほどの距離があるのか分かんないけど、手足を伸ばさず眠る事に慣れてないんだけどなぁ。


「お前は攫われた事になっている。軍と警察の手配所が回らない場所まで行けば宿に泊まる事も出来るだろう」


攫われたって・・・マーガレットお姉様の時と同じなの?


みんな心配してるんだろうな・・・


「あの・・・あなたも『魔物』なの?」


あたしは気になっていた事を尋ねた。


御者の人の前では『魔物』の一言を出さないようにしてるみたいだし、普通の人は『魔物』と聞けば恐れ戦いて腰を抜かすんじゃないの?


そんな『魔物』のあたし(しつこいようだけど、まだ納得出来てない)を迎えに来たって事は、この人も?


御者の人だって怪しいけど、彼は会話に一切参加しないし、あたしとこの人の事をどれだけ知っているのかも分かんない。


「そうだ」


あたしはまさか、この人がこんなにあっさり自分も『魔物』だと認めるとは思ってなかったから、びっくりした。


「え?そ、そーなんだ」


ええっと、なんて返すべき?


すごいのね!とか?(アホすぎる)


どんな力を持ってるの?とか?(聞いてどうするの?)


「じゃ、じゃあ、あなたもシャノンの人なの?」


バカね、あたし!


そうじゃなきゃ、迎えに来た意味がないじゃないの!


けれど、その人の答えは思っていたものとは違ってた。


「いや、私は魔物だが、シャノンの者ではない。人里とシャノンの繋ぎをつける役割を負っている」


あ、そういう人もいるんだ。


そうよね、こうして迎えに来る人がいなくちゃ、『魔物』になった人がシャノンとやらまで一人で行く事は出来ないんだろうし。


「あなたはティモールの人なの?」


名前を教えてくれなくたって、出身ぐらいは教えてくれるかな?と思って聞いたのは、ティモールで、と言うより(あたしはそんなに遠出をした事がないけど)王都のセヴァーンでだって彼女の様な髪と瞳の色をした人は見た事がなかったから。


「いや、私はバレンツの生まれだ」


だから、彼女の答えを聞いたあたしは素直に納得してから疑問に思った。


彼女の白に限りなく近い銀色の髪はバレンツ出身なら、北国の帝国にはそういった色の髪を持つ人がいると話にだけは聞いた事があるから判る。


けど、これから向かうシャノンがティモールの国内ではないなら、もしかして・・・


「・・・シャノンってティモールの人達だけが集まっている訳じゃないの?」


焚火の向かい側に座っているその人は、相変わらずの無表情のまま頷いた。


「『魔物』が隠れ住む里はシャノンだけではないが、シャノンにはティモール以外から逃れて来た『魔物』も数多くいる」





あたしは次第に今まで見た事もない『魔物』の存在が身近なものになって来ているのを感じてた。


あたし自身はともかく(くどいようだけど、あたしはまだ自分が魔物だと信じてないから)目の前の人が『魔物』なのだと聞いても、『魔物』がそれほど人と変わらないのではないかと感じ始めてたから。


もっとも、彼女は髪や瞳の色の事を別にしても、綺麗で目を引く人だと思う。


普通に喋るし(言葉が少なめでも彼女のティモール語はバレンツ出身なのに完璧だった)お茶も食事も普通に取ったし(食べ方は綺麗だったし、量も普通だった)トイレにも行った(たぶん、馬車から下りたあたしにするべき場所を教えてくれたから)


こうして考えると、あたし自身がどれだけ『魔物』に対して強い偏見を持っていたかが判って恥ずかしくなる。


だって!『魔物』について教わるのは家庭教師からの授業でチラッとだけなんだもん!


貴族の子女は家庭教師にダンスや行儀作法の他は、文字の読み書きと計算の仕方と簡単な歴史ぐらいしか教わらないのよ!


お兄様達のような男の子達は12になると士官学校に入るけど、あそこで教わるのは武術や戦術といった事が主だって聞いたし。


女の子は大抵、15・16で社交界にデビューして、それから2年から5年くらいで結婚しちゃうのが普通だって聞いたもん。


そー考えれば、15歳でデビューしたソフィアお姉様は完璧な行き遅れに入るのよね。


美人でスタイルが良くてモテるのに、どうして結婚しないのかな?


もっとも、あの性格では旦那様になる人は大変だと思う。


我が侭だし、浪費家だし、よくヒステリー起こすし、使用人だけじゃなくて弟や妹まで(口げんかばかりしてるコンラッドお兄様は別にしても)自分の家来のように扱うし・・・売れ残るのも無理ないかな?


ソフィアお姉様の事を考えてたら、家族のみんなの事まで次々と思い出しちゃうよぉ。


お父様もお母様も絶対にもの凄く心配してる。


あ、でも病気のお母様には知らせて欲しくないな。


きっと、もっと病気が悪くなっちゃうもの。


ソフィアお姉様のヒステリーだってこうなると懐かしくなる。


今朝、怒られたのが最後だなんて、悲し過ぎる。


コンラッドお兄様は・・・あの皮肉屋で冷静なお兄様だって、きっと心配してる、はず。


フレデリックお兄様はきっと「あのバカ!」って言ってもの凄く怒ってる。


元はと言えば、使用人の目を盗んで護衛も付けずに一人で神殿に行ったあたしがいけないんだから・・・


それとも、彼女が言っていた事が本当に事実なら、あたしが間もなく『魔物』の力に目覚めるのなら、それが良かった事になるの?


もう家に帰れなくて・・・もう家族に会えなくても?


『魔物』になってマーガレットお姉様と(記憶にない)ジュリアスお兄様に再会出来るにしたって・・・


悲しい事と嬉しい事の二つが秤に掛かったようにグラグラと揺れてる。


やだぁ・・・泣きたくなってきちゃったよ。





「そろそろ眠らないと、明日は早い」


彼女の言葉に、抱えていた膝に顔を埋めていたあたしは顔を上げた。


あたしは火の始末をする彼女をぼーっと見詰めてると、促されて馬車に戻った。


寝袋に包まって座るあたしの向かいで、彼女腰に下げていた剣を肩に凭れさせるようにしただけで目を閉じた。


「寒くないの?」


寝袋を使わない彼女に訊ねると「気にするな、慣れている」と返って来た。


軍服のような服を着ているし、女性なのに剣まで持ってるし、この人は本当にどんな人なんだろう?


謎が深まるばかりの迎えの人に、それでもあたしは気を許し始めていたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。





あたしはガタガタと揺れる馬車の動きで目が覚めた。


いつの間に出発したんだろう?


寝惚けてぼーっとしているあたしにカップが差し出された。


受け取ると、まだ少し暖かいお茶が入っている。


「朝食の代りだ」


え?これだけなの?


た、足りない!


あたしは育ちざかりなんだもん!


朝食には、いつもパンを三つと卵を二つにベーコン四枚とサラダとフルーツまで食べてたのに。


あ、フレデリックお兄様にいつも言われてた「お前、ホントによく食うよなぁ」って言葉を思い出しちゃった。


くすん。


でも、我慢しなきゃ駄目なのよね。


御者の人もこの人も、あたしと同じ物を同じ分だけしか食べてないんだし(あたしが知らないうちに隠れて食べてるとも思えないし)、あたしは馬車に乗っているだけで動かないし。


第一、馬車に積んでいる荷物はそんなに沢山なかったみたいだし。


でも、馬車の馬を取り替える時に街へ立ち寄っているんだから、食糧の買い足しは出来るはずなんじゃ?





あたしは昨日、この馬車が最初に馬を取り替えるためにどこかの街の馬屋に止まった時、逃げ出すなら今がチャンスだと思った。


迎えに来たこの人と御者しかいないんだし、馬車が止まっている間なら、飛び出して誰かに救いを求めればきっと、その街の警察か軍に保護して貰って家に帰れる!って考えた。


でも、もし・・・もしも本当にあたしが『魔物』で、彼女が言ったみたいにこれから『魔物』として覚醒してしまうのだとしたら?


家に戻っても、待っているのは『処刑』でしかないんだよね。


それに、やっぱりマーガレットお姉様に会いたい!


迎えに来たというこの人を、まだ信用し切れた訳じゃないけど、その『シャノン』とやらまで行ってみてもいいんじゃないかな?って思ってる。


まだまだ、あたしが『魔物』だって言うのは信じてないけど!!





シャノンへの旅が始まってから二日目は五回、馬を取り替えるために止まった。


一日目と同じく、その間に馬車出る事を許されなかったけど、あたしは止まって動かない馬車の中で、昨日はしなかった事を、立ち上がって伸びをしたり膝や腰の屈伸運動を始めた。


だって、じっと何時間も座ったままでいたら、身体が固まっちゃうもん!


一日目の夜、馬車から降りた時に足を踏み出すのがどれだけ大変だったか!


お年寄りのように腰を屈めてギクシャクしながら一歩ずつ歩く事しか出来なかったんだから!


迎えに来た人はあたしの運動不足解消法を相変わらずの無表情で見ていたけど、止めさせたりはしなかった。


でも、そんな事が出来るのは、やっぱりわずかな間で、殆ど一日中馬車を走らせている訳で、窓が覆われて外の景色も見えない状態では一緒に乗っている人に話しかけて暇をつぶすしかないのよね。


無視される事が多いし、たまに言葉が返って来ても素っ気ない言葉だけだって判っててもね。


「あなたはマーガレットお姉様に会った事があるの?」


「ああ」


その言葉にあたしはちょっと興奮した。


「ねえねえ、お姉様って今はどんな感じ?居なくなってから四年も経ってるんだから、さぞかし綺麗になってるんだろうなぁ」


初めて会った時にも、なんてお母様によく似た綺麗な人だと見惚れてしまう程の美少女だった。


長くて真っ直ぐで艶のある髪にロイヤルブルーと呼ばれる王家の血を感じさせる碧い瞳に白い肌。


もう16になってるはずだから・・・ソフィアお姉様は16の時に初めて胸の大きく開いたドレスを着て、それを見た時、それまでとは別人みたいにもの凄く大人っぽく見えたもん。


コンラッドお兄様にそのドレスを『下品だ』と言われて喧嘩してるのを見た時は、中身は相変わらずなんだなって思ったけど。


マーガレットお姉様は、12の時で既にもの凄く綺麗な美少女だったんだから、きっと今じゃソフィアお姉様よりも、もっとすごい美人になっているんじゃないかな?


ああ!早く会いたい!!


「彼女は今、里で『聖女』と呼ばれている。お前の美醜の基準は判らんが『綺麗』で間違ってはいないだろう」


『聖女』!すごいわ!さすがお姉様!!


「言い忘れてたが、彼女は今では『マーガレット』ではなく『マルガリータ』と名乗っている」


「どうして?」


名前が違うの?


「里に住む者は以前の名を捨てて新しい名を得るのが決まりだ」


そ、それじゃ・・・


「あ、あたしも名前を変えなくちゃならないの?」


家族みんなが考えてつけてくれた名前を・・・


「そうだ。お前は里では『アンナ』と名乗る事になる」


そんなぁ!


「もう決まってるの?」


「新しい名はバレンツ読みに変わるだけだ。意味は変わらない」


そ、そっか・・・それなら・・・ん?と言う事は?


「シャノンはバレンツ帝国の中にあるの?」


この質問に彼女は黙ったまま答えてはくれなかった。


うう~ん・・・そんなに場所について話しちゃ駄目なの?


でも、シャノンに向かって馬車は走っているんだし、彼女だけじゃなくて御者の人だって当然場所を知ってるんだろうし、走っている最中に道を歩いている人に話が聞こえる訳じゃないし、御者の人にだってあたし達の会話が聞こえているかどうかすら判らない状態で、それはちょっと気にし過ぎなんじゃ?


そう思ってたあたしの考えが次の日にはもっと深まった。


三日目は前日よりも更に長く馬車を走らせ、かなり遅くなって漸く止まった場所はどこかの街で、そこであたし達は御者ごと馬車を違うものに乗り換える事になった。


街中で馬車を降りたのは初めてだったから、ちょっとドキドキしたけど、時間が遅かったらしく他の人と顔を合わせる事はなかった。


新しく変わった御者の人も前の人と同様に一言も喋らない人だった。


そして、違うものに変わってすぐに走り出した馬車に、あたしはもしかしたら街の宿で眠れるかも、と言う淡い期待を裏切られる羽目になった。


二台目の馬車は夜通し走り続け、馬を変えるために街で止まる他には止まらなかった。


従って、あたしは彼女と共に丸二日間、馬車の中で過ごした。


トイレと食事はどうしたかって?


レディにそんな事言わせないで!


食事は硬いパンと水だけだったわ!!





そんな最低の三日目と四日目を過ごした後、止まった馬車から「降りろ」と言われてホッとしたあたしは、何も持たずに歩き出した彼女の後を付いていくと、いつまで経っても立ち止まらない。


「ねぇ、どこで野営するつもりなの?」


今までは街道から少し外れた場所に馬車を止めて、その傍で野営してた。


薪拾いするにしたってこれじゃ馬車から離れ過ぎでしょ?


彼女は街道から外れ、すぐ側の森の中をずんずん歩いてる。


薪になりそうな小枝も拾わず無視して、ただ歩いてる。


「ここで野営はしない。次の馬車が用意してある場所まで歩く」


えええ~!!


歩くって・・・本気で?


唖然として立ち止まったあたしを置いて彼女は歩き続けてる。


しばらくして、動かないあたしに気付いても、振り返って「来い」と一言だけ。


判ったわよ!運動不足を解消する機会よね!歩くわよ!


馬車から降りたばかりでギクシャクする足を動かしながら、あたしは必死になって彼女の後を追った。



それからどれくらい歩いたのか判らなかったけど、あたしの息は切れ、ゼィゼィ言いながらひたすら足を動かしてる状態になっても彼女の歩みは止まらない。


遅れがちのあたしを時々立ち止まっては待っててくれるけど、いつになったら次の馬車に辿り着くのよぉ・・・


何度も「まだ?」と訊ねながら歩いてると、やっと立ち止まってくれた。


「ここなの?」


ホッとして訊ねたあたしの口を、彼女はいきなり手で塞ぎ「静かに」と囁いた。


息を殺して辺りの様子を伺えば・・・暗闇に慣れた目が前方に見つけたのは壁。


壁?


これってなに?


・・・もしかして・・・国境!?


あたしは壁が国境だと意識した途端に、冷や汗が流れるのを感じた。





国内を移動するには、馬でも馬車でも徒歩でも好きな方法で自由に移動出来る。


王都や街に城壁や城門などないから。


あたしが生まれ育ったティモールではね。


でも、国を出るとなると話は別。


ちゃんと役所が発行した許可証を持っていないと国から出る事は出来ないって聞いた。


国境には(戦争の結果次第で位置が変わる事はあっても)川や険しい山といった人が簡単には越えられない場所以外では、国境を示す壁が張り巡らされてるって。


そこでは、兵士が定期的に巡回をしてて、許可証を持たずに勝手に国を出入りしようとする人たちを取り締まってるって聞かされた。


もちろん、戦争が始まればそこは最前線になっちゃうから、砦のような物も幾つかあって、許可証を持っている人はそこを通る事が出来るって、士官学校に行ってたお兄様達に教えて貰った事がある。





あたし達は、とーぜん国境を超える許可証なんて持ってないし、下手をすれば、イヤしなくたって、国境を巡回してる兵に見つかっちゃったら・・・


彼女は誘拐犯として捕まり、あたしは保護された人質として家に帰される?


いや、それも悪くないんじゃない?


この最悪な旅に終止符が打てて、美味しいたっぷりな食事とお風呂に入れる上にふかふかのベッドで眠れる!


あたしは未だにあたしの口を手で塞いでる傍らの彼女をチラリと窺った。


全然変わらない相変わらずの無表情だけど、息を詰めて国境の様子を窺っている真剣さは判る。


この人は、無愛想で無表情で冷酷に見えるけど(実際そうだけど)慣れていると言ってもこの四日間馬車に揺られ続けるような過酷な旅を続けて、さらに国境を無断で超えるだなんて、捕まったら大罪に問われる様な事をするつもりなんだ。


それもあたしを送り届けるためだけに・・・




お父様に言われた事がある。


信じられると思った人は最後まで信じなさい、って。


裏切られると少しでも疑ったら、もうその人の事は信じられなくなってしまう。


人は弱い生き物だから、裏切られる事を恐れて信じる事をたやすく止めてしまうけど、だからこそ、信じ続けていればいつか必ず相手はその信頼に応えてくれる、と。


人を信じる強さを持ちなさいと言われた。


あたしは・・・あたしは未だに名乗らない彼女を信じてる。


あたしに嘘を吐いたり、騙したり、置き去りにしたりする事は、絶対にないと信じてる。


そして、彼女も、あたしがシャノンまで一緒に付いてくると信じてると思う。


あたしの信頼と彼女の信頼の二つを自分で裏切る事は、お父様に言われた事に反すると思うんだ。


だから、あたしは彼女が、どんな手段で国境を超えるつもりなのか知らないけど、彼女に黙って付いていこうと思う!





でもね、でも・・・国境の壁をよじ登るだなんて!


レディにさせる事じゃないでしょ!!


いくらあたしが家族からお転婆だと言われ続けて来たからって!!!



彼女はいいわよ!男装しててズボンを穿いてるんだし!


でも、あたしはスカートなのよ!!


誰も見てないし、彼女が先に登ったし、スカートの中を覗かれたりした訳じゃないけどっ!!!


あたしはまた一つ、黒歴史を増やして国境を越えた。


・・・まさかお姉様もこうやって国境を越えたんじゃないよね?







長いのに進み具合が遅くて申し訳ないです。

アンの旅はまた続きます。


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