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番外編 教えて!ルイス


タイトルを「ルイスの地学教室」にしようと思ったのですが、アドリア神聖帝国や祭司長や神殿についての説明が長くなったので、地学についてはほとんど触れていません。

地震大国日本の国民である皆様に改めて地震についての知識を攫う必要はないと割愛しました。


ダラダラと状況説明が続きますがご一読いただければ幸いです。






アドリア神聖帝国は元々この大陸に唯一の専制君主国家として君臨していたが、領土が広大に広がり人口が増えるにつれて、領地を王族や貴族に分割していき、長い年月の間にそれぞれの自治を認め、一番最初に独立したのが王弟に下賜したとされているティモール王国で、アドリアに次いで歴史の古さを誇っている。


従って、ティモールの国王が即位する際には、新国王はエルベに出向き、猊下と呼ばれる神殿の祭司長から祝福を受ける事が義務付けられている。


ティモールと同様にアドリアから独立分離した国々が次第に増えていったが、創造神・マトフェイを信奉する以外、アドリアにそれ以上の敬意を払う国はティモールだけである。

エルベへの巡礼もティモールからのみなので(もちろん、個人レベルで巡礼を行う熱心な信者はそれぞれの国にも存在するらしいが、神殿や国が公に行っているのはティモールだけである)信仰の強さも他国より強いとされている。


隣接していると言う立地条件からか、アドリアとティモールは言語も文化も余り差が生まれなかった。


今ではティモールで使う場合はティモール語、アドリアで使う場合はアドリア語と呼ばれてはいるが、実は殆ど同じ言語を使用している。


大陸の屋根と呼ばれる高い山脈を挟んでいても、それは長年変わる事がなかった。


領土から独立した国が増え、国としての領土は小さくなったが、アドリアは国の統治方法を政教一致の神聖帝国とし、創造神・マトフェイ神の神殿の総本山として、この大陸に確固たる地位を得て未だに君臨している。


唯一の例外がバレンツ帝国で、そもそもかの帝国はアドリア、と言うよりは神殿への不信感を募らせて集った人々が集まって、当時未開の地であった北の大地に出来上がった国だからと言われている。


だから、バレンツで信奉しているのは、創造神・マトフェイではなく、現人神とされる皇帝であり、他国からは『創造神から見放された国』だと言われているが、近年では国力と軍事力を増強して、各国から脅威の存在と目されている。


このようにこの大陸では国々の対立や諍いの種が未解決のままに存在しているが、『魔物』の存在が、全ての国と宗教を超えて各国が協力し合う唯一の例外である。






以上があたしが公爵令嬢であった頃に家庭教師から教えられたティモールの歴史であり、シャノンで教わった大陸の歴史と現状である。


「お前はどれだけアドリアについて知っている?」とルイスに訊ねられたので、あたしの知識をざっと披露してみた。


するとルイスは「成程、『魔物』の里ではかなりまともな教育がされてるんだな」と、侮蔑する訳じゃなて感心したように言った後で、あたしにこう訊ねた。


「建国の理由からして絶対に相容れない筈のバレンツ帝国とアドリアが『魔物』に関してだけ協力関係にあるのは何故だと思う?」


バレンツ帝国は年月を経て国力を大きくさせると共に、周辺各国との交流を深めていった。


ティモール王国王女である、あたしのお母様の姉君が帝国の王子であった方に嫁いだ事からも判る様に、他国の王家との政略結婚を始めとして、貿易も外交も行われている。


ただ、アドリア神聖帝国とだけは、表向き一切の交流を絶っている。


「えっと、それは・・・それだけ『魔物』に対する脅威を感じているから?」


これは家庭教師から得た知識だけど、それ以外に何かあるのかな?


「これは神殿内部では公然の秘密みたいなもんだが、アドリアが領土をあれだけ小さくなるのを大した抵抗もせずに黙って見過ごしたのは、領土の維持よりも血筋を守って特殊な力を温存するためだと言われている」


特殊な力を温存?


「一般には知られていないが、祭司長は世襲制ではないが決まった一族の中から代々選ばれる。その一族は3親等以内での婚姻が常識だとされているらしい。つまり、近親婚を繰り返して守りたい力があると言う事だな」


今では禁忌とされている近親婚を未だに続けているの?


「俺はまだこの目で見た事はないが、祭司長になる条件の一つとして『神の力』が遣えるってのがあるそうだ。どんな力だかは流石に伝えられてないが」


神の力って・・・


「・・・なら、どうして・・・」


魔物の排斥なんて・・・自分達と同じ力を持つ者達を排斥するだなんて事を?


「祭司長の力については神殿でも秘中の秘とされている。だからこそ、他の力を持つ存在が許せないんだろう。特に一番目障りなバレンツが出所とあっちゃな」


それにしたって、酷い!


『魔物』だと言うだけで、あたしやお姉様やユーリ達が家族や故郷から離されて、どんな思いをしてきたのか・・・


でも、祭司長があたし達と同じなら・・・


「・・・エルベに居る祭司って・・・ううん、神殿に居る祭司や巫女って、もしかして」


あたし達と同じなの?


全ての祭司や巫女がそうではなくても、そうした力を持つ人が多いの?


だから、神殿では安定した力の出し方を咏を詠うと言う方法で教えているの?


ルイスはあたしが言葉に出来なかった事を間違えずに推測してくれたらしい。


「お前の考えは間違ってないんだろうな」


俺にはそんな力はないが、と付け加えて。


でも、あたしはそんなルイスの言葉に疑問を持った。


本当に彼には力がないのかな?


リアードの里の人達の前で詠った時にあたしが出した力は、あたしだけの力だったのかな?


ルイスの咏にも力があったからじゃないのかな?


でも、今そんな事を言っても、ルイスはきっと否定するんだろうな。






あたし達はリアードを出て、馬でエルベに向かっている。


険しい谷間にあるリアードから都であるエルベに向かう大きな街道に出るまでは、来た時と同じように立ち寄れる街などないから、暫く馬に休養を取らせながら進んで行くしかない。


その休憩の時にルイスの講義が始まった訳なんだけど、まず最初にアドリア神聖帝国と神殿についての実情について教えられた。


「神殿の中はティモールでもエルベでも、魔物を擁護する者や排斥を謳う者といった、色々な考えを持つ祭司たちの派閥が対立するばかりで統一性がない。対立は激しくなる一方で、信仰なんて二の次になっちまってる。俺はそんなトコに嫌気がさしてた訳だが、肝心の猊下・・・祭司長の真意も俺達みたいな下っ端には伝わって来ない。リアードの里長はコネがあるようだが・・・正直、俺には師であるクレメンスの知り合いである祭司の伝手くらいしかないんだ」


ええ~?それでも立派な伝手だと思うけど。


バレンツ帝国のミハイル殿下だってアーニャだって、神殿には伝手なんてないだろうし。


当然ながらあたしだって。


「ミシェル様がその辺は何とかしてくれるんじゃないの?」


あたしがそう言うと、以外と慎重で神経質なルイスは長い溜息を吐いた。


「お前は気楽でいいな」


失礼ね!


「ルイスは祭司長に会った事があるの?」


巡礼の付き添いで何度かエルベに行った事のある彼は『猊下』とやらの力を見た事はなくても、顔を見た事ぐらいはあるのかな?


「会うって言うか・・・遠くから一度だけ見掛けた事があるが、祭司長になってからまだ5年程だし、思っていたよりも若いって事ぐらいしか判らなかったぞ」


滅多に人前には出てこない存在だからな。


ルイスの言葉に、あたしは「ふう~ん」と呟いて考え込んだ。


祭司の長なんだから、若いって言ってもお父様よりは年上ぐらいかな?


名実共にアドリアと神殿のトップで、もしかしたらどの国の王様よりも偉い人。


リアードの人達を『神の遣い』として利用してる事や、ルイスが言ってた今の神殿の状況をどう思っているんだろう?


それに、あたしと同じ様な力を持っているとするのなら『災厄』についてだって、知ってる筈だよね?


彼は、祭司長は一体どうするつもりなんだろう?






「ま、神殿について俺が教えられるのはこんな所までだが、肝心のプレートについて覚えて貰おうか」


え?


「つ、次の休憩の時にしない?もうそろそろ出発しないと・・・」


ルイスの言葉に、考え込んでいたあたしは現状へと思考を切り替えさせられた。


ううっ、あたしは難しいお勉強って苦手なんだよね。


シャノンでも散々苦労して色々覚えさせられたし、出来るだけ先に延ばしたいよ。


「嫌だからって先延ばしにしたら、後で大変な思いをするのはお前自身なんだぞ」


うううっ、ルイスってば本当に魔物じゃないの?


あたしの考えを読むのが的確過ぎるよ。


「は~い」


とってもとっても気乗りはしないけど、あたし自身が覚えなきゃいけない事だもんね。


こうしてルイス先生による活断層やプレートといった地学についての勉強会が始まった。


勉強会をしていて解った事だけど、ルイスはあたしが理解するまで何度でも根気よく丁寧に教えてくれた。


「教えるの上手だね」


と、あたしが感心して褒めると。


「色んな処でガキ共に教えて来たからな」


奢るでも謙遜するでもなく、素っ気なくそう言った。


それにしても、ルイスの知識の幅には驚かされた。


アーニャもミシェル様もルイスの知識には感心していたけど、神殿の祭司が全て彼ほどの知識を持っているとは思えない。


「クレメンスは俺に面白がって色々な知識を与えてくれたからな」


師に恵まれたからだけじゃないでしょ?


ルイス自身が努力した末の成果だと思うな。


そう思ったから、あたしは素直に伝えたのに。


「褒めても勉強する量が減る事はないからな」


って・・・顔を赤くして言われても。


ルイスってば、可愛いトコがあるよね。


言うと怒りそうだから言わないけど。




ちょっとばかり、いやかなり?、素直じゃないけど、頭が良くて容姿もイイ。


詠ってる時なんてサイコーにカッコイイ彼があたしとずっと一緒に居てくれるって言ってくれた。


これって女としてはサイコーなことじゃない?


ルイスはユーリほど性格が悪い訳でもなさそうだし、ちょっぴり純情で可愛いし、あたしってば大当たりを引き当てたんじゃない?


これから待っているのは、ルイスが言う処の伏魔殿である神殿の総本山と恐ろしい『災厄』だけど、あたしは一人じゃない。


ルイスがいて、離れてしまってもアーニャが、シャノンにはお姉様とユーリが、そして合流する予定のミシェル様がいてくる。


不安やプレッシャーは拭い切れないけど、絶対に何とかなるよね?


うん、大丈夫だよ、きっと!









続きは本編に戻って今度こそラスト前になります。

視点はルイスかアンナか?


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