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第二話 アンナ 予言

第二部 第二話 アンナ 予言




あたしは頑張った!


ユーリの扱きに堪え抜き、魔物の力を自覚し、安定した力の出し方を学び、コントロールに成功し、思う儘に力を遣う方法を習得した。


そしてやっと!『魔法遣い』としてバレンツ帝国軍に採用される運びとなったのだ!


ここに来るまでの4年間は長かったわ!


ぐっと握り拳を握りしめて、あたしは案内してくれる人の後を歩いていた。


あたしは今、帝都にあるバレンツ帝国の第二皇子・ミハイル殿下のお屋敷に来ている。


帝国軍に採用されたのに何でここにいるか?って言うと、『魔物』の帝国での庇護者が殿下だから、『魔物』で軍人になった者はまず彼の配下となるわけ。


シャノンから帝都エニセイまで馬で4日、あたしの乗馬の腕も随分と上達したから(お尻の厚みが増したとも言うけど)余裕でやって来れるようになった。


「失礼いたします、殿下。お連れしました」


案内してくれた人が、ドアをノックして入った部屋には、ユーリと同じくらいの年の男の人がいた。


これがアーニャのお兄様かぁ・・・あんまり似てないなぁ。


異母兄妹って聞いてるし、仕方ないのかな?


何しろ、アーニャは白に近い銀髪に赤い瞳だもんね。


この人は金髪に碧い瞳だし。


「初めまして、ミハイル殿下。アンナです!」


慣れない敬礼をしてみる。


だって、あたしはもう既に帝国軍の軍服を着てるしね。


「よく来てくれたな、アンナ」


ミハイル殿下はそう仰って、爽やかに笑った。


あ、優しそうな方だ。


よかった!


案内してくれた人が出て行くと、殿下は部屋にもう一つあるドアを開けて、一人の女の人を入室させた。


あたしはその人を見た時、びっくりした!


その美しさに。


あたしと同じくらいの年に見えると言うのに、長い銀髪は流れる水の様で妖精みたいだったし、大きな瞳は琥珀色?金色にも見えて、儚げなんだけど、すご~く色っぽかった。


ただ、車椅子に座ってたので、殿下がそれを押して入って来た。


「恐れ入ります、ミハイル様」


うわっ、声まで可愛い!


こんな美人に見つめられたら、女のあたしですら顔が赤くなっちゃうよ!


「初めまして、アンナ様。私はヨアンナと申します」


「は、は、初めまして」


儚げな微笑みで挨拶されちゃったあたしは、真っ赤になって吃っちゃったよ!


ん?ヨアンナ?聞いた事あるような・・・どこでだっけ?


「アンナ、このヨアンナは予言者だ。お前と同じ『魔物』だ」


殿下の言葉に、あたしは顔を引き締めた。


『魔物』の持つ力の中で、最も重要視される予言の力を持つ者は、里ではなくこの帝都で帝国の為に力を貸していると聞かされた。


もちろん、同じ魔物の為にも力を遣ってくれてるのだそうだけど。


ミハイル殿下の傍にいると言う事は、このヨアンナさんはかなりの実力者なんだろうな。


「お会い出来て光栄でございます、アンナ様。貴女様のお力は、未来を切り開く重要で強力なもの。ご自身で習得されたお力だけでなく、本来お持ちになっていらっしゃるお力をお遣いになられる日が参ります。それをお忘れなきよう願います」


あたしを見て嬉しそうに微笑んでいるヨアンナさんの言葉。


これは予言なの?


「貴女様のお姉様でいらっしゃいます、マルガリータ様と共に、貴女様は強い月の力を持っていらっしゃいます。お二人のそのお力がこの世界だけでなく、魔物達をも救う事となりますでしょう」


ええっと・・・なんだかもの凄く期待されてるみたいなんですが?


確かにあたしは月の満ち欠けで、力が強くなったり弱くなったりと影響を受け易いけど、『世界を救う』って・・・それ程のものじゃないと思うんだけどなぁ。


余りの話の大きさに、呆然とするあたしに、殿下はあっさりと話を切り上げた。


「ま、そう言う予言がある事を覚えておけばいい」


そ、そーですか。


そーですね、あたしにはまだ抽象的過ぎてこれからどうすればいいのか全然判りません。


本来持っている力、ってツェツィーリアに言われた『攻撃的な力』ってヤツの事かな?


それを遣う日が来るの?


来て欲しくないけどなぁ。





その後、あたしはミハイル殿下と馬車で帝国軍の本部へと向かった。


ミハイル殿下の『魔物』の庇護者であると言う役割は厭くまでも裏側のお話で、当然表立っている訳じゃない。


殿下は表向きは帝国軍元帥の地位に就いているらしい。


何の飾りっけもないあたしの軍服と違って、殿下の軍服には金のモールや勲章がジャラジャラと付いている。


一応、あたしは帝国軍の士官としての地位を頂いてるけど、元帥と一緒の馬車に乗ってていいのでしょうか?


何となく気詰まりで、あたしは無謀にも殿下に話しかけてみた。


長い沈黙って苦手なんだもん。


「あの・・・あたしが配属されるのはどのような・・・」


この質問をここでしてもいいのか?


もの凄く疑問だけど、聞かなきゃ分かんないし、不安なんだもん!


「それは着いてからのお楽しみだ」


で、殿下ってば、悪戯小僧の様に笑ってないで教えてくれてもいいじゃないですか!


ぷうっと無礼も顧みずに膨れたあたしを見て、ミハイル殿下は更に笑っていらっしゃった。


この人、ホントにアーニャのお兄様なの?


性格が違い過ぎる気がするのは気のせいですか?





連れて来られた帝国軍の本部は重厚な歴史がありそうな建物だった。


流石に殿下が入っていくと、ビシッと固まった様に敬礼する兵士が続々と・・・あたしは恐縮しながらその後に続いた。


ミハイル殿下のお部屋で、あたしの配属先の上官となる人が来るからと、待たされた。


『魔法遣い』として帝国軍に採用されたのは喜ばしい事だ。


『魔物』としての力を人の為に遣えるのは嬉しい、と思う。


それが軍隊であっても。


だってね、聞いて驚いたんだよ。


このバレンツ帝国では『魔物』の力を災害復旧や農地開発なんかに遣ってるんだって!


ま、最近は国と国との戦争がないって言う所為でもあるらしいんだけど。


何故、軍に所属させるか?って言うと、その方が機密が保たれ易いからだとも聞いた。


ミハイル殿下が帝国軍元帥って地位にある所為でもあるんだろうけどね。


あたしが配属されるのってどこかな?


必死で手に入れた力を役立てるのってどこになるんだろう?


ワクワクドキドキで待っていると、ノックの音がして殿下が「入れ」と答えた。


「失礼いたします」


あたしは入って来た人を見て思わず立ち上がった!


いや、上官になる人を前に座ったままじゃ拙いとも思うけど。


それだけじゃなくて、入って来た人は、あたしがよく知っている人だったから。


4年振りだけど、間違えるはずもない。


白っぽい銀髪と赤い瞳は変わらないもん!


あたしは嬉しくなって満面の笑顔になった。


「久しぶり!アーニャ!」


ハイ、はっきり言ってミハイル殿下の存在はすっかり頭から消えてました。


軍人として、それは非常に拙いと思います。


あたしは我に返ると、冷や汗が流れ始めた。


あわあわとしているあたしをちらりと一瞥したアーニャは、相も変わらない無表情でミハイル殿下に訊ねていた。


「閣下、これはどう言う事ですか?私は新たな部下が配属されると聞いておりましたが?」


妹の硬い口調に、ミハイル殿下は椅子の背に思いっきり背中を預けてニヤニヤ笑っていた。


「正確さを欠いているなアーニャ。私はお前の処に新たな『魔物』の部下を配属すると言っておいた筈だ」


「ふざけるのはお止め下さい」


いくら無表情とは言え、アーニャが怒っているのはあたしだって何となく感じられる。


内心、とても焦ったあたしは、ハラハラと二人を見比べている事しか出来なかった。


「まあ、再会を素直に喜べ、アーニャ。お前の部下として彼女を配属するのは冗談ではなく本当の事だ」


アーニャの怒りを平然と受け流したミハイル殿下はそう言って、背筋を伸ばした。


「しかし、私の任務は・・・」


反論しようとしたアーニャをミハイル殿下は手を挙げて止めさせた。


「聞け。最近、リアードとの連絡がつかない。リアードの事は聞いているな?」


真剣な表情になったミハイル殿下に視線を向けられたあたしは頷いた。


リアード、それはもう一つのシャノン。


バレンツ帝国の南、ティモール王国の東にあるアドリア神聖帝国内にあると言う『魔物』の里。


「元からリアードと頻繁に連絡を取っていた訳ではなかったが、それにしてもこちらからの問い掛けに一切応じなくなったのはおかしい。それに妙な噂もあるしな」


妙な噂?


「『神の遣い』とやらの事ですか?」


アーニャの言葉にミハイル殿下は頷いて、あたしに説明してくれた。


「ここ数年、アドリア国内で『神の遣い』と呼ばれる力を持った者達が神殿に反発する者達を討伐していると言う噂だ」


力を持つ者たちって・・・もしかして『魔物』のこと?


アドリア神聖帝国はティモールやティレニアでも信仰されている、創造神マトフェイを信奉する神殿の総本山がある国で、祭司長が国を治める仕来たりの国だ。


神殿に反発する者とは、即ちアドリア神聖帝国に反旗を翻すと言う意味になる。


その人達を討伐・・・『魔物』が?


「次の任務はアドリアの内偵ですか?」


アーニャがミハイル殿下に淡々と尋ねるけど、あたしはその言葉に慌てた。


内偵ってスパイですか?


あたしにそんな事が出来るのかな?


それにアーニャとアドリアまで行くの?


4年前のシャノンまでの過酷な旅が思い出されて、あたしは苦い思い出を噛み締めた。


「少し違うな。アドリアではなく、リアードを見て来て欲しい。もし噂が本当なら・・・」


「リアードを潰しますか?」


言い淀んだミハイル殿下の言葉をアーニャが繋いだ。


え?潰すって・・・『魔物』の里を?


「そこまでする必要はない。多分な」


苦笑したミハイル殿下はそう言って難しい顔をした。


多分って・・・そうしなくちゃならなくなる可能性もあるって事ですか?


「ヨアンナが言うには十中八九リアードはアドリアにいい様に使われているようだ。我が帝国が批難出来る筋合いではないが・・・『魔物』を隠しておけるのにも限界が近付いていると言う事だな」


さっき会ったあの綺麗な人の予言・・・


確かに、あたしや他の魔物がこの帝国でも軍に入って力を遣って働いているのだから、いつまでも『魔物』の存在を隠し続けるのは無理があると思う。


でも、反逆者の討伐に使われるって・・・兵士と言うより兵器として扱われてるって事?


そんなの酷いよ!


「どうなさるおつもりですか?」


そうそう、リアードにいる『魔物』が兵力としてアドリアに使われているのなら、里を潰すのは大袈裟だとしても、帝国としてミハイル殿下はどうするお考えなのかな?


リアードに手を出せば、アドリアとも事を構える事になっちゃうんじゃないかな?


そしたら戦争?


「帝国としては余り事を大きくしたくないが、最近は火種が絶えないのも事実だ。今まで何十年も保たれていた平和だが、それすら限界が近いのかも知れん」


そ、そーなんだ!


世間がそんなに物騒だとは知りませんでした、あたし。


そう言えば去年、里長とユーリが帝国がティモールに兵を出すかもしれないって難しい顔をして話してた事があったな。


政略結婚で何とか無事に丸く収めたらしいけど、それだけで済む筈がないとも言ってたような。


シャノンの里はマルガリータお姉様の力で気候が安定して平和だけど、外の世界は天候不順が多くて作物の収穫量が少なくなったり、その所為で物価が上がったり、色々と大変だとも聞いた。


今まですっかり他人事だと思って聞き流してたけど、こうして外に出ると里長が心配してたのも無理がないって事だよね?


シャノンの里は隠された場所だけど『魔物』の力があっても、外界から全く隔離されて成り立つ事は出来ないんだもん。


里では作り出す事の出来ない生活必需品はたくさんあるし。


だからこそ、帝国の庇護が必要で、お父様達のような外国の貴族からの援助も欠かせないんだって聞いてる。


庇護を受けている帝国からの要請に従うのも、その見返りとも言うべき事で・・・リアードも、そうやってアドリアに言われる儘になってるのかな?


「・・・これは、余り当たって欲しくない予言なんだが・・・大きな災厄がやって来るらしい。それは力ある者なら感じられるほど大きいものだとも。リアードはそれを知った上でアドリアに手を貸しているのか?真意を確かめて欲しい」


え?ええ?


大きな災厄って?何ですか?


あのヨアンナさんが予言した事ですか?


「彼女を連れて行く理由は何ですか?」


アーニャはあたしが部下になる事に不満を隠さない。


酷いよぉ・・・そりゃ、あたしは隠密行動に向いているとは言い難いですけど!


「ヨアンナはこの娘を連れてリアードに行けば、彼らの考えが変わる可能性があると言っている。どうもリアードは悲観してアドリアを道連れに共倒れを望んでいるらしい」


えええええ~~!


何ですか?それ!


あ、あたしを見てリアードの里の人達が意見を変えるって?


あたしはそんな凄い魔物じゃありませんよ?


それに、アドリアを道連れに共倒れって、なに?


自分達で里を潰すつもりなの?


シャノンもリアードも『魔物』にとって必要な場所じゃなかったの?


少なくとも、あたしやマルガリータお姉様やユーリはシャノンの存在があったから死なずに済んだんだよ?


そして、ちゃんとした教育を受けて、こうして『魔法遣い』になる事が出来たんだもん。


悲観したからって、そんな・・・そんなこと考えて欲しくないよ!


「いつ発てば宜しいのでしょうか?」


あたしの考えはアーニャの冷静な声に中断された。


「出来るだけ早くだ」


「判りました。準備が出来次第、リアードへ出発いたします」


どうやら、あたしはアーニャの部下として、アドリア神聖帝国にあると言うリアードの里へ行かなくてはならないみたいです。


とほほ・・・あたしの『魔法遣い』としての腕ではなく、違うものが求められているみたいですね。


ヨアンナさんに言われた、あたしが『本来持っている力』がどれだけ役に立つと言うんだろうか?





ミハイル殿下の部屋を、アーニャと共に出たあたしは、沈みそうになる気持ちを奮い立たせて、アーニャに笑いかけた。


「ホントに久しぶりだね、アーニャ。凄く綺麗になったよね?もう20だっけ?大人っぽいし、色っぽくなったよね~!」


そうなのだ、4年振りに会ったアーニャは身体つきがボン・キュ・ボンで女らしくなってた。


特にその胸と言ったら・・・軍服を着てても目立ってます。


あたしの胸は・・・し、仕方ないわよ!


あたしにはお姉様みたいに大きくしてくれる人なんてまだいないんだから!


マルガリータお姉様の胸の大きさは、ユーリが大いに貢献しているに違いないわ!


「あ!アーニャにも恋人が出来たりした?」


チラリと上官に対して気安い話し方かな?って思わないでもなかったけど、だって懐かしかったし、『アンナ殿下』とか『閣下』って呼ぶのもどうかな?って思ったから。


「アン、いや、アンナ」


あ、やっぱり怒ったのかな?


「はい!」


思わず直立不動の体勢で答えちゃった。


「確かに久し振りだが、お前のお喋りは変わらんな」


おおっとぉ!あのアーニャが笑いましたよ!


苦笑っぽかったけど、確かに笑った!


あの無表情で無愛想で鉄仮面のアーニャが!!


「ねぇ、やっぱり恋人が出来たんでしょう?それとも好きな人とか?」


そうじゃなきゃ、この変化は理解出来そうもないもん!


恋をすると女性は変わるって言うし。


でも、アーニャは呆れた様な溜息を吐いただけで答えてくれなかった。


「そんな事より、リアードへ向かう準備だ」


ケチ!


恋バナは乙女のお楽しみなのに。


よし!リアードへの道中で絶対に聞き出してやる!





あたしとアーニャはその日のうちに出発する事になった。


相変わらず手間を掛けない人だ。


準備と言っても、アーニャは自分の部屋で何通かの手紙を書いて、連絡用の鳥に括り付けて飛ばしてただけ。


その鳥はあたしも里で見た事がある。


遠くまで意思を伝える『念話』が出来る人もいるけど、それには発信と受信をする人が必要なわけで、そうどこにでも居るわけじゃないから、鳥に手紙を括りつけるやり方が一般的なのだとか。


その後、あたし達は軍服のまま、本部を出て馬車に乗り込んだ。


「もしかして、このまま・・・」


リアードに向かう訳ですか?


「そうだ」


アーニャのいつもながらの短くて端的な答えに、あたしは心の中で涙を流した。


ああ、4年前の悪夢が呼び起こされる。


アーニャの傍らには4年前と同じ鞄がある。


あの中にはきっと、水と干し肉とキャベツが入ってて、野営のオンパレードになるんだ。


そして・・・下手をすれば野宿の可能性も・・・この馬車だっていつまで乗っていられるのか判らないよね?


ガックリと項垂れるあたしに、アーニャは励ますようにこう言った。


「安心しろ。今回はそんなに無茶はしない。アドリアにはティモール経由で巡礼として入る」


巡礼?


確かに、バレンツ帝国では皇帝が神の子孫として君臨しているから、アドリア神聖帝国やティモールで信奉しているマトフェイ神の神殿もないし、ティモールの神殿がある街からならアドリアの帝都・エルベへの巡礼も出てるけど・・・


「ティモールへ戻るのが怖いか?」


あたしはアーニャの問いに首を振って否定した。


「それより、ヨアンナさんに言われた事の方が気になるよ。あたしの力ってそんなに大層なものなのかな?」


「ヨアンナ殿に会ったのか?」


アーニャは驚いたように聞いて来た。


あたしは頷きながら、そんなに驚くほどの事なのか?そっちの方が気になる。


「珍しいな。兄上が彼女を人に引き合わせるとは・・・それ程お前の力は大きいと言う訳か」


考え込むようなアーニャの言葉にあたしは不安になる。


「そ、そんなに彼女の予言って当たるの?」


「ああ、今まで彼女の予言に従って間違った事はないそうだ。だから災厄というのも間もなく訪れるのだろう」


間もなくって・・・


「そ、そんなに近いうちなの?」


あたしの問いにアーニャは頷いた。


「ヨアンナの予言は彼女が生きている間のものと限定されているらしい。彼女の寿命はあと僅かだからな」


え?


「だ、だって、あの人、あたしと同じくらいに見えたけど?」


まだ若いのに、もうすぐ死んじゃうの?


「彼女はああ見えて兄上より年上だぞ。確か35だったか?」


でぇええええ~!!


さ、さんじゅうごぉ?


あ、あたしの倍以上生きてるの?


それでも・・・死ぬには若過ぎるよね?


自分の死ぬ時期を知ってるのってどんな気持ちなんだろ?


未来が見えるのって便利だけど、いい事ばっかりじゃないんだ。


『魔物』の力自体がそうなんだけどさ。


しかし、ミハイル殿下よりも年上って・・・だから彼女の車椅子を押してあげたりしてたのかな?


いや、あれは年上だからと言うよりも・・・


「・・・もしかして、ヨアンナさんってミハイル殿下の・・・」


ナニだったりするのかな?


アーニャはあたしがはっきりと言葉にしなかった事を上手く察してくれたみたいで。


「ヨアンナ殿は兄上の寵妃だと言われている。だから滅多に人の目に曝させないとも。お前が男だったら会えたかどうかも判らんな」


ち、寵妃ですか・・・ミハイル殿下ってロリコン?


いや、年上なら違うのか?


確かにめちゃくちゃ綺麗な人だったけど。


あたしが男だったらって・・・ミハイル殿下って意外と心が狭いの?


ユーリだって、あたしとお姉様が顔を合わせるぐらいなら文句は言わないのに。


長い時間、一緒にいると邪魔してくるけど。


「私がヨアンナ殿に会ったのも一度だけだ。それも10年も前になる。その時もお前とあまり変わらない年に見えた。多分、その頃から少しも変わっていらっしゃらないのだろう」


ミハイル殿下の傍にいる妹のアーニャですら一度しか会ってないって・・・どれだけ大事に囲い込んでるんだろ?


「その頃に亡くなられた兄上の前任であった叔父上が、予言によってアドリアからヨアンナ殿を連れて来たそうだが、類い稀な力を持っている分、命の他にも色々なものを失う事になったのだろう。彼女の脚を見たか?」


あたしは頷いた。


ヨアンナさんが車椅子に座っていた時、彼女の長いスカートの下から足首は見えなかった。


つまり、彼女が車椅子に乗っている理由は・・・身体が弱い訳じゃなくて・・・


あたしは里でも、ツェツィーリアのように目が見えなかったり、腕や脚がない人も見かけた。


そう言った人達の中には確かに強い力を持つ人もいるらしいけど、寿命が短いって人は余り聞いた事がない。


それだけ彼女の力が大きいって事なのかな?


それなら尚の事、彼女に言われた事は忘れちゃいけないのかな?


ええっと・・・確か、あたしの力は未来を切り開く重要で強力なもので、本来持ってる力を遣う日が来るって・・・


それと、お姉様の力とあたしの力がこの世界だけでなく、魔物も救う事になる、って言われたよね?


それはミハイル殿下が仰ってた大きな災厄に関係してるのかな?


それとも、リアードやアドリアについて?


はたまた、バレンツ帝国やシャノンの里にも関係してくるのかな?


うう~ん!


聞かされた予言は曖昧な部分があって、あたしには判断しにくい。


取り敢えずは、ミハイル殿下に言われた通り、リアードに行くしかないんだよね。


巡礼としてなら、質素でもそんなに無茶な旅になる事も・・・って待って!


巡礼に紛れるのはティモールからだよね?


そうすると、ティモールに入るまでは・・・もしかして・・・


「あの、アーニャ。ティモールまではこの馬車で行くの?」


恐る恐る訊ねたあたしに、アーニャは平然と答えた。


「いや、一度着替えた後で馬に乗り換える。その方が早いからな」


やっぱり・・・


もしかして、国境越えもハードなものになるんでしょうか?


バレンツ帝国・帝都のエニセイからティモールまでは、一番近い国境までだって結構距離がある。


エニセイは帝国でも南に位置してるけど、それでも馬車なら7日は掛かるって聞いた。


馬なら・・・この人の事だから、きっと半分かな?


あははは・・・せめて宿に泊まれたらいいけど・・・多分、無理なんだろうなぁ。


アーニャに再会出来たのは嬉しいけど、一緒の旅は勘弁して欲しかったです。





「お前はシャノンでどんな力を手に入れたんだ?」


そうアーニャに聞かれた時、あたしは得意げに微笑んだ。


「アーニャが恋人について教えてくれたら、教えてあげる!」


だけど、あたしが出した交換条件をアーニャは頑なに拒んだので、あたしがシャノンの里で必死になって習得した力については、当分の間、機密事項となった。


まあ、遣う時が来るかどうかも判らないんだけどね。


そして、ティモールまでの旅は、やはりと言うか何と言うか・・・前回よりも少しだけマシだったとだけ言っておこう。


国境越え?


なぁに?それは?


最重要機密事項に決まってるから教えないっ!!












アンナが『ヨアンナ』という名前に聞き覚えがあったのは、自分の名前に似ているからではなく、アーニャと最初に旅をした時、ティレニアとバレンツの国境を超える時に使った許可証に書かれていた名前だったからです(それを入れようとして諦めました)

アンナは実は記憶力が良いのでした。


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