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番外編 アンの家族


拍手小話に掲載していたお話に一つ追加してあります。

コメディタッチですのでお楽しみ下さい。




番外編 1 あたしの家族




その1 両親とあたし



あたしのお父様は、ティモール王国の公爵、アルフォンス・ランドマーク。


お母様のお名前はクレア。


お母様は我が国の現国王で在らせられる、ウィリアム陛下の妹に当たる。


由緒正しい公爵家の跡取りと王家の姫であったお二人の結婚は政略的なものだと思われがちだ。


新しく我が家にやって来る使用人達などは(両親と顔を合わせた事がない者は)特にそう信じ込んで、二人は貴族によくある仮面夫婦なんだろうと思い込んでいる者も多い、と古くからいる使用人達は言う。


けど、一ケ月もしないうちにそれは単なる自分の勘違いだったって知る事になるとも。


それを聞いたあたしは当然だと思ってる。


なにしろ、あの二人はいつでもどこでも人目を憚らずにイチャイチャベタベタしている万年熱々ラブラブカップルだから(フレデリックお兄様は『カップルの前にバを付けるべきだぜ』と仰ってたけど・・・あたしも、ちょっとだけそう思う)





食卓で(脇に子供達を挟んでいるけど)向かい合って座ってるお二人は、時折食事の手を止めて見詰め合う。


そして、熱い溜息と共にお父様の口から零れる感嘆のお言葉。


「ああ、クレア。今日の貴女も輝くほどに美しいと申し上げましたでしょうか?」


それを初めて耳にした使用人は、足を滑らせるか持っていた皿を落とす。


そしてお二人に挟まれたあたし達子供は、心の中でこう呟く『始まった』と。


優しいお父様は粗相をした使用人がいた場合「怪我はなかったかい?」と言った気遣いを見せるが、邪魔が入らなければお母さまへの『惚気』と言う名の賞賛が続く。


「貴女はいつまでも変わらず若々しく可憐で美しい。初めてお会いした時の事を思い出させて下さいますね」


恍惚といった表情を浮かべるお父様の言葉に対して、お母様は少女のように頬を薄っすら染めて恥じらいながらも微笑む。


「まあ、アルフォンスったら・・・わたくしはもうそんなに若くはございませんわよ」


『そりゃそうだ、六人も子供がいるんだから』と食堂に存在するお二人以外の全ての人間は心の中で突っ込む。



「いやいや、貴女を見ていると、今でも社交界にデビューされた舞踏会を鮮やかに思い出せます。あの時の貴女は白いドレスを着ていらっしゃって、妖精のように儚げで・・・そんな貴女にお声をお掛けする事が出来た私は本当に運が良かった」


お父様の『二人の愛のメモリー発表会』は毎回、見事なまでに一字一句違えずに続く。


「まあ・・・貴方も素敵でしたわ、アルフォンス。近衛隊長の制服が良くお似合いで」


お母様もうっとりと夢見心地で過去を振り返る。


お二人はお父様が20、お母様が15の社交界デビューの時の舞踏会に王宮の中庭で偶然知り合ったのが馴れ初めなのだとか。


「私は、長年憧れ続けて来た神殿の巫女長にお会い出来て緊張のあまり、何か失礼な事をしなかったか、愚かにもそんな事ばかりを気にしていました」


これを聞くと、お父様は長年憧れていた初恋の人の傍に近付けるチャンスをストーカーの様に狙っていたとしか思えない。とはコンラッドお兄様のご意見(可能性は高いとあたしも思う)


「貴方はいつもご立派な紳士でいらっしゃいましたわ。アルフォンス。もちろん、今でも」


「ありがとう、クレア。ですが、私はいつも不安になる時があるのですよ。王家の姫として何不自由なく過ごしていらした貴女に、私は十分に満足出来るものを与えられているのかと」


「それは杞憂と言うものですわ、アルフォンス。わたくしは貴方という夫と可愛い子供達に囲まれて十分満足しておりますもの」


ここら辺で、ようやくお二人はあたし達の存在に目を向ける。


「それなら良かった。その言葉を聞ける私も十二分に満足ですよ」


お二人があたし達にニコニコと笑いかける。


「私も仲の良い両親を持って幸せですわ」とソフィアお姉様が引き攣った笑顔を浮かべると「左に同じく」とコンラッドお兄様の投げやりな言葉の後に「あ~仲がいいのは結構な事だよな、うん」とフレデリックお兄様の諦めにも似た言葉の後に「あたしもお父ちゃまとお母ちゃまみたいになりゅ!」


まだ物心がつかない頃はそう言っていた。とソフィアお姉様が仰っていた(あたしはそんな事、覚えてないけど)





そんなお二人の間に6人の子供がいる事は少しも不思議じゃなかったのに、ある日ソフィアお姉様から、みんなとあたしは血が繋がっていないと聞かされた時は驚いた。


なんでも、お母様は身体が弱くて子供を望むのが難しいと聞いた親族から養子を貰うようにと激しくプッシュされて4人もの養子を迎えたのだとか(子供好きのお母様に我が子を与えるのを嫉んだお父様の陰謀だと言ったのはコンラッドお兄様)


あたしとマーガレットお姉様だけがお二人の子供だと教えられた。


事実だと聞かされても俄かには信じられなかった。


だってお父様もお母様も、あたしとお姉様やお兄様達とで態度を違えた事などなかったから。





あたしのお父様とお母様はとても仲がいい。


それは家族だけでなく、我が家の使用人全てが大きく賛同する事実だ。


もちろん、あたしの両親はあたし達子供も深く愛してくれている。


それを疑った事など一度もない。


もちろん、あたし達子供も、そんな両親を深く敬愛している。





あたしの話を黙って聞いていた彼女は「ランドマーク公爵夫妻の馴れ初めと仲の睦まじさは有名だ」と一言呟いた。


それを聞いたあたしは・・・お二人の娘であることを自慢するべきか否か悩む。


お二人の仲の良さは我が家の中だけでなく、世界中に知れ渡ってたんですね。







その2 ソフィアお姉様とコンラッドお兄様とあたし




一番上の兄はあたしが赤ん坊の頃に事故で亡くなったと聞いただけで記憶にないけど、その兄に代わって我が公爵家の長子となったのは、あたしよりも10歳年上のソフィアお姉様。


あたしの物心がつく頃には、我が家の女王様として君臨していた。


可愛いと言うよりは美人と言われるタイプの『美人で我が侭なお姫様』を地で行く人だった。


お父様とお母様は子供達に厳しい躾を施すような人達ではなかったから、最年長のお姉様はあたし達妹や弟に対してアレコレ命令するのが常だった。


そして、そんなソフィアお姉様に唯一刃向かっていたのが、お姉様と1つしか違わないコンラッドお兄様。


士官学校に入る前は家庭教師を唸らせ、入学後は『神童』だと讃えられるほどの頭脳の持ち主だから、年の離れていない姉の横暴な振る舞いを厳しく立ち向かい、理論上ではいつも勝利をおさめてた。


あくまで『理論上は』だけど。


常にコンラッドお兄様に言い負かされてしまうソフィアお姉様は、最終兵器・ヒステリーを起こして暴れるから。


そうなると誰も手を付けられなくて敵わない。


両親が宥めるか、周りの者が機嫌を取るかしないとお姉様のヒステリーは治まらない。


その原因であるコンラッドお兄様は平然としているので当てには出来ないから困る(自分で撒いた種はきちんと自分で刈り取って欲しいと毎回切実に思ってた)


普段からコンラッドお兄様は誰にも痛烈な口調で応じるから(両親以外は)家族も使用人も(噂に聞くと同僚や学友や教師ですらも)何を言われる事かと怯えられてる。


ただ、ソフィアお姉様はどんなに言い負かされようとも懲りずにコンラッドお兄様に立ち向かっていくので『弟に負けたくない』と言うそのプライドの高さには敬服するほどだ。

もちろん、二人にも良いところはある。


ソフィアお姉様は斜め左の方向から家族や使用人達に優しい態度を見せるし、あたしにも女性としての嗜みを教えてくれた。


両親以外に対して素直になれないのは性格だろうか?


コンラッドお兄様も極々稀に、勉強を教えて下さったりと兄らしい態度を見せる時があった。


それでも辛辣なところは一生治らないらしく、以前あたしが木に登っているところを見つかって「まるでサルだな」と言われた屈辱は忘れられない!


「サルじゃないもん!」と言い返せば「キーキー煩いぞ」の一言であしらわれた。


あの時ほどソフィアお姉様の気持ちが理解出来た時はないと思う。





ソフィアお姉様の前で『結婚』の話題を出すと「余計な事を喋るのはこのお口かしら?」ともの凄い迫力で口元を捻り上げられたし、コンラッドお兄様に『恋人はいないの?』と聞けば「お子様には判らんだろうな」と鼻で笑われたりした。


もう立派に成人している二人なのに、未だに口喧嘩を止めないなんて、まだまだ子供だから『結婚』も『恋人』も出来ないんだわと思ってたのは口にしなかったけど。


一緒に暮らしている時は、憎たらしくて二人の『妹』という立場を嫌ってた。


それでも、会えなくなると二人との何度もやり取りを思い出す。


やっぱりあたしは二人の事が好きだったんだ。


会えなくなって気付くなんて、バカだな。あたし。







その3 フレデリックお兄様とあたし




士官学校に入る前は『僕』と言っていたフレデリックお兄様が、ご学友の悪影響で『俺』と言うようになった時にはびっくりした。


お父様やお母様は『男の子は元気でいい』と相変わらずニコニコしているだけだったけど。


『まるで下町の柄の悪い平民のよう』だとソフィアお姉様は眉を顰めてるだけで。


同じ士官学校に通っていたコンラッドお兄様は『放って置けばいい』と冷たいし。


周りはこんな風で、誰もフレデリックお兄様を厳しく窘める人が居なかった。


フレデリックお兄様はあたしと一番年が近い、と言っても7つ離れてるから、あたしが何か言ったところで相手にされる事は当然、無かったし。


でも、唯一、我が公爵家の者達に怒りの鉄槌を下す事の出来る、お父様ですら文句を言えないご意見番の方が居た。


それはお父様の叔父様に当たるリチャード大叔父様。


いつもはランドマーク公爵領で領地の管理に当たってるそうなんだけど、年に一度、一族が集まる年の始めに我が家にやって来ては、あたし達子供達だけでなく、お父様にまで延々とお小言を言う。


あたしはフレデリックお兄様の言葉遣いが、リチャード大叔父様のお叱りを受けるんじゃないかと怯えながらも期待していた。


案の定、新年に顔を合わせた大叔父様は、フレデリックお兄様の言葉遣いを耳にすると「なんじゃ、その喋り方は!」と非難された。


それに対して、お兄様は「うるせぇクソジジィ!」と元気よく啖呵を切った。


周りのみんなは驚いて(コンラッドお兄様は笑いを堪える様にしていたけど)、事の顛末を固唾を飲んで見守っていた。


「クソジジィとはなんじゃ!この小童が!」


「いっつもいっつも口うるせぇンだよ!ちったぁ黙ってられねぇのか!老い先短けぇ年寄りなんだからよ!」


あまりの暴言に、流石のお父様も「これ、フレデリック」と声を掛けたれど、それでも怯む様子のないお兄様は尚も暴言を続け。


「これからは『愛される年寄り』を目指してみろよ!」


「バカモン!儂は貴様なんぞに愛されなくても結構じゃ!」


遂に堪忍袋の緒を切らした大叔父様にゴツンと鉄拳を食らってしまった。




ジュリアスお兄様はお母様のお母様の妹の孫に当たる縁で引き取られたと聞かされた。


ソフィアお姉様はお父様の叔母様のご主人の妹さんの孫に当たる縁で。


コンラッドお兄様はお父様の叔母様の孫に当たるとか。


いずれも血縁としては少し遠く、そして嫁がれた方達の血筋に当たるから一族と呼ぶにも遠い。


お住まいもあたし達が住んでいる王都・セヴァーンからは遠いのだと聞かされたし、既に亡くなっている方達もいるとか。


でも、フレデリックお兄様は、リチャード大叔父様の孫なのだと言う。


大叔父様が奥様ではない方との間に出来た娘さんが産んだとか。


なのに大叔父様ではなくお父様がお兄様を引き取ったのには色々と『大人の事情』があるからだと教えられたけど、その所為か、いつも大叔父様はフレデリックお兄様に厳しい事を仰る。


けれど、その後も何度大叔父様に厳しく窘められようとも、決してフレデリックお兄様は言葉遣いを直そうとはしなかった。


「お前のその頑固な処は誰に似たんじゃ?」


「クソジジィじゃねぇの?」


終いには大叔父様も呆れてしまわれたけど、もっと厳しくフレデリックお兄様を躾けて欲しかったです!


だって、お兄様ったらあたしの事を「チビ」とか「ブス」とか「デブ」とか、女性に対する礼儀がなってないんだから!


そりゃあ、なんだかんだ言っても、一番年の近いフレデリックお兄様が一番一緒に遊んでくれてたのは確かだったけど。


次第にあたしまで「フレデリックの影響で言葉遣いが悪くなったんじゃないの?」とまで言われるし。


でもね、フレデリックお兄様は、言葉遣いは悪いけど、きっと兄弟の中では一番優しいと思うの。


邪険にされる事はあったけど、文句を言いつつもちゃんとあたしの相手をしてくれてたし、乗馬を教えてくれた時はずっと付きっ切りで、落馬して泣き出したあたしを慰めて上手く乗れるようになるまで根気良く教えてくれた。


ソフィアお姉様もコンラッドお兄様も好きだけど、本人には言えないけど(きっと調子に乗るから)フレデリックお兄様が一番好きかな?


あの口の悪さと言葉遣いの悪さがなければ(つまり黙っていれば)フレデリックお兄様は中々どうして、ハンサムで素敵だし。


家族の中で唯一の金髪だし、お父様やあたしと同じヘイゼルグリーンの瞳は中々イケてるって思うのよ。


これも本人には絶対に言わないけどね。





彼女にそう言ったら「お前はブラコンだったのか」と言われてしまった。


ち、違うわよ!


あたしの理想はお父様みたいに優しい紳士な人で!


決してフレデリックお兄様のような人なんかじゃないわ!


あんな粗野で乱暴な人なんか!


あたしはブラコンなんかじゃな~い!!







その4 ユーリとあたし




ジュリアスお兄様だったユーリとは、正直言ってシャノンの里に来てからが初対面のようなもの。


彼から「アンは元気のいい赤ちゃんだったよ」と言われても、覚えてないからどう返せばいいものやら。


そして謂れの無い嫉妬には困る。


「マルガリータはこの里に来た頃は『アンがどうした』とか『アンがこうした』と君の事ばかり話してたんだよ」


そう言われても。


「マルガリータが僕の瞳を見て『アンと同じ色ですね』って言うんだよ。これは喜んでいいのかな?」


知らんがな。





あたしはお父様に似ていて、お姉様はお母様に似ている。


お父様のお兄様である里長はお父様と似ていて、ユーリは実の父親である里長に似ている。


つまり、あたしとユーリの髪の色とか瞳の色が似ているのは仕方ない事で。


あたしにどうしようもない事で言いがかりをつけられても困るのです。


ユーリが『マルガリータ・ラブ』なのは十分に承知している。


マルガリータお姉様も、そうみたいだし。


幸せな二人の邪魔をするつもりは、あたしにはない。



だけど、あまりに煩く嫉まれると、少しばかりの仕返しをしたいと思っちゃうのは人の悲しい性と言うもので。


「夫婦は別れれば他人だけど、姉妹は一生死ぬまで姉妹ですもんね」


あたしはお姉様と唯一血の繋がっている姉妹なんだと、ちょっとばかり自己主張しただけなのに。


どうも、ユーリの何かのスイッチを押してしまったらしい。


晴れやかとはとても言えない笑顔で、ユーリは・・・


「ふうん、アンナ。君はそんな事を言う子だったのかい」


その日から、あたしに対するユーリの特訓はとても苛烈を極めたのは言うまでもない。


気をつけよう、その一言が命取り。








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