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第8話 SF文芸部

次の週、俺はごく普通に学校生活を送っていた。

放課後は、塾だったり、クラスの男友達に付き合ったりなどしていたら、S文の部室にはあまり顔を出せなかった。九条七瀬とは同じクラスなので顔を合わせるが、もともと教室内で会話することは少ない。互いに女友達、男友達がいるしな。


そんなこんなで、その週で初めてS文の部室に行ったのは木曜日だった。

がらっ

「おはよーございまーす」


「おー、浩二、ひさしぶり」

「浩二君、ひさしぶりー」

部室には、SF文芸部の元部長と元副部長の二人がおり、何やら打合せをしていた。元部長が3年生女子、元副部長が3年生男子である。


「おひさしぶりですね」

「ああ、そろそろ、卒業に向けて、いろいろ準備しなきゃいけないからな」

「そうそう、最後くらいはきっちりしたいしね」


・・・

二人の打合せを横目に、俺は本棚にある読みかけのSF小説を手に取る。

そういえば、去年秋に就任した2年生の部長・副部長も、女子・男子のペアだったかね?

ふと疑問に思い聞いてみた。

「そういえば、先輩」

「おー、なんだ」


「うちの部って、女子が部長、男子が副部長って決まりなんですかね?」

「いや、決まりがあるわけではないぞ。一応、毎年各学年で話し合って決めるんだが、結局そこが収まりがいいんだよなー」


「収まりがいい、ですか?」

「そうそう、収まりがいい。っぷ、こ、これは、このSF文芸部創設からの伝統みたいなもんだ」

っく、っく、っく

クスクス

なぜか、元副部長が話している最中に笑い出したと思ったら、元部長も笑っている。

「・・・?」


「あれ、そういえば浩二、このS文の創設時の話きいてないんだっけ?」

「いや、もともと、SF研究会と文芸部の二つがあって、いっしょになったとは聞きましたけど」


「当時の話を詳しくは?」

「いや、聞いてないっす」


「あー、そうか、まだ10年たっていないとはいえ、直接関係ないと、そんなもんだろうな。」

「・・・・」


「まーこれは、今となっては笑い話なんだがな・・」

笑いながら元副部長が言うと、

「いーえ、これは素敵な話ですよ」

すました顔で元部長がいう。


「せっかくだから、話しておこうか。これも、SF文芸部の立派な歴史だしな」

そして、元副部長が当時の話を教えてくれた。まあ、元副部長も当時はいなかったので、あくまで又聞きということだが。


・・・・・・


当時は少子高齢化の問題にからめて、旧サークル棟の解体の話が持ち上がっていてな。そうそう、今はこんな立派な部室棟があるけど、当時は木造の歴史あるっていうか、ぼろっちいサークル棟があったらしいんだ。


そんで、うちの高校がまだまだ生徒の数が多いときに出来たものだから、数多くの文化系の部がそこにそれぞれ部室を持っていたそうだ。ただな、旧サークル棟の老朽化にともない、新たに部室棟を作るという話になったところで、生徒数もかなり減っていたこともあり、新たに作る部室の数は大幅に減らされてしまったんだ。


そのため、少人数のところは似たようなところと合併したり、あるいは多人数のところに吸収されたりとかいろいろ整理して、部室が割り当てられることになった。


その少人数のため単独だと存続できないと言われたのが、SF研究会と文芸部だったんだ。

もともと、SF研究会はSF小説が好きな男子生徒が立上げたサークルで、伝統的に構成員は男子生徒ばかりだった。一方、文芸部は小説好きの女子生徒が立上げたサークルで、これまた伝統的に女子生徒ばっかりが所属していた。


その二つのサークルは、それぞれ旧サークル棟に部室を持っていたんだが、どちらかというと犬猿の仲だった。なぜなら、それぞれ欲しいものはSF小説、文芸書、いわゆる本、書籍類だ。学校から各部活動に分配される予算案では、「本・書籍類」として総額いくらと初めから決まっているんだ。そのため、この二つのサークルはその限られた予算の分配をめぐって伝統的に争っていたんだ。


そして、この旧サークル棟解体時のSF研究会の男部長、文芸部の女部長は歴代の中でも極めつけで仲が悪く、生徒会予算会議の場でも、互いに罵詈雑言が止まらなかったらしい。


通常、文芸部のほうが部員数が多いため、SF研究会の予算は低めに設定されやすいんだ。頭にきたSF研究会の男部長は、幽霊部員をめちゃくちゃ増やして、一度は文芸部の予算をぶんどったらしい。それを恨みに思った文芸部の女部長は、執念深くSF研究会の活動内容を調査して、幽霊部員は部員にカウントすべきではないと証拠付きで生徒会に提出し、次の予算会議ではひっくり返したらしい。


まあ、部長どうしはそんな犬猿の仲ではあるんだが、学校側からは同じ本を読むグループだろうと、合併するように言われたんだよね。互いにさんざん嫌がったらしいんだが、最終的に解散するか合併か突き付けられて、泣く泣く合併したらしい。そして、幽霊部員を除外したあとの各部員の数では、男子部員=元SF研究会に比べて、女子=元文芸部員のほうが多かったため、多数決の結果、文芸部の元女部長が新たなSF文芸部の部長、SF研究会の元男部長が新たな副部長になった。


そんなこんなで、SF文芸部の創設当初は、互いに旧部員、つまり、男性部員と女性部員の仲は悪く、かなり険悪なムードだったらしい。創設当時の男性部員、女性部員が学校卒業しても、しばらくはそれぞれのOB会、OG会が別々に開かれたくらいだった。ここまでは、まあ、当時の部員らにとっては苦々しい記憶だよな。仲の悪いサークルと強制的にいっしょにさせられて、同じ部室に閉じ込められるんだから。


まあ、それでも、SF文芸部が出来てから新入生が入っていき、徐々に合併前のことを気にしない部員が増えてくると、だんだん部内の雰囲気はよくなる。ただ、創設時の先輩方の男女仲悪いなーという感じは残っていたがな。


ところが、旧サークル棟が解体されSF文芸部が創設されてから5~6年ほどたった頃、SF文芸部の創設当時の元男子部員、元女子部員に、驚きの通知が届いたわけだ。


なんだと思う?

なんとな、SF文芸部創設時の、極めつけで仲が悪かったはずの、旧SF研究会の元男部長と、旧文芸部の元女部長の結婚式の招待状だったんだ。あの仲の悪さを知っている元部員たちは、皆、しばし呆然としてしまったらしい。


なんでも、この二人の元部長、サークル活動に熱心なだけではなく、それぞれ勉学にもけっこう力をいれていてな、二人とも、国内有数の大学に進学したんだ。本当にたまたま、同じ大学、同じ学部にな。それでもって、互いに平和な大学生活を満喫しているうちに、なんとなく昔のことは水に流そうということになり、いっしょのサークルで活動しているうちに仲良くなり、とうとう大学卒業と同時に結婚する運びとなったわけだ。


結婚式には、この元部長らがいたときにSF文芸部に所属していた元部員全員が招待されたらしい。元部員にとっては苦々しい部活の記憶だったはずが、結婚式のスピーチや思い出の写真鑑賞会では、二人が出会ったいい思い出として紹介されたらしい。いつの間にか書き換えられた過去の記憶を聞いて、男女の元部員たちはあまりのバカバカしさに、互いの悪感情もその場で消えてしまったらしい。


その後、分かれていたSF文芸部のOB会・OG会もこの結婚した元部長らの世代からはいっしょになり、めでたく、SF文芸部は数年の時を経て円満に合併したということになった。


笑えるだろ?

男女仲悪く、部内の雰囲気は最悪で、苦々しい思い出だったはずの部活動の記憶が、なぜか良い思い出に書き換わってしまったわけだ。

よくSF小説では、主人公が過去にタイプスリップして未来を変えるという話が出てくるだろ?

今回の話は、言うならば、「過去に戻れないんで、未来から過去を変える」話というわけだ。


・・・・・・


「まーそういうわけで、創設当初、最悪の仲だった女子の部長、男子の副部長という組み合わせは、数年後に、とても仲がよい女子の部長、男子の副部長の組み合わせだった、ということに歴史が書き換えられた。それ以後も、部員の男女比は女子が多いことが続き、女子が部長、男子が副部長で、まあ、いいんじゃないか、ということになっているわけだ」

「は、は、は・・・そうですか」


「そういうことですよ、浩二くん。すごく素敵なお話だと思いませんか?」

「そ、そうですね。まあ、仲悪いより、良いほうがいいですよね・・・は、はは」


そのまま、女子の元部長と男子の元副部長は笑いながら作業に戻っていった。


なんだろうな、そういうこともあるんだろうが。

何だか、身につまされるような話に聞こえた。


なんとなく、あの喫茶店で、水城玉緒みずきたまおに言われた言葉を思い出す。

『過去は取り戻せませんが、未来は変えられます』


あれ、なんだか最近、俺、玉緒のことばっかり思い出していない?

先週会ったばかりの、ただの友人の友人だぞ


「いやいや、あいつの印象が強烈すぎるのが悪い」

そういうことにしよう。


それにしてもな・・

「過去に戻れないんで、未来から過去を変える、か」


そんなことが出来ればいいんだがな


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