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第5話 七瀬の友人 2

「まあ、浩二くんの身の上は大体分かりました、ありがとうございます」

「ああ、それはよかった、それで、玉緒さん、どんなもんですかね?」


「うーーん、身長そこそこ、スポーツマンっぽい体つき、顔はフツメンよりやや上、成績は悪くない様子、一応誠実な人柄ですが、おしゃれと女子の気持ちに無頓着なところがマイナス、総合で70点、将来に期待です!」

「・・・・」


俺は、お高いパフェを見ず知らずの女子におごらされ、プライベートを丸裸にされたあげく、あろうことか勝手に点数評価されてしまった。しかも、微妙な点数だ。70点って、喜んでいいいのだろうか。


俺は七瀬をちらっと見やる。

にこにこ笑顔でパフェを食べていた七瀬は、俺の視線に気づくと、そっとスプーンを置き、きりっとした顔で話す。

「浩二、不審な顔しているわね。でも、大丈夫よ。玉緒ちゃんは、本当に人間関係のエキスパートなの。あなたの問題解決に適切な人であることを保証する」

「・・・その、人間関係のエキスパートっていうのは、どういう意味だ?」

お前、口の横にパフェのクリームがついてるぞ。


「玉緒ちゃんはね、私と同じ中学校時代、新聞部に所属していたの。学校の様々な行事や各部大会などに顔を出し、生徒会といっしょに生徒の活動を盛り上げていたわ。」

「ほう、それはすごい」


「それに飽き足らず、裏新聞部をひそかに立上げ、生徒や先生たちの男女の噂話をいくつもまとめた裏掲示板を運営し、SNSを駆使して、多感な女子生徒たちに表では出せない交流の場を作ってくれたの・・・」

「おい、ちょっと待て」


「一番盛り上がったのは、数学の○○先生と国語の△△先生の不倫疑惑ね。それ以外にも、女子が気になる男子ランキング、ここは改善してほしい先生ランキングなど、常に生徒の求めるものを提供していたわ。そのほか、恋に悩める女子や男子の相談に積極的に乗って、いくつものカップル成立の後押しをするなど、その活動は、女子生徒の圧倒的な支持を獲得していたわ!」

「・・・・」


「いえいえ、それほどでも」

玉緒が照れた顔をする。

はたして、俺の顔はひきつっていないだろうか。


「それに、私だけではありませんよ。七瀬ちゃんも、女子バスケ部の主将として活躍していました。七瀬ちゃんのきりっとした姿にあこがれた女子や男子はたくさんいたんですよ」

「ほう・・・」


「残念ながら、七瀬ちゃん以外はそれほど上手くなかったので、バスケの大会はそれほど勝ち進めなかったんですが、学年とわず学校の人気者といえば、七瀬ちゃんでした! ちなみに、裏新聞部で調査した女子が憧れる女子生徒ランキングでは、堂々1位です!」

「・・・・」


なるほど、なるほど、よく分かった。つまり、この玉緒とかいうやつは、中学生でありながら、学校の表と裏の情報を操って女子生徒の圧倒的な支持を集め、七瀬は運動が出来るかっこいい女子生徒として学校一の人気者だった、と。


そして、この二人の仲の良さ、おそらく、その中学校では、この二人に逆らう生徒などいなかっただろう。どんな男子生徒であろうと、たとえ、教師であろうと、この二人に歯向かったら最後、この二人に従う女子生徒全員から袋叩きにあってしまったのだろう。きっと、この二人の在学中は、すべての男子生徒、教師は、息をひそめて生活していたのではないだろうか。


カップル成立の後押しというが、こいつのことだから、その情報を駆使して、ちゃんと両想いになって問題ないだろう男子と女子を結び付けたのだろう。ただ、弱気な男子生徒だったら、こいつに言われてもカップルとか恥ずかしいとか言ってられなかっただろうな。


俺は、冷めたコーヒーをずずっとすする。

あいかわらず、苦いな。すべてを甘くする砂糖が欲しい・・


・・・・・


玉緒の話は続く。

「ちなみに、今は、高校の広報部に所属しています」

「広報部?」

「そうです、私の高校には新聞部は無く、様々な校内記事は広報部が仕切っています。」

「なるほど」


「実は、今の高校にはあまり入りたくなかったんですが、私の中学生活があまりにも元気すぎるのじゃないかと心配した親に、無理やり入れられたんです。今の高校は、長い歴史と格式がある、校則きつめの少し豊かなご家庭向けの学校なんですが、そこに入って、お淑やかな高校生活を送ってほしいと思ったそうです」

「・・・まあ、」

そうだよな、という言葉をぐっと飲みこむ。確かに、中学校のマスコミを牛耳って喜んでいるわが子を見たら、どのような良識ある親でも心配するだろう。玉緒の両親、グッジョブだ。


「でも、今は、この高校に入って、本当に良かったと思います」

「そりゃまた、なんで?」


「いくつかの理由があるのですが、まず一つ目です。今の高校、ほんっとーに、かわいい、お淑やかな子が多いんですよ! 広報部として、そんなかわいい子たちの部活動やサークル活動、学校行事、その他イベントに写真撮影、感想記事などでかかわる中で、今の10代の子たちの赤裸々な姿を、合法的に眺めることができるんです!」

「お、おう・・・」

合法的という言葉は使わないほうがいいですよ。


「二つ目の理由がですね、今の高校は歴史と格式があるということで一目おかれてまして、日本全国の、同じような格式のある学校の生徒会などトップの方々と交流を持つことができます。同世代の優秀な友人たちがたくさんできるんです!」

「・・はい」


「三つ目の理由ですが、長い歴史があるということは、多く先輩方を抱えているということです。格式あるうちの高校を卒業した女子の先輩方は、政財界とわず、この国のトップを担う方々の元に嫁ぎ、陰に陽に旦那さんを支える中で力を発揮しています!」

「・・・・」


「そのうえで、この卒業した女子の先輩方は、強い結束力で結ばれたOG会を組織しておりまして、その会の役員たちと仲良くなれば、縁談など選びほう・・・、いえ、将来有望な素晴らしい殿方たちの紹介をしていただけるのです! ちなみに、わが校の広報部は、このOG会と常に情報交換しておりまして、私も、すでに多くの役員の方々と交流を深めています!」

「そ、そうですか・・・」


「最後の理由なんですが、」

「まだ、あるの?」


「まあ、まあ、最後なんで聞いてください。実はですね、この格式あるわが校、非常に世間様の評判が高くてですね、日本トップクラスの名だたる有名私立大学などに多くの推薦枠を持っているのです。部活動でも、サークルでも、そこそこ活動して、問題を行さなければ、非常に推薦に有利なんです!」

「・・・それは、うらやましい」


「参考としまして、わが校の広報部部長は、非常に評価が高めに設定されていまして、過去の部長は推薦枠を選び放題だったとうかがっています。ちなみに、私は昨年秋の3年生の部引退にともない、広報部の副部長に任命されております。通常は、そのまま2年生の秋に広報部部長に任命されるのが確実視されています!」

「・・・まじですか」


するとなにか、こいつは、中学校のときすでに情報操作で学校を牛耳っていたときのバイタリティで、同世代である今の高校生の上澄みの層と交流を深め、政財界のトップ層の奥さん方OG連中と強力なコネクションを作りつつ、このままいけば日本トップクラスの有名私大に推薦で入ってしまうんで、その私大に通っている将来有望な富裕層子弟とも強い関係を作り上げてしまう、ということだろうか。


10数年もたてば、日本のトップ層の世代の上から下まで、こいつを中心とする巨大な人脈ネットワークが出来上がってるかもしれん。なんだ、将来の都知事か、総理大臣か?


俺が黙っていると、玉緒がさらに話をつなげる。

「まあ、ここまでは余談です。ようは、私は、多くの人との関わりを通じて、自分自身を成長させることを望んで活動してきました。そのため、多くの女子や男子の気持ちに詳しいものと自負しています。七瀬ちゃんが私に相談してきたのは、そんな私を高く評価していただけたからだ、と思います。」

「・・・まあ、俺と同い年で、人間関係のエキスパートといっちゃあ、そうかもな。」


「そのうえで、実は、本題はここからなんです」

「は? そうなの?」


「はい、尊大な自意識と、過剰な羞恥心のあまり、無意識に女の子の繊細な心を踏みにじってしまう、精神年齢が中二くらいで止まってしまった、相坂浩二さん、いえ・・・」

「なんだよ」


そのとき、一瞬、玉緒がにやっと邪悪な笑顔を浮かべたように見えた。

「中三のバレンタインで、気になっていた女の子からチョコをもらったにもかかわらず、自分の幼稚さから、何も行動を起こさなかった、相坂浩二さん」

「!」


ばっと、七瀬に顔を向ける。

情報操作が大好きで強力な女子ネットワークを持つ玉緒に、俺の過去の失敗体験を話しただ?


七瀬は、少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「いや、七瀬、確かにさ、お前に話したのは俺だけどさ、何でもかんでも、友人だからって人の個人事情を話すのは違うんじゃないか?」

「あ、あ、ごめん、浩二・・・。 でもね、本当に、私は、玉緒ちゃんになら相談してもいいと思ったの・・・」

最後のほうは小声になっていた。


しかめっつらで七瀬のほうを見ていると、玉緒が話を始める。

「そうですよ、浩二くん。私は、七瀬ちゃんが私に相談してくれたのは、あなたの問題を解決するうえで、このうえなく最適解だったと判断します」

「なんでだよ・・・」


「まず、一つ目の理由ですが、七瀬ちゃんは、本当に、あなたのことを心配していました。自意識過剰にせよ、羞恥心にせよ、あなたが過去に犯した過ちについて、真剣にあなたのことを助けたいと思ったのです。そして、そのために必要な助力を、外部の信頼する友人である私に頼んだのです」

「それにしたって、勝手に話すってのはな・・・」


「そして、二つ目の理由です。まあ、これは理由というより前提条件のようなものですが。私は、言うべきことはいいますが、言うべきでないことは言わない、言葉を極めて大切にする人間です。雄弁は銀、沈黙は金という言葉がありますが、まあ、これは、若干解釈が違うかもしれませんが」

「・・・・」


ぱんっ、と、両手のひらを叩きながら、玉緒は言った。

「きれいな声で鳴く鳥は大空を優雅に飛べますが、語ってはいけないことを語るような愚か者は、地を這う虫けらにも劣ります。私は、決して虫けら以下になるつもりはありません」

「・・・う、うん。お前が、おしゃべりじゃないということは分かった」

玉緒さん、何か怖いです。俺、マフィアのボスか何かとしゃべってるの?


「そして、最後の理由です。これが一番の理由といっていいでしょう。私が今通っている高校は、長い歴史と格式のある、いわゆる富裕層の子弟が通う高校だと紹介しました。」

「ああ、そうだな」


「わが国でも一目置かれている高校ですが、やや特殊な学校でもあります。」

「? なんだよ?」


「それは、女子しか通ってはいけない学校ということです。伝統と格式のある女子校、分かりやすく言い換えますと、日本有数の、いわゆるお嬢様学校というものです」

「・・・は? それって、もしかして・・・」


「はい、エクレア女学院というのが、私が通っている学校の名前です。」

「・・・まじか」


「そうです、あなたの過ちの相手、伊藤由香里いとうゆかりさんが通っている学校でもあります。ちなみに、私は、伊藤由香里さんと非常にいい関係を築いております。親しい友人といってもよいでしょう」

「・・・・」

俺は、何もいえず黙り込む。なんだ、こいつは、何をしたいんだ?


「さて、相坂浩二さん、あなたの過去の過ちに対して、私としては一つの選択肢を提示したいと思います。」

「なんだよ・・」


「もし、本当に、1年前のことを悔いているのならば、贖罪の機会を与えたいと考えています。過去は取り戻せませんが、未来は変えられます。」

「・・・・」


「伊藤由香里さんに、会ってみたいと思いませんか? その機会を、私は提供しましょう」

「・・・は?」


・・・は?


ちらっと手元のコーヒーカップを見ると、すでに飲み干したあとだった。

苦いコーヒーでも飲みてえよ・・・


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