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第4話 七瀬の友人 1

そして土曜日の午後、待ち合わせ時間、俺は指定された駅前でぼーっと突っ立っていた。景色はくもり空、雪は降っていないが、けっこう寒い日だった。


今日は、何の日だろう

間違ってもデートとかいうものではない

あえて言うならば、補習・・・?

いや、ホワイトデーの、分割前払い?

われながら、よく分からん状態だ・・・


思い悩んでいると七瀬が歩いてくるのが見えたので、軽く手をふる。


「うっし、七瀬」


「浩二、お待たせー」

「・・・いや、特に待っていないぞ」


「何か、元気ないね、大丈夫?」

「ちょっと悩んでいるだけだ、気にするな」


「えー、悩みがあったらいつでも聞くよ?」

「・・・その気持ちだけ受け取っておくよ」


適当に回答しながら、七瀬といっしょに歩きだす。


そういえば、七瀬の私服を見るのは初めてか


ほぼ毎日、学校で顔を合わせるとはいえ、私服姿は新鮮だった。背が高めで姿勢がいいからか、かわいいというより、かっこいいという感想が出てくる。


いや、こいつの脚が長いからか? 

げ、腰の位置が俺と同じくらいだ

まじかよ・・・


「浩二、ちょっと目線があやしくない?」

「いや、悪いな、ちょっとベルトがゆるいみたいだ」

ベルトを直すふりをする。

「・・・・」


ふー、セーフ、今は目線だけでセクハラになるらしいからな

普段、妹にさんざん突っ込まれていたおかげで、上手くごまかせたぜ・・・


七瀬がじーっとこちらを見ている気がするが、気のせいだろう。

きっと、俺の髪に寝ぐせでもあるのだろう。


「浩二、髪の後ろに寝ぐせあるよ」

「えっ、まじ?」

ぱっぱっと後ろ髪を手ではらうと、くっ、くっ、と隣で笑い声が聞こえる。

「・・・おい、まじじゃないのかよ」

「まーじーでーすーよー」

笑いながら七瀬は早足で先に歩いていく。


・・・これも、女子の繊細な気持ちというものなんだろうか

もっと、「耳を○○せば」を読み込めば、この会話の意味が分かるのだろうか・・

やっぱり、SF小説と同じくらい、いや、それ以上に難しいな・・・


とりあえず、七瀬を追いかけることにした。


それから、なぜか、七瀬のウィンドウショッピングに1時間ほど付き合うことになる。少し疲れたなー、でも顔に出してはいけないんだろうなー、と考え始めたあたりで、七瀬の誘いで喫茶店に向かうことになった。


「浩二、いろいろ付き合ってくれてありがとうね。」

「どういたしまして、まあ、いろいろ見て回るのは家族で慣れているからな」


「お母さん?」

「おう、母と、ごくまれに妹だな。そのときは、手荷物の配送作業もあるから、それにくらべりゃ全然だよ」


「ほう、手荷物の配送作業も手慣れている、と・・・」

「いや、これはふりじゃない、ふりじゃないぞ、七瀬」


・・・などと話しているうちに、目的の喫茶店に着く。見た目からお高そうな雰囲気で、これは男子だけではいかないだろうなー、と思えるところだった。中に入ると、思ったよりも客は少なめだった。


窓際の4人テーブルに七瀬と向い合せで座る。

「うん、大体いい時間ね。もう少しで来るはずよ」

「えーっと、七瀬の友人だっけ?」


「そうそう、正確には、私の中学校時代の同級生ね」

「ほー、ちなみに、どんな子?」


「それは、会ってからのお楽しみよ」

にしし、と七瀬が笑う。

「・・・・」


そうか、お楽しみか、まあ、七瀬の友人だから悪いやつではないだろう・・

こいつはいいやつだしな、たまにハリセンで人の頭を叩くけど・・・


などと思いながら、七瀬が店のメニュー表を眺めているのを横目に、窓の外を眺める。

七瀬が高そうなパフェのメニューを見ているのは気のせいに違いない、と祈りながら外を見ていると、向こうから白いもこもこの小さな女の子が歩いてくるのが見える。


ニット帽をかぶり、暖かそうな恰好で元気よく歩いている。


俺の中二の妹より低い身長だな・・

ああ、俺の妹も、昔はあんなふうにかわいい感じだったんだが・・


とか考えていたら、その子はどうやらこの喫茶店のお客さんだったらしい、そのまま店に入ってきた。

きょろきょろ、店内を見回し、こちらを見やると、満面の笑顔でこちらに向かってくる。

え?


そのままメニューを見て悩んでいる七瀬に話かける。

「七瀬ちゃん、お久しぶりー!」

「・・・あ、ごめん、気づかなかった。うん、玉ちゃん、お久しぶりー!」

その後、二人でキャイキャイいつぶりだの、少しやせただの話していたが、俺は水を飲みながら黙っている。女子どうしの会話に口をはさんではいけない、それは母ごくまれに妹に同行した経験で分かっている。


5分ほど立った後、その女の子は七瀬の隣に座り、すました顔で七瀬に話かける。

「それじゃ、七瀬ちゃん、ご紹介よろしくお願いします。」

「はーい、それでは、浩二、紹介するね、この子が私の友人の水城玉緒みずきたまお、同い年よ」


ほー、確かに顔つきは高校生といえば高校生か


ニット帽を脱ぐと三つ編みを一本にまとめて後ろに流しており、やや高級そうな服、低めの身長とあいまって、上品なかわいらしさが前面に出ている。


その子の顔の下をちらりと見て、確かに高校生だな、と改めて思ったところ

「ん、んん、浩二くん?」

あわてて水を飲むふりをする。

「いやあ、喉が渇いててな。この店は、水が上手いな」

やばいやばい、ちょい油断した。妹の対応に慣れていたんで、うまく誤魔化せたぜ。


「はあ、まあ、いいでしょう。それで玉緒ちゃん、こちらが同じ部活かつ同級生の相坂浩二あいさかこうじよ」

「初めまして、水城玉緒です、よろしくお願いします!」

「・・・相坂浩二です、よろしく」

水城さんは元気一杯に挨拶するが、俺はやや元気なく挨拶する。


「それでは、さっそくですが、浩二さん!」

「は、はい、なんでしょう・・・」


「七瀬ちゃんに聞きましたが、あなたが、尊大な自意識と、過剰な羞恥心のあまり、無意識に女の子の繊細な心を踏みにじってしまう、精神年齢が中二くらいで止まってしまった、相坂浩二さんで、間違いないでしょうか!」

「・・・えっ。ま、まあ、あながち間違ってはいない・・・か?」

いや、言いすぎじゃない?


「大丈夫です、ご安心ください! 女子や男子の、恋愛を始めとした様々な相談に乗ってきた、この水城玉緒が、あなたの歪んだ心をまったいらにしてあげます!」

「・・・・」


「とりあえず、今回の相談料は、このお店のパフェでとうかがってますが、よろしいでしょうか?」

「・・・え、そうなの?」

思わず、七瀬を見やる。


「当然でしょ、かわいい女の子がただで相談に乗るわけないじゃない、特に玉ちゃんは、この道のスペシャリストよ。あ、私はホワイトデーの前払いということで」

「・・・・」

いや、それは今はやりのパ○活とかいうものでは・・・


少し黙っていると、七瀬は申し訳なさそうな口調で話す。

「ごめん、浩二。私のお節介だったかな。でも、本当に、真剣に浩二のことを考えて、この場をセッティングしたのは間違いないのよ。もし、これが大きなお世話だ、と思うのならば、この場で解散してもいいよ」

「そ、そうか・・・」


まあ、俺がいろいろ女の子の気持ちが分からないということで、七瀬が真剣に考えてくれている、というのは間違いないしな・・・


しおらしくしている七瀬を見ると、こちらが申し訳ない気持ちになってくる。

「うーーーん、七瀬が俺のことを思ってくれてのことだからな・・・。まあ、いいよ・・」


七瀬が上目遣いで聞いてくる。

「怒っている?」

「いや、全然、怒っていない。・・・少し、とまどっただけだ」


「玉緒ちゃんの相談料はこの店のパフェでいい?」

「・・おう、いいぞ」


「私のホワイトデー前払いも、この店のパフェでいい?」

「・・・おう、いいぞ」


「ちょい高めのパフェでもいいかな?」

「・・・・お、おう、い、いいぞ・・・」


すると、七瀬と玉緒の二人は、息ぴったりに、満面の笑顔でいいやがった。

「「浩二くん、ごちになります!!」」

「・・・・」


・・・・・・・


無事、俺の財布を軽くする二人のパフェと紅茶のセットが注文される。

一方、俺は、一番安いコーヒーを注文する。一番安くてこれかよ・・


注文を待つ間、玉緒が俺に様々な質問を投げかけてくる。

身長、体重、中学校時代の部活動、趣味、特技、交友関係、家族関係、今の成績などなど

とりあえず特に隠すようなことはないので正直に答えるが。


「あ、あの、水城みずきさん」

「何ですか、水くさいですね、浩二くん。玉緒でいいですよ」

「あ、ああ、それじゃ、玉緒さん。俺のこの話、何か意味あるの?」


「ありますよー。まず第一に、浩二くんは、あまり家族以外の女子と話慣れていないそうなので、その練習になります」

「まあ、そうだな」


「そして、第二に、私の好奇心が満たされます」

「お前の好奇心かよ!」


そのとき、ちょうど注文したパフェと紅茶のセット、コーヒーが届いた。

七瀬と玉緒はキャイキャイといいながらパフェを食べ始める。


こう見ると、二人ともかわいいんだが。

玉緒はちっこい小動物のかわいさ(ただしハリネズミのように俺の心をゆさぶる)、七瀬はきりっとした格好いいかわいさ(ただしカンガルーのように俺の背中をけりとばす)。


俺は、熱いコーヒーをずずっとすすった。

やけに苦く感じられる。


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