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第3話 宿題の提出

その週の日曜日、しょうがなく、俺は七瀬おすすめの少女マンガ「耳を○○せば」を自宅で読んでいた。


ふむ、読書好きの女の子が主人公か・・・

ほうほう、昔は貸出カードに借りた人の名前が書かれているのか

それで、トクンとする?

・・・・・

・・・分からん、俺には女主人公の気持ちが分からん


え、いきなり出てきたこの男、多分、主人公の相手役だよね?

けっこう主人公に失礼な態度とってるけど・・・

これ、俺がこんな態度とったら、七瀬にめちゃ怒られるんじゃない?

・・・・・

・・・うーむ、分からん


ん、いきなり三角関係になるのか、いや、ならねー

・・・・

・・・・

お、終わり? そうか、終わりか


読み終わって、しばしぼーっとする。

「これ、理解するの、SF小説とは違う方向で難しいんじゃね?」


とりあえず、俺は、今の段階では女子の繊細な気持ちが分からないことが分かった。

「一歩前進・・・か? まあ、とりあえず、ホワイトデーの準備でもするか」


その後、検索サイトでホワイトデー用のチョコのお返し商品の価格を見て、財布の残高を確認し、俺はため息をついた。

「来月は、バイトでもするかー」


・・・・・・・・


月曜日の放課後、部室に向かう。

「うぃーす、おはようございまーす」

部室に入ると、七瀬が一人で本を読んでいた。

「おはよー、放課後だけどねー」


俺が手近なイスに座ると、七瀬は呼んでいた本を置いて、こちらに顔を向ける。

「さて、さて、それでは、浩二くん、宿題はやってきたかなー」

「・・・・おう、まあ、一応な~」


「ほうほう、それでは、読んだ感想はどうだった?」

「うーーーん、まあ、読んだっちゃ、読んだんだがなー。今いちピンとこなくてなー、かろうじて分かったのは・・・」

「分かったのは?」


「まず一つ、好きな子がいたら、図書館で本を借りてアピールしよう!」

「んん?」


「そんで二つ目、女子の繊細な気持ちはーーー、SF小説と違った方向で難しい!」

「へ?」


「そしてーー、最後にーー、俺は女子の繊細な気持ちが分からないことが分かった、一歩前進だな!」

「はーーーー!? ちょっと浩二、あんたねー」


七瀬が怒りのあまり、先週作ったハリセンを用具入れから出そうとする。

「いや、いや、七瀬、すまん、すまん。やっぱり、少女マンガ見て、いきなり女主人公の気持ちを理解しろと言われても、難しいんだよ」

「何が難しいのよ」


「いや、やっぱり、自分が慣れていない考え方は理解するまで時間がかかる、と思う。ほら、例えば、国語の現代文の小説とかさ、いきなり読んで主人公の気持ちを理解しろって、結構難しいだろ?」

「うーーーん、まあ、確かに現代文は難しいかな・・・」


よし、こいつは現代文が苦手なタイプだからな、少し誤魔化せた。

「まあ、徐々に勉強していくので、今回はこれで、とりあえず、勘弁してくれ」


俺の話を聞き、七瀬はうーーん、と悩んでいるようだ。

とりあえずこれで話は終わりだろうと、俺はいそいそとSF小説の棚から、読みかけの本を取り出す。

やはり、地道に読んでいかないと、分かるものも分からんからな。

あっ、先週どこまで読んだか、ハリセンで頭ぶたれたショックで忘れている。


むむむ、と俺が本のページをめくっていると、

「うん、しょうがない、女子の繊細な気持ちの理解については、いったん保留としましょう」

うん、うん、それでいいんじゃないかな。


「しかし、浩二くん、あんたにはもう一つ大きな問題があったよね?」

うん、うん、え?

「何か、あったっけ? 」


七瀬がぴくッと青筋を立てた様に見えた。

「あ、ん、た、の、その、思春期まっただなかだの、フィフティーンだの言って言い訳に使った、その過剰な自意識、羞恥心よ!」

「お、おう、まあ、そうだな」

まあ、確かにそれはそうだ。今思えば、あのときはひどく自意識過剰になっていたよな。


「しょうがない、あなたのその女子に対する過剰な自意識とやら、改善指導してあげましょう!」

「・・・それは、ありがたい?けど、どうするんだ」

俺は、少しいやな予感がして問いかける。


「まずは、家族以外の女子と交流をしてみる、そして、あんたの俺、恥ずかしいーとかいう、過剰な自意識を叩きつぶ・・・、失礼、矯正してみましょう」

「・・・いや、まあ、叩き潰してもらってもいいんだけど。家族以外って、女子といえば、俺、お前ともけっこう話しているぜ?」


「そりゃ、慣れた私と話したってしょうがないでしょ。私、けっこう男子からは話やすいと言われているし、その、中三のときの例の彼女とは全然違うタイプなんでしょ?」

「まあ、確かに、お前は最初から話やすかったからな。あいつは、もうちょっと大人しめの女子って感じだったな・・・」


「・・・そういうわけで、私以外の女の子を紹介してあげましょう。その子と話して、少しはあんたの自意識矯正のたしにしましょう」

「んん? よく分からんが、まあ、お前の友人か何かと話すればいいのか?」


「そうよ、おーけー?」

「まあ、それくらいだったら」

七瀬の気がすむならば、と俺は気軽に返事をしてしまう。


「じゃあ、次の土曜日の午後とか空いている?」

「え、休日に? 平日じゃダメなのかよ」


「いやー、その子、ちょっと遠い学校の子だからさー、放課後に会うのはきついのよ」

「は? 他校の子かよ!」


「そうよ、それで、土曜日の午後でいい?」

「はあ、まあ、いいけどよ」

思ったより手間がかかるな。


「そんじゃ、後でSNSで場所と時間を送っておくね」

「おーけー、おーけー」

少し投げやりにこたえると、俺のいい加減な気持ちが分かったのか、七瀬が険しい顔をしてハリセンを手に持つのが見えた。


「はい、次の土曜日の午後、了解です!」

思わず背筋を伸ばして返事してしまった。


「そう、よかった。そんじゃ、当日はちょい高めの喫茶店よるんで、財布忘れないでね」

「はい、分かり・・・ま・し・た?」


そんで七瀬のやつ、にこっと笑顔でいいやがった。

「よろしくね? 5倍返しの前払いよ」


「・・・・・・」


どうやら、もうすでにホワイトデーは始まっているみたいだ。

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