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第1話 中三の冬

それは、俺が中学校3年生だったときの、ある冬の日。

高校受験も終わり、卒業までのほんのわずかな期間、のんびりと学校生活を過ごしていた時だ。


授業の合間の休憩時間、いつもどおりにクラスの友人たちとばか話をしていた。こいつらとは高校は別々になってしまうんだが、そのときはそんな先のことなんぞ気にもせず、ただ気楽にだべって楽しんでいた。


それで、話も終わって自分の席に戻った時、ちょうど俺の席の周りには誰もいなかったと思うが、後ろ斜めからあいつ、伊藤由香里いとう ゆかりが話かけてきたんだ。

「ねえ、相坂あいさかくん」

「え、なに?」


なんかクラスの用事でも頼まれるのかな、と思って振り向くと、

「はい、これ」

何か箱を渡される。リボンでラッピングされたちょっとおしゃれな箱だった。


「よろしく」

少し笑ったあと、そのままそいつは自分の席に戻っていった。


俺は、少し悩んでから、その箱を自分のカバンの中に入れた。


ああ、そういえば今日はバレンタインデーか

まあ、義理だよな、ちょっと箱が大きいかもしれんが・・・


その時は、大したことないように振る舞っていたんだが、実は、気になっていた彼女からチョコをもらって嬉しい気持ちが無いわけではなかったんだ。


・・・


その中学校の生徒のほとんどは、俺がいた小学校からそのまま進学していたやつが多かった。

別に近所にいたとか、幼なじみとかじゃなくても、9年も同じ学校に通っている同学年だったら、大体顔見知りになるもんだろ?


そいつ、伊藤由香里も、俺と同じ小学校だった。小学校低学年のときは覚えていないが、小学5年生と6年生のときは同じクラスで、席が隣同士になることが何度かあった。

まだ男女の違いとか気にしていない時期だったし、席も近けりゃ、気軽にいろいろ話したりもする。


あいつは、絵を描いたり、本を読むのが好きだった。髪はロングで、どちらかというと大人しい見た目なんだが、いつもにこにこ笑いながら、ノートに絵を書いて見せてくれたり、読んで面白かった本の感想を俺に話してくれたりして、けっこう社交的な奴だったな。


中学校にあがると、男女の制服や体の成長とかで性別の違いを意識してくると、だんだん男女間で気軽に話すことは減っていく。ただ、中学生なんて、まだまだ将来とかもあまり真剣に考える必要ないときだ。男友達とぶらぶら遊んでいたら、あっという間に中学3年生になっていた。そこで、あいつとひさびさに同じクラスになったわけだ。


俺の名前が「相坂あいさか 浩二こうじ」、あいつの名前が「伊藤いとう 由香里ゆかり」、そう、あいうえお順だと近いんで、最初の席が隣だったり、グループ分けでいっしょになることが多かった。あいつは相変わらずにこにこしていて、まあ昔ほど気軽とはいかないが、肩ひじはらずに話すことが出来たと思う。


まあ、近くの席で、にこにこ笑顔で、かわいい子がいたら、少しは気になるもんだろ?

小学校時代からの付き合いもあるっちゃ、あるわけだし。


それでな、俺は中学校時代、基本的にバレンタインデーでチョコをもらったことはなかったんだ。

いや、家族からもらったのは、ノーカン、ノーカンだ。

部活も男しかいないサッカー部だったし、アルバイトもしてなけりゃ、なにか文化的な活動もしていなかったし、同い年の女性とはほとんど接点がなかったわけだ。


そんなとき、まっっったく期待していないどころか、その存在すら忘れていた2月14日に、少し気になった子からチョコをもらったわけだ。おそらく、義理だろうけど。

嬉しいと思う反面、なんで?とか疑問点のほうが多かった。

そりゃたまに話するけど、俺、こんな立派な義理チョコもらうほど、交流あったっけ?という感じだ。


ただな、ここからは俺の懺悔ざんげタイムになる。

いや、ほんと、やらかしたというか、やらなかったというか。

こういうの、不作為ふさくいの罪とかいうんだっけ。

難しい言葉よく知ってるなって?

そうだ、先週、弁護士が主人公のマンガを読んでいて覚えたんだ(ドヤ顔


話を戻すと、中学校3年生といえば、年齢15歳、英語でいえばフィフティーン。そう、自意識過剰な思春期まっただなかだ。とくに俺は小学校から中学校まで、男友達とのほほんと遊んでいた、恋愛のレの字も知らない男子中学生だ。初めてちょっとしたチョコをもらった時、どうすればよいか分からなかったんだよ。

え、家族に相談?

いちおう母親とか妹はいるが、こんなこと恥ずかしくて相談できん。いや、ムリムリ、絶対からかわれると思っていたし。

男友達?

いや、バカ話する友人はけっこういたけど、こんなこと相談できる奴はいなかった。


ホワイトデーという言葉は知っていた。ただ、知っているからって、どうすればいいかなんて分からんかった。


そうして、悶々として何もしないうちに、3月14日になった。

その日は平日、普通に登校日だ。俺は残念ながら風邪などもひかず、いつもどおり学校に行く。そして、あいつの顔を見れないまま、その日をずっと過ごしたわけだ。心の中は申し訳なさでいっぱいだった。

だが、そこで行動できないのが思春期なんだよ。


・・・・・・


そんな、ちょっとほろ苦い思い出が、バレンタインデーにはあるんだ・・・


というわけで、俺の話は終わりだ。


どうした、怖い顔して


なに、そこに正座しろ?


え、なんで?

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