表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
分身の影  作者: 柳 凪央
9/17

第九章 閉ざされた証言

豪華客船アクア・エテルナ号の内部は、一層不気味な静けさに包まれていた。

エンジントラブルによって航行不能となり、外界との連絡も途絶えたまま、乗客たちはお互いに疑心暗鬼を抱えていた。


蓮は船内の狭い廊下を、美咲の隣で歩いていた。

彼女の手は温かく、穏やかな微笑みが彼の心に一筋の光を投げかける。

だが、その瞳には今なお緊張の色が隠せなかった。


「蓮、このままではみんな不安でいっぱいになるわ」

美咲がぽつりと呟いた。

「真実を早く明かさなければ。私たちが動かなければ誰も助からない」


蓮は頷き、深呼吸を一つ。

「わかっている。次は、目撃証言を集める必要がある」


彼らは被害者の周囲にいた乗客を一人ずつ訪ね、話を聞くことにした。



最初に訪れたのは、細身で目つきの鋭い若い女性、松井咲子だった。

彼女は事件当夜、被害者の安藤啓一と口論していたという。


「彼、何かに怯えていたみたい……」

咲子の声は震え、指先はカバンの持ち手をぎゅっと握りしめていた。

「でも、理由を教えてくれなかったの」


その目はどこか遠くを見つめ、秘密を抱えていることを暗示していた。


蓮はその微妙な動揺に気づき、さらに詳しく問いただす。

「何か隠しているのか?」


咲子はしばらく沈黙した後、震える声で答えた。

「……あの日、あの男が誰かと会っているのを見たの。密かに、船の図書室で」



蓮は美咲と目を合わせ、図書室へと向かうことに決めた。

薄暗い照明が並ぶ書棚の間を歩く二人の足音だけが響き、空気は冷たく乾いていた。


美咲が手にした懐中電灯の光が、一冊の古ぼけた日記帳を照らし出す。

「これ……?」


蓮が手に取ると、そこには被害者たちの秘密が綴られていた。

密かに交わされた取引、裏切りの痕跡、そして不正の告発。

ページをめくるたびに、プロジェクト・オリオンの闇が深く浸透していく。



「犯人はこの中の誰かに復讐を誓った」蓮は呟いた。

「しかし、それだけではない。もっと深い動機が隠されている」


美咲は彼の肩に手を置き、力強く言った。

「蓮、一緒に真実を暴きましょう。私たちは絶対に負けられない」


外はまだ雨が降り続いている。

豪華な内装も、この密室の闇には何の役にも立たなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ