第八章 暗闇の罠
加賀健一の部屋は静寂に包まれていた。
雨音が窓の外で繰り返し響き、時折り遠くの雷鳴が低く唸る。
木の床は湿気を含み、わずかに軋む音が空気の緊張感を増幅させていた。
蓮は加賀の机に広げられた紙の束に目を凝らした。
それは内部告発の資料の断片であり、プロジェクト・オリオンに隠された不正の証拠だった。
一枚一枚に書き込まれた小さな文字が、過去の傷を今に呼び覚ます。
「加賀さん……これが本当ならば、事件は単なる復讐劇を超えた意味を持つ」
蓮の声は震えたが、真実への渇望は揺るがなかった。
加賀は冷たい目で彼を見据えた。
「真実は時に重すぎる。君たちにはこの闇に巻き込まれてほしくない」
その瞬間、蓮の胸に迷いがよぎった。
過去の警察時代、守りきれなかった無念。
今度こそ、真実を暴き、再び誰かを守るために。
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美咲は部屋の片隅で小さなメモ帳を取り出し、静かに言葉を紡いでいた。
「蓮、気をつけて。私たちはここで大きな何かを動かそうとしている」
彼女の声は優しくも鋭く、まるで嵐の前の静けさのようだった。
外の世界は閉ざされ、豪華客船という小宇宙の中に濃密な人間模様が渦巻いている。
雨が一層激しくなり、窓ガラスに叩きつけられるたびに、二人の影が揺らいだ。
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蓮は決意を新たに、加賀の資料を携えて部屋を後にした。
廊下は薄暗く、わずかな灯りが壁の汚れを浮かび上がらせる。
足音が床に吸い込まれるように響き、背後にはいつ何時犯人が現れてもおかしくない緊迫感が漂う。
「この船にはまだ隠された秘密がある」
蓮は低く呟き、美咲とともに次の行動を思案した。