第六章 一つの舞台
密室と化した豪華客船アクア・エテルナ号での連続殺人事件。乗客たちの顔には恐怖と不信が刻まれていた。
青木蓮は佐藤美咲と共に、被害者たちの過去を洗い直し、犯人の糸口を探っていた。
「玲奈さんは、若くして大手広告代理店に勤めていた。でも、最近は何かに怯えているようだったという話もある」
美咲が資料を読み上げる。
「しかも、彼女のスマホには、犯行直前に誰かと激しいやり取りがあった痕跡が……」
蓮は眉を寄せた。
「犯人は乗客の誰かだとしても、動機は単なる金銭問題や怨恨ではない。何かもっと深い秘密がある」
蓮は船内で集めた証言を分析していると、妙な共通点を見つけた。被害者たちは皆、ある一点で繋がっているという事実だ。
それは……被害者全員が過去に同じ企業のプロジェクトに関わっていたことだった。しかも、そのプロジェクトには失敗があり、大きな損害を生んでいた。
「つまり、この事件は過去の失敗と密接に関連しているのか?」
美咲の疑問に蓮は静かに頷いた。
二人は船内に張り巡らされた廊下を歩きながら、乗客たちの表情をじっと観察した。誰もが口を閉ざし、警戒心を露わにしている。そんな中、蓮はある人物に目を留めた。
彼は加賀健一、被害者たちのプロジェクトを監督していた中間管理職だ。
彼の目は、どこか冷たく、計算高い光を宿していた。
「加賀、君はこのプロジェクトの失敗で大きな責任を負ったはずだ。今何か隠しているだろう?」
蓮は直接問いかけた。
加賀は一瞬驚いたが、すぐに平然と答えた。
「過去のことは終わったことだ。今はこの船での出来事に集中すべきだろう」
しかし、その言葉の裏にある冷たさは、決して過去を忘れられていないことを示していた。
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その夜、船内ではまた一つの動きがあった。
美咲が誰にも気付かれずに密かに記録した映像には、誰かが廊下をこっそり歩く姿が映っていた。
それは、目立たぬよう黒いコートを羽織った人物だった。
「犯人の動きだ……」蓮はその映像を何度も見返し、細かな手掛かりを探した。
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翌朝、事件はさらなる波紋を呼んだ。
新たな証拠が美咲の手に渡ったのだ。それは、被害者たちが残した手紙やメッセージのコピーだった。
そこには、「裏切り」と「復讐」という言葉が何度も書かれており、事件の動機が見え隠れしていた。
蓮と美咲は互いに顔を見合わせた。
「これは……単なる偶発的な殺人じゃない。もっと複雑で深い闇が潜んでいる」
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こうして、豪華客船の狭い空間は、一つの巨大な謎の舞台となった。