第五章 疑惑の波紋
船内は一転、緊迫した空気に包まれた。乗客たちは恐怖と混乱でざわつきながらも、目に見えない緊張が静かに広がっていた。
青木蓮は取材メモを広げながら、犯行時刻の推定と乗客たちのアリバイを整理し始めた。
「被害者・田辺誠司は、ディナー前に自室で何か書き物をしていたそうだ。だが、その後の行動は曖昧だ」
佐藤美咲が乗客の証言をまとめて報告する。
「それに、彼が何か秘密を握っていたような話も出てきたわ」
美咲の声には、焦りと期待が混じっていた。
蓮は思い出した。田辺が乗船前に連絡を取っていた人物、山崎一樹のことだ。
山崎は重役でありながら、被害者と何か確執があるようだった。
「山崎にはもっと詰めた話を聞く必要があるな」
蓮は決意を新たにした。
だがその夜、再び船内に不穏な動きが起きる。
── もう一人の乗客が遺体で発見されたのだ。
しかも、その死因は首を絞められた窒息死。まるで犯人からの挑戦状のように、船内の全員を震え上がらせた。
「これ以上、放っておけない」蓮は静かに拳を握った。
密室の船内で繰り返される殺人。犯人は確実に、何かを隠そうとしている。
佐藤美咲もまた、彼の隣で強い覚悟を示していた。
「蓮、二人で必ず真実を明かしましょう」