第二章 船内の影
出航から数時間が経ち、豪華な客船アクア・エテルナ号は穏やかな海を静かに進んでいた。蓮は自室の窓から夜の海を眺めていたが、心は落ち着かなかった。
「船内の誰かが隠している何かがある……」
そう思いながらも、具体的な手がかりはまだ掴めていなかった。
その時、ドアのノック音が響いた。
「蓮さん、ちょっとお話が…」
顔を覗かせたのは佐藤美咲だった。彼女は優しく微笑みながらも、目の奥には確かな決意が宿っている。
「何か見つけたの?」
「ううん、まだ。でも、乗客たちの様子を見ていると不自然な空気を感じるの」
「どんな?」
「表向きは楽しげにしているけど、目が泳いでいる人もいるし、誰かを警戒している感じの人も……。特に、あの若い女性」
美咲は船内で見かけた茶色のパーカーを着た女性の話をした。
「彼女、逃げるように歩いていたの。何かを恐れているみたいだった」
蓮はその話を聞きながら、改めて乗客リストを思い返していた。
「乗客名簿を見てみよう。名前を洗い出せば、手掛かりが掴めるかもしれない」
二人はタブレットを開き、乗客たちの名前や職業、座席などの情報を確認した。
「何か異変が起きたら、連絡を取り合おう。僕たちで真相を探ろう」
「うん、頼りにしてる」
その言葉に、美咲の手は蓮の腕にそっと触れた。軽やかで、しかし温かい感触だった。
だが、その瞬間、船のエンジンが急に唸りを上げた。
「緊急事態です。エンジントラブルにより、現在航行不能となりました。お客様は船内に留まってください」
アナウンスの声は冷たく、静寂を破った。
蓮と美咲は顔を見合わせた。
密室の閉ざされた世界に閉じ込められた今、何かが動き出す予感が強まっていた。