第十六章 闇と光
豪華客船の一室。緊張の空気が張り詰める中、服部誠一は静かに話し始めた。
「すべては計算通りだ。松井隆司の多重人格を演出し、皆を混乱させる。エンジントラブルも、事件を密室状態にして真犯人の正体を隠すための舞台装置だった。」
蓮は冷静に、しかし鋭く服部を見据える。
「なぜそんなことを?」
服部はほほ笑みながら答えた。
「動機? 単純だよ。自分の才能を証明したかった。完璧なトリックで人を欺き、誰も気づけない事件を解決する者を超える存在を示すためだ。」
美咲が静かに言った。
「でも、あなたの計画は失敗したわ。蓮さんがいたから。」
蓮は頷き、証拠と照らし合わせて犯行の全貌を説明した。
服部は諦めたように微笑み、最後にこう言った。
「さすがだ、青木。君に敗れるとは。」
⸻
事件の真相はこうだ。
服部は松井の過去の精神疾患の記録を入手し、多重人格者として偽装するために巧妙な罠を仕掛けた。
彼は松井を操り人形にし、船内を混乱に陥れた。
乗客全員が疑心暗鬼に陥るように、トリックを二重三重に仕掛けていたのだ。
蓮と美咲は互いを支え合いながら、犯人を暴き、真実を明らかにした。
船はやがて修理され、外界との連絡も回復。事件は終息した。
美咲が蓮の肩に手を置き、微笑んだ。
「これでやっと、穏やかな日々が戻るね。」
蓮は微笑み返し、彼女の手をそっと握り返した。