第十五章 最後の鏡像
松井隆司の告白によって、蓮と美咲は凍りついた。
「僕が操っている?」蓮は思わず息を呑んだ。
しかし、その表情の裏には冷静な観察者の目が光っていた。
「君が操る……とはどういうことだ?」
松井はゆっくりと語り始めた。
「僕は確かに多重人格者だ。だがそれは罠だ。僕の人格は二つじゃない。外部から植え付けられた偽の記憶と人格が複数ある。僕の本当の“分身”は別にいる」
蓮は眉をひそめる。
「植え付けられた人格? つまり、誰かが君を操っているのか?」
「その通りだ。僕が自分で作り出したわけではない」
松井の瞳は鋭く、今まで見せなかった冷酷さが滲み出ていた。
その時、美咲がぽつりと言った。
「じゃあ、その操る者とは……?」
蓮は深く考え込み、目の前の船内の暗がりを見据えた。
「犯人は、乗客の誰か……いや、僕たちが疑っていなかった“ある人物”だ」
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蓮はゆっくりと語り出す。
「この船の密室状態とエンジントラブルは計算された仕組み。真犯人は、事件を複雑に見せるために松井の人格を利用し、僕たちを翻弄していたんだ」
「そう、松井は操り人形に過ぎなかった」
美咲が頷く。
「でも、そんな人物が一体誰……?」
その時、背後から低い声が響いた。
「僕が真犯人だ」
振り返ると、そこには静かに微笑む乗客、服部誠一が立っていた。
彼は事件の最初から常に冷静で、疑いの目を向けられることはなかった。
服部は穏やかな声で続ける。
「僕は探偵ではない。でも、心理戦とトリックの組み立ては得意だ。松井を利用し、完璧な罠を仕掛けたのは僕さ」
蓮は唇を引き結び、対峙する。
「なるほど……君が“分身”の真の黒幕か」
服部の笑みは一層深まり、真実の闇が船内を包み込んだ。