【短編】お弁当の中身は宇宙人!?いいえ、これはウチュウジン。あくまでも植物です。4 【コメディ】完結
帰り道、田辺さんがニコニコしながらついてきた。温厚なあたしが思いきり顔をしかめてもお構いなしだ。どうやって巻こうかと考えていたら、「ムダだよ。家は割れてるんだから」なんてやっぱり笑顔で言ってきた。
仕方ないのであたしは田辺さんを家に招待した。
たまの客を喜んだのは母だけだ。父はあたしにこっそりと「大丈夫なのか?」と耳打ちした。あたしは肩をすくめるしかなかった。
このあいだなんかで見たアレ、『記憶除去装置』がうちにもあればいいのに。
庭を見せてという田辺さんの申し出に、あたしは黙ってしたがった。満月の夜以外は、うちの庭はいたってふつうの家庭菜園だ。
サヤインゲンやえんどう豆、枝豆に虎豆が青々と茂っている。豆類が多いのは、保存が利いて、ウチュウジンによく合うからだ。
不審な点といえば、昨晩大量につけた足跡くらいだろう。
「ねえ、乗り物はどこ? あるんでしょう?」
まだ言うか! あたしは答えずに、田辺さんをリビングに案内した。
「あら困ったわ。うちには車もバイクもないのよ?」
母さんは、お茶を出しながらおっとりとほほ笑んだ。うちの母親は育ちがいいのか人を疑うということを知らない。
「あの! 宮下さんのお母さんは、宇宙人なんですか?」
あたしはテーブルにつっぷした。危うくお茶をこぼすところだ。
たしかに母さんはちょっと人間離れして見えるかもしれない。手足がやけにひょろりとしているし、歩き方もなんだかゆらゆらしている。
「あらイヤだ、樹理ちゃん。あなた言ってなかったの?」
母はあたしを責めた。なにを言えと??
「アタクシは未来人でしてよ?」
母は胸に手をあてふわりとほほ笑んだ。我が母ながら惚れ惚れするようなスマイルだ。
「時空のハザマにまちがって入りこんで、帰り方を探しているうちにこの人と恋に落ちてしまったの」
恥ずかしそうに頬を染めるが、それはこのあいだ父さんが担当さんからダメだしを食らっていた新作の話じゃなかろうか。
田辺さんは妙な顔をしている。宇宙人は信じられても未来人はダメらしい。どうもその線引きがよくわからない。
「アレは、アタクシの郷里の特産品なのです」
母さんは唐突にウチュウジンの話をはじめた。
「郷里ってどこなんですか!」
田辺さんはあたしの知らないなんとか銀河だとか、うんたら星雲だかをいろいろあげた。母さんは笑顔でそれを受けとめる。
「郷里の、ってことは、一度帰ったんですよね? 宇宙に!」
「いいえ、種をもってきてしまったの」
「く、ください!」
「いけません。とても管理の難しいものなの」
母は首をふったので、あたしは安心した。
「アタクシが料理したものでよろしかったら、帰りにもたせてあげましょうね?」
「料理? いえ、できれば生がいいんですが」
「ナマはいけません。すぐに料理しないと痛んでしまいますのよ」
「あの、じゃあせめてお母さんの血液採取させてください」
母さんは「ふふふ」と笑ってそれをかわした。母、強いよ! なんで動揺しないんだろう!
あたしはしきりに感心した。尊敬に近い。
「田辺さんはおもしろい人ね。そうだわ! ぜひお夕食を一緒にどうぞ」
ちょこんとひざを折りたたんだ状態で、ほかほかごはんにウチュウジンの佃煮が乗っている。おいしそうだ。けど、田辺さんは青ざめた。
「な、なんですかこれ!」
「あら、ウチュウジンよ? これが食べたかったんじゃなかったの?」
「た、食べるって、食べるって本当だったんですか!」
「あら、もちろんでしてよ? さあ、どうぞ召し上がれ。大丈夫、まるごと食べられるのよ。ほら」
母はウチュウジンの頭をごりんと噛み切った。
田辺さんはすっかり大人しくなって、母がそれをゴリゴリかみ砕くのを見つめていた。
「さ、どうぞ。遠慮しないで。ほら、樹里ちゃんも食べなさい」
「あ、うん」
あたしが頷くと、田辺さんはガタっと音を立てて立ち上がった。
「あ、あの、やっぱり食事は! う、うちのお母ちゃんも用意してると思うから、その! 今日のところは失礼します!」
「あら、あらあらそう? あ、じゃあちょっと待って。これお土産。家族の人にも食べさせてあげて」
母は保存容器をもってきた。ふたをパカッとあけると、そこにはウチュウジンの佃煮がみっちみちに詰まっている。ええ、そんなにあげちゃうの? もったいない。
田辺さんは悲鳴をあげて逃げだしたので、あたしはちょっとホッとした。
学校であることないこと言いふらされたら困るけど、彼女はなんせ有名なオカルト女らしいから信ぴょう性もうすいだろう。
それにしても解剖がよくて、食べるのはムリっていったいどういうことだろう。あたしとしてはホタルがどうして光るのか調べるために頭もいで電極刺したり、天才の脳みそスライスしてプレパラートに乗せたりするほうがずっとヤバいと思うけど。
なんてつらつら考えて、あたしはハッと気が付いた。
そうだ。なんで気づかなかったんだろう。ウチュウジンをまるのままお弁当に入れちゃうからいけないんだ!
刻んで豆と和えればいい。ピーマンでもいい。前の日に作って冷蔵庫に入れておけば解決だ。
なんなら田辺さんにお礼を言いたいくらいだけど、あの日以来、ふしぎと目があわない。
まあいいか。おかずを取られると困るからな。
こうしてあたしは堂々と、学校でウチュウジン入りの弁当を食べられるようになったのである。
めでたしめでたし




