【短編】お弁当の中身は宇宙人!?いいえ、これはウチュウジン。あくまでも植物です。2 【コメディ】
「樹理ちゃん!」
「樹理! 庭の外に出るぞ! 逃がすな!」
父さんが指差したさきにパッと駆けだし、塀をよじ登るウチュウジンに手をのばす。
ウチュウジンはやたらと繁殖力が強いのだ。庭のなかならばまだいい。けれど一本でもとり逃して、庭の外で繁殖しだしたら、きっともう手がつけられない。
あとちょっとでつかめるというところで、ウチュウジンはするりと逃げだした。
「しまった!」
あたしも慌てて塀をよじ登る。邪魔なのでカマはおいていく。
ウチュウジンは外の世界に降りたつと、その場で一度くるりとまわった。イカに似た光沢を放ちながら、つかのまの自由を満喫している。
そうしていると、ウチュウジンは本当に宇宙人みたいだ。今にも空からUFOが迎えにきて光に吸いこまれていきそうだ。
白いご飯に乗っていると、おかずにしか見えないのだけど。
ウチュウジンに迎えはこない。彼らは土に根を張ってひたすら繁殖を続けるのだ。
ほらもう、となりのうちの鉢植えに狙いを定めた。
完全に根を張るまえにあたしはそいつをひっこぬく。手のなかでウチュウジンがキーキーという音をだした。ふうあぶない。今夜もここら辺の植生を守りきった。
「宮下さん?」
ひたいの汗をぬぐうフリをしていたあたしは、声をかけられて硬直した。
なんでこんな人通りのすくない夜道に、女の子がいるの? しかもよくよく見れば、となりのクラスの子だ。学校指定のジャージ姿で首元に立派なカメラをさげている。
彼女は、赤縁の眼鏡をちょいと押しあげた。
「それ、何……?」
彼女がさっとカメラを構えたので、あたしはあせった。
「た、田畑さん」
「田辺です。宮下さん、それ、手にもってるのなに?」
「な、なんのこと?」
あたしは今さらながら、もっていたウチュウジンを体のうしろに隠した。
「隠さないでよ。ねえ、それ、どこで手に入れたの?」
暗がりでもわかるほど、彼女の目は輝いていた。
「乗り物は見つけた? ほかにも仲間はいるの? 私、この辺で目撃情報があるって聞いて、ずっと探してたの。ああ、ついにこの日が来たんだ!」
彼女はずいぶんと興奮した様子だ。あたしはあっけに取られていた。
「ね、それ私にちょうだい!」
いきなり両手を差し出されて、あたしは目を丸くした。
見つかったときの言い訳ならいくつか用意してあった。けどまさかちょうだいとくるとは。なんてずうずうしい。
「あー、いやー、た、田辺さんこれほしいの? これ、オモチャだよ?」
「オモチャ? だって、動いてるじゃない」
「いやー、最近のは精巧にできてるよねー? びっくりしちゃう」
「ふうん。オモチャならいいじゃない。ちょうだい。私、そういうの集めてるの」
「ご、ごめん、これあたしんじゃないから、なんともいえないな~」
それよりさ、とあたしは強引に話を切った。
「あんまり夜間にうろうろしないほうがいいよ。宇宙人は知らないけど、変質者は出るみたいよ! はやく帰りなよ、じゃーねー!」
あたしは彼女を巻くために、家から一本はなれた通りでさっと身を隠した。
しばらく様子を見て、田辺さんがあきらめて帰ったのを確認してから、うちの塀をよじ登る。
「わあ! すごい、宇宙人がこんなにたくさん!」
あたしは塀からずり落ちた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 田辺さん、なんで! ふ、不法侵入だよ!」
「失礼な。ちゃんと玄関から入ったよ」
「あら~? 樹理ちゃんのお友達じゃなかったの~?」
母さんがのんびりと首をかしげた。あたしは手をぶんぶん振って否定する。
収穫は終わったようで、両親の籠はもうしまわれていた。だけど、あたしの分の籠がまだだ。
早く隠して! 身振りで父さんに伝えるが遅かった。田辺さんはすごいすごいを連発している。うわあ、せめてその手に持ってるカメラを離してほしい。私はハラハラしながら田辺さんに近寄った。
「あの、これどうするんですか? 解剖? 解剖ですよね? 検査薬はどこのを使ってるんですか!」
田辺さんは怒涛のごとくしゃべりはじめた。注射器はどこの製品だとかどこそこの検査薬はイマイチだとかなんだかアブナイ話を父に向かってしている。
その横から母がにっこり笑って答えた。
「あら、これ、食べるのよ?」
「え?」
田辺さんは首をかしげた。まずい。まずい兆候だ。一家離散の危機だ。
「ちょっと待っててね」
と母が家の中にひっこんだ。アレを見せる気なのか?
「た、田辺さんほんともう帰んなよ! こんな夜更けに女子がひとりでウロウロしちゃダメだって!」
あたしはウチュウジンを守ろうとあいだに立ちふさがった。
「えー、平気だよ~」
「うちが平気じゃないの!」
田辺さんは舌打ちした。そしてあたしの横からひょいと顔をのぞかせカメラを構えた。
「わー! カメラはだめえええっ!」
フラッシュが光るやいなや、籠いっぱいのウチュウジンもピカーッと発光した。
まぶしさに目をくらませているうちに、ウチュウジンはとけて消えてしまった。
な、なんてこと……。がんばって収穫したのに。あたしのごはんが!
あたしは怒った。とても怒った。食べ物のうらみは怖いのだ。
「帰って」
ギロリとにらみつけると、田辺さんは顔を引きつらせてそそくさと立ち去った。




