【短編】お弁当の中身は宇宙人!?いいえ、これはウチュウジン。あくまでも植物です。1 【コメディ】
再掲です。
【あらすじ】
満月の夜にウチュウジンを収獲するのが我が家の習慣だ。
となりのクラスの女の子にそれがバレてしまった。彼女は解剖したいからウチュウジンをよこせと言う。
冗談じゃない、これはあたしのおかずだ。
じゃなくって、宇宙人を食べてるなんて誤解が広まれば、我が家の危機だ!
だからお弁当には入れないでって言ったのに!!
お弁当にウチュウジンが入っていた。
白米の上に、ながい手足を投げだすかっこうで乗っかっている。あめ色のウチュウジンの佃煮だ。
あたしはあわててお弁当のふたを閉めた。
ウチュウジンの佃煮はたしかにあたしの好物だけれど、お弁当には入れないでとあれほど言っていたのに!
なにせ見た目がグロテスクだ。イナゴにだってギャーとかいう子たちには絶対に見せられない。
あたしはのそのそと立ち上がった。
「樹理ちゃん~? 一緒に食べないの~」
結ちゃんが手をふった。
「うーん、さき食べてて~」
あたしは友人たちに手をふりかえし、廊下をさ迷った。どこか目立たないところで食べるつもりだった。しかし、どこもかしこも人のいないところがない。
廊下にも階段にも美術室のまえにも人はいる。外に出られるわけでもないのに、屋上へ続く階段にもいる。
学校にはひとりになれる場所がない。あたしはそれをときどき不満に思う。
別にただこうして歩いていても、誰もあたしに注目なんてしない。それはわかっているつもりだ。
だけどもし、ここでいきなりお弁当のふたをあけてウチュウジン食べはじめたらどうだろう。きっと注目をあびてしまう。まったく不条理だ。見ないなら見ない。見るなら見るで一貫してくれればいいものを。
「ねえ、昼休みどこ行ってたの?」
「別にどこってわけでも」
あたしの答えは、結ちゃんには不服のようだ。
「ふうん」
と口をとがらせて疑いのまなざしを向けてくる。女の子はどうも、共有できない秘密を嫌う。なぜなんだろうと、あたしは思う。だって、人には人の事情があるのに。
結ちゃんには秘密がないのだろうか。あたしに何ひとつ隠しごとがないとでも? そうだとしたらある意味すごい。
あたしんちなんて秘密だらけだ。
たとえばそう、ウチュウジンのこととか。
ウチュウジンは、宇宙人に似ているからそう呼んでいるだけで植物だ。たぶん。すくなくともあたしはそう教えられてる。もしかしたら、菌類かもしれないけれど。
ウチュウジンはうちの庭で収穫する。満月の夜に、にょきにょき生えてくるのだ。大きさは歯磨き粉のチューブくらいで、火を通すともうちょい縮む。
ナマのウチュウジンは、人の形をしているけど、色は鮮度の落ちたイカみたいだ。味もまあ、そんな感じ。必ず熱を通して食べる。刺身はいけない。鮮度の落ちた魚介を刺身で食べないのと一緒だ。
うちは、父さんが売れない小説家で、母さんが専業主婦をやってるもんだからはっきりいって貧乏だ。だからウチュウジンは一家を養う大切な食料なのだ。
変だなと思ったのは小学校に行くようになってからだ。給食には一度だってウチュウジンが出てこない。幼い私はそぼくな疑問をとなりの席の男の子にぶつけてみた。そう、「なんで給食にはウチュウジンが入ってないの?」とそのままストレートに聞いたのだ。
これは失敗だった。あたしはウチュウジンを食べるヘンジンとして有名になってしまったのだ。
口に出しただけでこのさわぎだ。実際に食べていることが知られたら、きっともうこの町にはいられない。
さて、今夜は満月だ。風も雲もすくないし、さぞかし大量のウチュウジンが採れることだろう。
ウチュウジンは頭から生えてくる。そして首、肩と続く。そして両腕で支えるように胴体をひきぬく。そのとき、「ヨッコラショ」みたいな音が聞こえるときもある。鳴き声ではないはずだ。植物だから。
片足が出て、もう片方の足を引き抜こうとモゾモゾしているところを押さえつけ、足首の辺りからばっさり切るのが重要だ。面倒がって胴体のあたりで切ってはいけない。味が落ちるから。
もちろん血なんか出ない。青い汁みたいなのは出るけど。
しばらく庭のなかはざくりざくりとウチュウジンを刈りとる音だけが響く。遠くで犬が鳴いている。
ときどき、塀の外を車が通りすぎる。
あたしはそのたびふしぎに思う。なんでこの忙しい時間に、彼らはのん気に出あるいているんだろう。
お庭のウチュウジンは大丈夫?
そんなことをぼんやり考えていたら、一体狩りそこねてしまった。